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「じゃあ、神父様に宜しくね!」

「うん」

「…というか、本当にそのかばんに豆パンが入ってるの…?」

「うん。ちゃんと入ってるよ」



 俺は出来立ての豆パンが入った【魔法のかばん(超級)】を肩にかけ教会へと向かった。

 ちなみに【魔法のかばん(超級)】では生物以外は無限にものを入れられる。

 加えて他のものに干渉しないので、温度も形状もそのまま、質量に限っては無視されるので、軽い。

 ちなみにこの知識はこの体が教えてくれた。

 錬成物に触れると脳裏に情報が浮かび上がるのだ。

 なんと、なんと、便利なことか。

 リュカの部屋に適当に置いてあったこのかばんを俺は勝手に使わせてもらうことにした。




**



 歩くこと数分。

 村の外れの教会に到着する。

 教会の庭で子どもたちが楽しそうに遊んでいる。

 どうやら少なくない数の孤児をこの教会で預かっているようだ。

 どの時代も孤児はいる。心が痛む。

 まぁしかし子どもがのびのびしているのはとても良いことだ。

 この村が安全であることを示している。

 衛兵の時に学んだことの1つだ。


「あ、リュカ!」

「リュカお兄ちゃんだ!」

「おはよう」


 教会の入り口に着くと2人の子どもが駆け寄ってくる。

 男の子はリュカと同じくらいの年齢だろうか。

 男の子は綺麗なルビー色の瞳なので多分魔族の血が入っているのだろう。

 女の子はリュカより少し幼そうだ。

 ふわふわの髪から愛らしい犬耳が見えている。

 この子は獣人族の血が入っているようだ。 


「リュカお兄ちゃん!今日は何パン?」

「今日は豆パンだよ」

「やったー!わたしルーシュの豆パンだいすき!」

「ルーシュが喜ぶよ」

「俺は豆パンも好きだけど、ぶどうパンも好きなんだよな~」

「ぶどうパンおいしいよね。じゃあルーシュに頼んでみるよ」

「いいのか?!約束だぞ…?」

「うん」


「リュカ、おはようございます」

「おはようございます」


「あ、神父さま!」

「今日は神父様の好きな豆パンだぞ!」


 どうやらこの人が神父様らしい。

 この体は錬金術以外の知識を教えてくれないのでこういう時は困りものだ。

 神父様は30くらいだろうか。

 たれ気味の目元が印象的で温厚そうな男に見える。


「それはそれは……あれ?リュカ、パンはどこに…?」

「大丈夫ですよ。この【魔法のかばん(超級)】にちゃんと入ってますから」

「…え?その小さなかばんにですか…?」

「はい」


 3人は意味が解らないという顔をしている。

 なので俺はかばんから出来立ての豆パンを3つ取り出した。


「え、えーーーっ?!」

「嘘だろ…?!なんだよそのかばん…!」

「そんな小さなかばんに…しかも出来立てじゃないですか…!」

「はい。せっかくなので出来立てを…持ってきたんですけど……」



 …何だろうこの反応は。

 もしかして……俺はまずいことをしたのか?


「リュカ…あと、ヴォルフ、ノアもちょっと中に…」

「え、あ、はい」

「なぁに?」

「…」



 

 小さいながら教会の中は隅々まで手入れされているようだ。

 祭壇に祀られた大陸の最高神である創造神ケイオスの像もピカピカに磨かれている。

 

 創造神が祀られているのは同じなのか…。

 信仰心の薄い俺が創造神に感謝する日が来るとは思わなかった。

 俺の村の創造神の像とそっくりの像が存在していることが嬉しかった。


 祭壇を通り過ぎ右手の渡り廊下を進む。

 食堂ではシスターと子ども達が楽しそうに朝ごはんを食べていた。

 


「さぁ入って」


 俺たちは神父様の部屋に通された。

 

「今お茶をいれよう。どうぞ座って」

「すみません。ありがとうございます」

「ノア神父さまのお茶すき!」

「ありがとうノア。心を込めていれるとしよう」


「…おい、リュカ」


 今まで押し黙っていた少年ヴォルフが口を開く。

 何故か少し機嫌が悪そうだ。


「なに?」

「お前さぁ、ぼんやりもほどほどにしろよ?」

「…なんのこと?」

「そのかばんだよ。それって錬成物なんだろ?そんなスゲェもん作れることを他人に言ったらヤベーだろ!攫われるぞ?!」


 あ、やっぱりそうだったのか。

 

「…そうだね。私もそう思う」

「リュカお兄ちゃんってすごいひとだったんだね!」


 ノアは置いておいて、

 神父様とヴォルフの表情を見れば言わんとしていることを理解せざるを得ない。

 見たこともない錬成物というお宝を前に俺は年甲斐もなく浮き足だっていたらしい。 

 あの家が特別なのだ。

 俺はもっと慎重に行動すべきだった。


「言ってくれてありがとう。ヴォルフ」

「本当だよ!お前気をつけろよ?この村だって良い奴ばっかじゃねーんだからな?」

「ごめん」

「まぁまぁヴォルフ。リュカは賢い子だとは思ってましたが…本当に貴方がそれを作ったのですか?」

「…はい」


 ここまできたら嘘をついても遅い。

 俺は正直に話すことにした。


「いいですか?これは私達4人だけの秘密ですよ?」

「ノアやくそくする!」

「ったく、しゃーねーなー。これからはペラペラ他人に話すなよ?」

「面目ないです」


 仮宿であるリュカに危険が及ぶのは避けなくてはならない。

 ルーシュもまた然りだ。

 ……それはそうなんだが…

 


「…神父様」

「何でしょう?」

「俺は、これからも教会のお手伝いをしたいと思っています」

「ありがとう。おいしいパンを安く買わせてもらっていることにとても感謝しているよ」

「いえ、それはルーシュの力です」

「…うん?」

「俺は、”安価”で色んなものを造れます。なので俺に出来ることがあれば言ってください」

「…あぁそうか……うん。ありがとう。リュカ」

  

 俺は今衛兵ではないし面倒事も好きではない。

 でも困っている人がいたら知らん顔はしたくない。

 幸い今の俺にはリュカの膨大な知識がある。

 俺はこの子達が健やかに育てるようにせめて見守りたいと思った。

 


「なぁリュカ」

「何?ヴォルフ」

「お前さ、自分のこと『僕』って言ってなかったっけ…?」

「……変かな?」

「まぁ、お前は『僕』の方が似合ってると思う」

「解った。ありがとう」


 また俺はうっかりしていたらしい。

 しかし、知り合いが出来たのは心強い。

 この時代の解らないことはヴォルフに教えてもらうことにしよう。

 

 それにしても…

 どうやらリュカはルーシュ以外に”天才錬金術師”であることを言ってなかったのかもしれない。 

 なんて賢い子なのだろう。

 それとも、友達がいなかったのか?

 何にせよリュカのことをもう少し知る必要がある。

 帰ったらルーシュにそれとなく聞いてみるとしよう。


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