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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 三章 「愛を捨てし者」
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「己がため」

「クロトさん……っ、クロトさぁん!!」


 エリーはクロトの名を呼び泣き叫ぶ。

 冷える手を取り、絶望と悲しみを世界にぶつける。


「いや……、いや、ありえねぇだろ!? 此処は隔離された閉鎖空間っ。そんなとこまで来やがんのかよアレは!?」


 エリーの絶望により発動する呪いの黒星は天を覆い顕現する。

 ニーズヘッグは一つ勘違いをしていた。

 あの星は実際に空にあるわけではない。宿主を中心に星は現れる。

 それが例え魔界の地の底だろうと、エリーのいる場所に【厄星】は彼女の願いのためその姿を現す。

 望まぬ形で叶えようと……。

 樹海全土を揺るがす力の波が蛇網結界(じゃもうけっかい)を払いのけ全ての皮衣がニーズヘッグのもとにへと戻る。


「なっ、相棒っ!?」

 

 わずかに皮衣までもが震えていた。

 緑に覆われた天井が軋み崩壊の兆しを見せる。

 目に見えない所で、あの黒星はずっとこちらを見ているのではないのだろうか。そう目に【厄星】を思い浮かべてしまう。

 

「……ミスった。くそっ、こんなんで諦めきれるかよ!」


 手に炎を宿し、ニーズヘッグはそれを地にへと叩き付ける。


「絶対にこんな生活から抜け出してやるっ。俺は、――自由になるんだっ」


 炎は地を這いエリーの周辺を覆う。

 【厄星】を止める方法は宿主をどうにかしなければならない。死か、あるいは発動不可能な状況にまで追い込むこと。

 まだ完成されていない力は元を断てば発動を止めることは可能であると、確信はなくも黙って見過ごすことはできない。

 高熱に覆われることでニーズヘッグはエリーの意識を断ち切るつもりだった。

 しかし、その炎はエリーにとって害でしかない。強い拒絶反応を起こしているエリーにその炎は届かず、逆に消し去る。

 唯一、その場にクロトだけを残し。エリーは全てを否定した。


「クロトさんっ。あぁああぁ、あああっ!!」


 こんなことは認めてはならない。こんなことはあってはならない。自分のために傷つく者がいてはならない。そんな現実は……いらない。

 願いを聞き届けようとする意思はエリーの願いを肯定する。全てを亡くしてしまえば終わる簡単なことだと。

 願いは肯定され繋がる。否定を認められ、願いを認められ、そして最後はエリーが認めるだけだった。

 

 ――こんな世界。壊してしまえばいい。


 崩壊の引き金を手渡され、指をかけた途端エリーはその手を離し拒絶してしまう。


「だめ……、それは、だめっ」


 悲しみの波の中で、わずかな理性が呟いた。


「陛下と……約束……、約束、したのっ。私のこの願いは……絶対に叶えちゃダメ!!」


 ――強く生きなさい。

 不意にアヴァローの言葉が蘇りエリーは自身の悲しみの渦から這い上がる。

 我武者羅に意思は解き放たれてしまいそうな力を押さえ込む。 

 周囲の波が徐々に引き治まりだすも足りない。エリーにとってもその力の制御は酷なものだった。

 自分のモノのはずが全く言うことを聞かず暴れ出している。

 この行動に『どうして?』と疑問を投げられ否定されても、止めねばならない。

 壊さない意思と悲痛の意思が衝突しあい、クロトを見る度に悲しみが溢れてどうしても増さってしまう。

 

「お願い……、壊さないでっ。…………クロトさん」


 ただ目を覚ましてほしい。少しでも希望を与えてほしい。

 泣き崩れながら握る手が、その時強く握り返された。


「……っ!?」


 わずかに手に温もりが戻った気がする。

 その手は確かに動いて、クロトの瞼が重々しく開いてエリーを見上げる。


「なに……してんだよ……っ。クソ、ガキが……」


「クロトさん……」


「泣くな……。お前が泣いてるのは……鬱陶しい。ウザい……」


 声に気力はない。それでもクロトはエリーにいつものように言葉を返した。

 けして優しくはない言葉でも、エリーの気持ちを落ち着かせるほどのものがあった。

 救われたような安らぐ思いに悲しみが癒やされていく。内で囁く声が遠のき周囲を鎮めてエリーの【厄星】は姿を現すことなくその存在感を消した。


「……ごめんなさいっ。ごめんなさい。私……またあんな力に頼ろうとして……」


「とりあえず、静かにしろ……。傷に響く……」


 【厄星】は確かに治まった。

 しかし、二人の危機が去ったわけではない。状況は戻り依然として最悪だ。

 その後。歓喜と手を叩く音が響く。


「さすが俺の姫君。アレの扱いに慣れてきているとはな。危うく俺までも消される所だったぜ。こんなんでも無事じゃ済まなくなるからな」


 拒絶反応の消えた二人の元へニーズヘッグは入り込み悠々と近くで見下ろしてくる。

 難を逃れた蛇を見るなりクロトは愛想なく睨む。

 

