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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 六章 「待ち続ける者」
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「肉体共有」

 イロハに……。

 否。フレズベルグに告げられたのは()()というものだった。

 潰され一歩手前の喉が、ゴクリと音をたてる。


「……脅迫……っ、だと……!?」


「そうだ。お前には今から出す提案を受け入れてもらう。そうすれば、首を潰される苦痛は感じなくて済む。……言っておくが、この姿でも人間の首を潰すなど造作もない」


 ほんのわずかに指が皮膚を押す。

 樹海でもそれを危険視していたニーズヘッグの腕を何度も潰したフレズベルグ。言葉に偽りはないだろう。

 しかし、提案を受け入れるかどうかは内容しだいだ。

 今此処で頷くことはできず、ただ反抗的な目を返す。

 翡翠の目が……細くなる。


「……恐怖が一寸もないわけではないだろう? それとも、首を潰すだけでは脅せぬか?」


「とりあえず、言いたいこと言えよ……っ。その後で決めてやる」


「最初に言うが、お前にとっても不利益ではない提案だ」


「言えっつってんだよっ。俺はその馬鹿ほどお前のこと信じてねぇからな。お前もあのクソ蛇と同じ悪魔だ」


「……だからなんだ?」


「お前もあのクソガキ狙ってる可能性があるって言ってんだよ!」


 次にフレズベルグからは重たいため息が出る。

 呆れた様子が少しばかり癇に障るものだ。


「…………確かに、関係ないというわけではないか」


「だったら交渉するまでもないな」


 フレズベルグは黙り込んでしまう。しばらく顔をしかめ、またため息を吐くとクロトの首から手を離した。


「どうも脅迫は無駄らしい。だが私からの話は聞いてもらうぞ。お前にとってもまんざらではないからな」


「……どういうことだよ?」


「まあ、聞け。……その前に」


 再びクロトに詰め寄ると、フレズベルグは胸倉を掴み声を低くする。



「――聞こえているかクソ蛇? 返答がなければ望みのモノは私がもらうぞ?」



 …………。

 急な呼びかけにクロトは言葉を失う。

 しばらく静寂が続くと、気が済んだ様子でフレズベルグは手を放した。


「なんなんだよ……っ」


「気にするな。ちょっとした確認だ」


 クロトから少し距離をとり、一度顔を背けてからフレズベルグは本題を語り出す。

 

「まず、この現状についてだ。私とてこの状況には動揺している。なんせ、人間の体で外を体感しているのだからな」


 今は悪魔の情報だろうと問題を晴らさなければならない。 

 これまでになかった悪魔が持ち主の肉体を動かしている。そこにイロハの意思はなく、完全に魂が入れ替わったという様子だ。

 

「なんでそうなった……? 本当はもっと前からできていた……なんてわけじゃないだろ?」


「当たり前だ。私の本体は魔銃の核となり組み込まれている。普段は暗闇で枷に縛られ、意識など稀にしかない。……その稀の間に、外が見えることがあった。この愚か者の目を通して」


 要するに、フレズベルグはつい最近までは外の様子すらロクに知ることもできずにいた。そして、時おりイロハの目を通して外を見ていたとのこと。

 なら、何故その近郊が崩れたのか。

 思い当たる節があったのか。頭に思い浮かべた時と同時に、フレズベルグから打ち明けられた。


「おそらくは、あの樹海でのできごとが原因だ」


 樹海。【鏡迷樹海(きょうめいじゅかい)】のことを彼は言っている。

 クロトも「やっぱりそれか……」と、呟く。


「あの時は鏡を利用し魔銃から出た。そのせいか、縛る枷が少し外れてしまったらしい。わずかだが、少し楽にはなった。それだけでなく、以前よりも意識はハッキリとしている。外も、目を通してだがちゃんと確認できる。ある程度の自由が戻った……というものだ」


「だが、それでも納得できないな。お前は魔銃の中にいるはずだ。何故イロハの中にいる?」


「言いたいことはわかる。今でも私の本体は魔銃の核にある。おそらく契約したことで魂が繋がっているのやもしれん。昔から魂の繋がりほど強いものはないからな。悪魔の力を使うのだ。それくらいはしないと枷だけでは物足りん」


