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馴染みやすさは大事

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「國久様! 鍛錬に出かけるのはよろしゅうございますが、町の皆を不安にさせるほどの騒ぎを起こすとは何事ですか!?」


 あれから饕餮城に戻ってきた俺は、重文から雷を落とされていた。

 どうやら太歳の試運転の影響は、地鳴りと轟音となって城下町にまで及んでいたらしく、俺が戻ってきたころには「妖魔が現れたのか!?」と騒然になって、軍まで出張ろうとしていたくらいだ。

 慌てて俺が事情説明と謝罪をして回ったから事なきを得たが、今度は重文からのお説教が待っていて、今に至るという訳である。


「悪かったよ重文。でも何事も無かったんだからいいじゃねえか。あの後、森の様子も確認してみたけど、妖魔どもが飛び出してくるどころか、辺り一帯から逃げ出してたくらいだし……」

「そういう問題ではございません! 此度の騒ぎの事もそうですが、そもそも護衛もつけずに一人で妖魔が跋扈する森に近づくなど、國久様は次期当主として御身の安全を蔑ろにし過ぎにございまする! 西園寺領の時といい、勅使河原領の時といい……!」

「ま、まぁまぁ。もうよろしいではありませんか、松野殿」


 そんな俺を見かねたのか、雪那が俺と重文の間に割って入って、怒れる重文を優しく宥めてくれる。


「國久様も反省しておられるからこそ、真っ先に城下の方々に事情説明と謝罪を自らして回られたのです。その意を汲んで、今日のところは怒りを収めてあげてくれませんか?」

「むぅ……雪那様がそう仰られるのならば、この重文も吝かではありませぬが……今後はこのような事が無きよう、お願いいたしますぞ?」

「あぁ。さすがに俺も反省してるよ。余計な騒ぎを起こすのは本意じゃないしな」


 思いの外、早く重文の説教から解放されたことに安堵しながら、俺は無言で片手を上げ、雪那に対して拝むように礼を示すと、雪那は静かに微笑み返してくる。


(それにしても……想像以上の性能だったな)


 俺は太歳によって地面に深々と刻まれた断崖を思い返す。

 これまで魔道具に頼らない戦いをしてきた分、加減というものが分からなかったというのもあるんだけど、それを加味しても妖刀・太歳の性能は俺が想定していた以上だった。

 

(武器を使いこなしているんじゃなくて、武器に振り回されている……これが今の俺の現状だな)


 魔術師がより強大な魔術を発動する為に使う魔道具は、物によっては武器の枠組みを超え、兵器と呼ぶべき代物にもなるのだ。使いこなせなければ、今日みたいに周囲に害が及んで味方を巻き込む羽目になるのは目に見えている。


(太歳の制御……これが当面の目的の一つに加わったな)


 まぁそれは後日行うとして、今は話し合う事があるんだが……。


「それで、どうだった? 通信魔道具の使い心地は。率直な意見を聞かせてくれ」

「そうですね……思ったよりも使いやすかったというのが、正直な感想です」

 

 雪那の言葉に重文も頷く。この様子を見る限り、俺と惟冬の目論見は成功といったところだろう。


「初めは馬に頼らず遠方にいる人間と瞬時に会話ができると聞いて「本当にそんなことが出来るのか」と戸惑っていたのですが、実際に使ってみたところ、そう扱いが難しいものではありませんでしたし、魔力の放出さえできるなら誰でも扱えるのではないでしょうか」


 今日俺が太歳を使ってやらかした時みたいに、魔道具というのは注ぐ魔力の量さえ間違えなければ安定して発動するから、炊飯器や洗濯機みたいなボタンありきの電子機器よりもずっと簡単に取り扱えるようになっている。

 そして今回作った通信魔道具は、少ない魔力量で発動し、なおかつ一定以上の魔力を遮断する機構が施されているから、動作不良とかの危険性が少なくなっているのだ。


「そして國久様たちがご考案なされた文通機能とやらですが……こちらも恐らく、多くの人間が使い始めればすぐに使いこなすようになるでしょう」

「私もそう思います。初めは奇天烈と感じた魔道具ですが、妙に馴染みがあると言いますか……普段文字を書く時に使う筆と同じ要領で書状をしたためることが出来ました」


 今回の通信魔道具の目玉であるメール機能……世間一般では馴染みやすいよう、文通機能と名付けたそれを扱うのにタッチペンに近い形の魔道具をセットで使用するようにしたのは、馴染みやすさを重視してのことだ。

