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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 一章 「囁きの声」
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「樹の中の鏡」

 ――……


 耳をかすめる音が聞こえてくる。それを始めとして意識が静かに呼び起こされる。

 眠りから覚めたばかりにより大きな感情というものはなく、朦朧とした意識のみがそこにはあった。

 徐々にハッキリと聞こえてくる騒々しい複数人の声。うるさいと、不快になる気すら感情が動かされず、ただその声の聞こえる方にへと目を向ける。

 一面闇一色の景色。目先すら何も見えずあるはずだというのに、何故か明るく思えた。

 錯覚を眺め、ぼやけた意識が少しずつ晴れ、重くため息をついてしまう。


 ――()()()……。


 目を伏せそんな煩わしい騒音に耳を塞ぎ再び眠りにつこうとした。

 覚めるならもっと良いタイミングであってほしい。そう願い身を伏せたその時、騒音に紛れて聞こえてきた透き通る様な声に、再び目を見開いてしまう。目だけでなく、顔までもが声にへと向いてしまうほど。

 心を動かしたのは少女の声。微かであるもその声だけを捉える。

 いつの間にか視界までもが一変していた。

 暗闇の奥で数人の姿が映る。

 言い争い騒ぐ輪の中になんとか入り込もうと、止めようとする小さな姿。それにばかり目が行き離せない。瞬きすることすら勿体なく思えるほどの明るい世界が目の前にある。

 ――手を伸ばした。

 このような世界から逃れたくて。欲する光を求めて……。


   ◆


「み、皆さん……っ。落ち着いてください……っ」


 恐る恐る。エリーは騒ぎそれぞれの鬱憤を晴らそうとする三人にへと歩み寄る。

 しかし、エリーの声は三人にはなかなか届きはしない。これまでの道のりで溜まった苛立ちが限界にまでも達し発散をしなければ収まりがつかなくあった。

 状況や各々の意見もある。だがエリーはどうあれ止めることしかできず。必死と声を出していたが……。


「上等だこのクズ共ッ! 鬱陶しいこの樹海もろとも焼いてやる!」


「とりあえずボクもよくわかんないけどスッキリしたいぃ!」


「いい度胸じゃない野蛮人共! しばき倒して土に埋めてやるわ!」


 それぞれが臨戦態勢へ。このままでは銃の乱発や雷撃など酷い有り様になることは必然。高まった怒濤になす術もなく、エリーは困惑しきって慌てふためく。


「や、やめましょう皆さん。暴れたら大変なことに……。お願いですからぁっ」


 もしこの付近に生物が残っていれば迷惑でしかない。鳥だろうと虫だろうと、それらのことを考えればなおのこと止めねばならない。

 次に大きく発言しようとした時……






 ――やっぱりいいなぁ……。






 エリーは「ん?」と目を丸くする。ふと聞き覚えのない声が聞こえてきたのだ。

 それは続けて聞こえてくる。


 ――たく……っ。いい加減ウザったいなぁ。

 ――騒いでいるとは……。うるさくてかなわん。


「……?」


 ――なんで俺がこんな扱い受けなきゃなんねーんだよ。

 ――快適でないのはわかりきっているが、せめて静かに過ごさせてくれ。


「……??」


 ――いい迷惑だっての。これだから……。

 ――愚か者の口喧嘩には頭が痛む。


 エリーは辺りをキョロキョロと見渡した。

 声は何処からというものではなく直接頭に響いてくる。音程も曖昧だが、確かに誰かが言葉を発していた。それも一人ではない。

 不快感を言葉にしこちらも苛立っている様子。いったい誰が喋っているのか。

 ぶつぶつとものを言う声が気になり、エリーはとうとうそれに反応をしてしまう。


「……あの、誰ですかぁ?」


 周囲を見ながらエリーは声の主を探す。


「騒いですみませんっ。誰かいらっしゃるんですよね?」


 おそらく騒々しいこちらに機嫌が悪いのだろうとエリーは一言謝る。届いているかは不明だ。なんせ声の主は何処を見渡してもいないのだから。

 だが、確実に誰かいる。そしてこの状況に苛立っている。それが誰なのかと気になり声をかけてみたが……。

 途端にその声は聞こえなくなってしまう。

 

「……? あれ?」


 幻聴かとも思えたが確かにエリーは知らない声を聞いた。再び辺りを見渡すもあの声が聞こえてくることはない。

 代わりに耳に入るのは未だ喧嘩をやめようとしない三人の騒ぐ声のみ。

 ハッとして状況を思い出せばエリーは勢いよく三人の間に割って入る。


「み、皆さん、やめてください! こんなことしても此処から出れませんっ」


 少しキツめに声を出して注意をする。がむしゃらに入ってきたエリーに三人は暴言を呑み込み一旦冷静に。互いが顔を合わせることを避け別の方へ向いた。


「ごめんねエリーちゃん。……こんな野郎共のせいで」


「お前に言われなくてもわかってるっ。くそ……っ」


「ああん! ボクはなんかもうとにかくスッキリしたいぃ!! 撃っていい!!?」


「「やめんか!!」」


 イロハが魔銃を構える。今にも引き金を引こうと乱心状態。クロトとネア、二人はイロハを取り押さえようとするも……


「くっそ! 逃げんなこの鳥野郎!」

「いい加減にしないと次からは全身麻痺させて動けなくするんだから!!」


 周囲の植物に阻まれつつもイロハは翼を広げ上昇し逃げる。何枚も羽を散りばめ、無理矢理枝をへし折り空へ。届かぬとわかればクロトとネアの怒る声が真下から放たれてくる。

 

