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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 五章「失われた炎」
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「霧奥の館」

 【鏡迷樹海(きょうめいじゅかい)】から抜けて数時間の経過後。

 天に昇った太陽が傾き始めた頃。クロトの体は痛みもなく、多少の傷跡を残すのみ。

 腕を振り、足を動かし具合を確かめる。


「どう? ちょっとはまともになったんじゃない?」


「……そうだな。これでようやく自由だ」


 すかさず魔銃を取り出したクロトは数発の銃弾を樹にへと撃ち込む。

 たまった鬱憤でも晴らしているのだろう。

 正常に撃つことのできた魔銃。撃った後にクロトは魔銃を見下ろし、何故か顔をしかめてしまう。


「どうしたんですか? クロトさん」


 気になったエリーはクロトの顔を覗き込む。

 

「……なんでも、ない」


 そう口にするも、複雑な思いがクロトにはあった。

 クロトはこの魔銃により重傷を負ったことを、つい思い出してしまう。

 自分で撃ったのではなく他者によって付けられた傷の痛みは、まだ体が覚えている。

 それをしたのが、今もなお手に持つ魔銃に潜む悪魔。ニーズヘッグだ。

 また、この魔銃の銃口が自分に向けられるのではと、些か不安もある。

 あの悪魔は、もう二度と姿を現すことなどないというのに。

 自然と、さっきまで引き金を引いていた指が、躊躇うように離れてしまう。


「クロトさん。……ひょっとして、あの人のこと、ですか?」


 エリーは、ふと眉尻を下げクロトを見上げた。

 共に対面していたエリーはニーズヘッグとのやり取りを一部始終見ている。魔銃にいらぬ思考を巡らせていることがすぐにバレ、返答をせず黙り込む。

 すると、エリーは魔銃にそっと触れ、悲しそうな目をした。


「……悪いこと、してしまったのでしょうか?」


「……は? 意味わかんねぇこと言うな」


「そうかもしれません。……でも、ただ悪い人っていうふうには、見えなかったので。…………ごめんなさい」


「エリーちゃん優しいからねぇ。でも、今回は100%あの悪魔が悪いわ。自業自得よ。だから気にすることないの」


 ネアがエリーを励ます間に、クロトは魔銃をしまう。

 再度。エリーのその優しさや慈悲は欠点だと理解した。

 まさか自分の命を狙った悪魔にすらそんな感情を抱いてしまうのだから。

 【鏡迷樹海(きょうめいじゅかい)】でのできごとは思い出させないよう、会話を打ち切りクロトは先に進む。


「とにかくこんな場所とっとと出るぞ。まともな場所でいい加減休みたい」


「それもそうよねぇ。私もちゃんとお風呂に入りたいし」


 未だ樹海という現実から一刻も早く脱しようと行動を再開する。

 空間の歪みが解除されたのなら、あとは方角を決め進むのみ。

 前を進み出したクロトの目の前に、上空から変化を探していたイロハが舞い降りパッとした明るい笑みを近づけた。


「先輩先輩!」


「近づくな……。なんだよ?」


「えっとねっ。あっちに建物あったよ!」


「……建物?」


「うん。おっきい……家?」


 首を傾げ、なんとか言える言葉で説明をする。

 おそらく屋敷かなにかだろう。

 そこからしばらく顎に手を当てクロトは考え込む。

 この様な樹海に一軒だけあるのは不自然にも感じられる。人里も近くにあるやもしれない。

 もしかしたら物好きが建てたものなだけという考えも。

 今も何者かが暮らしていれば近隣の情報を得ることも。また逆ならこのような外よりもマシだ。早めに夜を過ごすために利用することも可能。

 

「……仕方ない。そこに行ってみるか」


「怪しそうだけど、あの樹海よりはマシよね。運が良ければまともな場所でぐっすり眠れるんですもの」


 気分上々とネアは心をはずませるが、クロトはそういう気になれずにいた。

 イロハの示した方角は進む予定にあった。しかし、樹々の奥に視線を向ければ、妙な寒気が足元をすーっと冷やす感覚がわずかにある。

 同時に。気づかぬ間に一同の周囲は霧で覆われていた。

 ハッキリと気が付いたのはつい先程だ。いつの間に霧が出現していたのかさえわからぬほど、自然と周囲は白くあった。

 

