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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 五章「炎蛇の魔銃」
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「願いの叫び」

 王の活動は周辺の魔物にも影響を与えていく。更に活発となり群がる蟲の大群が四方八方から盾の国の壁を攻める。第三階層の障壁を砕かれたことにより外壁側での防衛は限界を迎え始めていた。

 地上では蜘蛛の進行を抑える盾と兵士たち。その働きも隙間を作り……最も集中していた南の門が突破される。


「――止めろぉおッ!!」


 屈強な兵を突き飛ばし襲いかかる鎧蜘蛛の群れ。追うように後方にへと飛ばされた声。届いたとしてもすぐに体勢を立て直すことも追いつかず。漏れた蜘蛛が城下街に侵入し黒く染め上げようとする前方。その先で、倒れた兵の一部が芽を見開く。

 雪崩の如き勢いを前に大通り中心でたたずむ影に、思わず名をこぼす。


「……ロウグス、様?」


 しかし、見えたのはロウグスにあらず。その身は漆黒とした黒衣を纏う男。

 真っ直ぐ突き進む蜘蛛の大群を前に逃げることもせず、男は片手に携えたモノを向ける。

 それは同様に黒くある剣。一息つき、眼鏡を軽く上げ直し――ヘイオスは握る黒剣をサッと振り払った。

 直後。鎧蜘蛛の姿が忽然と姿を消す。

 刹那の間になにが起きたのか。まるで見える光景から鎧蜘蛛だけが綺麗に消されたという現象。何度もその光景を確認し呆気にとられていると、いつの間にかヘイオスは驚愕とする兵を通り越し門の外へ。遅れて引き返すように呼びかけもするが、


「――【区切れ……」


 静かにそう呟くヘイオス。開け放たれた門には黒く澱んだ壁一枚が形成され内と外を遮断する。

 一人外壁の外に残ったヘイオスは蜘蛛の群れの前に立つ。


「悪いが此処は通さぬぞ。……とは言うが、()()()()()()()()()がな」


 人の言葉など理解できるわけでもなく。再び蜘蛛の波が門を目がけ襲いかかる。

 今度は地を蹴り跳躍し衝突を避けるヘイオス。容易く門を進ませてしまう。だが、門に張られた壁を一体がすり抜けたはず内側に入ることもなくそのまま姿を消してしまう。それすら考える知恵がない蜘蛛は外壁にぶつかりつつ門の隙間を目指し、そして消えていく。

 ――さながら別の空間に呑まれる様。

 しかし蜘蛛にとっての入り口は門だけではない。壁を昇る蜘蛛。それに対し、


「言ったはずだ。これ以上は通さん」


 瞬時に剣士は蜘蛛の上をとる。這い上がる蜘蛛を見下ろし、ヘイオスは静かに宣言。剣先を鎧の隙間に突き刺し切断し落としていく。落下した蜘蛛の鋭い爪は真下に密集した同族を貫き次々と殺す。

 南門はこの剣士一人により安全ではあるが視界に王都内が映ればヘイオスは動きを少し鈍らせてしまう。

 飛び交うドラゴンフライと最も巨大な蟲の王。意識がついそちらの方にへと誘導されていた。


「できればアレをなんとかしたいのだが、このままこちらを放っておくのも……。どうしたものか」


 悩み。それでも蜘蛛を落とし。そしてまた悩む。

 眼鏡を上げ直す癖でもあるのか、ヘイオスはこの間に何度も片手を眼鏡に当てていた。

 しばらくそう悩みながら流れ作業を続けていると、ふとヘイオスは王都の外、鎧蜘蛛の奥を眺め凝視。「ん?」と目を凝らした。

 蜘蛛の群れ黒一色に澱んだ紫の血だまりの道が一直線と続き、しだいにこちらにへと近づいてくるなにかが見えた。思わずもう一度よく目を凝らしていると……。



「――あ! ヘイオスくーーん! こんなところにいましたか♪」


 

