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断章:獅子王の回想

※ この章は読み飛ばしても大丈夫です。

 

  * * *


 さて、これから「子猫姫マリー」の物語がはじまるのだが、その前に少しだけ獅子(しし)王の歴史と彼女が戦うことになる敵について伝えておこう。


 彼女の――、いや獅子王の記憶はやせた農地からはじまる。


 当時の名前はアダン。

 多島海と大山脈に挟まれたこの世界で暮らしつつも、アダンは果てしない海も山頂に雪を抱く大山脈も見たことがなかった。彼をはじめとする多くの人間は、「シャンドレ」と呼ばれる亜人種族の奴隷として支配されていたのだ。


 シャンドレは豊富な魔力量と高度な魔力操作技術を持つ長命種で、その力と野心は神を殺すほどだと言われている。神が人々に与えた聖獣は、シャンドレから解放されたい人間とシャンドレの暴力から身を守りたい神の利害が一致した結果と言えるだろう。特に、最初の獅子王アダンが授かったオスライオンの聖獣は強力で、多くの人間をシャンドレの支配から解放した。


 ただ、それが幸運だったのか、不運だったのかはわからない。アダンは英雄となる代わりに、転生を繰り返しながら何百年も国を支える義務を負ったのだから……。


 なんにせよ、神の意志はアダンを二番目の獅子王として転生させた。



 アダンが亡くなってすぐに生まれたその男児はアダンの孫で、祖父の面影を色濃く残していたことから「アダソン」と名付けられた。彼は祖父と同じように金色のたてがみが美しいライオン姿の聖獣を授かり、シャンドレとその眷属(けんぞく)たちの打倒を自己の使命とした。敵の多くを南の大山脈まで追いやり、現在とほぼ変わらない国土を作り出したのは彼の大きな功績だろう。



 三番目の「獅子王」は、ラウルという心優しい男で、先代の獅子王が亡くなってから五十年ほど経って誕生した。シャンドレと戦うことを主命(メイン)としていた今までの獅子王と違い、国内に目を向けていたのが彼の特徴だ。アダンとアダソンの記憶と経験を受け継いでいるのは間違いなかったが、気質的には全くの別人だったと言える。


 彼の功績は大規模な都市改革で、シャンドレやその手下から国民を守るために、城壁に囲まれた要塞都市をいくつも作り、地方の農村や漁村、森の中に住むエルフや花畑を舞うフェアリーにまで身を守る方法を教えた。


 彼も「(ラウル)」の名に似合わず、ライオンの聖獣を従えていたが、今までの獅子王のものより細身で、主人を乗せて国中を駆け回るのに特化していたと国史書に記録されている。


 しかし、彼にも全く武勇がなかったわけではない。国内周遊中に奇襲してきたドラゴンを大地ごと真っ二つに両断した伝説は、今でも子どもがごっこ遊びをするほど人気だ。



 四番目の「獅子王」ヘルドは、はじめてシャンドレ以外のものと戦った。


 大山脈の先に追いやられた魔族がおとなしくなると、かつての仲間である人間同士や同じ国に住む異種族と争うようになってしまったのだ。それは過去の記憶を持つ彼にとって非常に心痛ましいものだった。


 ヘルドは国内はもちろん、隣国にも通い詰めた。その回数は百回とも二百回ともいわれている。

 多くのことを話し合い、互いの権利を保障し、そしてなにより大山脈の向こうに共通の敵がいることを確かめ合った。


 そんな彼を助けたのが、三番目(ラウル)時代の交渉術と、アダンやアダソンの伝説を想起させる太陽色のオスライオンだ。一代で周辺国の信頼を得ることに成功した彼は、祖国「レオ=デルソル」を盟主とする対黒魔(アンシャンドレ)同盟を形成した英雄となった。



 五番目の「獅子王」は、初代と同じ名前だった。


 アダン二世は初代とよく似た容姿で、神から授かった聖獣もかつての相棒と瓜二つ。だからこそ、アダンは警戒した。同じ名前に同じ容姿、そして同じ聖獣。初代(あのとき)のような人間と魔の眷属同士の大規模戦争が起こるのではないかと。


 しかし、彼の治世は平和そのもので、その人生は六番目のマリーへと引き継がれていくのだ。

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