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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 五章「炎蛇の魔銃」
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「鋼を焼き砕く者」

 貫かれた鎧の体。セントゥールにとって針を刺されたようなモノだが、そこからは確かに血は滴り落ちていく。手の平には握られていた拳をこじ開け、魔銃使いが不敵と睨み返し足蹴にした。

 幾つもある蟲の王の目がただ一点を捉える。どの目にも映るのは名高き魔王である自身を見下す魔銃使い。

 その目と表情。恐怖などなく、踏みしめる足は靴底を擦りつけ挑発する姿。幾つもの目が飛び出すかの勢いで見開かれる。

 鋼を冠する魔王としての矜持を壊したのは自身に比べれば小さな人間。その事実を目の当たりにされ王の座に居座る身のセントゥールに怒りを抑えられるわけもなかった。

 セントゥールは言葉を失い怒りと共に咆哮を撒き散らす。憤怒に震えた手がクロトをひねり潰そうと力を込め始め――


「うるせぇよっ!!」


 更にクロトは強気と言い返す。

 くるりと魔銃を回し、再び銃を構え唱えた。


「もう一発くれてやるよ! ――【爆ぜろっ。ニーズヘッグ】!」


 銃口から一発放たれる。銃弾は先ほど貫いた位置を正確に撃ち抜き、腕の中で爆炎を広げた。

 爆炎は内部から勢いを付け徐々に鋼の腕が膨れる。炎を溢れさせ、鎧の殻は耐えきれず軋む音をたて爆ぜる。

 破壊された腕は力を失い手に捕らえていたエリーを解放。少女を受け止め、クロトは放さぬよう強く抱いた。

 こんな窮地でもその抱き心地の良さには思わず笑みが浮かんでしまう。皮衣を纏いながら二人は落下し地上にへと向かうその時、呼び声が耳に届いた。


「――先輩ッ!」


 視界をずらせばイロハが見えた。翼を広げ手を伸ばし、不意に伸ばしてしまった腕を掴み取られる。

 地上への衝突をまぬがれた上ではイロハが口を大きく開いて肺いっぱいの息を吐く。


「ああ、ビックリしたぁ……。先輩が姫ちゃんと一緒になって落ちてるんだもん」


「……まさか、お前に助けられるとはな」


「だって姫ちゃん死んだらマスターに怒られちゃうもんっ。先輩にも怒られるし、そんなのやだぁ!」


「わかったわかった。……とりあえずその辺に下ろせ」


 頬を膨らませ不満ながらもイロハは言われた通りにクロトを下ろす。

 叫ぶ魔王から距離をとり建物の屋根へ足を付けてから抱えていたエリーを傍らに寝かせ、再び魔王にへと向き直る。間近でなく全体を視界におさめると、またしてもクロトは余裕を保ち不敵に笑う。


「相当硬そうな野郎だな。やりがいがありそうだ」

 

