諸悪の根源
戦争を善悪で判断しない者たちがいた。
彼らにとって戦争は大量消費の活動であり、莫大な経済効果を生み出す行為だった。
連邦最大の港町に、そんな5人の商人が集まっていた。
「やはり正攻法では難しいですな」
禿げた頭をペチンッと叩きながら、中年の男性がいう。
古びた酒場には彼ら5人以外誰もいない。薄暗い店内でランプの灯りに照らさたその男。背は低く腹は出て、カエルのような顔をしている。
「ならば当初の予定通り、次男が狙い目だろう」
そう答えたのは、長身の老人だ。白髪に白髭で、ピンと伸びた背筋は貴族のようにすらみえる。
「私たちの情報操作で長男の評判は落ちてますから、このままいけば順当に次男が跡取りになるでしょう。ただ、当主は流石と言うべきか……なかなか次期当主を次男に決めませんな」
「ふん。バカな側近や民衆とは違い、本質を理解してるんじゃろな。ダンジョン攻略に夢中な長男と、魔法学者の次男。肩書きでしか判断出来ない連中は次男を選びよる。魔法学者であることは、必ずしも政治能力があることには結びつかぬのだがな。そんな当たり前の事すら理解出来ぬ愚者たちよ」
「まあまあ、おかげで操りやすい次男が周囲から高評価されているのは、私たちにとって有益なのですから」
カエル顔と老人の会話は、連邦最大権力を握るとある家についてだった。
遥か昔、北方の弱小国に過ぎなかった国を、大陸でも有数の大国にした英雄。その英雄の末裔こそ、その家である。
そして、彼ら商人に目をつけられた理由があった。
「その通りです。だからこそ我らは相応の投資を行いました。そろそろ、それに見合うだけの収穫を始めてもいいのではありませんか?」
カエル顔と老人の会話に割って入ったのは、一見すると好青年。ニコニコした笑顔を浮かべながら、臆することなく意見を述べる。
「急いで事を仕損じるは、それこそ大損。とはいえ、好機を活かせぬ者に未来が無いのもまた事実。どうですかな、皆さん。計画を次の段階へと進めるべきではありませんか?」
まるで武人のような屈強な体躯をもち、鋭い眼つきをした中年がいう。
そして、その言葉に全員が頷いた。
その中でただ1人、沈黙を続けた人物の口は不敵な笑みを浮かべている。
連邦最高権力者が乗った馬車が襲われ、全滅するという痛ましい事故が起きた。
生存者は1人も居らず、目撃者も居ない。事故を調べた専門機関の報告から、モンスターによるものと断定。その報告は世間を含め、連邦関係者も信じた。
もっとも極少数がその事を疑っていたが、早急に後継者を決めなければならない状況が、彼らを黙らせた。
「当主就任おめでとうございます」
「ありがとう。貴殿の働きには感謝している。以前から兄上の派閥の切り崩しをしていたとはいえ、こうも容易く就任出来るとはな。亡き父上には申し訳ないが、いい時に死んでくれた」
「左様でございます。前当主様は最期まで立派な方でした」
「ふふふ。それは流石に皮肉が過ぎよう……とはいえ、貴殿の働きには報いたい。望みがあるならば、なんなりと申せ。金でも女でも、望みのモノを褒美としよう」
「望みなど滅相もありません。わたくしとしては、この連邦を想えばこそ」
「ふふふ。誠、信頼出来る人物よ。だが、謙虚過ぎては張り合いがない。なんでもいい、何か願いはないのか?」
「ありがとうございます。なれば一つお願いがございます」
「うむ。言ってみろ」
「我ら連邦をより発展させるため、自国通貨を発行すべきかと存じます」
「現状は聖都の通貨を買ってるが、それでは問題があるのか?」
「今までならば問題ありません。ですが、既に連邦は昔のような弱小国の集まりではありません。いつまでも聖都の信用に頼らずともいいでしょう」
「なるほど。だが、それが簡単に出来るならとっくにやってるのではないか?」
「左様でございます。その為、本日はその困難を実現する計画を2種類お持ちしました」
「2種類?」
「はい。一つは『商人連合銀行設立案』です」
「商人連合?」
「はい。商人を連合させることで新通貨の信用を容易に得ることが出来る案でございます」
「ふん。気に入らないな。商人とえば、金儲けしか考えてない俗物どもではないか。そんな連中に任せられるものではあるまい」
「…………分かりました。それではもう一つを提案いたします。こちらは『連邦統合銀行設立案』になります」
「ほう……先ほどのとはまた違う感じだな」
「左様でございます。こちらの案では、我ら連邦が適切と思える専門家を集め、管理運営させます」
「なるほど……専門家たちならば間違いはあるまい。そちらの案を採用しようじゃないか」
「かしこまりました。早急に議会に提出し、可決されるように手回ししておきます」
「うむ……」
満足そうに頷く新当主を前に、その側近は深々と頭を下げ、その表情を隠していた。
議会に提出された『連邦統合銀行設立案』が賛成多数で可決された。
その報告を受けた商人は、蔑むような笑みを浮かべる。
「想定通りとはいえ、新当主の愚かさには虫唾がはしる」
老人の言葉に、来客中の好青年はニコニコしていた。
「名称が違うだけで、中身は全く同じ案なのですが。印象でしか判断出来ない人には、丁度いい遊びでしたね」
