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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 四章「守るための衣」
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「炎の蛇と風の大鳥」

 時間はフレズベルグがニーズヘッグを投げ飛ばした場面に戻る。

 傷を与えることすら困難であった炎蛇がこうもあっさり腕を折られ投げ飛ばされるなど、この場にいた誰もが予想などできなかった。

 それを実現させたのはニーズヘッグが直前に言い放った名。イロハの契約悪魔――【極彩巨鳥(ごくさいきょちょう)のフレズベルグ】。極彩色を宿す四つ足の大鳥と言われた大悪魔の一体だ。

 しかし、その姿は異名とは異なる白い色合いをしている。


「……っ、んっ。……クロト、さん?」


 微かな意識から戻ってきたエリーは視界を朦朧とさせながら自身を抱える者を見上げる。

 ふと、翡翠の瞳と目が合う。


「……失礼。悪いが私はそこの蛇の飼い主とは別でな。……とにかく、間に合ってよかった」


 抱えていたエリーをフレズベルグはクロトの傍に下ろす。

 まだ意識を朦朧とさせ声をかすれさせるエリーに、クロトは這い寄り傷だらけの腕を伸ばした。


「……おいっ。クソガキっ。……死んだら、許さない、からなっ」


「うっ、クロトさん……?」


 星の瞳が開き、撃たれずにすんだクロトをぼやけた視界で捉えれば、安らぐような表情で微笑む。

 その表情は……いつもクロトを不快にさせるものだ。


「私……ちゃんと選べましたよ……。ちゃんと、クロトさんを選べれました……」


「……っ、俺は……お前のそういうところが……嫌いだっ」


「……はい。……すみません」


 ――ああ。本当に気にくわない顔をしやがる、……この道具は。


 懲りずにエリーはクロトの無事を喜んでいた。自分の意志を貫けたことに安心し、微笑みかけてくる。

 こんな関係じゃなければ撃ち殺していると断言してやりたいとも思えた。

 風がゆらぐ奥で、直後、爆炎が怒号のように起り周囲を揺らす。

 地鳴りを響かせ爆炎の向こうには喉を鳴らし羽衣を蠢かせる炎蛇がその身を立ち上がらせていた。


「……フレズ、ベルグ? フレズベルグっ。ははっ、……久しぶりだなぁ。――俺の()()()……。最後に会ったのは何時だったか?」


「外などろくに見えておらんのでな、そろそろ50年といったところか……? 相も変わらずあの時のままか、この進歩しない我が愚かで胸くそ悪いクズ蛇の愚か者()()()が」


 口元を袖で隠しつつ、外見とは違い毒舌をフレズベルグは口にして炎蛇を見下す。

 炎の中、ニーズヘッグの潰された腕は急速に修復され元に戻る。

 クロトの不死をニーズヘッグも見事に引き継いでいた。


「ハッ! そっちも相変わらずな毒舌どうもっ。懐かし過ぎて安心ついでに泣けてくるぜ。……で? 俺からそれ奪って何のつもりだよ?」


「いつもの悪い癖を妨害しに来た。……というような雰囲気でもなかろう?」


「なんだよフレズベルグ。まさかお前も姫君の力が欲しいわけか? そりゃあ、お前もこんな生活嫌に決まってるよなぁ? 揃ってクソガキ共の道具として使われてるなんて、俺ら悪魔からしたら屈辱以外のなんでもない。……お前とは旧友の仲だ。さっきのことはなかったことにしてやってもいいぞ? これ以上俺の邪魔をしなければだがなっ」


