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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 六章 「待ち続ける者」
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「大鳥の助言」

  ――刹那。クロトの頭の中は真っ白になる。

 フレズベルグが復唱などしていないのに、何度も聞かされるような錯覚すらも。

 頭が追いついていないと思えた直後。クロトは咄嗟にフレズベルグの胸倉を掴みだした。

 自分の意にそぐわない提案と受け止め、殺意のある眼差しすら向ける。


「……それがお前の答えか?」


 別の言葉を聞いてようやくクロトは会話の整理がつく。

 何をどう判断し、どう反論すべきか。


「要するに、俺をお前は邪魔と言いたいのかっ。ふざけんじゃねぇぞ!」


「まあ、言い分は聞いてやるが……。とりあえず放せ」


「信用できねぇって何度言わせんだよ!! そんな奴にあのクソガキを任せられるか!!!」


「…………この体だからある程度我慢できていたが、ホントに潰すぞ?」


 不快と顔をしかめるも、荒れたクロトは止まることなどない。

 言葉と共に体を押されてゆき……。

 本棚に押しつけられる前に、フレズベルグの我慢も限界にへと達した。



「――やかましいわ、ガキが!!!!」


 

 怒号はクロトと一緒に部屋の外にへと投げ飛ばされた。

 力任せに開け放たれた扉の奥。通路で仰向けに倒れたクロトは衝撃のあまりに痛みを忘れ、目を見開き呆気に取られた様。中身がフレズベルグとはいえ、イロハに投げ飛ばされたと思えば、意外性に思考が停止してしまう。

 大きな物音のせいか、一階で侵入者を捜していた小さなゴーストたちが顔を覗かせる。

 同時に、フレズベルグも低い声を微かに唸らせながら出てきた。

 

「……っ」


 ギラッとした翡翠の瞳がゴーストたちを捉える。

 途端にゴーストは身震いをさせ後退る。

 フレズベルグの怒気に押し負けたのか、頭を引っ込めてしまい。最終的には見なかったと言わんばかりに身を消していった。

 涼しげな空気だけが残り、落ち着いたフレズベルグは静かにクロトを見下ろす。

 

「…………で? 少し頭は冷えたか愚か者?」


「……お前にだけは言われたくない……とだけ言っておく」


「それなりに考慮したというのに。お前ほど物わかりの悪い奴も珍しいものだな……。潰す気すら馬鹿らしくなっていく」


 呆れて、何度目かのため息。それすらクロトも見飽きた。

 投げ飛ばされたせいか、少し頭の中が落ち着いている。

 自分の状況がいかに最悪なのかを理解し、どうしたものかと頭を悩ませるばかり。

 ゆっくりと身を起こして考えていると、フレズベルグは先ほどまでゴーストたちがいた方角を眺めていた。

 

「それにしても、死霊の類か……。私ではこの館ごと破壊してなんとかすることしかできんだろうからな」


「じゃあ、もうそれでいい。その方が手っ取り早いしな」


 結界を解くことができればそれも一つの手だ。

 だが、何かしら問題でもあるのか、フレズベルグは口元を袖で隠し了承しようとしない。

 

「問題がある」


「なんだよ……」


「この場がなんのためにあるのかで、事情は変わってくるからだ。見たところ生者の気配はない。あるのは死霊の類ぐらい。それも低級の迷うものばかり。あれほどの数がいるにも関わらず、()()されていないのも妙だ」


「……何が何を()()するって?」


「それは()()()に魂たちがだ。三の王の使い、魂を冥府に誘う案内人。この場がもし、それらと何かしらの契約をしているのならば、無下にすれば三の王の怒りを買う。冥府の王は以前の蟲の王よりも格が違いすぎる。不死のお前でも、その身から魂を剥がされるぞ?」


 三の王。それは三番席魔王――【冥王のハーデス】のことだ。

 冥府の王にして魂の管理人とも呼ばれている。無理をして魔王に喧嘩を売ることなどする意味もなく、もし繋がりがあれば簡単にこの場を破壊することはできない。


「今更だが、なんでお前はそうやって協力するんだよ? 一応人間と魔族はいがみ合いしかないだろうが?」


 今のフレズベルグは枷と契約があるが、思考そのものは彼本人のものだ。

 にもかかわらず、人間に対し助言などをするなど似合わなくもある。

 どれだけ人の形に近かろうと、フレズベルグは列記とした魔族。そして人間の敵だ。


「一応、お前らの言う魔女に敗北しこのような形になってしまっているのでな。不本意だが主(仮)の役目を守るのも契約した者の勤めだ。悪魔という者は、お前たちが思うよりもずっと契りを重視している。……よって、仕方なく協力してやっているだけだ」


「概念の違いってやつか。ただお前が変わっているだけなのか。人間からしたら魔族は敵。これが常識となってるからな。……で? 話を戻すが、あのゴーストどもをどうする?」

