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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 六章「託された想い」
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「愛された星」

 ――エリーは、自分のことを知った。

 

 【厄星】という呪いをその身に宿し、危うくヴァイスレットを崩壊させてしまうほどの恐ろしい力が本当にあったことを。

 口だけの説明のみだった頃は半信半疑でしっかりと受け止めてなどいなかった。だが、現実は本当に残酷でしかない。

 無意識に出てしまった微かなものを聞き入れ望まぬ形で叶える七つの黒星。今でもそれが怖くある。だからこそ、エリーは思ってしまったのだ。

 

 ――過去の私は誰にも、【愛】されていなかっただろう。


 ……と。

 アヴァローから手渡された額縁を見た時、エリーは目を丸くしてしまう。 

 額縁に収まっているのは一枚の写真。数人が写っており順番に見ていく。

 一人は今も近くにいるヴァイスレット王。そして、隣には金髪の男女と……。


「……これは……、私……?」


 最後に。女性に寄り添う少女の姿があった。前を向かず、あからさまに顔を隠そうとしている姿。

 それは自分。――当時のエリシア・クレイディアントだ。

 

「そうだね。これはキミだ。……そして、キミの隣にいるのが父君と母君、キミの両親だよ」


 ポツリと口を開く。紹介された二人の顔を見るも、それが自分の両親という実感が湧かないのだ。だが、逆に「そうなのだ」と受け止める。いや、言い聞かせたのかもしれない。

 父親はアヴァローと同じほどの歳。良い笑顔をしており優しそうな印象を受ける。

 母親はなんとも言えないほど綺麗な女性。こちらも幸せそうな笑みを浮かべて、我が子を寄せていた。

 戸惑うところがその写真にはあった。なぜなら、二人はどちらも幸せそうだからだ。自分という存在が間近にいるというのに。

 複雑としたものは次の言葉で更に大きくなってしまう。


「二人はキミを……心から【愛】していたよ」


 目を見開いたまま、エリーはアヴァローを見上げる。その目には疑問しかなかった。彼はそれを察していたのだろう。


「周囲にどう言われようと、彼らはキミを見捨てたりなんてしなかった。最愛の娘と言ってキミの誕生を祝福してくれていた。なにかあれば転送装置でこのヴァイスレットへ逃げ込むようにと伝えていたのだが、幾ら待ってもキミたちは訪れなかった。……だが、キミはこうして生きていてくれた。それだけでも二人は喜んでくれることだろう」


 自分の偏見が覆る。ありもしないと思えたものが事実であると告げられ……。ポタリと、額縁に水滴が落ちる。

 嬉しかった。こんな自分を我が子と思い、最後まで愛してくれたのだと。

 悲しかった。その思いを裏切るように戦火に巻き込んでしまったと。

 その【愛】を心に受け、深く二人には感謝した。

 心が張り裂けそうな感情の波が涙となって眼から落ち、エリーは額縁を抱えて泣き崩れる。


「お父様……、お母様ぁ……っ」


 記憶をなくし、初めて見た二人の姿がこの写真でよかった。自分という存在を傍に幸せと思ってくれる二人の顔を見ることができたのだから。

 

「キミは生きなさい。二人の分まで……。願わくば、幸せに」


   ◆


 見送って数秒。瞬時に残されたクロトとロウグスの間では再び火花がチリチリと散る。


「陛下を愚弄するとはどういうつもりだ?」


「主人がいなくなった途端威嚇すんなよ。いいこぶってる犬はこれだから嫌なんだよ」


「……この小僧がぁ」


 吹っ掛けたのはロウグスからだったが見事にカウンターが飛び、受け止め、勢いよく返すことができない。握り拳を作り堪えているのは大人だからという威厳もあるのだろうが、クロトにとってはどうでもよくある。

