「下の更に……」
状況を把握すべく、クロトとイロハは上の階の通路からエントランスホールをこっそり見下ろす。
つい先ほど、一度見つかったのだが……。
「……いないね。どっかいったのかな?」
何も知らないと、イロハは目を丸くする。
説明などする必要があるかどうか。イロハの頭で理解できるよう伝えるなど、考えるだけで時間の無駄なため放っておくことに。それよりも周囲の様子の方が気掛かりでしかない。
フレズベルグに恐れをなしたとはいえ、すんなりと姿を消してしまったゴーストの群れ。それらはいったい、何処へいったというのか。
そういえば。と、クロトはふと思い出す。
イロハと交代する前に、フレズベルグが言った言葉を。
――結界の核は下層にあるようだ。
「一階……、もしくは地下でもある……ってことか」
「どういうこと?」
「お前はとりあえず、俺の言うこと聞いてればいいんだよ」
「うーん……、うんっ。わかった」
パッと頷いて返答。階段をゆっくり降り、辺りを見渡す。
移動した家具は、破損はするも元の場所に戻されている。ゴーストたちがやったのか……。
そうこう眺めていれば、角で白いモノが動く。
気付くと同時にそれはこちらを振り向き、驚いたように目を見開く。
またあの小さなゴーストだ。
再度モノを動かすかと思えば、それは寄ってきた仲間と一緒になって震えている。
どれも視線をイロハに寄せていた。
ひょっとすれば、まだフレズベルグの怒気に怖じ気づいているだろうか。
しばらく様子をうかがうも、イロハは何のことやらと首を傾けるのみ。
明らかな違いに、ゴーストたちの震えは治まり、しんと静まる。
「……」
「……?」
更に数秒後。ゴースト数体は議論でもするかの様に顔を見合わせ、次の瞬間、バッと動き出す。
再度近くにあった家具を動かし、奮闘するかの如く襲いかかる。
あまりにも行動を気にしすぎたせいか、遅れて二人は魔銃を取り出す。
「わわ!? やっぱり襲ってくるの!?」
「だーっ、うるさい! とりあえず、核を探すぞ!」
銃を取り出すも銃弾が効くわけがなく。クロトは運任せに一階を手当たり次第探す。
通った道など家具が散乱し、戻る際などそれを乗り越えるなど……。
エントランスを中心に慌ただしい中探索。
しかし、結界の核どころか地下らしきものなど見当たらず、最終的には中心に戻る始末。
「おい! どういうことだよ!? 何処にもねーだろうが!!!」
「わ~ん、なんで先輩ボクに怒るのぉ!?」
言ったのはフレズベルグだ。
だが依り代となったのがイロハであるため、問いただすように胸倉を掴み揺さぶる。鵜呑みにしてしまった事と見つからない苛立ちは、すべてイロハにへと向けられた。
訳もわからず怒られたことに、イロハはもう涙目だ。
「さっきから霊どももうぜぇし、なんとかしろ!!!」
「ボクに言われてもぉ……」
「聞こえてんだろ!? もう一回出てこいクソ鳥が!!」
「……っ」
強く揺さぶられイロハはギュッと目を瞑る。
怒鳴られ驚いた刹那。瞬時に空気がガラリと変わってしまうのをクロトと、周囲で暴れるゴーストは感じ取った。
心臓が凍てつく思いと衝撃が襲うのは、ほぼ同時。
反撃の如く。イロハはクロトの腕を掴み取り、一瞬にして背負い投げた。
イロハは前屈みになった体勢を起こし、肺いっぱいに空気を取り込んだ後。周囲を黙らせる怒声を放つ。
「――お前の方がウザいわ、クソガキがぁああぁああ!!!!!」
……あ。これはフレズベルグだ。
クロトはまたしても投げ飛ばされ、床で仰向けになってそんな様子に、両目をパチパチとさせる。
全霊体はその重圧ある気迫に動きを停止させ、治まれば逃げるように飛び去ってしまう。
大声を出したフレズベルグはクロトを鋭く睨む。
「さっきから聞いていれば……、この私が虚言を吐いただのどうのこうの言いおって」
「……ねーから言ってんだよ。言ったからには責任持って場所を教えろっ」
臆することなくあるクロトは傍から見れば命知らずである。
おそらく実際に潰されたとしても、彼の悪態が治ることはないだろう。
責任を押しつけられたフレズベルグは眉をひそめ、ため息の後に動き出す。
進む先はエントランスから二回にへと続く大きな階段。その陰では家具の棚を押し込むゴーストが数体いた。
「……っ。……っ!」
どうも近寄られる事を恐れているようだ。焦る形相を静かに眺めたフレズベルグは、穏やかに声をかける。
「そう怯えるな。我々はこの館の周辺に閉じ込められている。結界の解除を早急にすれば何もしない」
「……っっ」
首を振るゴースト。
そう簡単には要求をのまない。
「約束する。……約束を破ることだけはしたくないのでな」
堅く誓う。
その意思が届いたのか、ゴーストは思い悩み、押し込んだ家具をすり抜け消えてしまった。
了承を得たのか、まだ保留なのか。
フレズベルグは棚をどかし先を見る。つられてクロトも覗き込むが、そこにはなにもない。
またガセかと思い文句の一つを飛ばそうかと思えた。が、それを阻んだのは些細なモノだ。
視界では床に散らばった花びらが、ゆらゆらと揺れる。
見覚えのあるそれは元々階段に飾られていた花であり、最初に飛ばされた物。静まった室内。窓も開いていないにも関わらず、花びらは何かに煽られている。
「……真下に何かあるな」
「だから最初っから言っておろうが。愚か者」
わずかなくぼみから床板を持ち上げれば、そこには地下にへと続く階段が存在した。
これがフレズベルグの言っていた核にへと続く道。
「責任は果たした。私はもう帰るぞ?」
「まだこの先にあるかどうか確認してねぇだろうがっ。見つかるまで出てろっ」
「……悪魔使いの荒い愚か者め。こんな人間は初めてだ」
もしものことに備え、フレズベルグは冷気漂う地下にへと付き添う。




