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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 六章「託された想い」
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「会談」

 しんとした室内は少々暗く、南の盾の国ヴァイスレットの現国王――アヴァロー・ヴァイスレットは椅子に腰掛け前を見る。

 彼の前には他数名と会談できるような円形のテーブル。席には他に誰もいない。その代わりに、アヴァローの視線の先には二つの投影水晶により作り出された映像が映り込む。

 一つはまだ博学とした若々しい少年。もう一つは着飾りした大人の女性だ。


『ははっ。まさか今回の会談がこのような話をすることになろうとはなぁ。なぁ、アイルカーヌ王?』


 女性はケラケラと溢れそうな涙を堪えつつ隣の映像に映る少年にへと声をかける。

 金の長髪と装飾品に身を飾るは東の国、精聖の国レガルの女王である――ベアトリス・リーフォン・レガル。


『急にボクに同意を求めないでほしいですよ、レガル王。ボクとしては、この事実らしきことを直接ヴァイスレット王に聞きたい、ただそれだけですから』


 王としてはまだ若すぎる年頃の少年。北の魔科学の国、アイルカーヌの王――コーア・アイルカーヌ。

 王という地位にいるが彼はまだその地位に就いたばかりでしかなく、この数回目の会談にはまだ慣れていない戸惑いの表情を滲ませている。

 コーアが盾の王へ視線を送ればベアトリスも同様に向き直る。三つの大国の王が向き合い、そして本題はアヴァローから始まった。


「言いたいことはわかってる。まずは魔王の襲撃なのだが……」


『余計なものは挟まなくてもいい……。そんなものに余は興味などない』


 手を払いベアトリスは白けた目で割り込む。アヴァローからは眉を歪めため息。こちらとしては国の一大事だったというのに軽く扱われたものだと困る。

 椅子に背を預け彼女に話の続きを譲った。


『本題はただ一つ。あの【厄災の姫】が生きていたということだ』


 やはりか。

 アヴァローは当然だがコーアも息を呑み緊張が高まる。

 うってかわってベアトリスは悠々と続けたものだ。


『そちらの騎士ランスロットの風精霊(エアリエル)から話は聞いている。とぼけて隠そうとしても無駄だからな?』


「さすがに情報が早いな……」


『当然だ。余を誰だと思っている?』


 レガル王であるベアトリスはこの三人の中で最も異常と呼べるものがある。

 それは精霊に愛され過ぎていること。

 基本となる四元素精霊だけでなく多くの精霊から好意を寄せられ、それらの力が彼女の最大の武器でもある。

 精霊は嘘など言わない。自然のままに、彼らを疑うことなどなくあり、その反面ベアトリスは人間不信というものが強く根付いている。そこがこういった場での最大の汚点でもあった。

 悪化を極めれば最悪の結果を招くこともある。


『魔王の襲撃。それに【厄星】。元凶はあの娘にある。それで、どうなのだヴァイスレット王? まさかとは思うが、この期に及んであの娘を匿っている、なんてことはあるまいな?』

 

 どうもその後の情報はベアトリスには行き届いていないようだ。

 不安を滲ませるコーアも一緒になってアヴァローにへと視線が集中。しばらく上を見上げていたアヴァローは、すっと向き直って直ぐに答えをだした。



「残念だがレガル王。――()()()()()()()()()()()()()()()よ」



 …………。

 答えに画面越しの二人は目を見開き絶句した。

 アヴァローはしっかり聞き入れた二人を見るなり、うんうん、と頷き再び宣言をだす。


「だからな。あの子は来ていなかったよ」


 同じことを言われ、更に二人の驚いた顔が続いてしまう。

 しばらくして、ベアトリスは顔をうつむけ肩を震わせた。


『ふ……ふふ……っ。あっはは! おい、ヴァイスレット王。お前、余を馬鹿にしているのか?』


 ベアトリスは笑った。しかし、顔は笑ってなどいない。

 むしろその表情は険しくあり嫌悪感を漂わせている。

 彼女が怒るのも無理はない。アヴァローは「【厄災の姫】はいない」と告げたのだ。

 それは大きな矛盾をしている。

 嘘偽りのない精霊からの知らせで確信であった事実が一気にひっくり返される始末。精霊を第一に信頼しているベアトリスにとってこれは怒りを露にする他にない。

 意外とは思わない。アヴァローもこの展開を予想してか真っ正面に向き合う。


『お前とクレイディアント王との関係など当の昔から知っておる。まさか今でもそんなでまかせを言えるとはな、この()()()がっ』


「相変わらず精霊しか信用しないのだな君は……。だが本当だ」


『ヴァイスレット王っ。これ以上は……』


『――でたらめだな! ならば直に殴り込みにでも行かせてもらおうか? もっとも、戦の後の盾など脆いものだろうがなっ』


 止めに入ろうとするコーアのことなど見向きもせず、目の前では大国二つによる戦争の火種が子供の目でも見えるほどチラチラとある。

 両者目を合せたまま。アヴァローは途端に肩の力を抜き落ち着いて話を進めていく。


「それは構わんが、こちらにはまだ精霊結晶(エスプリスタ)の残骸が残っている。君らの勢力が暴れれば、それは精霊王の怒りにも触れることとなるぞ?」


『……脅しのつもりか?』

 

