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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第三部 一章 「囁きの声」
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「静寂の違和感」

 これで何度目になるか。イロハが空に飛び立ち周囲を確認。しかし、どれだけ進もうと景色が変わる事はさほどない。

 

「……やっぱりなにもないよぉ」


「じゃあもうなんか見つかるまで帰ってくるなー!」


「そんなのヤダよぉ!!」


 回数を重ねるごとにこのネアとイロハの掛け合いは微量ではあるがエスカレートし、今となっては怒鳴り合ってしまう。

 イロハが戻ってくると二人は揃って不機嫌な顔で睨み合い火花を散らしている。その間にエリーが入りなんとか二人を止めようと必死でいるのも毎度のことだ。思わずクロトはため息をつくことも……。

 徐々に悪化するループ。未だ出口の見えない状況と共に、わずかに見えた空は蒼から朱にへと染まり始めていた。

 

「……ちっ。ここまで進展がないとはな。もう夜になりやがる。…………それにしても、いつまで喚いてるんだお前らは」


 顔を上から下に向き直らせればそろそろ騒動の決着がつくところだった。


「うっさいクロト! だったらアンタがこのわからず屋をなんとかしなさいよ!!」

「ああっ、お姉さん! そんなに頭握んないでぇっ、嫌な音がするぅう!!!」

「ネアさん! それ以上したらイロハさんの頭が……っ、頭がぁ!」


 状況としてはとても見え透いた結果となっている。

 ネアがイロハの頭を鷲掴みにし、その握力でギリギリと締め付けていた。痛覚のないイロハにとってその程度の痛みがどうということはないのだが、どうも軋む音が効果的だったらしい。その下ではエリーが状況を訴えている。

 なんと騒々しいことか。このようなやりとりを見続けるのにも体力をつかう。

 この流れがまた終わり、再開されるまでの間がある意味休息の間なのである。歩く間は全員が休むように口を閉ざし、ただひたすら決めた方角にへと進むのみ。

 足にも疲労が溜まり言葉数少なく一時的な休憩を取ることも多くなる。

 

「……はぁ。すみません。疲れてしまいました」


「エリーちゃん大丈夫? ……外ももう夜になるし、残念だけど此処で野宿ね。クロト、火……」


「お前は俺をなんだと思ってるんだ?」


「でもアンタが簡単に火を出せるでしょ? 今更なに言ってるのよ……」


 確かに今更だ。この様に野宿することなどコレまでに幾らでもあった。その際に灯りとして火を灯すことはクロトの担当だといつの間にか頭にはすり込まれている。今更このことに疑問を抱いても事既に遅し。適当な細い枝をイロハに集めさせる。イロハもそれが当たり前と思いすぐさま行動を開始。すぐに集まればクロトは集められた枝に火をつけた。

 ……しかし、なかなか火は大きくならず。火力が弱くあった。

 

「……あまり燃えませんね」


「こんな場所だし枝が湿ってるのね。もう少し火力上がらないわけ?」


「だからお前は俺をいったいなんだと思ってるんだ?」


「先輩。もっと枝持ってきた方がいい?」


「いらねーよ。話聞いてなかったのかよ……」


 炎を纏う際、それは意思や感情に比例してか威力を増すことがある。だが、一度離れてしまえばそれはただの火だ。クロト本人に、たいして炎を自由自在に操る技術はない。

 

「とりあえずこれで我慢しろ。後は適当になんか探してくる……」


 そろそろ腹の虫も騒がしくなる。

 クロトにとって発砲はある意味でのストレス発散の一つ。手頃な獣を仕留めるのもまた一興。


「あ! 先輩! ボクもボクも!」


 手を上げるイロハも乗じて動き出す。仕留めた後の荷物運びも必要だ。クロトはなにも言わずその場から遠のき、イロハはそれに続いていく。

 最後にエリーが二人に「いってらっしゃい」と見送りの言葉を送った。


 ――……


「……っ」


 帰ってくるなりどうしたことか。クロトがイロハの足を持って引きずり、顔をしかめて戻ってきた。

 仰向けになって目を回しているイロハの上には幾つものキノコが乗せられまるで台車の様な扱われ方だ。

 そんな雑な扱いをしているクロトが何故不機嫌なのか。


「ど、どうしたんですかクロトさん!? それにイロハさんも……」


「うるせぇっ。このアホが幻覚作用のある毒キノコを食ったんだよ。おかげでただの荷物だ、クソがっ」


「はわわぁ……。なんか目がグルグルするよ~」


「……なんで毒キノコなんて食べたのよ。普通食べないわよ」


「食用のタマキノコに似たマワリダケだ。ほぼトラップみたいに紛れていやがるヤツ。それでも確かに食わねぇがな……。とりあえず見分けるために集めたら持ってこいって言ったら、まさかつまみ食いするとは思わなかった。本当にいい迷惑だ」


