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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 五章「炎蛇の魔銃」
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「鋼殻蟲」

 蟲の王――セントゥールはその怒りのままに叫び、蛇腹のような長くトゲトゲしい尾を振り乱す。第三階層の城下街南部は徐々に壊滅とした風景を広げていく。

 一撃を与えてから、ネアの抗いは威勢を失っている。


「……っ」

 

 魔王の身にぶつけた片脚は悲痛と悲鳴をあげている。おそらく骨にも影響がでているに違いない。

 痛くない。そんな痛みなどどうでもいい。ネアは必死に自分にへと言い聞かせた。

 懐から小さな薬瓶を取り出し一気に飲み干す。回復速度を向上させ痛み止めも兼ねたポーション。数が多くあるわけでもなく、少しでも動けるようにと処置はしたが心許ない。

 巨大な魔王を前にこれ以上の進行を拒み、無力になるも魔王の前に立ちはだかる。


「だめ……っ、二度とあの子に近づかせない! 絶対にダメなのぉ!!」


 泣きたくもなる。泣くことを堪え、ただ抗うことだけは諦めたくないと。それだけしかできない自分の弱さに、心が折れそうだ。

 そんな声など届くわけもなく、進む蟲の手が振り下ろされる。

 潰される寸前。間にへと割り込んだロウグスが盾で防ぎ止めるも、その間は長くは続くわけもなく。盾は抗うも、それを支えるロウグスは小さな人の身なだけでしかない。


「半魔っ、意地だけでどうこうなるとでも思っているのか! このままではこの魔王の望みを叶えることになる! あの姫のことは諦めろ!!」


 それはつまり、エリーを殺す以外のなにものでもない言葉に、ネアは断固拒否とついに泣きっ面ながら反抗。


「うっさい!! そんなの絶対嫌に決まってるでしょうが!!」


「状況を判断しろ! ならこの魔王を倒せる者がいるとでもいうのか!?」


「知らないわよそんなの! でもエリーちゃんのことは絶対に諦めたくないぃ!!」


「この期に及んでまだそんな、ことを……っ」


 勢いを失う声。ロウグスの身は盾と共に体勢を崩していく。圧倒的な重量。それに長く堪えられず、騎士は膝を付いた。

 魔王は今でもその小さな存在に気づいてすらいないだろう。

 だが。もし気づいてでもいれば一気に潰しにかかる。

 苦悶としたロウグスは上を見上げ、血の気の引いた顔色を晒す。

 先程まで気にも止めていなかったセントゥール。そのいくつもある眼球が、一斉にネアとロウグスを捉えた。

 怒りの高ぶっている蟲の王は苛立つ声を放ち腕を振り払う。

 

「……っ!!」


 意図も簡単に、二人の身が宙にへと投げ出される。

 追い討ちをかけるが如く。暴れる魔王の尾が運悪くロウグスの真上を取った。


「ロウグス!」


 【風精霊(エアリエル)】が叫び彼にしがみつく。

 体の自由が利かず急降下する太い尾が、そのまま一気に地面まで叩きつけられた。

 

「お姉さん!」

 

 血相を変えてイロハは翼を羽ばたかせる。空中では自由の利かないネアを体で受け止める、が。体がぶつかると同時にネアはイロハを足蹴にし再び建物の上へ着地。

 秒の間目を回すイロハをネアは酷く睨み付けてくる。


「何処触ろうとすんのよ!? この変態!」


「うぅ~、なんでお姉さんはいっつも怒ってるのか全然わかんないんだけど。せっかく助けようと思ったのにぃ」


「やかましいわね! それより、アイツは!?」


 建物の上からネアは下を見下ろす。 

 粉塵舞う地べた。ゆっくりと上がる魔王の尾。更にその下にへとネアは目を凝らす。

 しかし、そこにロウグスの姿はなかった。

 上手く逃げ延びたのか。それとも形も残らぬほど潰されてしまったのか。

 

「……さっきの人、死んだのかな?」


「わかんないわよ……。でも、本当にこの状況、どうすればいいっていうのよっ」


 攻撃を一切受け付けない鉄壁の鎧の身である七番席魔王。この魔王に傷をつけれるものなら、例えなんだろうと願い伏せたくなる。

 半魔であれ傷が簡単に癒えるわけでもなくネアのコンディションは最悪。強力な悪魔を宿した魔銃を持つイロハですらあてにもできない。

 もう一人は……。

 