 しばらくすれば部屋の中からは外にいる二人も聞こえるほど、少女の泣く声がした。

 泣いた声は聞き覚えがあり、クロトとしては「またか」と呆れてしまう。


「つーか。噂通りだな」


「……なにがだ?」


「お前らと主人のアイツへの態度だ。やっぱクレイディアントと正式に友好だったのは現国王のみ。お前らにとってアイツは邪魔なんだろ?」


 痛いところを突く。おかげでロウグスは言い返すことに遅れをとってしまった。

 間違っていない現状と過去。中央であった大国が滅んでなおアヴァローの気が変わることなど一切なかった。


「……陛下は、信じておられたんだ。……いつか、あの姫の呪いが解けることを。私とて、あんな幼い子供を手にかけるようなこと、できればしたくなかった」






 これはロウグスが一番槍として就いて間もない時の記憶。

 二年ほど前。彼は人目を避けて会う主人を遠くから眺めていた。

 それは隣国の王と王妃。そして、王妃の後ろで隠れながらいる小さな子供。――当時のエリシア・クレイディアン。

 自国の王城でも滅多に姿を現さない少女をこの時初めて見ることとなる。母親と父親同様の金髪。そして、噂に名高い星の瞳がわずかながら見ることができた。

 こちらの視線に気づいたのか、少女はすぐに王妃の後ろにその身を隠してしまう。


「……」


「あはっ。嫌われちゃったわねロウグス。でも仕方ないんじゃないの? あの子、他人が怖いのよ。ほら、陛下にだって怯えてる」


 傍らで風精霊(エアリエル)がくすくすと笑いながらそう言って状況を眺める。主人である王も少女の反応には苦笑し、それでも怖くないと必死になって手を差し伸べていた。

 王妃にも説得され、少女は恐る恐る指先だけでも触れる。

 微笑ましい光景。しかし、どこか複雑でもあった。

 それは少女が恐ろしい呪いを抱えているということ。

 いつその力に呑まれてしまうか。そして、今の少女にそれをどうこうできるとはとても思えない。

 少女は見るだけで身も心も脆い存在だからだ。

 落胆したのも事実。なら周囲と同様、いつまでも抱えるよりも切り捨てるのが懸命な判断だと悟る。


「――どうかなさいましたか?」


「……っ。ああ、すまない。貴方はクレイディアント王の付添人ですか?」


 ふと声をかけられロウグスは急いで振り向く。まだ若い学者に風格のある男性がそこにはおり、細やかな笑みを浮かべていた。この国で見ないところ、彼は隣国の付添人のようだ。


「ええ、まあ。姫様が心配でして」


「……」


「ああ、ひょっとして()()()と思われましたか?」


「そういうわけでは……」


「いいんですよ。現にそうですからね。……アヴァロー陛下はとてに寛大な御方ですね。姫様に対しあの様にされる方はそうはいませんので。使用人も大臣も、兵士ですら皆姫様を恐れていますから」


「……そちらは違うのですね」


「私も噂だけの時は同じような考えでしたよ。ですが、いざ見てみれば目を疑いましたよ。姫様は儚くあって、私はそんな姫様の呪いを何とかしたいと思い陛下共々解除法を探しています」


