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王宮再来[上]

 王宮内には獅子王だけが知る秘密の通路を使って入り込むことにした。


 交代で休み十分に眠ったものの、魔力は一晩の休養では回復しきらない。できるだけ戦闘を避けたいというのが一同の総意だった。


 秘密通路の出口は王宮端にある聖堂の中。転移陣ではなく、床の大理石タイルを外して出入りするタイプだ。


 しかし、肝心のタイルが重くて持ち上がらない。聖堂の壁か天井が崩れておもりになっているのだろう。


「マミクロ、『ミクロ』」


 イクスが肩の聖獣に指示すると、マミクロは指先ほどの大きさまでみるみる小さくなり、欠けたタイルの隙間を登って見えなくなった。


「便利過ぎるほど便利な聖獣ね」


「言葉を話す聖獣も、とても珍しいと思いますよ」


 マリーの称賛交じりの感想に、イクスはにっこり笑って謙遜している。その口調も表情もいつも通りだ。


 マミクロが地下通路を出て間もなく、頭上でゴトゴトガラガラと物を動かす音が聞こえはじめた。今度は大きな姿になって、通路の出口をふさぐがれきを取り除いているのだろう。本当に便利過ぎるほど便利な聖獣だ。


「きゃ」


 パラパラと小石や砂が落ちてくるので、マリーはテティを胸に抱いた。これで子猫型の聖獣は守れる。

 しかし、そうすると自分の頭を守れなくなるので、マリーは壁を向いてうずくまるしかなかった。


 と言っても、常にあるじを注視しているオルトがそれに気づかないはずがないので、彼女の体の上にはすぐにオルトの腕とインディゴの翼が広げられることになったが。


「ありがとう」


 マリーはわずかに顔を上げた上目遣いで、少年騎士見習いとその聖獣を見上げた。


 彼はおとといの恐怖を乗り越えたのだろうか。

 一度涙を見せたあとは、今までと変わらないように見える。いや、むしろたくましさを増したような……。


 まじめな顔で上から大きな石が落ちて来ないか警戒していたオルトは、感謝の言葉でやっとマリーを見ると、


「いえ」


とはにかんだ笑みを見せた。


 彼はできることを完璧にこなし続けている。その細やかな気遣いは、オムサナやイクスにはない長所だ。



 マミクロのおかげで地上に出られた一行は、降り注ぐ陽光の眩しさに目を細めた。「太陽国」レオ=デルソルの国民にとって、明るく輝く太陽は歓迎すべきものなのだが、一同の表情は暗い。


 ここは聖堂内だ。本来ならばアーチ状の屋根があり、天窓から差し込む光が聖堂の白い壁や床に反射して間接照明のようにやさしく室内を照らしているはず。


 しかし、目の前に広がる光景は白の聖堂とは程遠いがれきの山だった。


 天井の半分以上が崩れ落ち、木製の椅子や祭壇が押し潰されている。白かった壁と床は土や埃、ラミアの痕跡で黒く汚れていた。


 崩れた壁の間から見える王宮は、一部がごっそり失われていたり、大きな穴があいていたり、窓枠がはずれていたりと、廃墟と呼ぶほかなかった。


 獅子王アダソンの時代にこの王宮を建てて以降、改築はされど王宮が破壊されたことはなかった。マリーは何年も、何百年も、歴代の獅子王としてここで暮らしてきた。月日が流れ、転生して、仲間のほとんどが亡くなっても、王宮は変わらずそこにあった。五百年以上この場に建ち続けた宮殿は、獅子王にとって大きな心のよりどころだったのかもしれない。


 マリーの膝から力が抜けた。

 オルトが慌てて支えてくれたものの、彼女を立ち上がらせるほどの力はなく、共に膝をつく結果となった。


 オルトにとっても、この王宮は我が家だ。どう想像力を働かせても、無残に破壊された宮殿が元通りになる未来が見えない。それが少年をひどく絶望させた。


 崩れた王宮は、アンポルトの洞窟でひしめいていたラミア以上に国の崩壊を実感させるのだ。


 一方、レオ=デルソル北部出身のイクスと、隣国サトゥメーアの神殿長オムサナは、マリーやオルトほど王宮への思い入れがないおかげで、十分な冷静さを保っていた。


「……何か聞こえます。がれきを動かす音を、聞かれたかもしれません」


「一応、通路の出口は塞いどこっか」


 小さな声で囁きかわすと、オムサナがすばやくタイルを動かして通路をふさぎ、イクスがマミクロを高所に登らせて索敵した。


「規則正しい足音。ラミアではなさそうですね」


 イクスはさらに魔法で自己の聴力を強化している。


「人間の集団よ。軍服を着ているけど、レオ=デルソルの騎士じゃないわね。白の守り(プロータ・アルバ)が見えたわ。空には聖獣も飛んでる」


 そう報告したのはテティだ。彼女は、傷心のマリーを元気づけられるものが残っていないかと、聖堂の外まで偵察に出ていたのだが、成果はそれくらいしかない。


「それなら、話が通じそうですね。レオ=デルソルの騎士団さえまだ入れていない王宮に人間の集団がいるとは、信じがたい話ですが……」


 イクスはマミクロを肩の上に呼び戻すと、聖堂の入り口付近までゆっくりと歩いた。


「王都の自警団とか、そういう可能性は?」


 白の守りを浮かべたオムサナもそれに続く。テティはマリーの近くに駆け戻った。


「自警団の制服ならテティも見たことがあるでしょう。それにおそらく、自警団もレオ=デルソルの騎士も白の守りを知らないと思います。僕でさえ全く耳にしたことがなかったんですから」


 イクスは組み立て式の洋弓を使用可能状態にした。使うことはないと思いたいが、備えるに越したことはない。


「ヤバそうなら逃げるよ。街道まで行けば、誰にも追いつけない速度で北部地域まで逃げられる」


「わかりました」

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