「金融に関する専門家など、我ら商人以外いないだろうに。机上論の学者風情が正しいなら、とっくに連中が金持ちになっておるわ」
「まあまあ……口先だけの連中に一定数騙される人がいるのは、彼らが純真だからでしょう」
「ならば純真とは害悪じゃな」
「そんなことはありません。彼らが純真であるからこそ、我らは食いっぱぐれることがないのですから」
「純真とは我らの餌か……ふむ。先ほどの意見は撤回しよう。純真とは有益な存在だと」
「えぇ……本当に。是非とも大勢の方には純真なままでいて欲しいものです」
「全くもって皮肉な話よ。我らとて国が栄える方が利益が大きいというのに、愚かな国のほうが実際儲かるのだからな」
「えぇ、これだから商売はやめれません。既に我ら5つの商会から銀行設立に必要な人材が投入されてます。彼らは我らが用意した建設予定地を購入し、我らが用意した建設資材を購入し、我らが用意した人材を利用することになります」
「つまり好きなだけ吹っかけられる訳だな」
「その通りです。当初の予定より予算がオーバーすることは、よくあることですから」
「それだけで、今まで投資した分をかなり回収出来るのだろう」
「それは勿論。ですが、我らの本命はその先にあります」
「未だ誰ひとり気づきもしない……か。まあ、よい。なれば、莫大な利益を得るとしようじゃないか」
「そうですね。まあ、気づけないのも無理はないでしょう。まさか、連邦とは関係ない国で、王妃が変わったことがこの計画の始まり。と言ったところで、誰も理解出来ないと思いますよ」
「自国のことすらよく知らぬ者に、他国のことなど分かる訳もない。興味も関心もないなら、精々利用することにしよう。愚者がその愚かさに気付くのには時間がかかるものだ」
「えぇ……我らはその時間を有意義に使いましょう」
彼らに愛国心なんてものは存在しない。どの国が栄えようが、どの国が滅びようがどうでもよかった。
大切なのは、自分たちが儲けることなのだから。
そして、彼らがわざわざ連邦で準備を着々と進めてる時、その標的とされた国では火種が誕生した。
その国の王妃が無事に男子を出産したのだ。
それこそ彼らにとっては、まさしく棚からぼた餅。自分たちの手を使わずに、勝手に火種を生み出してくれたのだから。利用しない訳がなかった。
「いやはや、正直なところ驚きましたわ」
癖なのかおでこを叩きながらカエル顔の商人がいう。
「こちらで用意していた火種が無駄になったか」
屈強な男がそれに答えた。
「いやいや、無駄ではありませんよ。予備として十分使い道がありますし。それにちょっと面白い使い道も思いつきました」
「ほう……それはどんな使い道なのだ?」
「ん? まあまあ、それは後のお楽しみという事で。それよりもあの国の命脈はもって数年というところですかね」
「確かに。こちらの情報でも、かなり民からの不満が溢れておるようだな」
「当然でしょう。国王にも王妃にも王太子にも人望がありませんから。そんな国では未来など暗いものです。だからこそ、我らで照らしてあげましょう」
「戦火という炎でか?」
「そうです。暗闇を怖がる者たちほど、その灯りに集まることでしょう。勿論、その灯りはタダではありませんけど」
「軽く100年以上は借金まみれになりよる。孫の代まで苦労することになるな」
「そうですね。その時、彼らが何を選ぶか……容易に想像できます」
「おいおい……まさか、借金を踏み倒す気か?」
「えぇ。常軌を逸した愚かな考えですが、必ずそういう考えの人が出てくると思いますよ」
「愚者ゆえに目先の事しか見えぬ……か」
「まあ、どちらに転んでも構いません。我らはどう転んでも儲けるように仕向けるだけですから」
「確かに」
商人たちも未来が分かる訳ではない。ただ、自分たちにとって都合がいい未来にする努力をしていた。
勿論、善悪とはかけ離れた価値観で。
そして秘密裏にとある国へと軍事物資が運搬される。それは武器や防具だけではなく、民間人を訓練するための人材から、医薬品や保存食など多岐にわたる。
これらが何かと言えば、連邦からのレンドリースである。当然、民間人に払える金額ではない。そこで彼らは連邦から借金することになる。
その時の通貨は、連邦の新規通貨である。
つまり、彼らにはその新通貨でレンタル料を支払うだけではなく、借金の金利も支払う義務が生じ、しかもそれらは借りた武器や防具を返却するまで、どんどんレンタル料は加算されていくことになる。
だからこそ商人は民間人たちへ巧みに伝えた。
準備万端で行えば、この国など簡単に滅ぼせる。だから、それ程レンタル料は加算されないだろう……と。
それを民間人たちは信じた。もっともそれ自体は嘘ではない。
ただ、その先をあえて言わなかっただけである。
とある国で王太子が処刑された。
驚くことに、王妃の手によって。
「おかしな話だ。我らが手を下すまでもなく、勝手に滅びへと突き進む。どうにも、理解に苦しむな」
老人はそうぼやく。
「血の繋がらない現王太子より、我が子を王太子にしたかったのでしょう。なぜ養子を王太子にしているのか、その理由にまで頭が回らない者を理解する必要はありませんよ」
好青年は答える。
「うむ。どうせすぐに消えるか。じゃが、あの王太子は隣国の第2王子だ。今後の計画に支障をきたす可能性があるな」
