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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 五章「失われた炎」
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「自分のため」

「……」


「……」


 クロトとエリー。二人は残されてから十分が経過する。

 しかし、二人が言葉を交わすことはその間なかった。

 ひたすら黙る両者。先に動きを見せたのはクロトだ。伸びた爪を整え少しでも時間を有効に活用。

 対してエリーは動くことすら自分で縛ってしまっているのか、ジッとクロトの隣で座り込んだまま。

 尚。距離はひと二人分はあけて。


「……っ」


 クロトが削りカスを「ふっ」と吹いた後。黙り込んでいたエリーがなにやら堪えた様子で姿勢を崩しそうになっている。

 どうも足が痺れてきたらしい。

 黙ってはいるのだが、そわそわと落ち着きのない様子が気になってしまう。

 しばらくは我慢をしてみるが、そこはクロトの短気な性格が許さなかった。


「アアッ!!! 鬱陶しいんだよ!! このクソガキが!!!!!」


 不安定に現状維持を続けようとするエリーをクロトの怒号が吹き飛ばす。

 驚いたエリーはその場で転がり、まん丸と見開いた瞳をパチパチと瞬きを繰り返す。


「さっきから一々ウザいんだよ! いい加減にしろ!!」


「…………ご……ごめ、なさ――」


 また怒られた。

 それに対しエリーは謝ることしかできずにいるも、それすらクロトは阻む。


「お前のそれもウザいって言ってんだよ!! なにかあればそうやって言われるのもうんざりだ! 俺はそんな言葉、求めてねぇんだよ!!」


 クロトには謝罪という誠意は必要ない。

 そうやって善人であり、全うに生きている存在を見るのも、クロトには不快でしかない。

 エリーでなければ、今頃撃ち殺していてもおかしくはなかった。

 湧いてしまう殺意をグッと堪え、もう少しクロトはエリーから距離を取る。

 

「……クロトさん。あの……っ」


「うるさい……」


 ふてくされた様にするクロト。エリーはそれ以上なにも言えず。言葉を躊躇って口を閉ざす。

 何故だろうか……。

 黙ることを告げたのはクロトのはず。にも関わらず、クロトの苛立ちは増す一方。

 自分の望んだことが裏目になる。複雑な気を起こしているのはこの状況だ。

 エリーがいなければ……。ではなく。

 ――エリーが、いつもと違うということだ。

 理解のできない道具だと、クロトもわかってはいた。それだけでは不十分だと思い知らされ、頭の中が混乱する。

 控えめで必要以上接さないのがこの二人のやりとりだ。だが、今はエリーから積極的に接してくるため二人の均衡に亀裂が生じてしまっている。

 

 ――ああ、……くそ。このガキ見てると無性にイラつく……。だが、いつまでもこんな奴がこっちを見てると余計に腹が立つ。


 揺らいでいる天秤を元に戻さねばならない。

 でなければ……殺してしまいそうだ。

 

「……ッ!」


 クロトは魔銃を握り、それを前方の樹にへと投げつける。

 突然のことにビクリと驚いたエリー。

 激しくぶつかった魔銃は地にへと落ちる。

 これは、クロトが無意識にエリーを殺さないための手段の一つ。いつ手が魔銃の引き金を引くかなどわからない。だからこそ、ある程度まで距離を取ることでその可能性を無くした。

 内心疲れたクロトはそんな表情を見せないように……膝を抱えてうずくまる。

 

「あ、あの……、クロトさん……」


 しばらくしてからエリーが声をかけてくる。

 少し顔を上げれば、虚を突かれたように目を見開かされた。

 エリーは投げ捨てた魔銃を拾ってクロト二へと手渡そうとしていたのだ。

 咄嗟にクロトは差し出された魔銃を払い飛ばす。


「なんでそんな余計なことすんだよ!!」


「だ……って、……クロトさんにとって、大事……ですから……」


「…………あ~、くそっ。こっちの気も知らねぇで」


 自分で振り払った魔銃を拾い上げる。ホッとしたエリーなど気にもせず、クロトは再度その魔銃を投げ飛ばした。

 焦って取りに行こうとしたエリー。だが途端に衣服を引っ張られ尻もちをついてしまう。

 キョトンとしたエリーは止めに入ったクロトを丸くなった目で見る。


「クロトさん……?」


「取りに行くな。俺に余計な運動をさせる気か?」


「そ、そんなつもりは……」


 クロトの迷惑になる。そうわかればエリーは魔銃を取りに行くことをやめる。

 元々座っていた場所に戻ろうとすれば、


「ちょっと待てクソガキ」


 再び衣服を引っ張られ二度目の尻もちをつく。

 