「そんなつもりはないさ。我らは戦いを好まないからな。……それに、君の情報も間違ってはいないからな」









「…………っ! ――陛下っ」


 扉を開き会談部屋から出てきたアヴァローに一番槍ことロウグス・ランスロットが駆け足で寄る。

 血相を変えたような表情にアヴァローは首を傾け不思議とした。


「どうしたロウグス? 何か問題事でも起きたか? 城下の修復に関しては時間は掛かるだろうがドワーフ族の協力もある。難しいのは第三の魔道障壁になるが――」


「いえっ、その辺は細々とありますが……っ。先ほどまでの会談、他国とはどう話を付けられたのですか?」


 王のみの会談に彼らの内容などは耳に入りなどしない。今回の魔王襲撃と【厄災の姫】に関する問題は容易く他国も理解し解決するわけもなく。一歩間違えれば戦争の火種にも発展するものだ。

 ロウグスの風精霊(エアリエル)からレガルには事の情報がより一層王の耳に届いている。それをふまえ、彼は会談中部屋の付近を落ち着かない様子で待っていた。

 時間はしばらく掛かっていたが平然とした表情のアヴァローを見る限り大事なく終わらせたのだろう。

 不安を押しころすロウグスの肩を叩き「安心しろ」と一声。


「なぁに。事実を言ったまでだ。――【厄災の姫】はこちらに来ていなかった、とな」


「――ッ!? ほ、ホントにそれを言われたのですか!? さすがにレガル王はそれを聞き通すとは思えませんが!?」


 確かに。アヴァローは難しく眉を歪め頷く。

 その後は苦笑し、


「まったくレガル王はまだ若いのに厳しいよなぁ。おかげでタヌキ呼ばわりされてしまったわ。……だがタヌキもなかなか愛くるしいとは思わないか? 遠方にある異国の生物でな、書籍でも見たがまん丸としておって私は好みだがなぁ」


 まるで笑い話かのように語り出す。ついでに話を逸らしだすためロウグスはすぐに止めに入った。


「いえっ、タヌキの話はまた後ほど……っ。それからどうなされたのですか?」


「ロウグス。今更だが此処で会談の内容を語るのはどうかと思うぞ?」


「それはわかってますっ。……レガル王の怒りをどう片付けられたと?」


 周囲に目を配ってから今度は王に耳打ちをした。王のみの会談だからこそ公害は自重すべきなのだがその結果だけでもとロウグスは懇願。アヴァローも「仕方ない」と、二人は壁に向き合い肩を組んで小声で……。

 ……。

 …………。

 

「……なるほど。まんまと良いように誤魔化しましたね」


「だが間違ってはいないだろう? 余計な詮索をされる前に、()()には動いてもらわんとな」








 これは昨日のことだ。戦いの跡地となった第三城下街に訪れたヴァイスレット王はエリーというクレイディアント第一皇女である【厄災の姫】の生存を確認した。

 直に会ったことのあるアヴァローに見られたからには何の言い訳も通じない。ネアが彼にこの一件を賭けたのは崩壊前から続く二つの国の関係からだ。周囲にはヴァイスレットの兵士という自国の集い。王としてヴァイスレットの責務を果たし彼女の死を宣言するか、それとも……。

 緊張がほとばしる中、アヴァローは眠るエリーを抱き起こし宣言する。



「ロウグス。――この子は【厄災の姫】ではないよ」



「――ッ!!? なっ!?」


 一番槍。盾の国の矛こと兵をまとめる騎士団長。そのロウグスがあろうことか驚愕した顔で王の言葉に言葉を詰まらせる。周囲の兵士もざわつきだし状況の整理に戸惑う。

 混乱する状況下でもアヴァローは話を続けた。


「ここまで大事になっているが確認をしにきて正解だった。お前たちは罪のない少女を殺そうとしていたのだぞ? 国のためだろうが少し横暴だ。……私は悲しいぞロウグス。お前がいるから安心したというのに」


