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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 六章「託された想い」
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「激情の華」

「……それで? 結局六番席は晴れて空白ってことになったわけ?」


 玉座の上で白けた顔のセーレが上を見上げながら問いかける。視線の先では銀時計をいじるクロノス。間を開けてからその応えを彼女ではなく三番席であるハーデスが行う。


()は、……な。だが席の位置など変わるわけなかろう」


「……ああ、それもそうだよね。確かこの前、次の器の準備もおおかたできてたって言ってたし。……まだ幼体らしいからだいたい百年後ってところかな? ということは、それまではハーデスが魂を冥府で管理してるってとこ?」


「そうなるが、手酷くやられていたな。魂の大半が破損している。契約通り預かり後に器に戻すが……記憶の引き継ぎなどが不十分だろうなぁ。元通りとまではいかんだろう……」


「ふーん。じゃあドラゴニカは? アレやったの四番席のでしょ?」


「さあな……。クロノスは聞いておるか?」


「一応。本人からしたら属でも一度しか会ったことのない()()だからどうしてようが知らん、ということらしい。まあ、機嫌は良かった方だと思うがな」


 魔界に存在する【王の間】。此処には既に半分近くの魔王が自身の玉座に居座り言葉を交わしていた。

 人間界。盾の国、ヴァイスレットを襲撃した六番席魔王――【鋼殻蟲のセントゥール】。なにがあり、最後にどのような結末を迎えたのか……。この場に存在する魔王は知り話題は常にそれ壱択だ。

 

「人間でもやる奴がいるもんだねぇ~。あの馬鹿みたいに硬いセントゥールを消滅させちゃうなんて。経緯は不明だけどそれなりの悪魔使役してるとか。しかもあの炎蛇だよ? 魔界でも結構名が上がってたよね♪ ボクは彼の皮衣好きだったよぉ。美しいもん」


「いなくなった途端本音を言いまくるなぁ、セーレは……」


「だって本当のことじゃん♪ マジで恥晒し? ボクの方がよっぽど賢くいるし、ちゃんと此処に残るっての」


 歓喜を堪えきれずセーレは腹を抱えて笑う。子供の様にはしゃぐセーレの右隣では金の装飾がカラカラと動く。

 九番席魔王――【霊王のオリジン】。丸く愛らしい姿に、それを覆うようにある金の人形装飾。まるで胎児を抱える様の装飾は腕を動かしセーレの気を向けさせた。


『***? ……**、****』


 胎児の如くあるオリジンは指を加えつつ言葉とは呼べない声を投げる。セーレはふと顔をしかめ、金の手をペッと払った。


「お前にも本当に騒がれたもんだよ。ボクは子守なんてもうヤダからね?」


『***。****、****……』


「甘えても嫌だよっ。……次にああなったらソファレかバルバトスにでもあやさせてよクロノスぅ!」


「……いたらな」


「んぶーっ」


 セーレは甘えたがりのオリジンの面倒をたまに見ている。隣の席の縁もあるがセーレにそういったものは正直向いてもいない。そして今一層不機嫌なのかは今の話題と関係していた。

 先日のヴァイスレット王都攻防戦にて乱入をした【厄星】による【精霊結晶(エスプリスタ)】が人間界にて出現した件が大きく絡んでいる。

 当時この場に居合わせていたセーレは隣でことの異常さに酷く荒れたオリジンの面倒を上位の魔王に押しつけられてしまった。赤子の如き泣きわめくオリジンの声は盛大にこの間に響きなんとも言えない事態に……。そのことからセーレはしばらくオリジンにそっけなくあった。


「ふふ……。セーレん、そうご機嫌斜めにならんといてぇ。せっかくの美しさが損なわれるよぉ?」


「ボクは機嫌悪くても可愛いもーん。そう言うソファレはいつにも増して忙しそうで……」


 顔を下に傾け見下ろす。独特な口調。白のドレスを纏う空色の髪をした貴婦人。広い帽子からは髪と同色の長い垂れ耳。獣の王、十二番席魔王――【商業王のソファレ】は自身の玉座で書類に印鑑を押し、傍らで寄り添う二足歩行のウサギ魔族にへと素早く渡していく。表情はにっこりと、手は素早く。慣れた様子でこれでもかと忙しい様を見せつけていた。


「え~、わかるぅ? ウチって金銭管理だけでなく商売もしてるさかいぃ、とーっても忙しいんよ~。先日のセントゥールはんのおかげで物資とか色々注文も入ってぇ、忙しいってその分お金が動くってことよねぇ。捗るわぁ♪」