「……? さっきまで霧なんてあった?」


「お前も今気付いたのか」


「唐突……というよりは知らぬ間にあったって感じよね。でなきゃ違和感でもっと早くに気付くもの。なにも起こんなきゃいいけど……」


 霧が動揺を誘う。

 ただ立ち尽くすだけではどうにもならず、クロトは先頭になって進み出す。

 つられてネアとエリーも進み出した後ろで、一人出遅れたイロハは周囲を見渡し。静かに呟く。



「……また、何かしらに入ったか」





 

 一直線に進む一行。霧は徐々に濃くなり視界を阻み出した頃、クロトはついに建物を目にする。

 少し拓けた場所にあったのは寂れた館。パッと見でもわかる廃墟の類い。

 窓は所々ガラスが割れており、外壁には蔦が延びきって館を覆う。

 手入れの届いていない外装から、人が住んでいるとは思えない。


「あ! これこれ! これだよ先輩!」


「うるさい。そんな事はわかってる。……だが」


 明らかに、その建物に人の気配というものはない。

 それはネアも同意なのか少しばかり重いため息を吐く。


「もっと綺麗だったらエリーちゃんもゆっくり休めれたのにぃ。残念」


「私は大丈夫ですよネアさん。外で眠ることにもだいぶ慣れてますし、もし雨が降っても建物の中なら平気ですよ」


「……うーん、エリーちゃんたくましい。そうよね。外よりはマシだし、住めば都ともいうからね。一晩くらいなら」


「じゃあ、今日は此処で寝るの?」


 その様な方向に話しは進んでいく。

 再確認としてイロハが問いかけ、誰もがそれに頷けば決まる。

 しかし、その間をクロトは声を割り込ませた。


「つーか。こんなところに館があるんだ。近くに村でもあればそっちの方がマシだ」


 廃墟で一晩を送るよりも人里があれば後者が一番安心である。

 クロトの言葉も一理あるとネアは頷いた。

 

「まぁ、そうよね。というわけで、仕事よ。ちょっと周囲を見てきてちょうだい」


 即座にイロハに命令を出す。

 イロハは「え~」と不満を口にするも翼を広げ上空へ。濃厚な霧に紛れ姿が見えなくなった、その時だ。

 先程だ来た道からイロハが飛んでくる。

 顔を会わせるなり、4人は目を丸くさせる。


「……あれ?」


「なんでそっちから出てくるんだよ?」


 イロハは真上に飛んだはず。しかし、全く別の方角から姿を現した。

 当の本人も首を傾げ困惑とする。


「おかしいなぁ。ボク、空に向かって飛んだのに」


 冗談のつもりか。だが、イロハはすぐにそんな事を口にするような人間ではない。嘘を付くならもう少し考えて、なおかつ下手な様子でいるはずだ。

 もし、異変が起きているとすれば……。


「……おい。此処から離れるぞ」


 汗を一滴滲ませ、クロトは全員を来た道へ戻すよう誘導する。

 誰もが同じ不安を抱えたのか、断りもせず一旦道を戻ることに。

 ……にもかかわらず。


「……マジかよ」


 一同はまたしても館の前にへと戻ってきてしまった。

 

「くそっ。また空間でも歪められてるのか? うぜぇ」


「……歪められてる、というよりは導かれてるって感じね。自然とこの場所に出るようになってる。どの道、また面倒な結界の類いね。頭痛くなるわ」


「でも、どうしてそのようなものが……」


「こんな樹海にあるんですもの。迷わないための工夫だわ。……あの館の中にそれを構成するためのものがあると思うんだけど」


 冷静に解決策を考えるネアは館を指差す。

 連れてエリーは館を見るも、その不気味な佇まいでいる建物のには恐怖心を刺激されてしまう。

 ネアの後ろに隠れると同時に、クロトが前にへと出た。


「要はあの館の中にある結界をぶっ壊せばいいんだろ? ちょうどイラついてたところだ。発散してやる」


 何かを壊せるということに、クロトは呆れつつも悪い笑みを浮かべている。よほど暴れたいのだろう。

 数発ほど発泡してはいたがもの足りず、意気揚々と館に向かう。

 その後ろをイロハは付いていった。


「先輩、ボクもボクもぉ」


 追いかけるイロハ。二人もいれば充分と、ネアはエリーと共に彼ら二人を見送り、この場に止とどまることに。


「あ、あの……っ。気を付けてくださいね」


 エリーが不安そうに言葉を送る。


「はーい。いってきまーす!」


 明るく返事をしたのはイロハのみ。

 クロトも聞こえているだろうが返答せず、ましてや振り返りもしなかった。

 

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