「……それは、残念だな。なんだったら、逃げ出してもよかったんじゃ、ないか?」


「そんなんでも口の減らねぇガキだなぁ。だがこれ以上は姫君の地雷をまた踏んじまうことになる。……だから、俺は手段を変更する」


 取り合っていた手が引き離された。

 白い蛇の太い胴体がクロトの首を絡めニーズヘッグにへと引き寄せられる。


「クロトさんっ」


「……今度はなんだよっ、クソ蛇がっ!」


「黙っておとなしくしてろよクロト。この俺にさんざんほざいたんだ。少しは俺の役に立てよっ」


 抵抗のできないクロトの頭を掴んで首筋を無理矢理開かせ炎蛇はその首にへと牙を立てる。

 肌に針の様な牙が食い込んで噛みつく。

 体液を奪うものかと思えたがその逆であり何かを体内にへと送り込まれた感覚。

 直後。クロトの全身の血液が熱く滾る。汗が溢れ出し体内がぐつぐつと煮えて吐き出す息すら熱を帯びていく。


「お、まえっ、いったい……っ、何を……!?」


「なーに。ちょっとした毒だ。生き物を内側から焼き尽くす()()()()。……安心しろ。それなりに加減はしてある。しばらくすれば治るもんだ。……いい感じに苦しんでろ」


 言葉を発することすら体内の熱を体中に素早く流れる。

 クロトは黙ることでその苦しみを少しでも堪えることに集中した。


「よしよし。そうしている方がお前はいいよ。……でさ、姫君」


 急に話を振られエリーはビクリと反応。

 

「そう怖がんなって。俺傷つくぞ? 俺はただ姫君と取引したいわけ」


「……取、引?」


 思わず首を傾けた。 

 そんな動作すら心を動かされるのかニーズヘッグは微笑。


「そういうわけ。こういうのはやっぱ姫君の同意って必要だろ? 姫君から俺を受け入れてほしいしな。姫君が自分で決めてくれば俺も地雷踏まなくてすむ。さっきみたいなのはゴメンだ。【厄星】は絶対に使ってほしくない」


「…………使いま、せんよ。……約束、してますから」


「まあ、それでも保険ってことで。……姫君。これ覚えてるよな?」


 ニーズヘッグは握り拳から青い宝石のような種子を見せる。

 ――樹海の核だ。

 問われればエリーは恐る恐る頷く。


「姫君が俺を選んでくれれば、他の奴らを助けてやってもいいぜ? 核を持っている俺がその権限を持っている。これを使えばそんなこと簡単にできる。さっきみたいに樹海のコントロールも。……てなもんでどうだ?」


「……助かる?」


「姫君だってこんな悲劇的なとこ見たくないだろ? 俺だって姫君には泣いてる姿より可愛い笑顔を見せてほしい。姫君はその方が似合うぜ。姫君はただ俺のためにいてくれればそれでいい。……最後まで、な」


「助かる……。ネアさんも……イロハさんも……。クロトさんも、ですか?」


 毒と傷による重症のクロトが目に入る。

 ニーズヘッグ本人ならその毒を直に解除することも……。そう思えばその取引には心が惹かれてしまう。

 そうやって思考を誘導させるためにニーズヘッグはクロトに毒を盛った。判断材料として利用し、思惑通りになる状況に口角が吊り上がる。


「あ~、クロトはちょっと後になるかな? なんせ俺はコイツと契約で繋がってる。俺はコイツを映した鏡を利用して外にでているからな。出すなら俺がこんな奴と縁を切って自由になってから。もちろんその時は命の保証もしてやる。悪い話じゃないだろう?」


 そっとエリーの頬をニーズヘッグは撫でる。

 先ほどまでの抵抗や拒絶はない。エリーの心はその取引に揺らいでしまっている。


「愛してる。俺は姫君のこと好きだぜ。だから姫君にも俺を選んでほしい。それだけで他の奴らが助かるんだぜ?」


 頬から手は滑り落ち、そしてエリーにへと差し出す。

 その手を取ることは取引に同意し契約は成立となる。

 自身を差し出し、他の者を救う。それだけの価値が自分にあるとわかれば、エリーはその手に自分のモノを重ねようとしてしまう。

 

「本当、なんですか……?」


「悪魔との契約は絶対だ。俺たちの多くって、そういうのにはしちまったら抗えないとこがあるわけ。だから安心して俺の取引に応じていいぜ」


「……」


 自信ある発言に少し安心した。それでも戸惑うところはある。

 今でもエリーはニーズヘッグのことを恐ろしく思っているからだ。

 躊躇い混じりの指先がその手に触れようとした瞬間、その手が突如弾かれる。

 視界に赤い水滴が飛び散り、エリーは自分の手を弾いたモノを目で追う。

 それはクロトの手だった。

 撃ち抜かれた腕は力を入れたことで血を噴き出していた。


「……ク、クロトさん!?」


 何故そんなことをしたのかエリーにわからず、困惑した隙に今度は胸倉を掴まれ引き寄せられる。

 