「解除、できるのか……っ」


「いまはまだ……。ですが、姫様が安心して過ごせるように私はそうして差し上げたいですね。何にも怯えることなく」


 前向きに若き研究者は今目指す目標を口にした。

 だが二年後、悪夢が訪れた。

 先走ったのか魔王の一角による進軍。同時に他国からも。魔族だけでなく人からも狙われてしまったクレイディアントは一人の元凶により崩壊を余儀なくされた。

 王都は姿を消しその場にいた住人の消息は不明。王都から離れた国民の中からもその時会話をしていた研究者はいなかった。 

 これが救おうとした者の末路と思えばなんと悲惨なことか。

 当時は元凶の消息もわからず安心していたのかもしれない。

 ……こうして出会い、生存を確認するまでは。





 刹那の思い出にふけってしまったロウグス。ふと開かれた扉の音に我に返って前へ向き直る。

 一人。先に出てきたのはヴァイスレット王だ。


「……今は好きなだけ泣かせておく方がいい。きっとこれからもっと辛いことがあるだろうからね」


「……」


 ふと、クロトは目を背けた。エリーの母親を自身の手で殺していることを今更後ろめる気はないが不意にそういった素振りが出てしまった。

 そういった些細なことに気付かずいるかのアヴァローは肩の荷を下ろした様子。エリーに伝えるべき事を伝えきり一段落ついたのだ。

 一息入れるも傍にロウグスが寄ればすかさず耳打ち。


「陛下。そろそろ表に戻りませんと本当に他の者が不審に思われます……」


「急かすなぁ、ロウグスは……。そういうわけだが少年、此処まで付き合ってもらって済まなかったな」


「……べつに」


 かしこまるでもなく誰であろうと態度を貫くクロト。ロウグスから鋭く睨まれるも軽く受け流してしまう。

 そんな二人の関係にアヴァローもすっかり慣れてしまった。

 しばらくは元の部屋から此処周辺以外の出入りは不可能であると忠告をされる。仕方なくも現状を受け入れるしかなく。最善であると思考が判断すればクロトも納得がいった。

 ロウグスが急かしながらアヴァローと共に戻ろうとすれば、アヴァローがふとクロトに向き直る。


「そうだ、少年。一つキミに頼みたいことがあったのだ」


 一国の王がこのような無礼極まりない者になにを頼むというのか。気は進まないが話を聞こうと顔を合せて見れば、アヴァローは深く頭をこちらに向け下げていた。

 隣にいたロウグスもそれには狼狽するも彼はそれを聞かず。


「どうか、あの子を頼む……。あの子は不幸の星に呪われてしまっただけなのだ。なんの罪もあの子にはない」


「簡単に頭下げられても迷惑だ。……言っておくが、俺はアンタが思うような奴じゃないからな?」


「構わんよ。それであの子が納得しているのなら、私はそれでいいさ。あの子の生き方はあの子に決めさせてやりたいからね」








 アヴァローの言葉はクロトにとってとても受け入れづらいものだったのは確かだ。自分の考えとは違い頼まれることなど面倒でしかない。余計なことはするつもりではないが、エリーの身の安全が自身の命にも関わるといいことが大きな繋がりになってしまっている。

 こちらの事情など問い詰めることもなかった。その必要すらなく信じられるのも腑に落ちない。どこかくえない、それがこの国の現ヴァイスレット王なのだと理解した。

 一人廊下にたたずみ、複雑な気を抱えていればいつの間にかエリーの泣き声は止んでいた。しんと静まった様子にクロトは無断でその部屋にへと足を踏み入れる。

 部屋の中央では一つの額縁を眺めていた。最初に見えた横顔は涙の跡を残しつつ、眺める先を微笑んでいる。

 クロトの気配でも感じたのか、エリーはふと扉の方にへと顔を向ける。


「……クロトさん」


 少し驚いた様子で手にしていた額縁をテーブルの上に置き、目元を拭ってから再度向き直った。


「すいません……。ひょっとして、うるさかったですか?」


「……べつに。それで、お前はどうするんだよ?」


「……? どう、って……?」


 クロトは二本の指を立てる。


「お前には今二つ選択肢がある。一つは今まで通り俺に付いてくる。もう一つはこのままこの国に残るかだ」


 唐突な質問。急に問われたエリーは何度か頭で選択肢を復唱し考える。

 

「ど、どうしてそんな急に……」


 この問いはエリー自身も想定外だった。

 クロトの目的としては自身の身の安否と存在が必要不可欠。そう会った頃から聞かされている。これまで拒否権もなく、ただクロトに付いていくことがエリーのできることでしかなかった。その途中でネアの誘いも断った。

 にも関わらず、クロトはそんな二つの選択肢を突きつけてきたのだ。


「そんなんで、お前まだ俺と一緒に来る気でいるのかよ?」


「……」


「お前は過去の自分を少しだが知った。お前のことを周りがどう思っていたのかも。忘れてねぇだろうが、俺はお前の母親を殺している。それでもお前は自分から進んで来れるのかよ?」