 腕を鳴らしまだ現実の世界に若干馴染めていない体を伸ばす。まるで数日ぶりに外の空気を吸ったかのような感覚。違和感を取り除き気を引締めて魔銃を握り絞める。

 次にクロトは傍で様子をうかがうイロハにへと顔を向けた。

 キョトンとした眼差し。相変わらずの間抜けそうな顔も久方ぶりに感じる。

 ――だが。使えるモノは使う。


「イロハ。少し時間を稼げ」


 急な命令にイロハは首を傾げた。


「どうするの先輩? アレすっごく硬くてボクじゃ無理なんだけど?」


 既に実戦済みだと伝える。するとクロトは「はっ」と鼻で笑う。

 はなから傷を負わせることに期待などしていなかったのだろう。だがそれでは時間を稼ぐのも一苦労だ。何かを思いついたのかクロトは指を鳴らし、次にこう命じた。



「そうだな。――()()()じゃないのを撃て」



 王都に入ってから「撃つな」と言われていたイロハ。その理由はイロハの魔銃の力が周囲に大きな被害を与えることがあり本人も気に留めていないからだ。

 しかし、今や王都の第三階層城下街は酷く破壊されている。今更周囲への気遣いなど不要。

 最初はイロハも何を言っているのか理解できなかった。しばらく首を傾け、ふと目を見開く。


「……! ――うんっ。わかったぁっ」


 満面の笑みを返しイロハは飛ぶ。片腕を失い藻掻く魔王の頭上を取り、イロハは魔銃を天にへと向けた。

 (しがらみ)から解放され自由を得た黒鳥は気のままに名を呼ぶ。


「さっきのは無理でも、コレなら大丈夫だよね。フレズベルグっ」


 魔銃に埋め込まれた核が翡翠と輝きイロハの声に応える。



「――【舞え! フレズベルグ】!」



 銃弾が上空へ一直線に放たれた。魔王を中心に空へ円法陣が描かれる。

 クロトが「あっち」と言った【舞え】。無数の光が上空に出現しセントゥールにへと狙いを定め、


「もういっちょ! ――【舞え! フレズベルグ】!」


 更にイロハは真下にへと銃口を向けトリガーを引く。

 セントゥールの頭上と足元に展開された法陣は互いに向き合い、


「いっけぇー!」


 イロハの合図と共に舞う。

 輝きを増し、無数の光が天より降り注ぎ、地より舞い上がる。周囲のドラゴンフライを撃ち落とす幻想的な光の雨。鋼の身に傷というものはなくもセントゥールを襲う光は視界を奪い体勢を崩していく。

 それだけでもよかった。晴れた様子のイロハは悠々と翼を羽ばたかせていた。

 

「嬉しいなぁ。うん、ボク今たぶん嬉しい! 終わったら褒めてくれるかなぁ」


 歓喜に浸るのも束の間。ふと、イロハを黒い影が覆い被さる。撃ち落ちてくる魔物が頭上にその身を広げ更に落下。慌ててイロハはその場から飛びだして難を逃れた。

 

「うわぁ……、びっくりしたぁ」


「なにしてんのよ、この馬鹿!」


 唐突な罵倒が飛ぶ。

 聞き慣れてきた声。瞬時にイロハは自身にそんなことを言った者を視界に入れる。

 

「お姉さん!」


「……まったく。アンタたちって死なないからって警戒心薄すぎじゃないの? 特にアンタ」


「えへへ。やっぱ怒ってるのよくわかんないけど。……なんか、お姉さん嬉しそう」


 ネアは赤い目元を一度拭う。願いをその声で叫び、訴えた後。彼女はどこか気の晴れた様子で上を見上げる。


「別に、嬉しくなんてないわよ。むしろ、当然よね、って感じなんだから」

  

 空に舞う光と散る火花を眺め折れそうだったネアの心が支えられる。

 一人の少女を救った英雄でも正義を語る者でもなく、ただ自身の願いに従順で身勝手な輩に希望が持ててしまう。不本意ながらも、納得がいかなくとも、その最善とした光景に呆れつつ、彼女は思わず笑ってしまったのだ。


「本当に……、なんでアンタなんかに可能性があるのかしらね」







 熱に焼け落ちてゆく羽虫の群れの如く。重量感ある蟲が次々と地に落下していく現状。

 高台から眺めていた魔女は、くすっ、と微笑した。


「……そう。()()を使うのね。まあ、いいわ。もうあの魔王は()()()だもの」






 