「――ふざけんなよクソガキ! 何考えてんだ!!」



 熱のある息を吐き捨てながら強く怒鳴る声は胸を打つモノだった。

 自分の行動が間違いであると言われ否定される。クロトの怒りを買ってしまったことにエリーは動揺し言葉を震わせてしまう。


「だ……だって……。私っ、クロトさんに傷ついてほしくないっ。私なんかのために、クロトさんがいっぱい……いっぱい酷いめにあうなんて、見たくありませんっ。私が理由で誰かが傷つくなんて……そんなの嫌です!」


「……ッ!!」


 更に強く引かれエリーとクロトの額が衝突する。

 クロトの怒りの表情が間近に見え、額の痛みなど忘れてしまうほど……。その表情に気が持っていかれた。


「誰がお前のために傷ついてるって!? 俺は、お前のためなんかに戦った覚えはないっ。お前を助けるのも、俺が死なないためだろうが! 勘違いしてんじゃねーぞ!!」


「……でもっ」


「クソ蛇を選んで、それでお前が死なないって保証がどこにあった!? お前が死んだら俺も終わるんだぞ!! ……全部俺のためなんだよ!! それ以外になにがあるっていうんだ! 俺は俺のためにしか生きないって決めてるんだ! 道具なら黙って俺に従ってろ!!!」


 クロトが最も恐れているのは自身にかけられた呪いが発動することだ。

 エリーと命の鎖で繋がった呪い。それが発動すればクロトは不死のまま永遠の覚めることのない眠りに落ち、死と同様になる。

 衝撃のような言葉が強く何度も打ちつけ胸を締め付ける。

 エリーは何に涙を流しているのかわからずにいた。

 クロトに怒鳴られたからか。クロトの怒りを買ったからか。クロトが自分をそう思っているのだという事実を再度認識させられてか。

 もしかしたら、自分の過ちに対してだったかもしれない。

 クロトを怒らせることを自分がしてしまったという馬鹿な行動に思わず自身を否定したくもなった。

 毒に犯されながらも声をあげたクロトの身が地面にへと押さえつけられる。


「俺の姫君に何してんだよ? せっかく姫君のためにある程度生かしてやってるんだ。微量とはいえ、俺の毒でよくそこまで足掻けるな?」


「……っ、お前の毒なんざ……全然……効いてねぇって……」


「懲りねぇガキだなぁ。……ふん、少し趣向を変えるか」


 ニーズヘッグは軽く舌舐めずりしてから意地の悪い笑みを浮かべる。

 クロトから離れ、炎蛇は少女の傍らに寄って座り込む。


「姫君♪ 大事な話があんだけどぉ、聞いてくれるかぁ?」


「……話……ですか……?」


「ああ、そうだ。お前も聞いとけよクロトっ。お前にとってもまんざらじゃない話だからよぉ」


「だったら……聞かねぇよ……っ」


「だからお前は可愛げねーつってんだよ。……まあ、いいか。俺はこうして姫君と楽しく過ごせるんだからよ」


 不意に体を抱き寄せられたエリーは体を密着させられる。

 触れる肌は見た目通りの人間のモノ。左腕にはクロトに撃ち抜かれた箇所から血が滲み、なんら人間と変わらない。

 だがそれは人の姿を模した悪魔。クロトへの仕打ちも見せつけられそんな悪魔のそばにいることが恐怖心を煽る。

 

「心配ねーって姫君。べつに俺は今すぐ姫君を取って食おうなんて思ってねぇから」


 あやすように頭を撫でられる最中でもエリーは震え上がる身を必死に押さえ込む。

 

「姫君さぁ、俺とクロトの関係知りたくねーか?」


「……え」


「俺はクロトの契約悪魔。そしてクロトは契約者。俺とクロトはその契約に基づき深く繋がっている。その契約内容は悪魔が契約者の願いを叶えるというものだ。……なぁ、姫君。コイツは俺になんて願ったと思う?」


「……ッ!? ちょっと待て、クソ蛇……っ。お前、まさかっ」


 動揺するクロトはニーズヘッグを見ると両目を見開く。 

 その顔が見たかったと、ニーズヘッグは不敵に笑い語り続け出す。


「他者を殺すことになんの躊躇もない奴が何を願ったか、想像できるか?」


 魔銃使い――クロト。

 彼には人を思いやる心を持ち合わせていない。そんな人物が何を願うことがあったのか、エリーは想像できず腕の中で首を横に振る。

 

「わかんねぇよなぁ。じゃあ教えてやるよ」


「おいっ。……やめろっ」


 クロトの言葉などニーズヘッグは聞き入れない。

 それどころか嘲笑って更に続けだした。




「コイツはなぁ、――自分の親を殺すために【愛情】という感情を捨てたんだよっ!」




 それは二人にとって衝撃の答えだった。

 唖然とした二人に悪魔は手を鳴らし幕を開ける。



「さぁ、これから語るのはとある哀れな人間の話っ。ゲストは悪魔に縋ったガキと麗しの姫君。語り手は炎蛇による、ちょっとした昔話だ」


 

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