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洞窟の戦闘

「……オムサナ、あの中に白の守り(プロータ・アルバ)を落として。できるだけ強めのやつ」


「わかった」


 オムサナは左手で自分たちを守る光のベールを維持したまま、右手で新しい魔力を練った。


 すぐに大きな白い玉ができはじめる。巨大な白い光に、洞窟の底で共食いするラミアの一部が顔を上げた。


「イクス・クロス、逃げ出そうとした敵の処理をお願い」


「かしこまりました」


 彼はすでに歯を食いしばり、弓矢を構えていた。きりりと吊り上がった眉の下にある赤い目は、非情に見えるほど鋭く細められ、敵を物のように見すえている。


「いくよ」


 オムサナの合図で、白い光がラミアの集団に落ちた。


 その瞬間、切り裂くような数百の悲鳴があがった。

 白の守りに焼かれ、ラミアが苦しみながらのたうっている。


 そんな中でもあるものは共食いをやめず、あるものは下に逃げようと枯れ枝のような指で仲間の体を掻きむしった。それはむしろ、先ほどまでの風景よりも残酷で、恐ろしいものだったかもしれない。


 翼や脚力で上に逃れようとしたものは、イクスの正確な射撃で白い光の中へ撃ち落されていった。


「ゲエェェェ!」


 インディゴが鳴いている。


「イクスさん、こっちも!」


 相棒の声に異変を察知したオルトが叫んだ。洞窟の入り口から外を飛んでいたラミアが入り込んでいる!


 オルトはとっさにマリーの体を押し、壁と自分の体の間に彼女をかばった。この戦いが落ち着いたあと、恐怖に身をすくめることなく動けた自分をこっそりほめたたえたのは、ここだけの話だ。


「チッ」


 舌打ちとともに、イクスの赤い目が一瞬だけ背後、洞窟の入り口方向を確認した。いつものように「やれやれ」とため息をつく余裕はない。


「マミクロ、『マクロ』」


 イクスが肩上の聖獣に指示を出した。


 リスザル姿の聖獣は軽やかに飛び出すと、地上につくまでの二、三秒でその姿を洞窟を埋め尽くさんばかりの大きさに変化させた。毛は硬く、筋肉は膨れ上がり――。


 そこにリスザルの面影はない。胴も手足も岩のように大きなゴリラが立っているだけだ。といっても、このあたりにゴリラはいないので、これは「ゴリラ」を知っている者――たとえばオムサナとか、にしか伝わらない表現だろう。


 マミクロの岩のようなこぶしが、先陣を切っていたラミアを顔面から打ち砕いた。

 二番目のメス型ラミアの腕をつかんで、三番目四番目に飛んでくる敵に叩きつける。マミクロの脇をすり抜けて飛んできた鳥足の残骸は、オルトが炎呪文で焼き払った。


「ハァ……、ハァ……」


 オルトの息は極限状態の緊張で荒れていた。


 息を吸うたびに、毛と皮膚が焼ける焦げ臭さと硫黄臭の混ざった悪臭がのどを刺激する。酸っぱい吐き気を繰り返し飲み込みながらも、オルトは戦うマミクロを注視し続けた。可能な限り援護しつつ、マリーを守るのだ。


「オルト」


 そんな少年騎士見習いに、イクスが自分のナイフを投げて渡した。魔石のはまった武器は、持ち主の魔術を支援する。オルトは感謝の言葉を口にする余裕もなく、さやから抜かれた銀色の刃を構えた。


 半人半鳥のラミアは洞窟の幅が許す限り翼を広げ、高速で滑空してくる。


 かつての師子王は、聖獣の支援で強い呪文を繰り返し放つことができたが、子ども姿のマリーには無理だ。テティの魔力にも期待できない。


 マリーは小さな白の守りを放って、後方のラミアを貫いた。前世までの経験のおかげで、細かな魔力操作は多くの人々より得意な自負がある。できる限り少ない魔力で正確に敵を倒していかなければ。


 ――外を飛んでいるラミアが全部洞窟内に入ってくるとしたら、どれくらいかしら?


 マミクロの足元にはすでに十体以上のラミアが横たわっている。

 味方を守るオムサナの「白の守り」も健在。

 イクス達の方を確認する余裕はないが、そちらにいるのは司令官クラスの有能な騎士と永遠を生きる最上級多魔力者グランド・オーラマスターだ。何とかなると信じるほかない。


「当たれ!」


 マミクロを避けて壁沿いにはなったオルトの炎が、黒い岩肌を白く照らしながらラミアの翼を焼いた。


 他のラミアを巻き込みながら地に落ちて転がった塊を、マミクロの巨大な足が踏みつぶす。


 前後を挟まれた状態での後退は命取りなので、マリーはあえてオルトの背を押して前進した。


 後ろに残されたテティは恐怖に震えている。そこに大きな翼を傘のように広げて現れたのは、あいかわらず何を考えているのかわからない、ぼんやり顔のインディゴだ。


「あんたに守られなくても、あたしは大丈夫よ!」


 耳を寝かして叫ぶテティの強がりなど聞こえていないように、内側が薄黄色い藍色の翼で太陽色の子猫をラミアの脅威から隔離した。


「オルト、もうひと踏ん張りよ」


「はい」


 背後で行われている聖獣同士のやり取りに気づかないほど、二人の主人は目の前の敵に集中している。


「絶対に勝つんだから!」


 晴れ渡った空のような濃い青色の瞳を決意に燃やして、マリーは強く言い切った。

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