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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 四章「守るための衣」
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「不死の悪魔」

 炎の拳と風の拳がぶつかる。

 衝突すれば激しい熱風が樹海の空間を駆け巡り樹々焦がすような勢いへ。

 わずかに動ける体を必死に利用してクロトは最寄りの樹を盾代わりにエリーと身を潜めた。

 体を動かせば傷口からまた血が流れ出す。

 

「クロトさんっ、血が……っ!」


「うるさい……」


 炎蛇の毒もそれなりに引いてきた。体内の熱が徐々に抜けると同時に血の少ない体は冷え込んでいく。

 複雑だが熱風のおかげで体温を凍えないようにしている。

 

「……くそっ。アイツら、ドンパチ暴れやがって」


 荒れる戦場に視界を遮られるが、どちらも悪魔、共に一歩も退こうとしない。近接によるぶつかり合いではニーズヘッグが有利にも思われていたが、フレズベルグも見事に対応してその攻撃を防ぐ。

 互角の力を発揮する悪魔二体は拳をぶつけたまませめぎ合う。


「お前とこうしてやり合うのも久しぶりだなっ。最初は俺がお前を空から落したのが原因だったか?」


「その節はよくもやってくれたな、この愚か者がっ。おかげであの時、顔面を強く地に打ったものだ、クソがっ」


「その次はお前がキレた時だったなっ。……昔のお前はえらく泣き虫だったからなぁ。その上キレやすい」


「やかま、しい!」


 控えていたもう一つの拳は風を纏い、ニーズヘッグの顎を殴りあげる。

 直後、フレズベルグの上げた拳に火傷の痕が焼き付く。ニーズヘッグは直撃間際に、余っていた手を割り込ませ爆炎でその拳を弾いていた。

 反動で浮き、少しでも離れれば炎を纏う羽衣が蠢きその形を変えてフレズベルグに狙いを定める。

 槍を模し硬質化させた刃が放たれた。

 すかさず大鳥は腕を払い何重にも重なる風の壁を作り刃を受け止める。

 急速で渦巻く風と刃は火花を散らし、フレズベルグが、パン! と手を打てば風は弾け全ての刃をはね除ける。

 弾かれた刃の奥、散る風の先でフレズベルグは差し伸べた手に風の球体を宿し炎蛇に向けた。

 凝縮された暴風が一気に解き放たれ鎌鼬と突風は炎蛇を狙う。


「ちぃっ!」


 即座に羽衣で全身を覆い飛ばされた刃を防ぐ。だが、突風にその身は羽衣と共に飛ばされてしまう。

 樹を掴み取り、ニーズヘッグは叫ぶ。


「調子に乗ってんじゃねーぞ!!」


 突風に負けない大蛇を作りだす。大きな巨体は樹々の隙間で身を擦りながら口を広げフレズベルグを呑み込む勢いで迫る。

 

「往生際が悪いぞっ、――愚か者がっ」


 跳躍し、地の上でくねる蛇の脳天を踏み付ける。その瞬間、足場は風を渦巻き造形を編み上げていた羽衣は風に押し潰されほどけていく。

 

「……っ!」


 向き直る寸前でフレズベルグの身が一気に地にへと引きずり込まれる。

 両手首を掴み取られぶつかるように組み敷かれたフレズベルグを忌々しそうにニーズヘッグが睨む。


「お前の手はヤベーからなっ。その握力でどんだけ脅されてきたかっ」


「不愉快なっ。この私をいつまで組み敷いているつもりだ愚か者っ」


「安心しろ。すぐにどいてやる……っ」


 白きフレズベルグの身が、突如赤く染まる。

 炎蛇の皮衣が刃となってフレズベルグの両腕を切断し、続けて胸を貫いた。

 力なく落ちる二の腕。見開いた翡翠の瞳から光が失われる一瞬。ニーズヘッグは勝ったと掴んでいた手首を放す。

 崩れ落ちたそれは、唐突にニーズヘッグの腕を素早く掴み取る。


「――ッ!?」


 フレズベルグの切断された腕は風を纏い、一瞬にして繋がり治る。貫かれた胸も同様に癒え、光の戻った翡翠の瞳が炎蛇を睨み付けた。


「よくもやったな……っ。クソ蛇がぁ!!!」


 逆に掴まれた腕が瞬時に潰され骨が砕かれる音が耳を貫く。

 上に覆い被さっていたニーズヘッグの腹部を蹴り上げ、一気に投げ飛ばしどかした。

 

「この私を汚したこと、断じて許さんぞ!」

 

