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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転生とデーモンの召喚

作者: 的場ゆい

異世界考察をノベルライクに組み立ててみましたシリーズその2!

コミケのお絵かき作業の逃避で書きました。修羅場は精神をやられるからね!闇を吐き出さないと!

デーモンとは異界より来たる異形の存在。

個体ごとにその能力はまちまち。中には人語を絶する叡智を語る者もいるという。


デーモンの召喚には古来より伝わる魔法陣が必須。

生贄を捧げ、次元の門を開き、対話により知識を得、そして送還する。

わたしたちが召喚できるのは鳥の頭を持つ姿のデーモン。


叡智を得るためのデーモンの召喚。

それは古来、村の助けになってきた。

作物を多く得る方法も。

家畜を育て、害獣から守る術も。

かつての術士たちがデーモンから教わり、人々に教え、広めたモノ。


そんな時代がずっとずっと、たぶん何百年も、もしかしたらそれ以上続いて。

術士は村の発展に欠かせない存在として、崇められてさえいた。



ところが、新しい神の教えがやってきて。

今のままではみんな地獄に落ちると言われるようになった。

デーモンは嘘を教えるものなのだそうだ。

人間に知恵を与えてきたのは神と天使と教会だったらしい。


みんなが天国へ行くために新しい神を信じるようになり。

神の教えが広まると共に、術士は追いやられていった。


村の中心から、村の端へ。村のはずれから、森の中へ。

今では術士のことを魔女と呼ぶようになっている。



長い間受け継がれてきた魔法陣のカーペットは前の家と共に村人たちに燃やされた。

穢れた魔女の庵を焼き尽くすことで神の許しが得られるのだと言って火をかけられて。


なんとか逃げ延びたけど、わたしの左手は火に炙られてうまく動かなくなってしまった。

村から追い出されて、森の奥で死にかけている。

途中で木こりが作業場に置き去りにした壊れた手斧をみつけたけれど。

これじゃオオカミに食べられるのも時間の問題。


ねえ、わたし、何か悪いことしたのかな。術士であることがいけなかったのかな。

せめてそれだけでも知りたいよ。


そうだ。最後に、召喚を試してみよう。

そうすれば何かが変わるかも知れない。


沼地の土をひっかいて二重の円と記号で構成される魔法陣をなんとか書き上げたけど。

その陣はいつものと比べればあまりにもいびつだ。



もう村には戻れない。生贄のニワトリを買うことも出来ない。

だから、わたしは自分自身を生贄に捧げます。



魔法陣の内側に座り込んで。動かないほうの手首に手斧を振り下ろす。

しぶく血がデーモン召喚の魔法陣に降り注いで、魔法陣が光を帯びる。


異界への穴が穿たれるのを、魔術器官で感じ取る。




デーモンよ、お願い、救いを。



この地獄から、たすけて。

わたしを異界につれていって。




◆◆◆



青い空。

白い雲。

遠くからセミの声が響いてくる。


夏の晴れ間は高く、どこまでも高く。

少しでも近づきたくて、ひたすら空の果てを目指した。

だけど。

近寄れたのはほんの一瞬で。


すぐに蒼穹は遠ざかりはじめる。

ああ。

ダメだ。

下を見ては。


そう思うのに、身体は言うことを聞いてくれない。

下を見れば、小さかった中学の校庭がすごい勢いで大きくなる。

たった数秒間がとても長く感じる。


ゴン、という衝撃とも音ともつかないモノとともに。

あたしの意識は途絶えた。




◆◆◆



目を開く。

暗い森。

あたしの知らない場所。

ちがう。ここはわたし(・・・)の住んでいた森の奥だ。


わたし。そう、召喚術士アリエル。斯道りんねじゃない、アルファリエル。

自分が誰なのか、わかっていても混乱する。感情と認識が一致しない。

記憶主体の切り替えがうまくいってない。


「…はぁ…思い出さなければ良かったわ」

いえ、思い出したというのは正しくないわね。

『あれ』はわたしの記憶じゃない。異世界転生したわけじゃない。


呼び出したデーモン(・・・・・・・・・)の記憶だもの。


自分自身を生贄にして、異界のデーモンを召喚した。

デーモンは死にかけのわたしの身体に入り込んできて。

わたしはデーモンの記憶を共有した。



そしていくつかのことがわかってしまった。

デーモンは異界の『人間の魂』だったこと。


死にかけの動物の身体を器としていたから『異形である』と思われていたこと。

魔法陣に使われている術式紋様(ストラーデ)が「異界の文字」で外に出ることを禁止する内容であること。

禁止事項だと認識した時点で魂が制約を受けて魔法陣から出ることを敬遠していたこと。


肉体から解き放たれた異界の死者にかりそめの肉体を与えて、動かなくなるまでの短い間に異界の知識を聞き出すのが「デーモンの召喚」だったのだ。


魔法陣はデーモンを閉じ込め、術者の身を守るためのもの。

それはつまり、死者の魂が解放されないように閉じ込めるということ。



それで、わかってしまった。

この世界は『煉獄』。天国に行けない魂たちの吹きだまり。

最初から呪われた場所なのだと言うことを。


きっとこの世界は異界よりも低位の場所なのだ。

異界の死者の魂はこの世界にやってきて、本来ならば世界に拡散して、もしかしたら新たな魂の材料となり、人間や動物の器に宿るのかもしれない。


でもきっと、魂のポテンシャルは死ぬたびに、より低位のエネルギーの世界に落ちていく。

その行き着く先を地獄と呼ぶのだろう。


死者の世界には魂のエネルギーが満ちているから、この世界は異界と違って魔法がある。

呼び出されたデーモンは異界に戻っていたのではなく、依り代の器と共にこの世界で死に直していただけ。ふたたび異界に戻ることも、わたしが異界に渡ることもできないのだ。


そして、デーモンと一体化してしまったわたしは、もうこの魔法陣から出られない。

雨でも降れば土が溶けて解放されるはずだけど、そうなる前にこの身体は死ぬだろう。



ああ、それでも。


死ぬ前に色々知れて、良かった。

術士がやっていたことは本当に悪いことで。罪深いのはその通りで。

でも世界にはどこにも救いなんか無くて。

煉獄に落ちた私たちが天国とやらに行く方法はとうに無い。


きっとこのままわたしたちは次の世界、より深い地獄へと転生し続ける。

それは逃れられない運命だけど。


あと何回死んだら終われるのかな、と。

意識が途切れる間際、最後にそれだけを、思った。



輪廻転生って地獄の階層構造と組み合わせると絶望しかないよね的な…

仏教の解釈ってとても多岐にわたるんですけど、この短編では「魂の自我を消して死んだら世界に溶けて消えるようにしないと永遠に苦しむよ!世界に溶けて消えるのが成仏だよ!」という解釈を採用しています。

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