「例の三カ国による連合王国計画によって養子に送られてますからね。まあ、自国に置いておきたくないからと、素行も評判も悪い第2王子を送ってる時点で、程のいい在庫処分でしょう。概ね、我らの計画通りで問題はないと思います。大根役者から別の素人役者に替わっただけですから」
「じゃが、それでは次の演目の準備が間に合わないじゃろ」
「そこは素人役者たちに頑張ってもらうことにしましょう」
「ふふふ。民間人同士による内乱か……さぞかし、無様を晒すことになりそうじゃのう」
「えぇ……きっとグダグダのドロ沼になるでしょう。自分たちが使ってる武器などにレンタル料が発生してることも忘れて」
「それは彼らの責任じゃの。すんなり新政府樹立出来ないほうが悪い」
「そうですね。まあ、建国には苦しみを伴うものです。是非とも彼らにはその困難を乗り越えてもらいましょう」
次の戦火へと繋げるために、既に商人たちはこの時点で手を打っていた。
ハッピーエンドでは終わらせない。いつまでも儲けるために、いつまでも終わらない物語。彼らだけがずっとハッピーでいられる世界を、彼らは望んでいるのだから。
予定通りであり、全てが順調だった。
とある国では民間人による反乱が起き、とても民間人とは思えないほど手際よく要所を制圧。
そして国王や王妃など王族を処刑していった。
これでやっと圧政から解放されたと喜ぶのも束の間、彼らの前には隙間風が吹きそうなほどスカスカな国庫と、莫大な借金という現実があった。
それだけでも頭が痛くなるところ、もっとも大事なことは国防の方だった。
武器や防具を連邦に返さなければいけないが、それを返したら国防が成り立たない。だからこそ、本来ならそういう困った時の助けになる為に同盟国が隣にあったのだ。ところが、他ならぬ彼ら民間人の手によってその縁を切ってしまっていた。
激情に駆られ次々と気持ちよく王族を処刑してしまった彼らには、近隣の国との縁戚関係まで配慮することは出来なかったのだ。
そんな彼らにとって、連邦だけが現状唯一友好な関係と呼べる状態であり、その連邦からの借金を返済しないという選択肢は本来ならあり得ない。
だが、簡単に国家転覆を成し遂げた民間人たちは、その達成感によって自分たちが優れた存在だと思い始めていた。
そして信じられないことに、借りた武器などを返さず、しかも借金も踏み倒そうと考える人たちが大声で叫びはじめたのだ。
さらに、それによってその声に同調する人も増えていく。
彼らと、まともに借金を返済しようとする人たちとの間は、驚くほど簡単に亀裂が走った。
そして先手必勝とばかりに彼らは攻撃を行い武力衝突へと発展することになる。
そこからは商人たちの想定通り、ドロ沼の内乱へとなる。旧王都で始まったその武力衝突は、あっという間にとある国全体へと広がり、もはや彼らでは収集がつかない状態となった。
「これで好きなだけ時間をかけることができるな。しかも、時間がかかるほど我らは儲かる。これでは、笑いが止まらないな」
老人はご機嫌に笑っていた。
「まあ概ね想定通りとはいえ、予想外な部分もありますな」
カエル顔は少しだけ不機嫌そうにいう。
「なんじゃ……随分と気になる言い方じゃのう」
「私の考えでは、内乱時の勢力図は連邦に友好的な方が多いだろうと思っていたのです。ところが、実際はかなり反連邦派の支持が多いですわ」
「ふふふ。愚者どもの考えなど簡単ではないか。連中は連邦を敵にすれば、助けてもらえると思っておるんじゃろ」
「どこにですか? 帝国や聖都……いや、まさか……隣接する2つの王国からですか?」
「ふふふ。その全てじゃろ。被害者意識を持ってる連中の考えそうなことよ。自分たちは助けられて当然くらいに思ってるはずじゃ」
「被害者面すれば何をしてもいい訳じゃないでしょうに。まあ、そんな連中のおかげで何人死んでも心が痛みませんけど。ただ、親連邦派へ余分に援助が必要になりましたな」
「ふむ。予定をオーバーし過ぎると、次の計画に支障をきたすか」
「えぇ……当初は数年かけて、じっくりと疲弊させたかったのですが、それをすると連邦の体力を無駄に疲弊しかねません。そこで以前から用意していた例のモノを使いたいのです」
「例のモノとは、当初の火種として用意した女か?」
「はい。これによって、連邦ではなく王国に介入させようかと」
「なるほど……無理に連邦だけの体力を削るより、王国を使ったほうが良いのは分かる。じゃが、そう上手く運ぶのか?」
「我らからすれば理解しがたいものですが、きっと上手くいきますよ。なにせ例の女は、隣国の王子の婚約者。そして亡国のお姫様は絶賛内乱中の都に幽閉中。そんな不憫なお姫様を王子様が救う。そういう筋書きは、大衆向けに丁度良いものです」
「確かに、例の女は我らの手で保護しておる。それをわざわざ王子に救出させる訳じゃな」
「えぇ……勿論、現状では王国が軍隊を使うことは困難ですから、王子の私兵などで救出させましょう」
「それらな丁度良い話がある」
「なんですか?」
「あの王国にて、どうやら試験的に非公式の特殊部隊が設立しておるらしいぞ」
「それはそれは、都合がいいですな。是非とも王子様には、婚約者である亡国のお姫様を特殊部隊を使って救出してもらうとしましょう。それが成功すれば良し。失敗しても、王子がその地で死ねば王国としても軍隊を派遣する大義名分になりますし、実に良いですな」