 風はフレズベルグの身を撫で溢れ出た血を拭い消す。

 痛みもない。すぐに治る。しかし、一度でも汚れた我が身に怒りフレズベルグは周囲に竜巻を幾つも起こす。

 

「相変わらず外見にこだわりやがって……っ。翼斬らなかっただけマシに思えよなっ!?」


「ほざけっ。樹海もろともすり潰してくれるっ」


 高速回転する風の塊が動き出す。障害物であった樹が風に触れる度にすり潰され抉られていく。

 凝縮された植物の繊維を細かく分解し風は進み続ける。同時に、ニーズヘッグの身も徐々に引きずり込もうとする。

 

「本当にキレだすと見境無しだな。俺以外のこと、忘れてないか?」


「……忘れてない」


「いいや……。――忘れてるよ!」


 羽衣を樹に伸ばし自身を引き上げる。

 枝から枝へ素早く移り、風の威力がまだ強く届かない場所まで移動。

 降り立った先は……


「――姫君、見っけ」


 陰に身を潜めていたクロトとエリーの前に炎蛇は姿を現す。

 風と炎が暴れるこの空間で正確に離れた対象の位置を把握することは難しくある。

 

「お前……、なんで……っ」


「大事な姫君を見失うわけにはいかねぇからな……。ちゃんと()付けておいただけさ」


 二人の隠れていた樹の上で赤い光が見下ろしている。

 見上げた頭上には白い蛇が何匹もその眼光を光らせていた。

 エリーには見覚えのある蛇だ。 


「……この、蛇。あの時の」


「俺の使い魔だよ。コイツらの目と俺は視界を共有できる。何処へ行っても無駄だ」


 炎蛇は地を蹴り迫る。

 狙いはエリーだ。フレズベルグの風を無力化するにはエリーを盾にするのが一番効率がいい。それを察したクロトはどうにかしようと思考を巡らせる。

 魔銃はない。体もたいして動かない。わかっていても止める手立てがない。

 ニーズヘッグの手がエリーを捕らえようとした時、指先が弾き飛ぶ。


「忘れてないと言っただろうが。……お前の愚かな考えなど、お見通しだっ」


 二人の周囲には風があった。そよぐほどの微量な風は障害を察知して遮る。

 呆気にとられたニーズヘッグの視界をフレズベルグの手が遮り、地にへと叩き付ける。


「……っ!?」

 

「堕ちたとはお前のような愚か者のことを言うのだ。このような幼子を盾にしようとは……、身の程をわきまえろっ」


 ニーズヘッグの頭部を掴み取ったフレズベルグはそのまま竜巻にへと投げ捨てる。

 宙に放られた炎蛇の肉体は竜巻に呑まれ消えた。


「……まったく。しばらくその中で愚かさを悔いるがいい」


 ふん。と鼻を鳴らす。

 清々した様子で次にフレズベルグはクロトを見るなり首根っこを掴み上げた。


「なっ、なにしやがる……っ!」


「騒ぐな。うるさいのは嫌いだ」


「あ、あの……っ、クロトさんに酷いこと、しないでくださいっ」


「……お前は、黙ってろっ」


 心配するエリーなどお呼びでないとクロトは力なくも怒鳴っておく。

 混乱する二人にフレズベルグは重いため息を吐き捨てる。


「私をあの愚か者と一緒にしないでもらいたい。誤解など勘弁だ……。私は動けないこの愚か者を遠くへ連れて行こうとしているだけなのだよ。足手まといになるのでな。……そちらもだぞ、姫」


「わ、私も……ですか……?」


「其方が一番此処にいてもらっては迷惑だ。これでは私も安心してあの愚か者を相手できん」


「……その、迷惑で……すみません」


「謝られてもこちらが困る。……もうじき残りの二人も来る頃だ。そこからはなるべく遠くへ頼む」


「ネアさんたちのことですかっ? でも、……樹海の核が……っ」


「それも私がなんとかする。いつまでもあの愚か者を外に出しておくわけにもいかん」


 とにもかくにも。フレズベルグはクロトをこの場より遠ざけるため投げ飛ばそうとする。

 思わずその乱暴な運び方をエリーが止めに入ろうとした時、頭上より黒いものが落下。フレズベルグはそれをすかさず回避。地に落ちたのは見慣れた人影だった。


「――あっ! フレズベルグいたぁ!!」


「……遅いぞ、この愚か者」


「イロハさん!?」


「ん? あ! 姫ちゃんっ、……と、先輩!?」


 イロハはフレズベルグが雑に持つクロトに目を向け狼狽。手足は傷が治らず出血も酷いのだ。コレを最初に見て驚かない者など早々いない。

 