 地鳴りと騒音。クロトはそれらの音や揺れなど一切気に留めず、魔銃を強く両手で握り絞め瞼を伏せる。

 視界を閉ざし、聴覚を無にし。意識をただ自身の中にへと潜めて行く。

 風景などない。ただ続く闇の中に自分の姿だけが白黒と鮮明に残り、その先にある()()にへと手を伸ばした。

 掴み取ったのは不確かなモノ。それに形というものはない。実物するようなモノやもしれないし、得体の知れないモノやもしれない。

 ただこの時、この瞬間にいつも感じるのは掴む手を焦がすような熱だ。

 その力は自分が扱うには大きすぎる。人間が手にしてはならないモノだったのだろう。 

 しだいに熱は姿を現し炎となって精神のみの己を呑み込み焼く。この場だけでなく現実でのクロトの肉体は熱に侵されていた。

 酷い熱。まるで火山で煮えたぎる溶岩を間近で感じているようだ。苦しくもあるもクロトはその熱で死ぬことはない。

 不死身だからという理由だけでなく、そうあの魔女がこの魔銃を設計しているからだ。

 気が飛んでしまいそうな影響はあるも、掴み取った熱の塊を強引に引っ張り口ずさむ。


「――地獄の業火に眠りし蛇よ。我が命に従え」


 纏う炎が形を作り掴む手を締め付ける。威嚇か、炎の奥底でこちらを睨むような視線を感じる。

 されど、真っ直ぐその視線と向き合い更に言葉を紡ぐ。


「其は蛇竜。四の王に属せし炎蛇っ」


 纏う炎蛇の皮衣が揺らぎ形を変える。量先端は渦を巻き、しだいに二匹の大蛇の頭部を形作り口を開いた。細い牙と舌、本物の蛇の如く細かなところまで再現された蛇の口は羽衣が纏う炎を凝縮させ、弾けた火花が円法陣をそれぞれ描く。

 ゆっくりと、クロトの握る魔銃が一点に狙いを定めた。

 標的はただ一つ。敵対する十三魔王の一席――六番席魔王【鋼殻蟲のセントゥール】。

 銃口と陣から炎が溢れてゆく。熱の塊を間近に感じ、汗を滲ませながらクロトは唱えた。


「仇なす者をその灼熱の業火をもって――」


 閃光に目を眩ませ視界を悪くしたセントゥール。それは怒号の咆哮を放ち一気に【舞え】を抜け出しクロトに迫る。

 迫る巨大な威圧は肌にビリビリと伝わる。だがクロトは恐怖などなく静かに呼吸を整え、魔銃の引き金に指をかけ……




「――【焼き砕け! ニーズヘッグ】!!」


挿絵(By みてみん)


 躊躇いもなく引いた。

 展開されていた陣は大きく一つになり炎を噴き出す。

 間を開け放たれた炎の波。反動でクロトの身は後ろにへと傾き、標的目がけ炎の波は蟲の王を襲う。

 周囲の魔物を巻き込む炎。その中で鎧を纏う蟲たちは熱に耐えきれず砕き、溶かし、灰燼へ。熱と勢いだけでない炎の波はセントゥールの視界に広がり、炎の正体を目の当たりにする。

 それは炎の竜。己を呑み込もうとする炎蛇だった。


『――ッ!? マ、サカ……ッ』


 怒り狂っていたセントゥールの思考が一瞬真っ白になり刹那の理性が呟く。

 その炎を知っている。その竜を知っている。……その炎蛇を知っている。

 気が付いた時にはその鋼の肉体は炎に呑まれた後だった。硬く、傷つかないことを矜持としていた異名を関する由来の身に亀裂が走る。暴力的なまでの灼熱と噛み砕く勢いの圧力。細胞全てが熱に耐えきれず崩壊を始め、溶かし、砕き、その地獄が永遠と感じるほどの束の間。

 身が崩れ焼き砕かれる恐怖が襲う。


『馬鹿、ナ……ッ。我ガ鎧ガ……砕ケルッ!?』


 蟲は藻掻いた。炎を振り払おうとするも炎は蛇の如く纏わり付く。一度捕まった獲物を逃そうとはしない。

 

『コンナ……ッ、コンナ、コト、認メヌッ! コンナ……、タカガ人種ノ……!!』


 炎の奥を屈辱と睨む。真っ直ぐ向き合うのはまだ人の子だ。

 恐れるに足りぬはずの人種たるクロトはその疑問を晴らし、敗北を認めないセントゥールにとどめを刺す。



「――お前の敗因なんて単純だ。それはこの俺に頑丈さだけで挑んだことだッ!」



 その硬さは本物だ。だが、クロトにはそれに対抗できる力があった。

 竜種の一体――【炎蛇のニーズヘッグ】。魔界でもその名は広く知られた四番席魔王――【豪竜のドラゴニカ】に属する炎の蛇竜。

 灰燼へと帰す灼熱の炎と鉄壁を誇った鋼の肉体がぶつかり、勝ったのは焼き砕いた炎蛇。

 肉体だけでなく魂にすら火を届かせる。燃え盛る炎の中でセントゥールは人の声か魔物の声か、入り交じった断末魔をあげその姿を跡形もなく消すこととなった。

 役目を終えた炎が風に乗り熱を大気に溶かして消滅した。残ったのは少しばかり熱くある風のみで生存し勝利した者たちを煽ぐ。

 すっかり晴れた空はこの災厄の終わりを告げヴァイスレット王都を見下ろした。

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