「そうじゃの。どちらにせよ、王国を戦争へと引きずりこめるじゃろ」
「えぇ……それにまあ、万が一にも王国がお姫様を見捨てた場合は、連邦の軍隊を派遣して制圧。お姫様を傀儡に据えて植民地化すればいいだけですな」
「そうじゃの。我らからすれば、どちらが統治しようが変わらん。どちらにせよ、儲かるのじゃからな」
現時点で莫大な利益を上げてる彼ら商人に、満たされるという事は無かった。
どこまでも貪欲に、それが出来ない者は全て彼らの餌となるしかなかった。
強大な帝国と渡り合うため、3つの王国は1つになろうとしていた。元々その三カ国は昔1つの王国だった。ところが後継者問題から逃げた国王が、それぞれの兄弟に国を分けた結果、互いに戦争するぐらいには、後世険悪な関係となる。
それからというもの、何度も友好関係を築こうとしては、失敗を繰り返していた。
だからこそ、今回は慎重に計算して互いに婚姻関係を結ぼうとした。そして、時間をかけて1つの王家に戻れるように計画したのだ。
この三カ国を、サグレス王国、ディーダ王国、クルステラ王国という。
この中の、ディーダ王国が現時点では滅んでいる。もっとも、それは鍵となるお姫様が戴冠するまでの期間であった。その戴冠が連邦の傀儡となるかどうかは、その命運をそのお姫様の婚約者であるサグレス王国の王子が握っているといえる。
因みに、ディーダ王国の処刑された王太子は、クルステラ王国の第2王子であった。
こんな情勢だからこそ、商人たちはディーダ王国の王妃を白い目でみたのだ。
「どうやら、事は順調に運びそうですね」
好青年はいう。
「いやはや、一時はどうなるかと。流石、三カ国の中では強大なサグレス王国だけあって、こちらの用意した台本に中々乗ってきませんでしたな」
カエル顔は少しだけホッと一息ついた。
「王国にしてみれば背後関係が不明な状態で、あの地にちょっかいをかけたくなかったのでしょう」
「なるほど。サグレス王国の立場ですと、民兵たちの背後に帝国がいるのか、連邦がいるのか、はたまたクルステラ王国がいるのかでは、だいぶ話が変わってきますわ。慎重になるのも分かりますな」
「えぇ……帝国ならすぐにでも素知らぬ顔で軍隊を派遣したいでしょうし、連邦だとなるべく関与を避けたいでしょう。クルステラ王国の場合は、論外です。そう考えると、よく王子は説得出来ましたね」
「それほど婚約者のお姫様に惚れてたんですかな。こちらの調べでは、学生時代に色々とあったみたいですが。とはいえ、友人関係以上とは思えなかったのですがね……もしかして恋人だったのか。どうにも政治の駒を助けるには、熱心過ぎる気もしますわ」
「これはあくまて噂ですが……こちらの調べでは、むしろ王子は学生時代に別の女性と恋人関係だったらしいですよ。ただ、当時もかなり慎重に隠していたみたいで……中々ハッキリとはしていません」
「それはそれは……大衆が喜びそうな話ですな。確か王子とお姫様の婚約発表は卒業パーティーの時ですな。その時、もしも別の恋人がいたなら……」
「相手次第ではかなりのスキャンダルですね。王子が婚約者の救出に熱心な理由も、その辺にあるのかもしれません。詳しく調査させる価値がありそうです」
「そうですな。王国を使うことになった以上、調べておいて損はないですな。確か王子の学生時代、ディーダ王国だけでなく、クルステラ王国の王女もご学友のはず。もしも恋人がそちらの場合、かなり面白いことに出来そうですわ」
「王子が婚約者を救出したあと、クルステラ王国がどう出るか。その時の行動で、色々と見えてくるかもしれませんね」
これこそが、彼らにとって準備と呼べるものだった。
一般的に山に登るならその為の準備をし、海に行くならその為の準備をする。
だが、彼らは違う。
目的地が山から海に急遽変更しても大丈夫な状態。それこそが準備だと考えていた。
なぜなら、彼らにとって今とは、過去に手を打った只の結果に過ぎないのだから。
そんな彼らだからこそ、まるで今を懸命に生きている人々を嘲るように、未来に対して手を打つのだった。
王子様によって、囚われたお姫様は無事に助けられました。
何も知らない人々に伝えられたのは、それだけだった。
だから人々は喜ぶ。
素直に良かったと思うことが出来た。
物語なら、これがハッピーエンドになるだろう。
ところが、その作戦に従事した特殊部隊の隊員たちも、彼らを率いた王子様も、この救出作戦で目にしたのは地獄とも思える光景である。たとえ冗談でもハッピーとは言いたくなかった。
その理由は、次々と戦友である隊員たちが殺されいくだけでなく、自分たちを守る為に民兵を殺害する光景だけでもない。むしろ隊員たちにとって、そこまでならまだましだった。
作戦立案当初、王国の誰もが簡単に救出出来ると考えていた。
動員された特殊部隊は、王国内の精鋭たちであり、それを率いる王子も文武両道の有能な人物だったから。
だが、歯車はその都に潜入して直ぐに狂い始めた。
親連邦派と反連邦派による内乱は、想像を超えて悲惨なものになっていたのだ。
旧王城を占拠した親連邦派と、旧王都の城門を占拠した反連邦派。彼らの戦闘で旧王都は滅茶苦茶にされた。
