第三部 ★序章
ヴァイスレット王都を離れた一行が次にたどり着いたのはアクシデントからの樹海。
太陽の光すら遮る樹海で見つけたのはひと一人ほどある【鏡】。手招く声に引き寄せられ四人は【鏡】の中へ。
迷い込んだのは鏡と樹に覆われた迷宮。映る無数の己の姿。
――隣にいるのは本物か?
――鏡に映るのは己自身か?
――幾多もいる己の中で、己自身は本物か?
――己の中にいるのは……何者だ?
渦巻く疑心。信じるのは己が選んだモノのみ。
明かされるクロトの過去と願い。それを知っていたのは……。
最悪の樹海でそれらは姿を現す。
【厄災の姫と魔銃使い】第三部 鏡迷樹海編 開幕
――愛している。
【愛】を囁く言葉が頭をよぎる。
【愛】とは様々なモノに向ける強い【好意】の感情。
自分。他者。形は違えど慈しみ、愛で、思いやる。生き物が持つごく一般的な感情の一つ。
その意思を伝える言葉を何度でも呟いた。
――愛している。
その髪も、瞳も。
――愛している。
その声も、慈愛の心も。
――愛している。
その脆い命すらも……。
ただ一人にこの想いの全てを伝えたい。直にその存在を感じたい。
抑えきれない衝動。その熱を冷やすのは纏わり付く縛め。目には見えず、されど光を求めてしまう身を押さえ込む縛めは常に存在していた。
途端に怒りが込み上がり苛立つ意思を周囲にぶつけて落ち着かせる日々。
――ああ。ああ……。本当に忌まわしい。
再び視界を光にへと向けた。眩しくあるも瞬きを忘れてしまうほどの魅入られる光。
視界に飛び込んでくるのは一人の少女の微笑みだ。手を取り、優しく微笑みを見せる少女はまるで世に言う下界に迷い込んだ天使の様。
怒りなど吹き飛ぶ。その少女を見ているだけで全ての不快が浄化されていくようだ。
どれだけの戒めが阻もうと何度だってその光を求めた。
そして、この言葉を口にする。
――愛している。
ただその光が欲しい。
――愛している。
絶対に手放さない。
――愛している。
愛おしいその命を呑み込んでしまいたくなるほど。
愛した少女の何もかもが愛おしい。例え永遠の眠りにつこうとも、その愛した心が消えることはない。
誰も望まぬなら自分が手にする。
世界が拒むなら自分が受け入れる。
その命を奪われるくらいなら、この手で奪おう。
譲れない思いがある。愛しているのだから。
共にいよう。全てを忘れて二人だけで過ごそう。
不安なら呑み込んであげよう。そうすればなにも恐れることなどない。
――ああ。こんなにも愛しているのに、……なぜ。
愛を伝えても少女は決してこの手を取らなかった。
少女が取ったのは自分ではない他人。それは【愛】を切り捨てた者。
誰にも好意を向けず、誰も愛さない男。
……なにがその男を選ぶ理由になるのかわからない。
その微笑みも、温もりも。なぜそんな者に与えるのか理解できない。
――けしてその想いは理解されないというのに……。
少女の【好意】はその者にとって毒でしかない。その理由も経緯も、――知っている。
あの日の【願い】を忘れたか?
あの日の【苦しみ】を忘れたか?
あの日の【本心】を忘れたか?
二度とそれを望むことも受け入れることも許されない道を選んだのは――お前ではないか。
――だから、お前にだけは譲れない。お前にその光はふさわしくない。
力が未来を決め全てを証明するなら示そう。お前がどれだけ無力かを教えよう。
お前が望んだのは血みどろにまみれた世界だということを思い出させよう。
その日が来ることを望み、ただ暗闇の中で……笑った。