「やだやだぁ!! 意地悪ばっかボクやだぁああ!!」


 空に向け、イロハは魔銃から銃弾を幾つも放つ。溜まりに溜まった不快感、鬱憤を晴らしだす。

 幾多も放たれる銃弾は曲線を描き掻き消え……。ある程度撃ち終えれば安堵と息を吐き捨てる。

 

「……ふぅ。ちょっとスッキリしたっ」


「だったら降りてこい! その頭撃ち抜いてやる!」


「うぇ!? そんなこと言われたら降りたくないよぉ!」


 そう言うもイロハは徐々に高度を下げる。

 すると……、その最中、視界に一寸の煌めきが。イロハは瞬時にその光の方角にへと顔を向け呆然とした。


「……?」


「おい! いつまでそうしている気だ!!」


「いやっ、先輩! ボクさっき変なの見つけたから……!」


「……変なの?」


「なんかぁ、さっきキラッと光ったの」


 この緑生い茂る樹海からいったいなんの光が放たれたというのか。

 苔に付着した鱗粉はまず違う。その光を見直し考えるも上空から確認してハッキリと映るものでもない。イロハの表現からしてそれなりに強いく、そして一瞬の光と思われる。

 考えている間に地上に降りてきたイロハはその方角を指さす。


「あっち! あっちで見えたよ」


「とりあえず行ってみるのが吉かしら? もし人がいるならそれでいいんだけど。エリーちゃんはあと少し大丈夫?」


「はい。……いったいなんの光でしょうか? クロトさん」


「…………救難信号って可能性もあるが。それなら俺はスルーするからな?」


 無関係の人間を助ける価値無しと言いきるクロト。相も変わらずクロトの自分中心な考えにはエリーもハッキリと頷くことができない。

 クロトなら平然と他者を見捨てることなど容易く行う。

 

「堂々と言わないでよ、この外道。少しは人助けに目を向けなさいよね」


「なんとでも言え。じゃあ確かめに行くか……」


 これがこの日最後の行動になるだろう。結果によっては場所を変えての野宿。そこに見知らぬ者が加わるか否か。

 エリーはふと周囲を一回り見る。あの聞こえてきた声は今も静まり聞こえない。これから行く先にその声の主がいるのかどうか……。

 遅れることなく少女はその場から駆けていった。






 再び歩き出すこと数分。何が出てくるかと警戒をしつつ進む途中。イロハが「あ!」と声を上げる。

 同時に前方を指差し全員の目が前を向く。


「あれ! なんか光ってたの、たぶんあれじゃないかな?」


 一同は目を見開き、そして首を傾けてしまう。

 緑に紛れ進んだ先にあったのは一枚の鏡だ。樹海の一つの樹の根元と同化したようにある、ひと一人分ほどの大きな鏡。

 イロハが見た光りとは微かな日の光を反射したこの鏡によるものだろう。

 しかし、これはまた違和感が大きい。

 近づけば周囲に光苔はなく、その鏡が放つほのかな光のみが残る。

 いったい誰がなんのために樹にへとこの鏡を埋め込んだのか。考察するも意図がわからない。


「……鏡、ですよね? どうしてこんなところに」


「なんだか不思議というか、怪しいというか……、わかんないね」


「俺もさすがにこういうのは初めて見たな。情報屋のお前はどうなんだ?」


 此処は世渡りをこの中の誰よりも経験している情報屋のネアの意見も必要となる。深々と考えるも彼女の表情は険しくある。


「魔界でも鏡やガラスでできた樹はあるけど、この鏡以外って普通の樹なのよね。私も初めて見たわ。これは後からこの鏡が加えられたっていうのだけはわかるんだけど……」


「要するにわかんねーのかよ」


「お黙りっ。……どうするわけ? 此処で野宿? だったらエリーちゃんも疲れてるし休みましょうよ。私も疲れてきたわ……」


 ネアの言う疲労とは肉体的なものだけではない。イロハもすぐにへたりこみ気力がない。もはや先ほどまでの言い争う余力がないのだろう。この二人は特にもめていた。

 クロトもそれほどではないが精神の乱れと疲労はある。

 此処が潮時だ。


「仕方ないな。……もう日が暮れた」


 微かに残っていた日の光が消え宵闇が訪れる。光も少なくありしばらく前にいた火元にへと戻るのが無難だ。

 今回が無駄骨となったことに違いはない。この樹海に警戒すべき生命はいない。だが、この鏡からはどことなく不穏な気配がした。速やかに離れたくもある。


「さっきの場所に戻るぞ。この鏡の近くじゃ気になって眠れねぇからな」


「……確かに、それには同感だわ。なんか不気味だものね」


「戻るぞ、クソガキ」


「……はい」


 鏡を近くで眺めていたエリーはしゃがみこんでいた身を起こす。鏡に映るのは紛れもなく自分自身。なんの問題もない。

 エリーはもしかしたらあの声の主がこの場にいるのだと思っていた。だが、あるのはこの鏡のみ。辺りを見渡しても誰もいない。

 やはりあの声は気のせいだったのか。あれほどハッキリと言葉として聞き取れていたというのに。

 クロトが呼んでいる。すぐに行かねば……。

 頭よりも早く、体は無意識に従いクロトの後を追おうとした。

 しかし、すり抜けるような声が、エリーの動きを瞬時に止めた。

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