 数十個ほど採集されたキノコは茎も傘も玉のようにコロコロと丸く可愛らしい外見。その中からクロトが「これもだ」と一個取り除く。

 見た目はタマキノコと変わらない毒キノコ。見分け方は傘にあるうっすらとしたわかりにくい渦の模様らしい。

 それほど大したことはなくしばらくすれば正気に戻る。

 

「クロトさんすごいですね。私でも間違いそうです……」


「もとよりお前に期待はしてない」


「……ですよね」


 直球なストレート発言。納得するもエリーは必死と違いを覚え込もうとする。今後も同じようなことがあるやもしれない。いつまでも任せっきりなわけにはいかないのだ。

 

「……頑張って覚えないと」

 

 エリーが二つのキノコを見比べている間にクロトは淡々と作業を進めていく。

 なるべく直線で頑丈な枝にへとキノコを刺し軽く塩をふる。火の近くへ並べ、あとは待つのみ。簡単な焼きキノコの完成だ。

 微量の塩とキノコから出る水分が混ざり合い焼ければ食欲をそそる香りが溢れる。


「はい、エリーちゃん。熱いから気をつけてね」


「ありがとうございます」

 

 焼き上がれば早速ネアはエリーにへと一本手渡す。熱くないように枝の端を持ちキノコに息を吹きかけてから一口。丸いだけあって肉厚のよいキノコの食感。ジュワッと広がる旨みのエキス。

 相変わらずクロトの出すモノにマズいモノなどなどなく文句などない。

 ――美味である!

 

「わぁ、美味しいです。こんなにモチモチしたキノコ初めてです」


「タマキノコって結構美味しいものね。特にレガルで採れる方が質がいいし、ここら辺でも生えてるのは穴場ね。樹海じゃなければだけど……。ああ~、でも美味しそうに食べてるエリーちゃん、本当に可愛い~♪」


「わりと水分も多く含んでるからな。コレでしばらくは水の補給も必要ねぇだろう。……だが物足りないな」

挿絵(By みてみん)

 火を眺めつつクロトは呟く。

 並べられたモノの量に不足はない。並べられているのは全てタマキノコばかり。採取の際に他にもキノコはあったが大きく変色しているものが多かったため一番害のないこれらだけを選んできた。

 気がかりなのは狩る獲物がいなかったということだ。

 銃を一切使わずに終えてきた採取。より腹を満たす食材である肉の存在がこの場にはない。それにはネアも気付いていることだろう。にも関わらずあの事細かく言ってくるネア。この件に無反応ということはおそらく揃って同じ違和感を感じていることとなる。

 

「……此処、なんか静かすぎる」


 毒キノコに目を回していたイロハがふとそう口にした。ようやく正気を取り戻したのだろう。地べたに寝そべりながら覚めたばかりの目でまだ少しぼーっとしている。

 どうでもよい発言だと思えたが、クロトは目を伏せため息を漏らす。ネアも特にはなにも言わなかった。

 ――なるほど。コイツも同じ意見か。

 エリーを除き三人がこの樹海での違和感に気付いていた。

 それは人のいないこの樹海でロクな生き物がいないということだ。どこかの山が脳裏をよぎるがそこからは酷く距離が離れている。同一の可能性は極めて低い。こういった自然に恵まれた場所なら危険な生物でもいるはず。いるとすれば虫やトカゲ、蛇など……。

 蛇は処理をすれば食せなくはないが、持ってきた時のネアの激怒が予想される。それをふまえてクロトは安全性の高いこういったキノコですませた。

 これが三人が抱く違和感の正体。イロハが口走ってしまえば無言で片付けるわけにもいかなくなる。


「そんなことわかってんのよ」


「えっと、どういう事ですか? ……あ、イロハさん。大丈夫でしたら食べますか?」


 体を重たそうに起こしてイロハはエリーに寄る。渡されたキノコの串に、しばし躊躇いの目が。


「……これ、大丈夫なの?」


「お前と一緒にするな。なんで俺が毒入り出さなきゃなんねーんだよ」


「とっても美味しいですよ」


「…………」


 エリーに勧められればイロハも渋々かじりつく。疑心はすぐに晴れ、イロハはパッと表情を明るくし更に一口と進めた。

 

「おお! すっごく美味しい!」


「よかったです。……それで、どういうことなんですか?」


「まあ、簡単に言えばこの樹海には生き物が少ないってことなの。熊とか狼を想像してたけど、これだけ匂いを広めても寄ってくる気配はない。人でなければ住み心地は悪くないと思うのだけど……妙ね」