 まだ距離はあるがそんな場にそぐわない陽気な声が自身の名を呼んでいる。そんな存在など一人しか知らず、ヘイオスは顔をしかめてしまう。


「……なんでお前が此処に」


「もうっ。探しましたよヘイオスくん♪ キミを探すのはとっても苦労しちゃうんですよね~。このお茶目さん♪ まあ今はキミがこんなところで楽しそうに姿を出しているので見つけに来たしだいですよ。私って心配性なんですよね。可愛いヘイオスくんがおいたをしてないか、はたまた迷子で泣いてないか面白心配で。嬉しいですよね? こんな私に心配されて感謝感激雨血だまりって感じですよね! 現に私の通り道は小汚い血のロードですよ。ウケますよね♪ でも私は血なら気色悪い紫よりも赤い色が好みですので、手が滑ったということで何人かやっちゃってもいいですかぁ?」


 ヘイオスの額に指を突き立てて黒衣の男――カルトはヘラヘラと一人喋りを押しつけてくる。


「だからなんでお前が此処にいるのかと聞いているっ。あの山から出るなとあれほど……っ」


「まあまあヘイオスくん。落ち着いて聞いてくださいよ、この私のは・な・し♪」


 場をわきまえないカルトの手を払うも更に詰め寄られ。離れようとするヘイオスを追い詰めては耳元で囁く。



「これは魔女様のご意向でもあるのですから♪」



「……なっ。魔女様がこちらに?」


 魔女が絡めばヘイオスも話にへと耳を傾ける事とする。


「こちら側はもうじき更に面白クレイジーになるらしいのでぇ、残念ですがヘイオスくんと私は他の周辺の蟲駆除とのことで。それがキミが此処でできることですよ」


「具体的なことはなにもなしか!? そもそも何故魔女様がこの件に関与を……っ」


「一人勝手な行動をしたキミがそれを言えますかぁ? それともヘイオスくん。魔女様のお言葉にご不満でも?」


「……それは」


 戸惑うヘイオス。直後カルトは陽気としていた笑みを捨て、ガラス細工にも似た薄紫色の眼を見開き一層彼の顔にへと近づける。


「ないですよね? あるわけないですよねぇ? それだったら私としてはガッカリなんで。私を失望させないでくださいよ可愛いヘイオスくん。そもそもキミがこの場に居合わせることも私が出向くことも全くの規格外なんですから。ここは素直に魔女様のお言葉通りに行動すべきですよ。……じゃないと、私幻滅ですよ? 私はまだキミと仲良くしていたいのにぃ」


 ゴクリと生唾を呑込む。判断を間違える事がまるで【死】であるという圧。ヘイオスは少しでも恐怖から逃れるために落ち着いて目を逸らす。


「…………わかった。確かに私の行動は勝手だった。すまない」


「素直なヘイオス君は私大好きですよ♪」


「だが、アレはいいのか?」


 ヘイオスが最も気にかけているのは王都周辺を覆う蜘蛛の群れではなく、今も王都内に侵入している魔王だ。蟲の群れを先導しているのがその王ならばまず叩くのはそちらにある。


「もし魔女様のご命令がヴァイスレットの敵の殲滅ならば、先にアレを……」


「ですから~、アレはよろしいんですよ。魔女様もそちらは別に任せてあるらしく、私たちは残念ながら雑魚処理というわけで」


「別?」


「私だってアレをお相手したいですけど我慢してるんですよ? そんな可哀そうで健気に勤しむ私に免じて行きましょうよぉ」


 せかすカルト。魔女の言葉もありヘイオスはこれ以上しつこくこの場に留まることを止め移動しようとした。

 しかし、まだ残る蟲の大群をふと眺めた時。ヘイオスは異常と双眸を見開き硬直してしまう。

 蟲の群れの奥。おびただしい数の向こう側ではそれらを呑み込みだす影が視界に映り込む。肉眼では確認できないが、それはじわじわとこちらに迫る。呑まれた蟲はどうなったのか。そして微かだが、確実に近づいてくる無数の笑い声に背筋が凍てつく。

 目を奪われてしまったヘイオスの両目に、カルトは手をそっと被せ、耳元でくすっとほくそ笑む。


「言ったでしょ? こちら側はもうじき面白クレイジーになると♪ 気にせず行きますよ、ヘイオスくん」


   ◆


 中央広場に一目散に駆け出すネア。彼女は必死と叫ぶ。


「――そこから今すぐ逃げて! クロトぉおおおッッ!!!!」


 願うと同時に声を張りこれ以上ないほどの声量を放つ。その直後、クロトとエリーがいた場所は頭上に広がるセントゥールの手が落とされた。

 激しく結晶は砕け散らばる。そんな雑音を愕然としたネアが足を止めて眺めた。

 間に合わなかった。それを悟ったネアの脚は崩れへたり込む。後になって彼女の表情は絶望と歪めていく。

 止められなかった無力と悔しさ。守り切れなかった未熟さと罪悪感。現状が夢なら覚めてほしいと現実逃避までも頭の中で渦巻いてしまう。思わず爆発してしまいそうな絶叫など喉が詰まるほど。