「……つまり、お前とイロハは魂が繋がっている、ってことか?」


「もう魂はこの体に宿っているようなものだ。常に我が魂は奴の精神の奥にいるのだからな。……今の私とこの者は契約関係であり肉体共有をもしている。と、言ったところだ」


「面倒なことになったな……。あの魔女が知ったらどうするか」


「おそらく魔女も予想外のことやもしれんな。……そして、この異常事態はもっと厄介な事にも繋がる」


 思わずクロトは首を傾ける。他に何があるのかと考えようとすれば、呆れた様子でフレズベルグは「愚か者」と小声で呟いた。

 理解できていないと思われたことはとても腹立たしい。

 一言、言い返してやろうとした。だが、寸前でフレズベルグは静かに睨み付けてくる。


「……だから、なんなんだよっ」


「まさか、本当に気付いていないのか? それとも低レベルなギャグのつもりか? それなら遥かに愚かだぞ」


「言いたいことがあるなら言え! 俺に何があるって――」


 クロトは苛立ちに紛れ、無意識に焦った様子でもあった。

 本当は本人自身も気づいているのやもしれない。

 事実を言葉の刃にして、フレズベルグはクロトに投げる。



「――私だけでなく、お前の中にも同じのがいると言っているのだ。あの()()がな」



「……っ」


 暴言も言い返せず、クロトは歯を噛み合わせて苦い顔をする。

 ああ、やはりそうか……。そう心で呟いてしまう。

 条件は揃っている。むしろ、イロハとクロトは同じ事を同時に体験しているためその可能性は濃厚だった。

 イロハだけでなく、自分にもその可能性はあると……会話の中で渦を巻いていた。

 その前兆らしきものも、樹海を抜けてからある。

 すぐ近くにあの炎蛇がいるという感覚。ただの記憶が見せた幻覚かと思えたが、そうでないと確信。

 そしてなにより、この館に入ってニーズヘッグの力が使えずにいたことが一番の証明にもなる。


「つまり、あれか? アイツのせいで俺はさっき力を使えなかった……ってことか」


 樹海でもニーズヘッグはその意思一つで、クロトに自身の力を使えないようにさせていた。

 今回もそう影で動いているのだとすれば納得がいく。

 そのはずだったのだが……


「まあ、今の我らならそれは可能だが……。今回はそういうわけではない様だ」


「は?」


「今し方、挑発をしてみたが反応がない。アレなら意地でもつっかかってくると思ったが、存在しないかの如く静かなものだ」


「じゃあ、お前らと違いそこまで繋がりが強くなってないとでも言うのか?」


「いや、それはないだろう。……おそらく今は動けない状況なだけだ」


「動けない?」


「ああ。なんせ樹海を出る前、お前はあの蛇の頭を撃ち抜いたのだろ? 樹海内でも肉体の体質は同じ。なら奴が完全に意識を取り戻すのは丸一日後だ」


「じゃあ、なんでアイツの力が使えない?」


 ニーズヘッグが意識を取り戻すまでは魔銃により力を使役することは可能のはず。その力すら魔銃が扱えないというのはおかしくある。

 魔銃が正常に機能できない理由が、他にあると考えられた。

 それに関しても、フレズベルグは心当たりがあったらしい。


「愚かな蛇が後先考えずに大きな力を使ったからな。それが原因だ」


「……あの最後に使った炎か」


 フレズベルグは静かに頷く。


「あの力はニーズヘッグにとって一番の大技だ。本来、そうとうな魔力を消費するものだというのに、こんな枷まみれのまま使用したのだ。枷は我らの力をある程度おさえているのでな」


 淡々と語りつつ、フレズベルグは本棚から何冊か取り出し、床に積み上げていく。

 二十冊ほど積まれた本の塔。下から三分の一ほどには布きれが挟まっている。


「……とりあえずわかりやすく説明してやる」


 本の塔にフレズベルグは手を乗せた。


「これをニーズヘッグの魔力とする。これらを消費して我らは力を使っている」


「……下の布きれはなんだよ?」


 一番気になることを口にする。


「その場所は枷により定められたものとなる。本来はもっとあるが、説明上不要なのでな。ある程度だけをこの例えに出しているにすぎない。……話を戻すぞ。奴はこの定められた魔力を――」


 フレズベルグは積まれた本を軽く蹴る。

 バランスを崩した本の山は一気に崩れ床にへと散りばめられた。

 布切れすらも吹き飛んで本に埋もれてしまう。


「……この様に、定められた域を超えた。今の我らがあれほどの力を使うには、契約者との同意により一時的に制限を解除する必要がある。なのに、奴はそれすら行わずに無理をした。……今の奴の魔力は制限以下、つまりマイナスにある。そのため、お前は奴の力を使うことができなかった。これで納得はいったか?」


「要するに、アイツの魔力が戻るまで俺は力を使う事ができない、というわけか。……で? どのくらいで戻る?」


 魔力を常に利用する悪魔。それは日常的に回復する手段を持っている。

 ならば時間がたてばそれは元に戻ることが可能だ。

 フレズベルグは……何故か迷った顔をし顔を背ける。

 

「……本来ならそう時間など掛けない。一気に消費しても一日休めば八割は戻る。人間の疲労と同じだ。…………だが、今回はそうはいかんだろうな」


「なんでだよっ」


「さっきも言ったが、定められた域の下を行っている状況なら、通常では存在すら消失してしまうほどのものだ。魔力の枯渇は我ら魔族にとって死と同様。今の奴は例え意識を取り戻したとしても……、お前が扱うほどの力はないだろうな。……せいぜい、一年といったところか? それ以上は掛かるだろうな、知らんが」


「一……年っ!?」


 要約すれば、それほどの間はニーズヘッグの力が使えないということだ。

 それはクロトの戦力が一気に激減するということにもなる。

 今後も障害は絶えない。むしろ、多くなることもあろう。

 その状況下で、今のクロトは目的を果たすことができるかどうか……。最悪な結末も目に浮かぶ。


「最悪一生戻らん可能性もある。これは早々回避できんことだ。……我らは自然と大気の魔素を取り込み魔力と成す。それを行うことすら今の奴には困難だ。魔力供給をすればなんとかなるだろうが……、私は絶対にしないし、それはお前にとっても不都合なことになるだろうな」


「……どういう」


「そう遠くない内に奴は目覚める。そうなれば、お前の体を乗っ取りにくるだろうな。だが奴も力が無い分下手には動けない。近くに私がいるのだからな。……しかし、万が一だ。――お前は、その身であの姫を殺すのか?」


 ニーズヘッグが厄災の力を諦めているとは到底思えない。目覚めればチャンスをうかがい、クロトの肉体を支配することとなる。

 そうなってしまえば、自分の意思など関係なく自分の体でエリーを殺す。

 ――そして、クロトも呪いが発動する。

 自害に等しいこの状況下に、思わず背筋が凍てつく感覚があった。


「そこでだ、愚かな蛇の飼い主。ここからが当初お前に言い渡す提案となる」


「……っ」


「――お前にはあの姫から離れてもらう。これはお前にとっても悪い話ではないはずだ。自ら死を選ぶより、こちらの方が妥当な判断だと思うが、どうだ?」

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