 考えても見てほしい。これまでタッチパネルやキーボード、スイッチボタンといった概念すらなかったこの世界に、そういったものが簡単に受け入れられるのか。


(機械文明の前世ですら、機械音痴な人間がいた時点でもうお察しだ)


 断言できるが、そんな物を簡単に扱える人間なんてそうはいない。急激な技術発展が必ずしも成功という訳でもないし、キーボードだのタッチパネルだのは、この世界の人間には早すぎるのだ。

 

(そこで大和の人間にも馴染みのある筆型魔道具という訳だ)


 今回通信魔道具を大きめに作ったのも、文字を書くスペースを確保する意味合いも兼ねている。

 雪那の言ったとおり、普段文字を書くのと同じ要領で扱えれば、多くの人間が馴染みやすいだろう。そう考えて今回の試作品に組み込んだ機能なんだが、雪那と重文からの感触は良好、他の家臣たちも実際に使ってみたら早くに順応出来たらしい。


「もっとも、正式な書状の代用品にはなりえませんがな」

「ま、そりゃそうだろうな」


 帝国政府から通信魔道具の文通機能による書面に法的効力が認められない限り、誓約書や契約書替わりはおろか、貴族への先触れにも使えない。

 現状だとせいぜい、細々としたやり取りや公的じゃない相談事に使うくらいか。それでもこの通信魔道具の価値は計り知れないが、筆と紙と墨汁の需要はまだまだ続くだろう。


「いずれにせよ、通信魔道具は試運転期間。実際に売りに出すのはまだまだ先の話だから、改善点とかが見つかれば遠慮なく言ってきてくれ。そうして集めた意見を勅使河原領に送るから」

「承知いたしました」


 ……販売はまだ先とか言いながら、俺らはバンバン使うんだけどな。だってあるのとないのとじゃ全然違うし。


「それから、土御門家からの返書はどうなっている? 届いたか?」


 話は変わるが、今現在、華衆院家は土御門家との会談を申し込んでいる真っ最中だ。その為に書状を送っているんだが……。


「届くには届きましたが……内容は前回と同じですな」

「……またか」


 実を言うと、これまで二回も書状を送り、その度に返書が届けられるが、それを書いたのは土御門家の筆頭家老であり、土御門家当主でもなければ、次期当主である政宗でもない。

 そして届けられる返書は前回と同じ……内容を要約して言うと、「当主及び次期当主が不在であるため、正式な返答は出来かねる。しばらく待っていてほしい」……という、筆頭家老の立場から独断でギリギリできるであろう時間稼ぎ的なものだ。


「文面こそ華衆院家への賛辞と詫びの言葉で彩られているが……二回目ともなると異常だな」

「もしかして……土御門家で何らかの問題が起こったのでしょうか?」


 雪那の指摘は大いにあり得る……惟冬の時とは違い、信用も何も会ったことすらない他領の人間に、自領の問題を簡単に明かすようなことはしないだろうからな。こういう茶を濁すような返書で対応されても不思議じゃない。


「……一体、土御門領で何が起こっている?」


 どうにかして情報が欲しい。そんなことを考えていると、不意に右手で抱えるように持っていた通信魔道具が、「チリリリリリリッ」という鈴みたいな音を鳴らし始めた。

 通話や文通機能の着信音みたいなものだ。俺は通信魔導具を開き、魔力を注いで稼働してみると、水晶板に見知った顔が映し出された。


『……久しいな、國久殿。顔を見る限り、相変わらず壮健のようで何よりだ』

「おぉ、晴信殿! 本当に久方ぶりだな!」


 通信相手は西園寺領の次期当主であり、前世の友人の転生先である晴信だった。最後に顔を合わせたのは奉納祭以来になるか……書面でのやり取りはしていたけど、こうして声を聴くのは本当に久しぶりだ。


「どうやらそちらにも通信魔道具が届いたようだな。どうやら西園寺領から通信してきているようだが、動作確認は良好か?」

『あぁ。領地を跨いでも問題なく扱えている』    


 これで超長距離間の通信の成功も確認できた。魔力中継の魔道具……その試作品の設置もしているとは聞いていたけど、水晶板に映る晴信の動きは滑らかだし、こちらもひとまずは成功と言ってもいいだろう。


『まずは突然の通信を詫びよう。今回は作動確認も兼ねて、至急耳に入れたい情報を掴んだので連絡をさせてもらった次第だ』


 ……何だか随分と畏まった様子だ。一体どうしたのだろうと思い、三人で通信魔道具に注目していると、水晶板に映し出された晴信は重々しい口調で告げた。


『今現在、土御門領で起こっている問題についてだ』

 


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