「逃げる……。でも簡単に逃げれないことだってわかってる。上の魔物の動きも活発に戻ってきた。絶体絶命とか、笑えないのよ……っ」


「……。お姉さんの姫ちゃんを守ろうっていうのは、きっとボクも一緒だと思う。ボクはまだ平気だから先輩が来るまでアレなんとかするね。先輩に色々ダメって言われてるからちゃんとできるかわかんないけど」







 未だ軽口で言うイロハ。ネアの判断など聞かず、気づけばイロハは空にへと向かっていた。

 周囲をドラゴンフライが飛び交い、イロハという標的を目にし一斉に襲いかかる。

 

「わわっ!」


 大量の蛇にでも襲われるかのように、長い胴体をした蟲の波が迫る。

 その風圧と体積に呑まれるもイロハは銃を手に叫んだ。


「ああ、もぉ!! ――【潰せ! フレズベルグ】!!」


 体を押さえていた一体の首を大鳥の足が捕らえ潰す。落ちた一体の隙間を抜け、更にイロハは魔王の頭上まで飛び、その強握な力をぶつけた。

 顕現させた大鳥の足は爪を立て、王の鋼の体にへと食らい付く。

 しかし、やはり他の蟲とは違い傷など作れない。爪痕などの皆無。そんな予感はイロハもしていた。だが、それでもイロハはその場から離れようとせず傷を作ろうと歯を食いしばった。


「……っ、頑張ってよ、――フレズベルグぅ!!」


 魔銃に宿る悪魔――極彩巨鳥(ごくさいきょちょう)のフレズベルグ。その存在と会話などしたこともない。見たことも話したこともない悪魔。しかし、イロハは自由を得た時からずっと一緒にいたのは魔銃のフレズベルグだ。自分が呼べば力を貸してくれる。信頼だってできるほどの存在。

 そこに居るのならとイロハは叫ぶ。

 まだなんとかなく。フレズベルグならできると……。






 ――悪いが、これは無理だ…………。

 





「……え?」


 ふと、脳裏をよぎったような微かな声。

 

『――――ッ!!』

 

 思考が周囲よりもその声に誘導されてしまったイロハを魔王の手が鷲掴みにし地上にへと払い飛ばす。

 無残に叩き付けられた体からは痛みはなくとも軋む音が脳に響き渡る。

 嫌な音だ。骨の砕かれたもの。肉と臓器がぐちゃぐちゃになるもの。瞬時に聴覚が吹っ飛んで、楽になれた気もした。

 真っ赤になったぼやける視界には黒い影が映る。

 無防備な一瞬にドラゴンフライの牙が。胴体を引き裂こうとした牙を瞬時に紫電の一閃がへし折り蟲の頭を蹴り飛ばされた。

 ようやく視界が安定したイロハの目はキョトンと丸くある。傷など纏う風が撫でて癒える最中、接近した蟲を蹴り倒したのはネアだった。

 その光景が不思議なものだったのか、イロハは首を傾けてしまう。


「……お姉さん?」


 血相を変えて来たネアの表情がうっすらと記憶に残っている。

 なぜネアが必死となって自分を助けたのか。それがわからずにいれば、ネアは怒号をイロハにへとぶつけてくる。


「アンタ、バッカじゃないの!? 一人で突っ込んで……っ、死ななくても自分の身くらい大事にしなさいよ!!」


「……なんでお姉さん怒ってるの? やっぱよくわかんない」


「もう……っ、私だって知ってる奴が酷いことになってたら野郎でも見過ごせないっての……っ。そんな私の気も知らないで、ホント男って最悪……」


 不死身だと知っている。痛覚がないのも知っている。どうせ喰われても生き返れば何事もなかったも同然なのだろう。

 だが蟲の食い荒らしっぷりは本当に残酷であり、わかっていてもネアはそれを見過ごせない。見過ごせば後悔を抱いてしまいそうで怖かったからだ。

 柄にもない行動に複雑となる。鈍感とした様子を見せられれば助けなければよかったと、更にイロハという男子が嫌いになった瞬間でもある。

 ハッキリ言われるのもそうだが、理解されないのもまた……。

 何度も首を左右に傾けるイロハ。溢れていた血も今となってはさっぱりと消え去っている。

 

「~~っ、あ~もう!! クロトもコイツも本当に最悪ぅ!!!