 忘れてはいない。自分の肉親を殺した者は目の前にいる。聞かされた当時は母親の姿は知らず深く傷付くこともなかった。

 だが……。

 自然と目が写真にへと向いてしまう。

 優しかった両親。捨てずに愛してくれた二人。当時の自分にとってかけがえのない存在。それを奪った魔銃使い。

 

「此処に残ってもいいんじゃねぇか? あの王様ならお前には危害は加えねぇだろうし――」


 エリーの安全が確保できる。そうクロトは言いたいのだろう。

 しかし、


「――行きますっ」


 エリーは納得がいかなかったにか、そう答えた。

 

「今更、そんなこと言わないでください。……言ったじゃないですか。私は貴方と……、クロトさんと一緒にいます。こんな私でも役に立てるなら、私は貴方の願いが叶うまで一緒にいますよ」

挿絵(By みてみん)

 親愛なる父と母。二人の写った写真から離れ、エリーはクロトの手を取り、以前の誓いを再度述べる。

 その星の瞳に迷いなどなかった。真っ直ぐにクロトを見て、事実を受け入れつつエリーはその選択を選んだ。

 正直、クロトはこの時驚いていた。人殺しの手を取り、更に共にいるという選択肢をエリーが選んだことに。

 複雑な思いでしかなく不快でもあった。この道具である存在を理解しようとしてしまうと思考がよくない方向にへとそれてしまう気もした。

 だからこそ。その選択を選ぶことは自分のために当たり前だと言い聞かせることとした。


「……アホか。当たり前だろうが」


 本当にくだらないことを聞いてしまった。

 

「ちょっとでもお前が妙なことを考えないか試しただけだ。今更背くようなら修正するだけだからな」


「クロトさん」


「まだ、俺はお前が必要だからな。それに、この国はあの王以外何するかわからねぇし。……だからお前は一緒にいろ。俺の用が済むまでな」


「――はいっ」


 少年は道具を手に持ち直す。

 自分の目的のためにそれが必要であると言い聞かせ。

 少女は少年に続き道を歩む。

 どのような危険があろうと、その場こそが自分の居場所であると信じ。


   ◆


 しばらくしてから街にいたネアとイロハが内密に招かれ合流。目を覚まし無事であったエリーに両者は大層喜び騒がしくもあった。

 だが、長く再開を祝している場合でもない。

 ヴァイスレット王ことアヴァローに案内され、四人が向かったのは城から続く地下水路。水面にはなんとか四人は居座れる舟が一艘が止められていた。


「事情もあり急ぎで申し訳ないがキミたちにはこの舟で王都を離れてもらう。この水路は北東に向かいヴァイスレットの外側まで続いている。後はキミたちで判断してくれたまえ」


「わざわざ陛下からこのようにしていただき、ありがとうございます。修復に関する手続きはこちらからも協力要請をさせていただいてますので後のことはお願いします」


 少し、寒気がした。そう思ったのはクロトだ。

 あの超が付くほどの男嫌いなネアがアヴァローになんの嫌悪もなく頭を下げていたという衝撃的な事実がそこにある。

 明日は雪か。はたまた更なる魔王の襲来もありえる。

 