まず、旧王都へ入ってくる物資は、反連邦派によって横領された。これで民間人たちへの物資が届かなくなる。
故に、あっという間に飢えが蔓延した。
その状況で旧王都を脱出出来たのは、一部の金持ちだけである。彼らは賄賂を渡すことで城門を通過した。
では、貧しい人々がどうしたかというと、更に弱い者たちから無理矢理奪うことで、生きながらえようとしていた。
その結果、治安は無いものとなり、道端の至る所に死体が転がることになる。
今、その都にいるのは武器を手にした民間人と、今にも飢えて死にそうなくらいガリガリに痩せた民間人だけだ。
そんな彼らは殴られようが、蹴られようが悲鳴などあげなくなっていた。
もう、どれだけ助けを求めても、誰も助けに来ることがない場所だと、心底理解していたからだ。
かつて圧政に苦しみ、それを正すために蜂起した結果がこの地獄であった。
そして、その地獄の中で作戦は実施された。
「殿下……あまり思い詰めることはありません」
王国の王宮にて、宰相は王子に声を掛ける。もともと宰相はこの作戦に乗り気では無かった。それでも、作戦から戻ってきた王子の様子が違うため、忙しい中で時間を作って会いに来ている。
「作戦に従事した隊員52名、内死者18名、負傷者9名、行方不明者1名。これが私の愚かさの代償だ」
王子の机の上には作戦の詳細な情報が纏められ、山のように資料が積み上げられていた。
「それでも、殿下は姫君を救出されました。それは誇るべきことでしょう」
「たった一人の命を救う為、これだけの人たちを死なせたことが、誇るべきことなのか?」
「…………誰も助けられない世界に、命懸けで助けようとする人たちがいる。それこそが暗闇を照らす光であり、それをもたらした殿下は、その事を誇るべきでしょう」
「それにしても……だ。私がもっと上手く指揮をとれたなら、死なずに済んだ隊員もいたはずなんだ」
「こちらでも作戦の詳細には目を通しておりますが、実際のところ殿下はよく指揮されてると思えます。試験的に設立した部隊、その初めての実戦運用としては十分と言えましょう。少なくとも姫君を救出するという目的は、見事果たしているのですから」
その言葉は慰めでは無かった。
宰相が確認しても、その作戦は余りにも困難な事が多すぎた。
第1に姫君が囚われている建物は、その都によくある形状であり、目印となる建物が近くに無かった。
そこで王国は部隊を4つに分けた。
1つ目は建物に突入し、救出するスペードチーム。
2つ目は地上にてその建物の周囲を警戒し、敵を近付けさせない為のダイヤチーム。
3つ目は周囲の建物の屋上に散開し、索敵及び地上チームの援護かつ標的を護送するクローバーチーム。
4つ目はそれら3チームにて負傷者が発生した時に救護するハートチーム。
この中でまずクローバーチームが目的地を確認し、その誘導でダイヤチームが周囲を確保する。そこにスペードチームが突入して建物から救出し、そのタイミングに合わせてクローバーチームが近くに護送用の馬車を用意。これに標的を乗せる。ハートチームは不測の事態に備えその3チームに分散して配属する。
そして最後は全チームが合流し、買収した城門から脱出する。
そういうたいして時間もかからない簡単な作戦のはずだった。
その作戦の前提条件が間違ってることなど、現場にいた誰もが理解することになる。
この都には似たような建物どころか、無事な建物が無かった。瓦礫と崩壊した建物が溢れ、死体が埋葬もされずに転がっている。
その中で、土地勘の無いクローバーチームは、当初の予定より大幅に時間をかけながら、どうにか目的地を見つけだした。
だが、時間をかけ過ぎたせいで民兵たちが集まり始める。
その状況下で、クローバーチームはダイヤチームを誘導した。
そのダイヤチームは目的地周辺にて、ポイント確保しようとするも、民兵たちと交戦。その際民兵たちの武装が、当初の想定を超える最新兵器だった為に苦戦を強いられた。
そしてこの作戦にて最初の死者をダイヤチームが出す。
その使われた兵器は、連邦の最新兵器。非常に強力な兵器だが、どうしようもない欠陥兵器でもある。
それはコストパフォーマンスが最悪という事だ。連邦なら使用に躊躇う兵器だったが、借金まみれでしかもその借金を踏み倒すつもりの反連邦派の民兵たちは気にせず使用していた。
だからこそ、ダイヤチームは苦戦していた。そして彼らは現有戦力にてポイント確保が困難だと報告する。
この時点で王子は決断を迫られる。
まず、この作戦を中止することは出来ない。
なぜなら、王国は表向きこの作戦を承認していない。あくまで王子の独断によるものでなければならなかった。
その為、この救出作戦に2度目は無かった。
王国は暗に言ってる。
成功させるか、王子もろとも全滅しろと。
王子は直ぐにスペードチームから半数をダイヤチームに回し、即時残りのスペードチームを建物へと突入させた。
そして速やかに脱出出来るように、クローバーチームへ護送車両を派遣させる。その際、予備の車両も同時に派遣した。
これは時間が経つほど状況が悪化してる為であり、この時の王子の決断は間違ってはいない。
どころか、地獄はその蓋を開けて待っていた。