「な……なんですか……?」


 二度もぶつけたお尻をさすりながらエリーは少し涙目になって応える。

 しかし。止めた当の本人は何故か顔を逸らしふてくされた顔をしていた。

 どうしたものかとしばらく黙って眺めていると、やっとのことでクロトは口を開く。


「……お前、誰にも言ってないだろうな?」


「…………え?」


 突然何のことかとエリーは首を傾げた。

 察することもできなかったエリーに苛立ったクロトは声を荒げる。



「だから……っ。あのクソ蛇の言っていた俺のこと、誰にも言ってないだろうな!?」



 顔面を強く打つような声にエリーは言葉を失う。

 星の瞳を瞬きさせ、数秒経ってから思い当たる節に辿りつき「あっ」と声を漏らした。

 クロトが言っているのは彼の過去のことだろう。

 あれほど知られることを嫌悪していたのだ。それを知ってしまったため、他の誰かにその話を口にしていないかという警戒。

 ネアに聞かれていればそれこそ余計な弱みを握られそうであり、正に最悪となる。

 喋っていれば折檻もの。その反対ならば強く口止めしておかなければならない。それあっての確認だ。

 いつまでも呆気に取られているエリーにクロトは更に問いただそうとする。


「どうなんだよクソガキっ? 事と次第によってはその口マジで塞ぐっ」


「え……とぉ……」


 鋭い眼差しから目を背け。エリーは結果を出す。


「……言ってませんよ? だって、クロトさんは知られたくないんですよね?」


 クロトのことをわかってか、エリーは誰にも過去のことを口にしていないと言う。

 今度はクロトが何故か唖然としてしまい勢いを失った。

 まさか本当に黙っていたなど……可能性はあったが腑に落ちない。

 いつもの事だが、エリーのそういった気遣いはとても不快なものだ。

 これに反論せずやり過ごすクロトはまたそっけなくする。


「なら……いい。絶対に誰にも言うなよ?」


「は、はいっ。わかりました」


 難なくエリーはその口止めに同意。この問題は解決したと思ってもいい。

 質問から始まった会話だが、普通にエリーとこのように二人で話をするのはしばらくぶりになる。

 樹海を出てからのエリーは妙に過保護とクロトの世話を積極的にしようとしていた。が、それもエリーの性分のせいだろう。他人を気遣い過ぎ、それが度を超えればただただありがた迷惑なだけである。

 そういう人間は見ているだけで気分が悪くなる。


「……お前、マジで今日ウザすぎて気分悪い」


「うっ」


 心に思っているストレートな発言にエリーは息を詰まらせる。

 

「何度も言うが余計な気遣いはいらねーんだよ。何するも俺の勝手だしお前に口出しされるのは胸くそ悪い。次しつこくしたらマジで殴るぞ?」


「ご、ごめんなさい……。でも、クロトさんのためになにかできればと思って」


「それが迷惑だ」


「……はい。すみません」


「とりあえず俺のためだとかなんとか……、そういう余計なことすんな。やるなら自分のために行動しろ」


「自分の……ため……?」


 ふと、エリーは上を見上げた。


「……えっと、たぶんですけど。クロトさんのために頑張ろうって思うのは……自分のためだと思います」


 理解できない言葉に、クロトは思わず「は?」と返す。

 

「クロトさんにとって迷惑でしょうけど、これは……たぶん、自分のため……ですっ」


 自分のため。そうエリーは言う。

 クロトのためではなく、エリーは自分のためと……。


「クロトさんに傷ついてほしくない。傷つくクロトさんを見たくありません。なので、私のためですっ」


「……」


「クロトさんのために何かしたい。何もしない自分は嫌なので。これも、私のためですっ」


「……」


「だから……。私のためなんですっ」


 全ては自分のため。気遣うのも全て。

 その言葉を……クロトは否定しなかった。

 自分のために行動し、生きる。それはクロトが求めた自分の生き方だからだ。

 

「わかった……、わかったから、もういいっ。とりあえずはそういう事にしといてやる」


「……で、では。今度からも私にできるお手伝いはしてもいいですか?」


 どこか期待に満ちた眼差しから目を背け、渋々了承はする。

 

「だが、俺の不快になることはするなよ? 余計なことはさっきも言ったが迷惑だ」


「はいっ」


「……とりあえず、ろくな知識のない間は一人で食いもん採ってくるな。さすがにアレだけ紛れていれば尚更だ」


「はわわっ、本当にごめんなさい! ……頑張りますっ」


 クロトにとってのエリーは道具であり荷物でしかない。

 手間のかかる……道具。

 自分の都合だけで連れていたはずのこの道具は、今では自分で何かを使用と考えるようになった。

 ただそれだけの変化でしかない。

 そう言葉を納得すれば、どこか安心してしまった。


「……少し、寝る。なんかお前といると疲れた」


「わ、わかりました。ゆっくり休んで――」


 ネアとイロハの帰りをエリーは起きて待つつもりでいた。

 最後に苦笑を送ろうとした時、そっとクロトの身がエリーにへともたれかかる。

 金の髪に頬ずりをし寝息をたててクロトはエリーを抱いて眠りだす。

 いつ以来だろうか。こんな風に抱き枕にされる日は。

 困惑し目を丸くさせていたエリーは、ゆっくりと瞼を閉じ、微笑んだ。

 

「おやすみなさい。クロトさん」


 聞こえないほどの小声で、エリーはクロトに安らかな眠りを願う。

 ほんの一時でも、悪夢などにうなされることがないように。

 

 

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