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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 四章「守るための衣」
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「極彩巨鳥」

 時間は少し前に遡る。

 別行動をしていたネアとイロハは全く似ていないイロハを見つけた直後。その偽物は二人に協力を要請。

 その内容は、現在一行を閉じ込めている樹海を崩壊させること。


「……」


「……」


 ネアと偽物イロハは向かい合ったまましばらく沈黙を続ける。

 目の前の偽物は鏡の作り出した者とは異なる。だがそれでもこの樹海を崩壊させる理由がわからずネアはその存在を疑う。

 考えられるのは樹海にとっても予想外な異質個体であること。この樹海を支配するのは全て樹海の核と樹海としての生態本能のみ。対象と定めた者の記憶を読み取り同一の偽物、あるいは知人の偽物を作り出し思考を惑わす。

 それに基づかないこの存在は樹海の生態本能から完全に外れてしまっている。


「ちょっと、言いたいことがあるんだけど。言っていい?」


「とりあえずは許可を出そう。……なんだ?」



「――この馬鹿が二人と思うと気が散って仕方ないのよ!! 別の姿になれないわけ!?」



 ネアはビシッと指を差して叫ぶ。

 今この場には三人いる。ネアと、イロハと、偽物イロハ。

 ネアにとってこれは耐えがたい環境でしかなく言いたいことを直接言い放った。

 偽物は顔をしかめてネアに冷めた目を送る。


「少し……、理解はしているつもりだったが……、これは酷いな。ドン引きで困る」


「ドン引きなのはこっちだぁああ!! ややこしいし気持ち悪いのよ!!」


「お姉さん。『どんびき』ってなに?」


「アンタみたいなのには私ドン引きしてんの!! 空気読みなさいよ!!」


 怒鳴るネア。偽物の目元が先ほどからネアの言葉に対してピクピクと痙攣してしまう。


「……初めて気持ち悪いなどという言葉を言われたものだ。腹立たしいっ。確かにややこしくなるため私も()()()姿()に戻ろう」


 怒りをなんとか堪えてから。すっ、と……息を潜める。

 眠るように静まると偽物を中心に風が巻き起る。

 最初に渦巻く風から現れたのはそれすら包み込むほどの翼。風が周囲へ掻き消えると同時に翼は大きく広がりその中身を露わにした。

 それはイロハとは真逆の色。黒髪は白く、そして淡い七色を宿した長髪。白を基調とした身なりをする二十歳後半ほどの外見。

 その真の姿は男にしては美しすぎる外装が性別の判断を惑わすほど。翡翠のような瞳を開き、白い男は大きな袖を口元に運んでから口を開く。


「我が名は――【極彩巨鳥(ごくさいきょちょう)のフレズベルグ】。七の王に属せし大鳥……。馴れ合うつもりはないが、以後そのように」


 男――フレズベルグはそう名乗りをあげて静かに頭をわずかに傾ける。

 目の前の男はイロハの契約悪魔フレズベルグを語り、ネアは余計に疑いたくもあった。

 呆気にとられたイロハにネアは耳打ちをする。


「……ってなこと言ってるけど、どうなのよ?」


「うーん。そんなこと言われても……」


 イロハも少しばかり頭を悩ませていた。しかし、イロハは彼の声を稀に聴くことがあった。

 悪意のない声を今でも覚えている。更には心安らぐ何かも感じられ、イロハはふと頷く。


「たぶん、そうだと思うよ……? ボクもフレズベルグだと思う」


「言っとくけど、それが本当ならすごく面倒くさい状況だと思うんだけど? アンタの契約悪魔が外に出てるってどういうことなのよっ」


「わかんない。でも……大丈夫だと、思うよ?」


 警戒もなく、イロハはフレズベルグに近寄ると間近で彼を見上げた。

 すると、フレズベルグの片手を手にとり、自身の頭にへとそっと乗せる。

 イロハの行動に沈黙する二人。頭をその手にすり寄せ、イロハは再びフレズベルグを見上げて目を丸くした。


「……うん。ボクがずっと寂しい時に撫でてくれてたの……フレズベルグだよね?」


「……」


「ボク一人やだからさぁ……。すっごく好きかも。……あんしん、って言うのかなぁ? うん。よくわかんないけど、ありがとうっ」


「…………さてな」


 イロハの頭に乗せられていた手が今度はその頭を掴み取り持ち上げる。少し浮いたところでフレズベルグはイロハを地に放り投げてしまった。


「ぺぐ……っ」


「気安く私に触るな……っ。お前たちと変わらぬ人の姿を模してはいるが、私は列記とした大悪魔の一体。【極彩巨鳥のフレズベルグ】なのだぞ? 少しは礼儀をわきまえるべきだ」