1号車と2号車は誘導されながら目的地へと急行する。
そこを民兵によって1号車が襲撃を受けた。眼前で襲撃された光景を見た2号車は、直ぐに回避する為に、当初のルートから外れる。
そして1号車もまた襲撃を受けながらも、なんとか耐えながら走っていた。だが、こちらもまた曲がるべき場所で曲がれずルートから外れた。
直ぐに彼らは同じクローバーチームに再度誘導を依頼。
これにより、襲撃現場近くにいた隊員たちが誘導を再開。
それは1号車に対しての誘導であったが、2号車は自分たちへの誘導だと勘違いした。
なにより、誘導してる隊員たちには、その誘導してる車両が1号車なのか2号車なのか区別がつかなかった。
その所為で2号車は完全に迷走しており、現在地すら分からなくなっていた。
そして、度重なる襲撃を受けた1号車もまた、走行不能になり救援を待つことになった。
その報告を受けた王子は、瞬時に判断する。
まず、この作戦に動員された隊員たちは非公式である。故に、王子を含めてその装備は王国の正規品ではない。
だが、護送車両は違う。
その車両には王国の技術が投入されていた。もちろん、偽装が施されている為に民兵には普通の馬車にしか思えないだろう。
それでも放置出来ない理由は、必ずいるであろう他国の間者たちである。
彼らの手に渡り調査されると、王国にとって色々とまずい状況となる。
そしてなによりも、隊員たちと王子は一蓮托生。
よって、王子はダイヤチームに1号車の救援及び、2号車の確保を命令した。
「分かりました。最善を尽くしましょう」
そう返答したダイヤチームのリーダー。
王子には彼の気持ちがよく分かった。
ただでさえ現場は戦力不足で混乱してる。その状況で隊員を割くなどあり得ない。
まして2号車はともかく、既に周辺を民兵に囲まれている1号車に至っては自殺行為だった。
そこでダイヤリーダーは決断した。
建物の周囲全てをカバーする事を放棄。
護送車両の到着地点のみに隊員を集中。
それにより余剰戦力を無理矢理出した。
その中からなるべく将来性の高い若者を選出し、2号車を確保するべく派遣。
そして副官に現場を任せ、1号車の救援メンバーを自ら率いて出発した。
その時、既に死を覚悟した彼がなにより気にしていたのは、スペードチームだった。
とっくに建物に突入しているはずなのに、未だに救出完了の連絡がなかったのだ。
だから出発前に彼は副官へ伝える。
2名選出して、建物に突入させスペードチームの状況を確認しろ、と。
そうしてダイヤチームから確認の為、2名が選ばれて建物へと向かった。
たった2名で周囲から猛攻撃を受けながらも、彼らは回避に専念しながら移動。
その途中にて、スペードチームと思われる隊員の傷だらけの死体を確認する。
その死体は、痩せ細った民間人の子供と共に死んでいた。
恐らくその子供を守ろうとして、死んだのだろう。
「許せねえよ……同じ国の人間だろ。なんでこんなことが出来るんだ」
義憤にかられる若い隊員に、相方は黙って首をふる。
「……怒りも悲しみも後回しだ。今はスペードチームを確認しに行こう」
そして彼らは建物へと突入した。
だが、そこで見た光景に唖然とする。
特殊部隊内でも最強のメンバーで構成されたスペードチーム。
本来ならハートチームの隊員4名と合わせて16名で突入するはずだった。
ところがチームの半数をダイヤチームに編入させた為、彼らは半数の8名で突入した。
その結果、彼ら2名の眼前には満身創痍の負傷者4名が、かろうじて姫君を守っている姿があった。
「やっと……やっと来てくれたか」
傷だらけのスペードチームの副官がいう。
「なにがあったんですか?」
この2名はどちらも、元はスペードチームだった。だからメンバー内の実力はよく知っていた。
その所為で、現実が理解出来ない。
「そうか……連絡が取れて救援に来た訳じゃないんだな」
副官は察した。
そして、彼らに説明する。
この建物に突入し、姫君が囚われられている地下室へ進入した時、仕掛けられた罠が作動した。
それにより退路を遮断され、そして彼らに向けてモンスターが解き放たれた。
その戦闘で8名の内、2名が死亡。それでも残された彼らは傷つきながらもそのモンスターを討伐した。
この時点で疲弊していた隊員たちだったが、その時地下室が倒壊しだした。
次々と崩れ始めた地下で、急いで姫君を救出するも、その倒壊によってリーダーが姫君を庇い瓦礫の下敷きとなり死亡した。
残されたのは副官を含めて全員負傷者だった。直ぐに本部へと救出完了の連絡をするが、その建物に結界が貼られているのか、いつ迄待っても返答は無かった。
そこで、負傷者の中でも比較的軽症な者に外へと連絡に出したらしい。
「その者は外で死んでました」
「そうか……君たちに頼みたい。こちらの姫君を連れ出して欲しい」
満身創痍の副官は彼らにお願いしていた。
「了解です……ですが、皆さんも一緒ですよね?」
その言葉に、副官を含め満身創痍の男たちは、一様に優しい顏をしていた。
「いや、我らにはまだやるべき事がある。なあ、そうだろ……皆んな」
「……あぁ。俺たちのことは気にせず、姫君を頼むよ」
副官の発言に、男たちはそう答えた。
「そうそう。ここから移動するのは、俺たちが出ていってから暫くしてからにしてくれよ」