「なによクロト! 私だって礼儀くらいあるわよ、アンタと違って!!」


「……べつに俺は何も言っていないが」


「なんか思考がうるさい!」


 軽く心を読まれた気分だ。間違ってもいないため誤魔化すように顔をそらす。

 ネアがエリーを連れ慣れない舟の上へ誘導。平然と続くクロト。そして、舟すら必要としないイロハは翼を広げた。

 準備が整えば舟は進みだし残された者たちが遠ざかっていく。

 エリーは身を乗り出す。


「あの……っ、ありがとうございました!」


 少しの時間ではあったがエリーにとってヴァイスレット王の存在は大きくあった。大切な想いを渡され感謝を言葉にする。


「エリシア。……いや、今はエリーか。キミの力はキミのモノだ。だからこそ、きっとキミにも制御できるはず。二人のためにも強く生きなさい」


 心に染み渡る言葉に、また涙が溢れてしまいそうだ。

 その溢れてしまいそうなモノをグッと堪え、最後にエリーは笑顔を向け「はい!」と返事をした。






 しだいに舟は見えなくなり、静かな水音だけが残る。


「……ようやく行きましたか。これでとりあえず一安心です」


「そう言うな。しかし、見違えるようだったなぁ。あのエリシアが前に進む勇気を持ってくれたことは二人にとって朗報だろう」


「確かに、そうですね。あの様子ではもう二度とこの国には足を踏み入れないと思いますが」


「そうかもな。では戻ろうかロウグス。上でうるさいのが騒いでなければよいがな」


 不安としたことを言うがアヴァローは軽く笑みを浮かべている。機嫌が良いことはロウグスにとっても幸いなのだが、思わずため息が出てしまう。 

 一段落付き、なんとか今後のことを考えつつ頭を悩ませるが……。


「……それと。一つ気になることがあってな。――そこにいるのは誰だい?」


 言葉を真に受けロウグスの思考が切り替わる。

 アヴァローの視線の先に目を向け彼の前に立つ。目を凝らし虚無かと思われた先にはほんの瞬き一つで一変してしまう。

 目の前には黒い姿の少女がいた。


「あら? ……いつからお気づきで?」


 少女は目を丸くし小首を傾ける。その瞳は赤くあった。

 その時点で少女が魔女なのだと理解でき、ロウグスの警戒心はより一層高まった。

 うって変わってアヴァローは動揺せず。


「いつからと聞かれても、ついさっきだよ。また会ったね魔女殿」


「……ということは、件の魔女とはあの少女なのですかっ?」


 アヴァローは静かに頷く。ロウグスは矛を手にし風精霊を傍に置く。隣では精霊が玉の目を見開かせ、その頬には汗をにじませた。


「なにこの魔女、すっごい嫌な気配っ。あんな見た目でも魔力の大きさが半端ないよっ」


 意外性はあるだろう。見た目はあどけない少女の姿。しかし、ビリビリと感じる威圧は隠すことなどなく、むしろ晒していた。

 盾として立ちはだかるロウグスなど眼中にない魔女は、くすくす、と微笑。


「陛下がこんなところでロクな警備も付けずにいますと危ないですわよ? いつ命を狙われるかわからないのに。……例えば、そう……魔女とかに、ね」


 閉じられた傘の先端が王の首を狙うように向けられる。

 向けられた敵意に反発しようとする騎士。その肩を掴み止められる。


「キミは、私を殺しに来たのかい? こんな老いぼれになんの恨みがあるのかな? 生憎少し前にも他国の王に嫌われたばかりでな、どうも私は恨まれやすい奴らしい」


「……ふふ。なるほど、噂通りくえない王様なのね」


 傘を下ろし、魔女は深紅の眼で鋭く王を見た。


「【時の銀時計】……。時の管理人の僅かな力の備わった魔道具。それでも一時的に時を止めることが可能。今のは時間稼ぎでもあるのかしら?」


「ああ、やはりバレていたか」


 懐に入れていた手を出す。掌に収まるほど銀時計を晒し苦笑する。


「護身用だよ。私に何かあると国が混乱するからね。……それに、キミもそんな怖いことを言わなくてもいいんじゃないのかな?」


「……ええ。不愉快だけど今更だもの。本当なら【厄星】でこんな国消えてくれれば良かったのに。残念だったわ」


「なっ!? まさか、あれは貴様の……っ」


「……」


 すっと、ロウグスに赤い瞳が向く。目が合うだけで心臓が強く跳ね呼吸を一瞬止めてしまう。