 魔界という魔の巣窟にて【金】という概念を与えたソファレ。彼女の基本は魔王の立場よりもその商業にある。その域は魔界だけでなく人間界にも伸びている。中立立場であるドワーフ族を通して人間界へ魔界でしか調達できない様々な素材などを提供。世の魔科学発展にも裏で一役買っている大きな存在だ。魔界だけでなく人間界にもウサギの行商人を派遣するなど、超が付くほどのウサギ愛好家でもある。更には魔界貴族でもあり顔の広い魔王だ。

 書類に全て印を押し終えればソファレは拝見済みの書類を手に取ると、それを景気よく上にへと投げばらまく。


「終わりーっとぉ。いやぁ~、ええねぇ。もっとバンバンお金集めたいねぇ。うふふ♪」


 そして、かなりの守銭奴でもある。

 紙吹雪の様に降る書類をウサギたちは慌ただしくせっせと回収。塔の様に積み重ねて一番席に一礼すると門をくぐって出て行った。

 もちろん。そんな愛らしい配下のウサギたちにソファレは機嫌良く手を振って見送る。


「……さて。オリジンはん。ウチが遊んであげるさかい、こちらにどうぞぉ♪」


 手招きして誘えばオリジンは自身を覆う人形装飾と一緒になってソファレに寄る。二体は楽しそうに手合わせ遊びを始め和やかな空気を漂わせた。


「あんがとソファレー」


「ええんよぉ。お礼はまたなにか美品などでええんでウチに送ってぇ」


「オッケー」


 鬱陶しい者がいなくなればセーレも解放されたと機嫌を治し、再び上にへと顔を向けて話の続きを再開。

 セントゥールの一件では彼の死で気がかりなことがあるのもまた事実である。


「それでぇ……、あの蟲が死んだってことは知ってるわけ? ――アリトド……」


 セーレはチラリと向かいを見て汗を滲ませる。 

 八番席魔王――【猛華のアリトド】。セントゥールとは長い付き合いにも辺り、彼女はセントゥールの推選により力も認められその席に着くことになった。

 当然。常日頃からセントゥールには恋愛感情とも捉えられる好意すらあり、この事実はただ事ではなくなる。

 まだアリトドはこの場には来ておらず、大きな動きも聞いてはいない。


「ワシはまだ言っとらんが……」

「上に同じ~やでぇ♪」

「*****……」


 一同がありのままを答え、黙る一番席と二番席に目が向く。イブリースは基本無言でありそういった知らせはあまりしない。ならクロノスはどうだろうか。

 視線が集まればクロノスもだまり続けるわけにもいかなくなり、手にしていた時計から顔を逸らす。

 


「……ああ。まあ、知った時アレがどう動くかはわかりきっているのでな。――よって」



 クロノスは静かに指を鳴らす。

 【王の間】は直後大きく揺れ、次の瞬間室内を襲う激しい猛攻が荒れ狂った。鞭を振るうかの様。壁や床、更には柱などに()()()は強く叩き付けていく。この場に居合わせた魔王は各々席に着いたまま嵐の如くある猛攻を退け……。

 嵐が治まるには時間が掛かった。


「…………アリトド」


 最後に一番席であるイブリースが名を呼ぶ。至る箇所を打ち付けたモノが動きを止め、部屋の中心には【猛華のアリトド】がいた。

 その姿は大きくあった。巨大な植物からは先ほどまで暴れ狂っていた太い蔦が蠢き堪えている。そして、一つ咲き誇る真っ赤な薔薇の中心には本体であるアリトドが歯を食いしばり怒りを押し殺している。

 ふー、ふー、と。まるで獣のように呼吸を荒げつつイブリースを見上げた。


「馬鹿の様に人間界に行こうとする阿呆を連れてきた。こういう怒りで我を忘れるような奴は目の届くところに置いておくのが一番だ」


 この場に彼女を連れてきたのはクロノスだ。彼女が数日ほど前この場のその場所にいた時間に彼女を戻すことで意思に関係なく召喚。ちょうど彼女も知ってしまったのだろう。六番席の死を。

 造作もないとクロノスは落ち着いてアリトドを見下ろす。

 翼にくるまりひょっこり頭を出したセーレは一番にこの状況に文句を言い放つ。


「だからって急に連れてこないでよぉ! ボクの愛らしい姿に傷でも付いたらどうしてくれるわけ!?」

「それくらいできなくて魔王など名乗れんぞセーレ。まあ、物理なんぞワシには届かんしな……」

「ウチとオリジンはんは無事ですよぉ♪」

 