「うわ、うわわっ。先輩大丈夫? すっごいボロボロ……」


「……やかましい奴がまた増えやがったっ」


「ちょうどいい。この愚か者を運んで向こうへ行け愚か者」


 誰彼構わず愚か者と称するフレズベルグに、ふとイロハは頬を膨らませる。


「……え~、フレズベルグなんか酷い。イロハでいいのに」


 軽く文句を言ったイロハ。

 フレズベルグは返答としてクロトをイロハに向け投げ飛ばしぶつける。 

 後にエリーが転がった二人を追って慌てふためく。


「て、てめぇ……っ」


「さっさと行けっ。……おそらくあの愚か者はまだ――」


 荒れる大気が熱を帯びていく。

 竜巻を中心に風は赤く燃え上がり火花を散りばめていた。


「……やはり、そう簡単には潰されぬか」


 事が上手く運ばれていればニーズヘッグもろとも樹海の核を潰す算段。だが樹海が健在な今、ニーズヘッグが完全に竜巻の餌食になってなどいない。

 炎蛇は自身の周囲に皮衣を纏わせ風を防ぎ、燃え上がる炎の勢いで退けていた。


「フレズ、ベルグぅううぅうう!!!」


 歯を強く噛み合せニーズヘッグは吠えるように名を叫ぶ。

 壮大な爆炎を起こし竜巻を相殺。更に殺気だったニーズヘッグはフレズベルグを酷く睨み付けた。


「相変わらず厄介な皮衣だ。アレは私の風でも潰せぬ……」


「俺の相棒をそこらのもんと一緒にすんな! あんな竜巻でやられるわけねーだろうが!! なめてんのか!?」


「はじめっからアレで仕留めれるなど思ってなどおらん。あんなものは私の本気ではないからな。……だが、少しばかり効いたのではないか?」


 ニーズヘッグの左腕から血が滲み出る。

 クロトの魔銃によって付けられた傷口が悪化していた。

 クロトとイロハの肉体の特性を共有している悪魔たち。彼らにとって自身の魔銃での傷は同様にすぐには癒えることのない傷となる。

 

「お前は傷を抱えている。それに比べ私はお前からの攻撃ではすぐに傷は癒え、重ねて痛覚がない。……長くはなるだろうが、私には勝算がある」


「たかがそんなんだけで勝った気になってんじゃねぇぞっ。なんだったらお前を貼り付けにして動けなくしてやるっ」


「悪いがお前ので標本になる気はない」


 離れていても火花を散らす悪魔二体。どちらも不死の肉体を得ているため多少の傷など関係ない。

 互いに譲らない隣では明確な敵味方の区別の付いたイロハがニーズヘッグに銃を向ける。

 しかし、加勢しようとしたイロハの頭をバシッとフレズベルグが叩き地にぶつけた。


「……なにするのフレズベルグっ? アレ敵でしょ?」


「お前は割り込んでくるな愚か者。誤射されれば私も傷が癒えぬ。お前はそこの愚か者を連れて何処か行ってろ」


 ニーズヘッグの弱点がクロトの魔銃ならフレズベルグの弱点もまたイロハの魔銃となる。 

 加勢よりも足手まといになるためフレズベルグは戦力からイロハを除外した。

 

「う~ん、でもボクどうしたらいいかよくわかんない」


「とにかく此処ではないところに行けと言っているのだ。……此処に居続ければあの姫が死ぬぞ?」


「それは困るよっ。マスターに怒られる」


「だったら行け」


 犬でも追い払うように手を払う。


「行かせるかよっ。姫君は、俺のだッ!!」


 逃すことを許さないニーズヘッグは炎と羽衣を操り一斉に襲いかかる。 

 フレズベルグが近くにいたイロハを掴み上げると後に放り投げる。即座に翼をその場で大きく広げ前にへと煽げば強い風を起こしそれらを防ぐ。

 

「邪魔すんじゃねーよフレズベルグ!!」


「吠えるな愚か者。その羽衣は確かに便利でお前と違い有能だが、所詮は衣。軽い身では我が風を突破できんぞ」

 

「うるせぇっ。うるせぇ、うるせぇ、うるせえんだよ!! 力を求めるのは俺ら魔の本能だろうが! 力がなければ失うだけだろうが!! 尊厳も、自由も……っ。俺は魔銃の部品じゃねぇ!! 俺は……っ、――【炎蛇のニーズヘッグ】だ!!」


「……お前の怒りもわかる。だが、それでも私はお前を止める。……何度潰すことになってもだ」

 

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