「いきなり姿を前に出しといて対応にいちゃもんつけるなんてどういう思考してんのよ……。しかも、一応そこの馬鹿はアンタの主人のはずだけど? いいの? この扱い」


 フレズベルグは確かにイロハの契約悪魔である。立場上ではイロハの方が上でありこのような振る舞いは関係を覆すものだ。

 ネアに指摘されればフレズベルグはそっけなくそっぽを向く。


「そこまでしてやる義理はないのだよ異端者。私は誰かの下に付くようなことはしたくない。……もちろん、そこの我が主こと愚か者にもな。何故私が愚か者の言うことを聞かねばならん」


「ええ~っ。じゃあ、フレズベルグはボクの言うこと聞いてくれないの? ずっと一緒だったじゃんかー」


「我が本体はお前の持つ魔銃にある。()()はその魔銃に組み込まれた部品のようなものだ。願いを叶えてやるなど強制的なもので、このように共にいることなどもあの魔女の仕組んだものだ」


「……まあ、大悪魔が簡単に人間と契るなんてしないものね。……っていうか、私のこと異端者って呼ばないでくれる?」


「間違ってないだろうが。……とにかく、お前たちにはこれから私と共に別れた奴らを探してもらう。向こうはおそらくもっと厄介なことになっているからな」


 別れた者。それに反応して真っ先に二人はもう一組を頭に思い浮かべた。


「……それって先輩と姫ちゃんのこと?」


「厄介ってなによっ? 一応最初にクロトが本物かどうか確認してみたんだけど……?」


「確認方法は?」


「……コイツら不死身だし、傷が治るときは独特なのよ。クロトの場合は炎が出るし」


 クロトは傷を修復する際にその身に炎を纏う。別れる前にそれは確認しているのだが、ネアは今でもその回答に些か不十分さを感じていた。

 なるほど。と、フレズベルグは頷き、……再び姿をイロハに戻して二人の前に立つ。


「つまりは……こういうことか……」


 フレズベルグは片腕を横に出し、その腕を風で切り落とした。

 酷い出血量の後に腕は風を纏いその傷を修復しもとにへともどる。

 これを見たネアは両目を見開いて蒼白とした。


()()は主の姿を映した体を使ってこの樹海に存在している。主と深く繋がっている我々もまた不死であり、我が肉体に痛覚はない。その確認方法ではあの愚か者を見逃しても仕方ないな……」


 再びフレズベルグは姿を戻してそう解説を行った。


「なんでボクの姿でしたの?」


「我が身が例えだろうと傷つくなど耐えきれん。我が翼が穢れてしまう……」


「……ちょっと聞いてもいいかしら?」


 ネアは動揺した様子でフレズベルグにへと問いかける。

 

「さっきから聞いてれば、アンタ以外にも同じのがいるみたいな言い方じゃないっ。……まさかとは思うけど、私たちと最初一緒にいたクロトって」


「可能性はあるな。私がこうしてお前たちの前に姿を出しているのだ。その時点で察しはつくだろう? 愚か者が」


 当時一緒にいたクロトはエリーを連れ行っている。

 状況が最悪なことにネアは青い顔をして悔いる気持ちでいっぱいとなる。


「いつまでも話している暇はない。樹海の核も持ち出された後は確認済みだ。所持している奴を見つけるなどそう難しくはない。奴とは長い付き合いだからな。すぐに我が風が奴を見つけて知らせる。そこに二人はいるはずだ」


「……それを信じろって、いうわけ?」


「なんだ異端者? これでも急いでいる方だ」


 ネアは後悔に悩む傍らで一つのことを思い出しフレズベルグを指さす。

 

「もう一体。それはクロトの契約している悪魔、【炎蛇のニーズヘッグ】でしょ? そして、【極彩巨鳥のフレズベルグ】であるアンタはニーズヘッグとよく一緒にいたそうじゃない? 魔界でアンタたちのセットな噂、聞いたことあるのよこっちはっ」


「……だからなんだ?」


「アンタが実はその蛇と繋がってる可能性もあるって言ってるの! 私たちを誘導するも本当は他の目的があるんじゃないのかしら? ……最悪、アンタもエリーちゃんを狙ってるってこともある。その場合は此処でアンタを無力化する必要もあるわっ」


