「暗鬼」
「……ふむ。運がよかった……と、思ったのだが一足遅かったか」
樹海に一人。男は異様な場所で周囲を確認する。
他の場所とは異なる中枢区域。樹海の核が存在していた部屋にへとたどり着いて男は細かなため息を吐く。
樹の幹が入り組み、中心に何かあったと思われるくぼみ。しかしそこには何もなく、物足りなさを感じる様子となっていた。
「だが、やはり運はよかったと思うべきか。……そして厄介な」
冷静としていた眉を少々潜め、再度ため息。
「此処に核はなく、そして樹海は消えていない。……とくれば核のありかは明確だな。…………愚か者め。見つけたらこの手で潰してやる」
男はそう言って再び迷宮にへと戻る。
ブツブツとうわごとのように「愚か者」と呟いて。
◆
鏡が幾多の姿を映す樹海。
その光景にそろそろ酔いも出てくる。
見ていても不快になる。居続けても気分が悪くなる。心身ともに疲れが積もり、その速度は予想よりも早くあった。
変わらない現状。それをいつまで続けるか。それとも、晴らすために打ち切るか。
「……クロトさん、大丈夫ですか?」
つい眉間にしわを寄せてしまっていたクロトにエリーは声をかける。
現状に苛立つクロトもそろそろ限界が近い。いつ怒鳴り散らすか自分でも検討がつかない所だった。
「べつに……、なんともない。……お前はどうなんだよ?」
「私は大丈夫ですよ。早く出られるといいですね」
「……ああ、そうだな」
正直。クロトには今隣にいるエリーへの違和感が増すばかりでいた。
確かめようとクロトは魔銃を見る。クロトの魔銃にはエリーの位置を特定するよう仕掛けられている。それを確認すれば目の前のエリーに対する疑念も晴れる。……そのはずだった。
――くそ……。この樹海のせいか? まったく機能しねぇ……。
頼りの探知機も無意味とかしている。
理由は不明だが、今は使い物にはならない。
「…………」
クロトは魔銃を握り絞める。
次にエリーを見て……何かを決心する。
「どうされたんですか? クロトさん」
エリーはクロトを見上げた。
理由としては、クロトの方からエリーにへと声をかけたからだ。
それに応えないわけにもいかず、エリーはちゃんと顔を向けて対応する。
「……そろそろこの樹海にも飽きてきたな。……そこでだ」
クロトは懐からあるモノを取り出し、それをエリーにへと見せた。
少し距離を取っていたエリーはよくそれを見ようと前に出る。
「…………綺麗ですね。なんですか?」
クロトが手に持つのは小石ほどの青い結晶体。
確認させるとそれをグッと握り絞めた。
「――樹海の核だ。……少し前に見つけた」
「そ、それがですか!? じゃあ、此処から出られるんですか……?」
驚くエリー。しかし安堵もした。
いつまで続くかわからない状況に恐怖心が揺さぶられていた。
ここまで来る度に骨となった生き物などを幾つも見てきていたのだから。
自分たちもそうなるのではと不安で仕方なくあったが、樹海から出るための一つ、樹海の核をクロトが今現在入手している。
それを壊せば樹海は崩壊し全員が助かることにも。
「そういうことだ」
「では、それを壊されるんですか? ……綺麗で勿体ないですけど、仕方ありませんよね」
宝石の様な核は確かに綺麗でるがこのような樹海を生み出す恐ろしいモノでもある。
何かを壊すということに抵抗があるもエリーはそれを理解した。
だが、
「そうなんだが……。俺はお前とだけ此処から出るつもりだ」
「……え?」
クロトは、突然そんなことを言い出した。
耳を疑おうとするも、クロトは復唱する。
「俺はお前とだけ出るつもりだ。……あの二人は置いて行く」
「ど、どうしてですかクロトさんっ。ネアさんとイロハさんも一緒に出るって……、皆さん一緒に此処から出るんじゃないんですか!?」
「そういう話だったが、俺にとってあの二人は邪魔だからな。口うるさいし、そもそも必要ねぇんだよ、あんな奴ら」
「そんな……。私は、反対です……」
別れたネアとイロハを見捨てクロトと二人だけでこの樹海を出ることに戸惑う。
確かに此処までで三人の仲の悪さをエリーは見てきた。口喧嘩も多く止める側のエリーとしては疲れることも多々。
それでも、エリーには二人を見捨てる考えなど一切ない。
「あんなウザい奴らはいらねぇよ。……俺が必要なのはお前だけだからな」
「……クロトさん。クロトさんが私のこと、必要なのは……わかってます。わかってますけど、……それでも私は皆さんと此処から出たいですっ」
エリーは来た道にへと戻り出す。
「おいっ!」
「私はネアさんとイロハさんを探しますっ。見捨てるなんてできませんっ」
駆け足で急ぎ探しに向かうエリー。そのエリーをクロトは止める。
小さな体がふっと後に引かれ、エリーの身はクロトの腕の中に収まってしまっていた。
◆
「ちょっと! お姉さん!?」
突然駆け出したネア。遅れてイロハはその後を追いかける。
ネアの脚は速い。見失えば追いつくことはできず急ぐも曲がり角でネアの姿が見えなくなった。
イロハも曲がり、更に進もうとすると紫電が視界に飛び込む。
直後。胴体が何かに衝突した感覚があった。
「……え?」
イロハは痛みを感じない。キョトンとして視界を下に向ければ、そこにはイロハの胴体を貫いたネアがいた。
「……悪いわね。私、アンタのこと信用してないから」
「え……? お姉さん……? なんで??」
そう呟き、一気に雷撃を体にへと流し込む。
落雷に打たれたほどと同等の雷撃がイロハの前身を掛け焦がす。
肉の焼けた匂いがネアの嗅覚を酷く刺激する。黒く焦げたイロハは声すら出せないままその場に崩れ、動かなくなる。
◆
身を抱かれたことに困惑するエリーは星の瞳を何度も瞬きさせた。
クロトは体を密着させエリーの髪を撫でる。
「……あ、あの。クロト、さん? これは……」
「……」
クロトはなにも答えない。
髪を撫で、体感する少女のぬくもりを確かめ……。しばらくそのままの状態が続き、クロトはようやく納得した。
「おい。――お前誰だ?」
頭を撫でていた手が離れ、次にエリーに当てられたのは銃口だ。
クロトはエリーを抱いたまま頭に銃口を押し当て、その素性を疑いだす。
もちろん。それにエリーは混乱してしまっている。
「な……なにを……っ。私はずっと、クロトさんと一緒にいたじゃないですかっ。この樹海に来てから……ずっと……」
「そうだな」
「それなのに、私がまるで偽物みたいなんて……、そうおっしゃるんですか?」
「ああ。ハッキリ言ってお前はアイツじゃない。根拠もある」
「……根、拠?」
クロトは引き金をゆっくり引いていく。
キリキリと鳴る音にエリーは急いでクロトから離れようとした。
このままでは撃たれる。殺されると思ったからだ。
しかし、先に抱いていたクロトは逃げないように掴む。
「クロトさんっ、待ってください!! 私は、私は……っ!」
「言っただろ。――根拠はあるっ」
――パァンッ!
銃声が一発鳴る。
クロトの魔銃はエリーの頭を撃ち抜き、喚いた少女を瞬時に黙らせた。