それだけ伝えると男たちは建物から出ていく。
4名はそれぞれ足を怪我した者と、手を怪我した者でペアを組んだ。
そして互いに助け合いながら、外へと出ていった。
外へと出た彼らは直ぐに襲撃される。
それに対して応戦しながら、なるべく目立つように移動した。
少しでも民兵たちから狙われるように、少しでも離れるようにと。
彼らが囮になってることなど、残された2人は察していた。
だからこそ、ジッと我慢した。
周囲が静かになるまで、息を潜めた。
2人に仲間を助けたい気持ちがない訳ではない。
その感情を押し殺しているだけだ。
「大丈夫です。行きましょう」
隊員は姫君に声を掛ける。
長い期間囚われていた為、身体が衰弱している彼女を1人が支え、もう1人が警戒しながら移動を開始した。
その頃、1号車に搭乗していた隊員2名は、かろうじて生きていた。
「おい、生きてるか?」
おっさんの隊員の声に、若い隊員は苦笑いを浮かべた。
「はは……まだ死んではないですね」
「なら十分だ。きっと助けは来る。だから諦めるなよ」
「分かりました。まあ、いざとなれば置いていっていいです。どうせこの傷じゃ助かりませんから」
破壊された馬車の破片が胴体に突刺さっている若者はいう。
「何言ってるんだ。俺が若い頃なんてな……」
「おっさん、昔話はまた今度です。また大勢来ました……」
「くそっ……次々と湧いて来やがる」
「なんだって連中はこんなにこの馬車を執着してるんですかね?」
「さぁな……この馬車が宝物でも積んでるとでも思ってるんじゃないか?」
「では、まだ空だと言ってみますか?」
「それを信じる気持ちを、連中が失ってないと思えるなら大きな声で言ってみろ」
「……やめておきます。それにしても、離れたところからチクチクと攻撃してきますね」
「まあ、近づいてきた連中を片っ端から皆殺しにしてやったからな。連中もバカじゃないってことだ」
それでも民兵は襲撃し続けていた。
それには色々な理由があったが、隊員には気づけない理由もあった。
それこそ壊れた1号車の近くに、反連邦派の本拠地としてる建物があることだった。
反連邦派にしてみれば隊員たちの行動は、親連邦派による襲撃としか思えなかったのだ。
だからこそ、必ず排除しようとしていた。
横転した馬車を盾にしながら、なんとか防戦していた彼らだったが、限界などとっくの前に通り過ぎていた。
そこに救援は来た。
いや、救援と呼んでいいか躊躇う者たちだった。
それはダイヤリーダーを含めた3名。
その姿は、防戦してた隊員よりも重症である。
「まだ、生きていたか……」
ダイヤリーダーはいう。
「まあ、あんたらよりはマシだな」
「ならばあんただけでも逃げろ」
「何言ってる? 俺たちを助けに来たんじゃねーのか」
「あの方はそれを望んでいるだろう。だが、状況がそれを許さない。見ての通り、俺たちにはもう一度あの包囲網を突破出来るだけの力が残ってない」
「だから俺だけ逃げろと? ふざけんな。ここで仲間を見捨てるような人生なんか歩いて来てねーよ」
「ならば全員で賭けをするか」
「はっ……! それこそバカな俺たちらしいじゃねーか」
リーダーとおっさんの会話を、若者は朦朧する意識の中で聴いていた。
そしてその場にいた5人は、あり得ないことをした。
それは証拠隠滅のため馬車に爆薬を仕掛け、その爆風を使ってこの場の包囲網を突破するというもの。
誰1人生き残る可能性など皆無と思える事を、彼らは実施した。
そして周囲を巨大な爆音と爆風が包んだ。
「王子様は無事にお姫様を助けましたな」
カエル顏は自分の策が上手くいったからなのか、とても嬉しそうだ。
「うむ。だが、あの戦力を使い女1人救うのにかなり手間取った様子。王国の特殊部隊とやらは、大したことがないのか」
屈強な男はいう。
「どうなんでしょう。少なくとも、我らが用意したモンスターを討伐してますから、それなりの実力はあると思えますわ」
「だが、50人くらいおったのだ。倒せるのは当然だ。問題はその被害が、予想より多いことだ」
「まあ、それだけ我らが提供した兵器が強力だったのでしょう。それは商品価値を高める訳ですから、喜ぶことにしましょう」
「うむ。ならば値を上げるか?」
「流石にあの欠陥兵器の値を上げる訳にはいかないでしょう。なにせ連邦ですら手に余る代物ですからな。それよりも、武器の強さが個人の強さを凌駕する時代になるかもしれませんわ」
「なるほど。確かに現状は生産コストが高い欠陥兵器だが、そのコストを抑えることが出来るなら、文字通り戦争が変わるだろう」
「えぇ……今はまだ一騎当千がもてはやされておりますが、いずれ物量がものを言う時代が来ますな」
「大量生産、大量消費。それこそ、我ら商人の願いだ」
「えぇ、えぇ。本当に……是非ともそんな素晴らしい世界に変えましょう」
「うむ。ところで、クルステラ王国に目立つ動きはないな」
「そうなんですわ。王太子が処刑されてから旧ディーダ王国との国境を固め、内乱による難民の流入を防いでいるだけですな。少し不気味なくらい静観してますわ」
「それはおかしな話だ。連合王国樹立に向けて、サグレス王国と歩調を合わせるなり、なにかしら動きがあってしかるべきではないか?」