 フレズベルグはそっと目を伏せ細かなため息を吐く。

 次の瞬間、彼の足元で風が揺らぎ、瞬発的な突風を放つ。



「――クズ、がっ! 私をお前と一緒にするなクソ蛇がっ。そんなものに私は興味など無いっ。更に悪化しているようで旧友として見ていることすら我慢ならんわ、ボケェ!!」



 突風が炎を掻き消すほどの威力でニーズヘッグを強く煽ぐ。

 旧友としてあったフレズベルグの怒りを目の当たりにしたニーズヘッグは目を見開いて冷や汗を流してしまう。

 先ほどまでの静けさある雰囲気が壊れるほど声は低くなり、視線は更に嫌悪を向けていた。フレズベルグの怒りは風と言葉で伝えられる。


「ボ……ボケ……って」


 思わず気圧されたニーズヘッグに更なる怒声が飛ぶ。


「ボケじゃなければなんだこの底辺の愚か者が!! アアッ!?」


「あ~っ、お前は昔っからキレ始めると話にならねーんだよ!! ちゃんと話すなら話すで落ち着け!!」


 どんどん悪化していく言葉遣い。ストップをかければフレズベルグはハッと我に返って袖で顔を隠して数秒黙り込む。

 落ち着いたのか顔を上げれば赤らんだ表情でビシッとニーズヘッグを指差す。


「い、言われるまでもなく私は冷静だっ。ふざけるなっ」


「……あ~、お前のそういう所は昔っから好感度上がるが、とりあえず俺と同じ考えではいないという事はよくわかった」


 いそいそと平常心を取り戻すフレズベルグ。

 その後ではクロトが不快と声をあげた。


「お前、何しに来たんだよっ。遊ぶならそのクソ蛇連れてどっか行けよっ」


 指摘されればフレズベルグは咳払いした。


「やかましいな。そんなボロボロでよくほざく……。やったのはお前か、ニーズヘッグ」


「他に誰がいんだよ? お前の方はどうした? そっちも同じで片を付けてきた……ってわけでもなさそうだな」


「何度も言うが、お前と一緒にするな……。私がこの場に何をしにきたか。それは当初の()()を果たしにきただけだ」


 不意に、ニーズヘッグは「は?」と首を傾げる。

 後に察したのか金色の瞳を細め旧友を睨んだ。


「……それはアレか? お前を所持していたガキが魔女から命令されていたやつのことを言っているんじゃないだろうな?」


 少しばかり疑いはした。しかし、その予想は的中しておりフレズベルグは隠すこともなくすんなりと答えを出す。


「それ以外に何がある? この愚か者が」


 衝撃をニーズヘッグは内に受ける。それは強くはなくとも炎蛇の熱を高め皮衣は燃え上がる。

 直後、炎蛇は狂ったように笑いだした。


「マジかっ、堕ちたもんだなぁ!! 【極彩巨鳥】が聞いて呆れるぜ! あんなガキどころか魔女に従ってるなんてよぉ!! 幻滅してきたぞフレズベルグ」


「我々はあの魔女によって魔銃にされた。……我々は負けたのだ、ニーズヘッグ。その結果がこのような形になろうが、それは我々があの魔女に及ばなかっただけのこと。魔界ではそれくらいよくあることだ。……いい加減、現実を見ろ。いつまでも負けを認めず……()()か? 愚か者っ」


 そう。魔女がこの大悪魔を魔銃の一部にしたということは、この二体を倒したということになる。

 ただ者でないということはクロトも理解はしていたが、何度も殺され傷すらまともに付けられない相手よりも魔女は上である。その現実が少しばかり悔しくもあった。

 フレズベルグに負けを指摘されたニーズヘッグが瞬時に静まる。

 それは嵐の前の静けさ。

 炎蛇の足元が再び怒号の如き爆炎を噴き上がらせ怒りを表現した。


「俺が……負けた? この俺が、あんな魔女に……っ。まだ、まだ負けてねぇ!! 俺は力を手に入れる! あの魔女も、こんな生活も……、全部終わらせて俺は自由になるんだ!! お前だって自由を望むだろうが!?」