 また瞬きをすると、視界から魔女が忽然と消え……


「ふーん、そう。確かに面影はあるかしら……?」


「――!!」


 一歩足を下げ目を見開く。すぐ近くで魔女はロウグスを見上げ腑に落ちないと眉を潜めていた。


「……まあいいでしょう。過ぎてしまったことは仕方のないことよね」


「なっ。どういう――」


「余計な詮索をしないでちょうだい。本来ならあの戦いで死んでいた命だというのに。その命があるだけありがたく思うのね」


 少女は不機嫌なままそっぽを向く。悪態が突き刺さるも後ろから「落ち着け」とアヴァローに止められる始末。


「キミなのだろ? あの子に【厄星】を使わせたのは」


「切っ掛けは私だけど、追い詰めたのはこの国の人間。私はそれ以上あの子に手を出してないわ。……塔は呆気なく壊してしまったけど」


「充分だよ。おそらく魔王もキミが仕向けた。全ては【厄星】でヴァイスレットを崩壊させるために。魔女一人にここまでされるとはね、困ったものだ。おかげで住人に大きな混乱が出た。王としては心痛むよ」


「……じゃあ、何故あの子を庇ったのかしら? 貴方のそれは矛盾している」


 民か元凶か。その選択にアヴァローは元凶を優先し庇った。真実を誤魔化し民の信頼を裏切った行為でもある。

 アヴァローはしばらく黙り込んだ。そして、肩をすくめ苦笑する。


「あの子も大事だからだよ。それでは不服かな?」


「……そう。再度理解したわ。私は貴方のような善人が心底嫌いなの。あの子にいらぬ希望を与えてしまう貴方がとても邪魔。でも些細なことだわ。私の計画になんの支障もない」


 傘を広げ魔女はくるりと背を向け闇に向かう。小さな身が陰り消えようとした時。一つアヴァローは声をかけた。


「キミの目的とは何なのかな?」


 魔女はピタリと止まり、体を傾けて後ろを振り返る。

 その時の真っ赤な瞳の色がより鮮明に見えた気もした。


「女性の目的を聞くなんて無粋よ陛下。そうね、言いたいこともあったし一つ教えてあげる」


 暗がりだが、魔女の少女は口元を歪め笑みを作る。表情には出さなかったがその笑みに臓器が一瞬冷えた感覚がアヴァローにはあった。

 

「あの子の両親が愛していたと貴方は言ったわね? でも、それは違うわ」


「……」





「愛していたんじゃない。――愛するように仕組まれていたの」



『やくまが 次回予告』


エリー

「皆さん、お久しぶりです。エリーです。なんだか私の今回の件は記憶のないところが多々あって自分が自分でない感じでした」


クロト

「……まあ、後半からはほぼ表に出てきてなかったからな」


エリー

「予告も二部では私初めてでこの一回だけなんですよ? ヒロインとしてどうなんでしょうか? ネアさんとイロハさんはいいのですが二回ほど全く別の方々がされてたように感じますっ。予告なのに困りましたね」 


クロト

「この場にどんな使命感持ってんだよ」


エリー

「主役の特権というモノだと思いませんか? クロトさんも一応主人公なんですからもっと出てもいいと思うんですよね。ただでさえ主人公の座が私にへと来るような錯覚が皆さんに芽生えてしまうんです」


クロト

「いや主人公の座とかべつに興味ねぇがお前より下だと思うとなんかムカつくな。久々に出てきた分余計になんか腹立つっ」


エリー

「そんなことよりも予告でしたねクロトさん。二部も無事終了しました。ヴァイスレットから移動するわけですが次の目的地は何処になるのでしょうか?」


クロト

「知らねーよ。ほぼ街の中だったから一変して自然の中にでも放り込まれんじゃねぇか?」


エリー

「それだとまた危険もありそうですね。虫はもうこりごりです。でも狼とかも危険ですよね。あ! あと蛇とか」


クロト

「確かに毒とかもあるからな。噛まれるなよ? 死んだら許さん」


エリー

「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第三部 一章「囁きの声」。そういえば最近誰かの声がときおり聞こえるんですよね」


クロト

「幻聴かよ……。寝起きでボケてるのか?」


エリー

「う~ん。知らない人の声なんですよね……」

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