大人たちの情報交換
「あの二人はできてんのか?」
身を寄せ合う二人から十分に離れたところで、ウラノスは肩越しに振り返った。
「その質問は無粋過ぎませんか?」
それにあきれたため息交じりの言葉を吐いたのはイクスだ。
「そうか、わりぃな」
「いえ、お気になさらず」
ウラノスが赤銅色の短い髪を撫で、イクスが表面上は慈悲深く見える穏やかな笑みを浮かべた。
「アンポルトの周りを飛んでたラミアどもを片づけたのは、お前らか?」
そのまま、イクスとオムサナとウラノスの三人は情報交換をはじめることにした。
彼らのまわりにいた兵士たちは、野営地内に散らばって各々の仕事に就いている。
中庭を囲んで余りある大きさの白の守りの中で炊事や洗濯を行ったり、五、六人の班を作って王宮内の治安維持や片付けに向かったり――。
野営地内には、軍服を着ていない人々も大勢いた。中には包帯を巻いたレオ=デルソルの騎士も。ウラノスたちは王宮や王都に残っていた生存者の救出と保護もしてくれているらしい。
「そうだよ。それだけじゃないけど」
彼らを観察していたオムサナは、ウラノスの言葉に視線を北へ向けた。
大地から突き出す神の山の岩肌は薄灰色で、神々しさを取り戻しつつあるように見える。
王宮上空を大きな円を描くように飛んでいるのは、ここに来たばかりの時にも見えた尾長鳥だ。
「あれは、どなたの聖獣ですか?」
「オレだ。名前はポイニクス」
「いい名前」
猛禽のような広い翼と、風になびく長い尾羽。赤と黄色の羽根色も不死鳥の名にふさわしい。
「お前のは?」
ウラノスの吊り上がった目がイクスの肩でくつろぐリスザルを見た。好奇心に満ちた視線に、マミクロもイクスの髪で遊ぶ手を止めて、大きな目でウラノスを見返している。
「僕のは内緒です」
「マミクロだよ!」
いつものように聖獣の名前を伏せようとしたイクスにかぶせて叫んだのはオムサナだ。
イクスの口から大きなため息が漏れた。
「……オムサナ様」
「彼らは仲間だよ。仲間に隠しごとは良くないじゃん。あ、ちなみに私は聖獣いないからね」
それでも彼の聖獣の名前は、能力と直結しているので隠したい。しかし、それはすでに手遅れとなり、イクスは声にならない音を漏らしながらベレー帽を外し、銀色の前髪をかき乱した。
「聖職者なのに聖獣を持ってねぇのか」
「おっと、こりゃ痛いところを突かれたねぇ」
オムサナは大げさな動作で両手を挙げてみせた。
「まっ、私はよそから来た雇われ神殿長だからさ」
それはただの言い訳だったが、他に類を見ない髪と肌色のおかげで説得力はあった。
「んで、お前らはこれからどうするんだ?」
ウラノスはまだ疑わしげな表情を見せつつも、話を今後のことへと移していく。
「王都に行きますよ」
「やめとけ。住民が心配なら、もうオレたちができる限り救助した。デルソルにはまだラミアがうじゃうじゃいるんだ」
荒っぽい口調で言いつつも、彼の目にはレオ=デルソルの一行を案じる暖かな光がある。しかし、何を言われてもマリーは予定を変えないだろう。
「うちのお姫様は、まだ生存者がいると信じていますし、自分の目で確かめないと納得しないタチなんですよ」
イクスはウラノスの制止をできる限り穏便に断ろうとした。人差し指を唇に当てて、いたずらっぽく笑うしぐさ付きで。
このポーズと彼の美貌、そしてエルフという特殊な出身が合わされば、多くの者が黙り込む。ある者は彼の姿に見惚れ、ある者は長命なエルフに敬意を示して。
「面倒な小娘だな」
しかし、ウラノスの反応はどちらでもなかった。
その目は、王宮と王都の現状を知る自分の言葉よりも、十歳の子どものわがままを優先するのか、とでも言いたげな批判と不機嫌に満ちていた。
ウラノスには目の前の長命種二人が、子どもの幻想に振り回される哀れな老人に思えたのだ。
「まぁ、見ていればわかりますよ」
イクスはウラノスの非友好的な視線を正面から受け止めた。幼い獅子王の名誉のために、挑発的な笑みを浮かべて。