 王は「よよよ」と、ほろりと涙を拭う。更には罪の責任を押しつけられ国のために尽くそうとした者たちは言葉が出ない。

 だが、これで納得のできるロウグスではない。周囲と違い彼も【厄災の姫】とは実際過去に会ったことがあるからだ。


「まっ! 待ってください陛下!! いったい何をおっしゃられるのですか!? その娘はどう見ても――」


 ロウグスが間違いないと言えば矛盾点が生じ余計に周囲に混乱を招く。彼が言い切るよりもアヴァローは言葉を割り込ませそれ以上の発言を遮断する。


「実はこの件、()()が絡んでおってな。襲撃時、私にだけ彼女は姿を現しいいように嘲笑われたよ。「せいぜい足掻け」、とな……。この子も【厄災の姫】という名と姿を押しつけられた被害者だ」


「魔女……が……っ? ですが、それでも【厄星】の件はどうなるのですか!?」


「魔女の噂など多く聞くだろう? 彼女たちにとってそれくらいは容易い。特に今回絡んできたのは相当の手練れだ」


「…………誠、なのですか? 魔女が今回の件に絡んでいるというのは」


 信じようとするロウグスは最後にそれを問いかける。

 王はゆっくりと頷いた。


「疑うなら後で幾らでも話を聞く。それよりも、お前たちにはすべきことがあるだろう?」


 周囲に目を向け酷い有様に眉を歪ませる。このままでは非難した住人も晴れた心で戻ることなどできない。

 ヴァイスレットが今とるべき行動は街の修復作業だ。


「怪我人の手当と、動ける者は即修復作業に取りかかるようにしてくれ」


「……わかりました。して? そちらの四名はどうされるおつもりで?」


 ロウグスとアヴァローは四人にへと視線を配る。まともに話のできるネアは王の発言に圧倒されてしまい目を向けられるまで開いた口が閉じなくなっていたところ。

 ネアにアヴァローは最後に向き直るためハッと我に返る。


「とりあえず巻き込まれた被害者でもあるが、できれば手伝ってくれぬか?」


「……わ、私!?」


「他にいないだろう? 安心したまえ。目覚めるまでこちらの少女は城の方で丁重に預からせていただく。エリシアに面影もあるため誤解を招かぬように人の目は避けよう」


「…………お心遣い、感謝します。……それと、そこでぶっ倒れてるのもできれば一緒に、かつ同室でお願いします。起きた時にその子がいなかったらなにしでかすかわからないので」


 男とはいえ王にはその頭を深く下げるネア。そして、自身が蹴り倒したクロトを指さす。

 先ほどの様に暴れられれば今の件が台無しとなってしまう。


「そうか。では、そうさせてもらおう」







 これが当時のことだ。この時に言ったことと同じ事をアヴァローはレガル王に告げたのだ。

 魔女のことは彼女もよく聞いており可能性はあるため渋々それを鵜呑みにすることとした。だが、完全に信じたわけではない。会談の最後には不敵と笑いこう告げた。


『――今回は見逃してやるが隠し通せると思うなよタヌキが? その時はそれなりの制裁を与えてやる』 


 と。少しばかり肝を冷やすようなことを言われた。

 

「確かに精霊の情報通り【厄災の姫】はいた。だが、それは偽物であった。そう兵にも告げたからな」


「魔女の関与というのは?」


「それも本当だ。お前たちが戦っている時に彼女は私の前に現れた。……幼い少女の姿だったな」


 アヴァローは確かに魔女と当時に会っていた。

 それは黒に身を包む少女。赤い瞳を晒し魔女であることをこれ見よがしに主張する魔女。少女は城より見守る王に向け嘲笑し、国の崩壊を望んでいた。 

 少女の言葉は今でも頭に残っている。「気の毒」と言いつつ笑みを浮かべる様子すらも。

 これはその仕返しだったのやもしれない。エリーが偽の【厄災の姫】という細工を施したという事実でない所行を擦り付け今回の一件を退けたこと。

 なにはともあれ。一番の問題が解消されたことにはアヴァローも肩の荷を下ろす。


「さすがにレガルに圧をかけておくのは寿命が縮むかと思ったなぁ。精霊結晶(エスプリスタ)の残骸といっても既に石同然で精霊にとって問題はないというのに」


「策士でいらっしゃるのか賭け事を楽しまれているのか……。私も()レガルの出身。さすがにあの国とは刃を交えたくないものです」


 これはタヌキ呼ばわりされても仕方がない。失言なためロウグスは心の引き出しにそっとしまった。


「はは。すまぬな」


「笑い事ではありませんよ……陛下……」


 ロウグスもまた肩を下ろし重い息を吐き捨てる。

 

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