「えぇ……ですから、不気味なんですわ。まあ、ただの優柔不断ならいいんですが」
「そちらも調べておるのだろう?」
「それはまあ……気になるのはいい歳の王女が、結婚どころか婚約すらしてない事くらいですな」
「ほう……女が子供を産める時期は限られておるというのに、わざわざ自分の価値を落とす王女がいるとはな」
「まあ、子供を産む以上の価値を示せる女性なら、それも有りだと思いますがね。そんな女性が滅多にいないだけで」
「当然だな。そもそも子供を産むより価値のある事など、そうそう有りはしないのだからな」
「それはそうですな。今後の計画として、サグレス王国は亡国の姫君を掲げ、次は軍隊を送ることになるでしょう。そして、姫君を女王へと戴冠させ統治。時期を見て王子と結婚し、晴れて合併する事になりますな。流石にこの間ずっと静観してることは、無いと思いますわ」
「ふむ。新ディーダ王国にクルステラ王国をぶつけても良し。連合王国を樹立させてから連邦をぶつけても良し。サグレス王国と因縁がある帝国をぶつけても良し。この世は誠、火種だらけ。我らの商売に終わりは無い」
「商売繁盛いい事ですわ。お互い存分に儲けることにしましょう」
その後、計画は順当に進む。
サグレス王国の正規兵は、数と組織力、そして兵站を活かして、旧ディーダ王国の領土を侵攻した。
各地を確実に攻め落とし、旧ディーダ王国の王都を完全に包囲するのに、たいして時間はかからなかった。
そして反連邦派が旧王都で行ってた行為を、そのまま規模を大きくしてぶつけたのだ。
反連邦派と違うところは、サグレス王国の軍隊は包囲後、全面攻撃に移ったことだ。
全ての城門、全方位の城壁へと攻撃を開始。
飽和攻撃に対応出来ない反連邦派を皆殺しにしていった。
それは文字通り降伏すら許さずに。
ところが、親連邦派の民兵は姫君によって降伏を許された。
そして戴冠した女王は、親連邦派として統治を行う。
次々と政策を実行して、みるみると国土を回復していく女王。
民に笑顔が戻り、国内に活力が湧いてくると、女王はサグレス王国の王子と結婚した。
その内容は、あくまで対等な関係であり結婚後もディーダ王国は女王によって統治されるというものだった。
そして驚くべきことに、その結婚式には連邦の最高権力者である、とある家の当主が自らその式場へ足を運んで祝っていたのだ。
その当主は、とある家の前当主の兄だった。
で、前当主である弟がどうなったかといえば、父親と同じように事故で亡くなっていた。
そして連邦だけではなく、その式場にはクルステラ王国の国王も居た。
その状態で新生ディーダ王国に手出し出来る国は、まず居ないだろう。
こうして時間をかけて女王は、国を良くしていくことにその人生を費やすことになった。
自身の幸福を犠牲にして。
国家の奴隷のように。
世界中がその結婚式に注目していた頃、クルステラ王国の王宮にて王女は同年代の女性と面会していた。
「流石に結婚式には参列しないのね」
女性の言葉に、王女は笑う。
「する訳ないでしょ」
「そお? あんたならニコニコした笑顔で祝福の1つでも贈るかと思ってたわ」
「なんでよ……私だって傷つくわ」
「ふーん。あれだけ傷つけられたその心に、まだ傷が増える場所が残ってたの? それはごめんね。勘違いしてた」
「あー……ね。そう言われると、なかったわ」
「でしょ。それよりこれで良かったのかしら? てっきり殺したいほど憎んでいるのかと思ってた」
「ん? まぁ、昔はそう思ってたわ。でも、今は違うわよ。だって死ぬよりツライ事なんて、いくらでもあるもの」
「あんたって本当にそう言うところは変わらないわね」
「それはお互い様でしょ。これでも私は王女なのよ。なのにその話し方……学生時代から同じじゃない」
「だって面倒だもん。それに、あんたの前でくらい、素の自分でいたいから」
「ふーん。なによ……ちょっと嬉しいじゃない。それより、いいの?」
「なにが?」
「こうして私に会いに来てることよ。他の商人仲間には内緒にしてるんでしょ?」
「仲間じゃないわよ。ただの取引先。それに隠し通すのもそろそろ厳しくなったからね。ここらが潮時」
「そうなんだ……」
「そうなのよ。だから、あんたとも当分はお別れ」
「えっ……? なんでよ。命の危険があるなら、私が匿うわよ」
「あんたならそう言うと思った。でも大丈夫よ。彼らに私を殺せないわ。たとえ、全て私たちの計画だったとバレたところで、相応の利益は与えているもの」
「じゃあ、なんでお別れなんて言うのよ」
「戦争より、よっぽど面白いことを見つけたからよ」
「なによ……勿体ぶらないでさっさと言いなさい。もっとも、恋愛なんて言ったらぶっ飛ばすわよ」
「は? 生憎、今も昔も恋愛なんかに興味ないわ。そんな暇があるなら、お金儲けしてたほうが楽しいもの」
「じゃあなんなの」
「それはね…………」
その女性の答えを聞いた王女は、爆笑した。
余りにも笑い過ぎて、呼吸がつらくなるほどに。
「ひっ……ふふふふふ。面白過ぎる。これだからあんたの事が好きよ」
「えっ……気持ち悪。まあ、そんな訳で当分あんたとは会えないと思うけど、元気でね」
「そっちこそ、精々長生きしなさい」
「ま、大丈夫でしょ。悪は滅びないものだもん」
おわり