「まあ、そういうことだ。……で? 雑草。言いたいことがあるなら此処で言え」


 煽る言葉にアリトドは歯を強く噛みしめる。喉を痛めるほどの怒号が、アリトドからは放たれた。


「何故邪魔をするクロノス!! セントゥールが……っ、セントゥールが殺されたっ。殺されたのだぞ!!?」


「そうだな」


「許せるわけがない……ッ! すぐにでも殺した奴らを私が殺す!! 盾の国もろとも私が呑み込んでやる!! でなければこの怒り、収まらぬ!!」


 アリトドは樹海の王。その気になれば街一つなど簡単に樹海で呑み込むほどの影響力を持っている。彼女の周囲では植物が異常な成長速度で育ち花を咲かし、散り、育った実は口を開いて恨みのこもったうめき声をあげる。

 親愛なる者を失った衝撃は大きくあり、怒りながらもアリトドの目からは涙が溢れ出していく。

 にも関わらず、周囲で哀れむ者はいない。更にクロノスは怒りの言葉を聞き流し、


「――勝手な言いようだな」


 と。切り捨てた。

 

「死んだのはあの蟲が勝手なことをしたからだろ? イブリースからロードまでが意見を変えずにいたというのに、馬鹿で呆れているさ」


「く……ッ!」


「せっかく忠告してやったのにな。そしてお前もだ、アリトド。お前が行ったところでロクな結果もだせんだろうが」


 ピクリ、と。アリトドが反応する。

 クロノスは時の管理者。過去から未来まで見透かす。その言葉から自分の結果を予測している様だが……。


「……クロノス。お前は知っていたのか? セントゥールが死ぬことを」


 これは、聞く必要があったのか。

 至極当然のことだというのに、アリトドは声に出して問うことをしてしまった。

 わかりきっているはずの答え。

 どこか唖然としたアリトドに、クロノスは小首を傾け目を細める。




「――ああ。不様に死ぬ結果を知っていた」




 淡々と答えられた。

 軽いことの様子に、アリトドの怒りは急激にクロノスにへと向く。


「クロノスぅううッ!!!」


 何本もある蔦が床を叩きつけ威嚇する。それすらクロノスは冷めた目を送り、


「――それとも、此処にいる全員を敵にまわすか?」


 言葉の後にアリトドへ向けられたのは威圧。

 魔王という名を冠する者たち。しかし彼らの間に明確な仲間意識は存在などしない。ただ同じ名を冠するだけでありいざとなれば各々が力を行使することもある。

 弱肉強食を基本としている魔界だからこそその影響力は強くあり、魔王もまた例外ではない。例え下位が自身より格上と対立しようと、分が良ければいつでも身勝手な者を敵にする。

 アリトドよりも下位なのは九番席であるオリジンと、十二番席のソファレ。二体は特に異を唱えたりはしない。

 そして、こういったもめ事の全てを収めるのもまた一番席であるイブリースの勤めとなっている。

 火花を散らした周囲を一瞬にしてイブリースは突き立てていた剣を浮かし、再び地にへと叩き付け全ての意識を一番席へ集めた。


「これ以上の魔王の消失は魔界の均衡を失う恐れがある。よって、これより我らはあの【厄災の姫】に関わることを禁ずる」


「……ッ!? イブリース! アレは厄そのものだ! アレに関わった故にディアボロスもセントゥールも消されたっ。十三魔王の内二席があの娘のせいで……っ。何故それを見過ごす!?」


 納得がいかない。そう言うのはアリトドだけだった。


「往生際が悪いぞアリトド」

「ワシらがイブリースの意思に逆らうことは親を裏切るのと同意だ。セントゥールでもあるまいし、ワシも付き合いが長いからのぉ」

「ぶっちゃけ無難だよねぇ。っていうかぁ、百年ぐらい後には一応戻ってくるわけだし~。中身は知んないけど」

「ウチもイブリースの旦那様がよろしければそれでええと思いますのでぇ」


 アリトド以外が言葉に従う。イブリースがそう言うのなら従うのは理であり、なにも言わなければおとがめ無しということになる。そこからは各々で解決しろ、という意味と全員が捉えているのだ。

 この場で同意することに時間をかけたアリトドは、ただその怒りをギュッと堪え口を固く閉ざし頷くことしかできなかった。

 だがその怒りは早々消えはしないだろう。恨みに憎悪を焼き付けたまま、彼女は忘れられない激情を抱える。

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