 地にへと下ろされた手がしだいにゆっくりと上昇。それはなにかを掴み取っているようにも見える。

 

「……ッ!?」


 更なる現実がネアの視界に焼き付けられる。

 魔王の手からは金の髪が揺れ、それがエリーであることを嫌でも理解することに。覗く少女は状況など知らず意識を失い眠り落ちている。

 どうであれ、標的を見つけたセントゥールは更なる憤怒を滲ませ喉を震わせた。

 

『ヨクモ……、ヨクモ、小娘ガッ。ソノ、チカラ……ッ、ヨコセェ!!』


 わずかな理性が屈辱と怒りを咆哮に乗せ、呪われた姫を自身の大口にへと運ぶ。

 このままでは更なる厄災が王都を襲うことだろう。終わりを目の前に誰もが動けず。どうしようもできないという残酷な現実に、ただこんなことはあってはならないと願う声が一人の口から放たれた。

 

「なんで。――なんでその子じゃないとダメなのよ!」


 力を失った脚を震わせ、立つこともままならないネアは叫ぶ。


「誰でもいいから、あの子を……、エリーちゃんを助けてよっ。あの子は悪くないのっ。全部呪いのせいじゃない!」


 救いの手が欲しい。責任を押しつけられ多々が少女を蔑もうと、わずかな存在にこの願いを聞き入れて欲しかった。

 英雄じゃなくてもいい。誇り高き騎士でもなければ正義の味方でなくてもよい。どれだけ汚れていようと、その手をたった一人の少女に差し出してくれればそれでいい。

 ……そして、できることなら――



「アンタなら言えるでしょ!? 「死ななくていい」って。「生きてていい」って! アンタがそれを一番、誰よりもあの子に言えるでしょうが! 私よりもアンタの方が絶対にいいのぉ! あの子が死んで一番迷惑するのはアンタなんでしょうが!」


 一人に向けネアは泣きながら怒鳴り散らす。

 それはロクでなしな人間。褒める要素などロクになく、愛嬌も親切心も持ち合わせようとしない。他者のことなど想えない最低者。嫌われて当然。むしろそれを本人が望むほど。人との関わりなど簡単に切り捨てれるような人物。

 この者に願うなど完全な人選ミスとも思えて仕方がない。……だが、それでもよかった。

 ――今死を直前とさせられている少女は、その者の傍を望んでいたのだから。




「――だからどんなことしてでも助けなさいよ! あのくらいで死ぬわけないって知ってんだから、クロトぉおッッ!!!」



 ネアが願いを託したのは一人の魔銃使いだ。

 既にエリーの身はセントゥールの喉の目と鼻の先。おびただしい歪な蟲が魔王の喉奥から少女を求め這い上がる。

 この願いは届かないのか……。そう諦めを突きつけられた時、願いの叫びに一寸の応えが返された。





「――【貫け。ニーズヘッグ】!」





 ……銃声が鳴る。刹那の静寂。直後、エリーを掴んでいたセントゥールの腕が何かしらに貫かれ、その鋼の肉体から澱んだ色の血液が噴き出す。

 動きをピタリと止めたセントゥール。瞬時にそのありえないということに動揺を隠しきれず幾つもある目をカッと見開く。

 一度ならず二度までも。自身の象徴である肉体に傷を作られ己の血液を目に焼き付けられる。怒りよりも驚くことにしか頭が回らず、なにが起こったのかとその腕を下ろし見る。己の意思に反し、握る手が中からなにかにこじ開けられていく。指の隙間が開くと、そこからは炎が吹き出た。

 空から降る火の粉に、ネアも涙に濡れた目を見開いた。

 更には淡い色の衣を現し、続いて魔王の手を足蹴にする姿までも……。

 堂々と大それたことをした者は不敵と笑みを浮かべ、臆することのない眼差しで自身の何十倍もある魔王を見る。

 

「はっ! ネズミが一匹紛れていたようで残念だったなぁ。――魔王様よぉ!!」


 

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