 

 苛立ってつい足裏を地に叩き付けてしまう。

 そんな二人など一々気に留めず、更にセントゥールは中心に向かうように前進。ネアたちの上で血眼になって一人を探す。

 怒りに焦りも合わさり、時には飛び交っていた魔物すら捕食しては眼球はギョロギョロと動作させていた。余裕のない今の六番席魔王には当初あった悪知恵を働く思考が欠けており本能のままに動く生物と化している。

 エリーが見つかれば……。

 セントゥールの顔がある一方にへと向いた時、ネアは心臓をドクリを跳ね上がらせた。一直線先に見えるのは結晶体の密集した広間。徐々に崩れていく結晶のわずかな隙間から、金の色がチラつき魔王の気を高ぶらせる。


『……ッ、ソコカァッッ!!』


 ついに居場所が特定され、セントゥールの動きはより一層速まる。イロハを置き去りにネアは一気に駆けだし広間を目指した。

 

「……っ! ……!!」


 ネアは未だ耳に取り付けられていた通信機を突く。使うことを諦めていたが今はわずかなそれに縋りたくなる。

 環境が合わずに不備が起きた可能性が大きい。蟲という大群の放つ特殊な音波なども原因の一つ。

 少しでもいい。ほんの少しでも言葉が伝えられればと願った。


「お願いっ。今だけでもいいから……っ!」



   ◆


 ――ゴトン……ッ。


 重たい物が地に落ちる音と振動。それにクロトは閉ざしていた瞼を開き現実にへと戻ってくる。結晶に囲まれた光景が変化していた。

 幻想的な輝きを放っていた【伝達・精霊結晶(テル・エスプリスタ)】の一部が亀裂を走らせ、崩れて石膏色へ変色。岩よりも脆く地にへと落ちたのだ。

 変化にクロトは抱きしめていたエリーにへと目を向ける。

 虚ろとしていた黒い星を宿す瞳が途端に輝きを取り戻す。確認が終わるとエリーは力なくクロトの胸に身を寄せて眠りついてしまった。正常に戻った。ただそれが理解できればクロトは肩を落とし胸を撫で下ろす。


「……たく。本当に手間のかかる奴だな、お前は」


 安堵するも本当に自分で【厄星】を止めることに成功したのか。クロトは内心それを信じることに若干の戸惑いはある。

 思わず自身の手を見る。

 この手は他者に差し伸べるためにはできていない。これは他者を殺すためにできている。そう実感があった。それなのに、この手を自身のためとはいえ他者であるエリーにへと伸ばした。

 納得できない。だが、これでよかったのだと、不意にらしくもなく眠るエリーに微笑みを返してしまった。

 一段落付けば今度は周囲を確認する。

 徐々に壊れ始める結晶体。崩れた隙間から見えた空は雲が晴れ始めわずかだが日光が差し込む。しかし、違和感を感じる。

 それはつい先ほどまで外で抗戦していたネアたちが近くにいないということだ。場所を変えたのかとエリーを抱えクロトは脆くなった【精霊結晶(エスプリスタ)】の中から出ようとした。

 その時、突然耳に雑音が入る。

 忘れかけていた片耳に取り付けられた通信機。音はそこから聞こえてきた。

 今更機能するようになったのかと呆れるが、相手がネアかイロハなら状況を確認するのにはちょうどよくあり耳を傾ける。

 しかし、聞こえてくるのは酷いノイズ音。集中して聞けば耳を悪くするようなもの。微かに声らしきものも聞こえてくるため、なんとか堪えて意識を集中させることに。


「……? おいっ、なに言ってるか全然聞こえないぞ!?」


『――ッ。――……げ……!』


「……はぁ?」




『――そこから今すぐ逃げて! クロトぉおおおッッ!!!!』




 ハッキリと、血相を変えたネアの声が届くと同時だった。

 結晶体に覆われたその場に突如黒い影が覆い被さり、瞬時にその場はクロトたちもろとも潰される。

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