 【炎蛇のニーズヘッグ】、【極彩巨鳥のフレズベルグ】。この二体は過去魔界でも有名な悪魔であり、よく行動を共にしていた。

 力のある悪魔に周囲は恐れと尊敬の眼差しを向け。その悪魔二体は後に魔界を離れ、それ以降戻ることはなく人間界で消息を絶っている。

 ネアの確かな情報に、フレズベルグは白けた目でため息を吐く。


「……まあ、幼少の頃からアレとはよく暴れたものだ。魔王にも喧嘩を売ったこともある。長く付き合ってはいたが……、だからと言って今の奴にくれてやる温情はない。我が友だからこそ、奴のやろうとしていることは何が何でも止めねばならない。奴のことだ、狙いはあの姫一人。確実にあの愚か者の欲しいものを持っている。……私は他を騙してまで目的を遂行しようなど思っていない。それだけは保証してやる。悪魔から言った約束は果たすものだ。そこら辺は安心しろ」


「…………信じたく……ないっ」


 悪魔との契約や約束などは魂を賭けるほどのものに等しいことが大半。それをネアもわかってはいる。

 これは確かなものやもしれない。だが女性顔負けな姿でも男であるだけで疑心が湧いてしまう。


「ボクはフレズベルグが言うならいいと思うけどなぁ。……話のほとんどはわかんなかったけど」


「要は私に付いてこいということだ」


「あ! それならわかりやすい!」


「納得してんじゃないわよそこの馬鹿! もし約束破ったら何するわけ!? ちゃんと責任取るんでしょうね!?」


「そうだな。……我が翼を切り落とす。これなら文句あるまい」


「治るでしょうが!!?」

 

 どんな傷も今のフレズベルグには関係ない。痛覚もなく、すぐに治癒される。 

 だが、フレズベルグは酷く蔑んだ目でネアを見下した。


「ふざけるなよ異端者……。我が翼は我が命と同等のもの。それを自ら切り落とすのだぞ? 死にたくなる思いだ。これ以上疑うというのなら――潰すぞ?」


「わかったわよ!! わかったから殺気を出すな!!」


 冷静とあったフレズベルグが静かな怒りをにじみ出しながら威嚇。

 この悪魔が命と同等の対価を出すというのだ。強引だがネアはなんとか信じようと心に言い聞かせる。


「ふんっ。わかればよいのだ。……では行くぞ、愚か者ども」


「……でも、その先壁だよ?」


 ふとイロハは前方を指差して目を丸くさせる。

 フレズベルグを追い詰めた先は樹海の樹が壁となって存在している。一方通行なら来た道を戻る他にない。


「これだから低脳な愚か者は……。なければ()()道を進めばいいだろう?」


 向き直ってフレズベルグは指を上にへと向ける。

 ……その指は中指だ。彼は一つ中指を立てていた。

 そのサインがどういう意味なのか理解していたネアは沈黙しながらフレズベルグを睨み付ける。


「…………失礼。これはけして喧嘩を売っているわけではなく、()()()()というわけであってだな」


 すかさずフレズベルグは淡々と中指から人差し指に切り替える。

 しかし、それは既に遅い。


「え? それ以外になにかあったの? ねぇ、お姉さん??」


「うるさい……。やっぱ野郎はどんな外見してても野郎だわ……っ」

 

「……とにかく行くぞっ」


 咳払いをしてからフレズベルグは跳躍して樹の枝にへと移る。更に上へ向かいネアとイロハもそれを追う。

 下がわずかに見えるほどまで上ればそこはまた別世界が広がっていた。


「これは……っ」


「樹海の攻略法の一つ……。惑わされるならこの()を通るのが一番だ。我が風がこの空間を教えてくれた」


 そこは複雑に枝が絡み合った道とは呼びづらいもの。建物の中で言えば屋根裏にでもいるような空間だ。

 真下の道では一方通行で行き止まりだったはずが、上に来ればだだっ広い空間を枝のみが埋め尽くした世界が広がっていた。

 迷路の如き迷宮の上はそんなものとは無縁のものになっている。


「この道を通れば一直線に目的地に行けるはずだ。……風よ、我が旧友の元へ行け」


 手のひらでフレズベルグは息を吹きかける。清らかな風がそっと吹き空間全土へ流れ目的地を探す。

 その時、強大な地鳴りに足場だけでなく樹海全土が揺れた。

 体勢を保つネアとイロハは上空より放たれる重度の威圧に記憶のある体が強ばる。


「……これ、この嫌な感じっ」


「嘘……っ、まさか、【厄星】!? こんな時にっ」


「……予想よりも事態は深刻そうだな。…………風が来た。私は先に行くぞっ」


 道案内をする風は誘うように吹き、フレズベルグは翼を広げる。

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