「ボクもそれ思ったけど、こんなに暗いから皆寝てるのかな~って」


 ――いや、それはないだろう。

 クロトとネアは意見を心の中でガッチリ合わせた。

 粗方食べ終えれば一同はその不自然を話題に会話を進める。


「一言で言って、やっぱアンタって馬鹿よね」


「あーっ。またお姉さんボクのこと悪く言うっ」


「そもそも静かすぎるって言っても寝てるとかないわよ。この樹海に普通生息していてもおかしくない生物がいないんだもの。獣の気配がない。存在すらしていないってこと」


「わかんないじゃんか! もしかしたら……えっとぉ、潜ってるとか!」


「全部モグラなわけ? 馬鹿らしい。……でも、元々はいたっていうのはあるかもね」


「……どういうことですか?」


「例えば樹にあるあの爪痕。あれは大型の獣のモノだわ。おそらく人よりも大きいヤツ。クマの魔物、グリズリーの類いね。それがよく補職しているのが小さい小動物。此処までの道のりにそれらが巣にしていたと思われる穴もあった。……ただし、もぬけの殻って感じ」


 現状から確認できる痕跡。コレまでの通り道。ネアは周囲の静けさの違和感のため目に入る自然を観察していた。

 視界には生態の痕跡が幾らか散りばめてあり、にもかかわらずそれだけで肝心の生物が姿を消しているという不自然な光景。

 まるで生き物のほとんどが何かしらの影響を受け消されたかの様。

 いったいなにがそれを実現させたのか。


「そういうわけだから適当なこと言わないでちょうだい」


「……なんかお姉さんいっつも冷たいぃ。そういうのボクやだぁ」


「子供みたいなこと言わないでよ。……まあ、子供だけど」


「でも姫ちゃんよりは大きいよ?」


「アンタとエリーちゃんを一緒にしないでよ! 超失礼なんだけどぉ!!」


 ……また始まった。

 せっかく腹は満たされたというのに再びネアとイロハの口喧嘩が勃発。


「や、やめてください二人とも……っ。……~っ」


 エリーはクロトに視線を送る。何度も起こる騒動にクロトは樹海に入ってから「止める」ということをロクにしない。エリーもそろそろ間に入ることに限界がきているのだろう。

 一瞬クロトの目が困った様子の星の瞳と合う。だが、見なかったことにして目をそらした。

 

「……クロトさぁん」


 強く「助けて欲しい」と言えずにいるエリー。

 そうしている間にもまたネアがイロハの頭部に向けアイアンクローを仕掛けていた。

 既に勝利のゴングは鳴り響いているというのにお構いなしに二人は口を止めようとしない。


「だってだって!」


「だってじゃない! クロト! アンタもコレになんとか言いなさいよ! アンタの同類でしょ!!」


「……なんで俺にふるんだよ。騒ぎたいなら勝手にしてろよ。俺は関係ない」


 確かに。クロトは無関係でありその場で休む様に横になる。

 ……が。その態度がネアの癇にさわった。


「ふざけんじゃないわよ! アンタの後輩なら先輩であるアンタがちゃんと教育すべきでしょうが!!」


「べつにそれはそいつが言ってるだけであって俺は認めた覚えがないぞ」


「あーそうっ! これだから男は嫌なのよ! 役立たず! クズ!! そんなんだからお捜しの魔女さんにいいように使われるんじゃないの?」


 ――カンッ!


 言葉という塊がクロトの頭に直撃する。魔女のことを出され、それはクロトにとってこれ以上なく不快であり、短気を引っ張り起こすもの。

 横になっていた身を起こし、いつの間にかクロトはネアとイロハのもとへ。


「アアッ!? 誰が魔女のいいように使われてるだぁ? 知ったようなこと言ってんじゃねぇぞクソ女!!」


 今まで堪えて分が爆発でもしたのか。クロトの暴言が二人に向け乱発される。


「つーか、お前らいい加減にしろ!! 黙ってりゃ言いたい放題で胸くそ悪くなるんだよ! 茶番なら他所でやってろ! そして二度と戻ってくんな!! この際ハッキリ言わせてもらうが、所詮お前らは余分なおまけみたいなもんだろうが!! いてもいなくても同じっ。むしろいない方が清々すんだよ!! これ以上騒ぐようならぶっ殺すぞ!!!」


「……呆れた。誰が誰をぶっ殺すですって!!? やっぱアンタの頭ん中も修正してやるべきね、この礼儀知らず! 最低者!!」


「言ってろ!! お前は俺に何を期待してんだよ!? 最低の礼儀知らず上等だ! それともお前、俺がその真逆の場合どう思うんだよ!?」


「――どっちもキモいに決まってるでしょうが! 野郎の時点で!!」


「だったら余計なこと求めんじゃねーよ! お前の無理難題要望になんで俺が応えなきゃなんねーんだよ、言ってること無茶苦茶なんだよお前!!」


「そうだよ! お姉さんやっぱりいっつも酷いよぉ!」


「お前も黙ってろ鳥野郎!!!」


 とうとうクロトまでもが言い争いに参加してしまう。

 一人蚊帳の外であるエリーはあわあわと困惑。誰の味方も否定もできず、おろおろと眺めながらなんと声をかけていいかわからずにいた。

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