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1 目覚め

新連載始めました!

マイペースな更新となると思いますが、よろしければどうぞお付き合いくださいm(_ _)m


※同じ作品をピクシブでも書いております。大筋は同じです。

「…リュカ!」







「リュカっ!!」



 誰かが俺の体を強く揺さぶっている。俺はゆっくりと目を開けた。


「…えっと、なにかな…?」

「『なにかな?』じゃないわよ!リュカったら、いきなり倒れたのよ…?!」


 …リュカ…?いや、俺は『ディノ』だが。


 俺の前には知らない少女がいた。しかもかなり動揺している。


「…そうなのか?」


「ねぇ、急にどうしたの?痛むところはある?!」


「痛いところは、ない」



 …というか、本当にこの少女は誰だ?そして、ここはどこだ?俺は確かに自分の家にいたはずだが…。



「ちょっと、リュカ?!」

 

 それに俺の名は『ディノ』だ。なぜこの少女は俺を『リュカ』と呼ぶのだろうか。



「とりあえずゴル爺(医者)呼んでくるから、リュカはここで待ってること!いいわね?!」


「え…」



 そう言い残すと、少女は家を飛び出していった。ひとり残された俺はひとまず近くの椅子に腰かけた。


「一体、なんだっていうんだ……」



 俺はディノ。歳は30。平民なので姓はない。

 

 俺は村の衛兵で、父と母は小さな食堂を営んでいる。家族3人と愛犬とともにのんびり暮らしていた。



「…そういえば、アルトはどこに行ったんだ…?」


 ついさっきまで二人で話していたのに。


 アルトは俺の幼馴染で、同い年だ。少し強引なところがあるが、俺の自慢の親友だ。

 

 アルトはかなりの美形で、村の女の子は全員あいつを好きだった。剣の腕も天下一品で、学園在学中に騎士団へ引き抜かれたとてつもない逸材でもある。

 

 そして今アルトは、近衛騎士団の副団長として忙しい毎日を送っている。そんなアルトが今日久しぶりに村へ帰ってきたわけだ。

 

 「アルトにポーラを紹介しようと思ったのにな…」


 手紙では知らせていたが、アルトとポーラはお互いの面識がない。2人とも俺にとって一番大切な人だから、この機会にぜひ会わせたかった。ポーラとは、俺の婚約者のことだ。


 ポーラは去年この村に移ってきたエルフ族の薬屋だ。一見近寄りがたいほどの美しい人だが、話してみると親切で穏やかな人だった。


 ポーラがこの村に来た当初は、それは、大変だった。こんな辺鄙な人族の村にエルフの麗人が現れたのだ、村の男衆が騒ぎ立てるのも無理はない。

 

 ある時、ついぞ見かねた村長が衛兵団に相談してきた。そこで抜擢されたのが、平々凡々な俺ってわけだ。

 

 結婚適齢期をとうに過ぎた俺ならば無害だろうと村長は考えたらしい。そして俺は、仕事の傍ら彼女の店の見回りも行うようになった。

 

 はじめは挨拶だけだったが、その内世間話をするようになり、重い荷物を運んであげたりもした。


 ……いつから目を離せなくなったのかは、はっきりとは解らない。気づいたときにはもう、俺はポーラに恋をしていた。


 臆病な俺はかなわぬ恋だと、彼女に気持ちを告げることはなかったのだが……結局しびれを切らしたポーラが、収穫祭の夜に怒りながら俺に告白してくれた。


 なんでポーラが俺なんかを選んでくれたのか今でもわからない。でも、ポーラは絶対に俺が幸せにすると決めた…

 



 筈だったのだが……


「リュカ!!ゴル爺(医者)に来てもらったわよ!」


「っ、?!」


 先ほどの少女が、ものすごい勢いで扉を開け放つ。


 物思いに耽っていた俺は、無様にも驚いて椅子から落ちかけた。この少女はなんというか、勢いが凄いな。


「なんじゃなんじゃ、そんなに慌てて…」

「だって、リュカがいきなり倒れちゃったのよ…?!きっとどこか悪いに決まっているじゃない…!!」

「まぁまぁ、ちと落ち着けルーシュ。どこか痛いところはあるかの?リュカ」


 この可愛らしい少女の名前は『ルーシュ』というらしい。ルーシュにゴル爺と呼ばれた爺さんが、のんびりとした口調で俺に問いかけた。

 


「…いえ、痛いところはないです」

「そうか。診察してもよいかの?」

「はい」



「…うむ。体は健康そのものじゃな」

「良かったぁ…!!」


 ルーシュが力いっぱい俺を抱きしめる。凄く苦しい。

 

「原因が解らぬからな、ひとまずは安静にすること。痛みがでたらすぐにわしのところへくるのじゃぞ」

「えぇ、解ったわ!ありがとうゴル爺!」

「うむ。しかしな…」


 ゴル爺が俺の目をじっと見る。

 


「『氣力』が大きく乱れているのは確かじゃな」

「それって、どういう意味?」

「何といえば良いか…人族には『氣力』が流れているじゃろう?」


「ええ。人族が使う錬金術の『素』よね」

「そうじゃ。リュカは…何か特別な物質でも練成していたのじゃろうか?」


「あら、そうなの…?」

「…いや、解らない」


 俺も人族だから勿論錬成はできる。しかし俺は直前まで錬成はしていない。となると、『リュカ』の方が何かを錬成していたのだろうか。

 

「もう、さっきからあやふやじゃない!一体どうしちゃったのよリュカ……」

「……」


 つまるところ、今の状況の全てが理解不能なのだ。だから俺は何から話せば良いのか、何と言えば良いのか、迷っていた。


「……もしや、記憶がないのか?リュカ」


「え……?」

「……」


 ルーシュの顔色が途端に曇り、みるみるうちに両の目に涙が溜まっていく。それを目の前で見ていた(リュカ)の胸の奥が、ツキンと痛んだ。


 

「………そうです。()()()『リュカ』の記憶がありません」


「!!!」


 

 あぁ………一体何なんだこの状況は。『ルーシュ』は俺を抱いて号泣しているし、ゴル爺さんは『はて、どうしたもんかのう…』なんて、のんびり構えている。


 全く、夢なら早く覚めてくれ。

・8/3 行間などちょっと改稿してます。

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