 

「ニーズヘッグの炎ならばあれらを避けることはできるだろうがな。なんせ奴の炎は地獄の業火。魂すら燃やすことのできる炎は死霊から恐れられているモノでもある。だがあんな奴を待つなどゴメンだ。……あとはなんとかするのだな。私はもう疲れた」


「おいっ、勝手に戻ろうとすんな!」


「……とりあえず、例の件は考えておけよ? あの姫が死ぬことだけは避けたい。一応、この愚か者の役目でもあるのだからな。…………それと、結界の核は下層にあるようだ」


「ちょっと待て!」


 待つことなどフレズベルグはしなかった。

 掴みかかろうとすれば、開いた瞳は驚いた様子でクロトを見るなり、キョトンとしている。

 目の前の者からはすっかり圧が消え去り、元の体の持ち主が戻ってきていた。


「……あれ? 先輩、どうしたの??」


「……っ」


 掴もうとした手を引っ込め、逃げられた事に歯がゆくなる。

 イロハとフレズベルグは別物であり、今イロハを怒鳴りつけてもなんの効果もない。

 ……ただ、声は聞こえているだろうが。


「…………お前、なんも覚えてないのかよ?」


「え? なにが?」


「もういい……。さて、どう動くべきか」


   ◆


 クロトとイロハが建物に入り数分が経過。

 外で待つエリーは不安そうに館を見上げる。


「……今、何か大きな物音しませんでしたか?」


「したわねぇ……。何やってんだか、あの馬鹿たちは……」


 ネアは呆れて苦笑。心配などない様子に、エリーは自分とは違うネアが気にもなってしまう。

 

「ネアさんは心配にならないんですね……」


「あんな野蛮人共心配してもねぇ~。まあ、大丈夫でしょう。アイツら不死身だし」


「……そういう、ものなのですか?」


「そっ。エリーちゃんもそんな暗い顔しないでいいの」


 励まされるも、エリーは直ぐに切り替えることができなかった。

 傷が癒えたといえ、クロトはまだ治ったばかりだ。また何かあればと思うと、エリーも気が気でない。

 更にしばらく待つも、二人が出てくることはない。それはエリーの不安を更に刺激してしまう。

 気になって仕方のないエリーは、それをなだめる様なネアすら頭に入らず……。


「……」


 目を離す事がなかった館。それからエリーが目を離し、ふと視界を彷徨わせた。

 そういう時は、ここ最近だと同じ事を口にする。


「……今、何か聞こえませんでしたか?」


 ネアも、そう言うのではないかと思っていた。もちろん、ネアは何も聞こえていない。

 例の件以降からエリーは常人に聞こえないものを拾うようになってしまっている。

 拾うも拾わないも、そこにエリーの意図はなく、ただ自然に聞こえてくるというものだった。


「お姉さんは……聞こえなかったけど……」


 どうしたものかと汗を滲ませつつ、ネアはなんとか問いに答える。


「気のせい……でしょうか?」


「そう、それ! きっと気のせいよエリーちゃん!」


 エリーはこう現象に未だ自覚がない。

 ただの空耳であろうとネアは押し通そうとするも、エリーは耳を何処かへ傾けてしまう。


「……でも、何か……聞こえてくるんですよ? 誰かの……声が……」


 またしても声だ。いったい今度はなんの声を拾ってしまっているのか。

 ネアも辺りを見渡す。この場はまだヴァイスレットの外側に位置している。微精霊もいるためその声を拾っているのだとすれば、妙に纏わり付かれることもある。それも面倒なことだ。

 

「エリーちゃん……。聞こえるかもしれないけど、あんまり気にしすぎない方がいいわよ」


「え? どうしてですか?」


「あんまり言いたくないけど、そういうのお姉さんたち聞こえないから相談にものれないし。聞こえる声って大半が人の声じゃないのよ、たぶん。これがもし霊とかだったら、取り憑かれたり呪われちゃったりするから、聞こえても無視した方がいいの」


「……無視、ですか?」


「そうそう。気にしすぎていると疲れちゃうし……ね?」


 エリーは、うんうんと頷く。

 微かだが聞こえる声を気にしないようにするも、そうしているせいか余計に気になってしまうというものもある。 

 しばらくはそれに絶えること数分。声はしだいに大きくなっていく。


 ……っ。

 …………てっ。






 ――誰か助けて。



「――ッ!?」


 エリーは座り込んでいた身をバッと立ち上がらせる。

 突然の事に驚いたネアなど目もくれず、エリーは霧の濃い周囲を焦って見渡した。


「……呼んでる」


「エリーちゃん?」


「誰かが助けてって……っ。ずっと言っているんですっ」


 声は方角すらわかるように聞き取れた時、エリーは一目散になって駆け出した。

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