「……確かにな。だが、べつに今でなくてもよい。お前のように他を犠牲にしてまでも、そんな自由、――欲しくなどないっ」


「だったらお前も、――俺の敵かよ!!」


 炎を纏う羽衣がフレズベルグを捉え襲いかかる。

 深く。フレズベルグはため息をついた後に、一歩、タンと踏み出して地を叩く。

 それを合図に風は巻き起こり壁となって炎の衣を吹き飛ばす。


「……本気で私と戦う気か? 愚かな()友人」


「お前こそ俺の邪魔なら容赦なく燃やす! そのすかした面っ、一度は消し炭にしたいと思ってたぜ!!」


「…………愚かな。なら完膚なきまで潰してくれるっ。後で吠え面かくでないぞっ?」


「お前こそ、昔みたいに泣くんじゃねーぞ!!」







 遠い昔。それは百を超える昔のこと。

 魔界に住む生命は異なる形で生まれることが多い。

 異性同士による人と同じくある者。魔の者により作られし者。彼らの種族は数多に存在している。

 その中で、誰の意志にも関係なく生み出される魔の者が存在した。 

 大気中の高濃度魔素と魔界に紛れて存在している魔王の断片により顕現せし強大な魔の者。――後に悪魔と称される。

 稀な存在である彼らは時を同じくして魔界に顕現した。

 一体は竜の炎を宿した蛇。もう一体は美しさを宿した大鳥。

 全く別の場所で顕現したその二体は偶然か、それとも必然だったのか出会った。


「俺、ニーズヘッグって言うんだ。……お前は?」


「……フレズベルグ」


 外見は人間の、まだ幼少とした子供の頃のことだ。

 まだ異名も持たない二体。名も、魔界での基礎的な知識も産まれた頃から備わった存在。

 産まれも生き方も最初の内から叩き込まれ脳に刻まれていた。

 互いの力はその互角。共通した二体は会話を重ねるごとに心が惹かれあっていく。

 最初に心を開いた炎蛇は無邪気な顔で自分の思いを語り出した。

 

「なあ、フレズベルグっ。俺はお前のこと、対等だって思ってる。俺もお前も同じ、上も下もない。俺らは対等で同じ立場。だからさ、お前とは他と違う仲になれると思うんだ!」


「……他と、違う? 特別ということか。だが、魔界は弱肉強食。対等なのはそうはいない。魔王の中ですら対等はないだろう?」


「堅苦しいのとか俺はいいって。俺、お前のこと嫌いじゃねーし。結構好きだぜ?」


「――ッ! そそ、そんなこと言うなぁっ。これでもボクは男だぞぉ!」


「わかってるっ、わかってるから半泣きで叩くなって! ……確かにお前って女みてぇだけど、俺はお前のことちゃんと……えっとぉ、こういうのってなんて言うんだ? と……ともだ、ち? なんか違うぞ!? 俺らってコレでもそこらの奴ら軽くボコれるもんだろ!? なんかその呼び名は違う気がするっ。チョロい感じがする!」


「えらく悩むな……。お前は考えることが苦手だろうに」


「だって大事だろ!? 俺とお前のことだぞ!?」


 一体はとても中身が子供であった。

 同じ境遇の片方を対等と言い、特別なものを抱いていた。

 それは、魔界では不似合いなものでもある。一般的な感情の一つだ。


「聞いたことがあるが、強敵(イコール)友とも呼べるらしいぞ?」


「ああ、それいいなぁ。かっけー。……でもなんかそれって敵対関係っぽくないか? もっと親しみやすいのとか。あと、俺らだけが使うようなのとか?」


「注文が多いな……。ボクはそういうのには縁がない」


「俺だって初めてさ。お前みたいな奴、初めてだったからな。だから俺はちゃんとした呼び名が欲しい!」


「……そういうものなのか?」


「そういうもんだ!」


 一体は呆れる半分、自分のその呼び名が欲しかった。

 口には上手く出せず、「うん」と頷いて一緒になって考えた。

 人の姿の子供が二体。しばらく地面に文字を書きつつ悩んだものだ。

 彼ら二体にとって経験するとは思わなかったことを今行っている。


「……友。それだけでは不十分なのか?」


「もうちょいなんか……」


「…………友は他にも友人と言う」


「友人か。だがありきたりじゃないか?」


「と、言うと?」


「俺らってどっちも初な関係じゃん? なんか、こー……、最初って感じの」


「……1?」


「なんかちげー……」


「ではファーストか? ファーストフレンド……みたいな?」


「なげーよ」


「……潰すぞ?」


「悪い」


 大鳥である一体が静かな怒りを向け「潰す」と脅せば蛇はすぐに謝罪をする。

 考えさせてばかりのため自分も考えることとした。


「……【A(エー)】はどうだ?」


「【A(エー)】?」


「そう、それっ。……なんかよくないか? 【友人A】! 最初って感じだし」


「あまり長くないしな。……ニーズヘッグがそれでいいなら、ボクもそれでいい」


「じゃあ決まりだ! 俺とお前は【友人A】。フレズベルグ、お前は俺の――最初の友人だっ」


 そう手を差し伸べる無垢な笑みに悪意など一切なく。引かれるようにお互い手を取り合う。

 






 樹海の鏡が、そんな二人の過去をわずかに二人の脳に響かせた。

 突如、灼熱の炎と渦巻く風が地鳴りをあげ激しく衝突する。

 聞こえる幻聴をはね除け目の前の(とも)にだけ意識を集中させ互いの力をぶつけ合う。

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