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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 五章「炎蛇の魔銃」
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「余興の終わり」

「……どういうことなのかしら?」


 晴れていく空を睨む赤き瞳。崩壊間近だったはずの王都。その天は終焉ではなく光をさしていた。

 

「なぜ【厄星(やくぼし)】が……っ。足りなかった? いえ、そんなはずはないっ。現に【厄星】は顕現し発動まで至った。理すら覆してあの現象まで引き起こしたのに……なぜ……」


 魔女の少女はその手をギュッと握りしめる。その席に後ろでは小さな双子――ナナとルルが身を寄せ合い小刻みに震える。

 後ろからでもわかる。滲み出る魔女の怒気に少女たちは怖々と震えていたのだ。

 

「……魔女様、お怒り?」

「……魔女様、不機嫌?」


「…………っ。いえ、過ぎたことだわ。残念だけどね。……怖い思いをさせてしまったかしら?」


 怒りを殺し、魔女は微笑んで後ろを振り返る。笑みを見せるとナナとルルはお互いの顔を見合い、そして自身を落ち着かせる。首を横に振って、先ほどまでの恐怖を否定した。

 そんなことはない。と、二人は鏡映しのように誤差もなく笑みを返す。

 

「「魔女様。一つお知らせが……」」


「……?」


「「――お客様がおいでです」」


 身を寄せ合っていたナナとルルは道を開けるように互いの身を離す。二人の間を通ってきたのは――



「どうもぉ、魔女様♪」



 そう攻防戦の見える場所で軽い口を開くのは山頂にいたはずの男だ。頬に茶目っ気と指を立て爽やかなスマイル。それに怒りを抑えた魔女は再び嫌気として顔をしかめた。


「えへ。来ちゃいま~した♪」


「……なんで貴方がいるのかしら――()()()? …………まさかヘイオスを」


「誤解しないでくださいよぉ。そのヘイオスくんのことで私もこちらにお邪魔しに来たんですから」


「ヘイオスが?」


「ええ、はい。数時間前ほどのことなのですが、こちら側からお祭りな気配を感じましてね」


 




 カルトの言った数時間ほど前のこと。西と南の境界付近にそびえる山脈の山頂。

 それはふと発言したカルトの言葉から始まったものだった。


「うーん。そわそわしますね」


「なんだいきなり……。言っておくが、またそうやって私に見に行かせて持ち場を離れるようなことには引っかからないからな? 人を馬鹿にするのも大概にしておけよ」


「嫌ですねぇ、ヘイオスくん。私そんな小賢しいことなんてしませんよぉ♪ ただちょ~~~っと南の方から面白そうな気配をビビッと感じましてね。ほら私の索敵範囲って常人を越えてますからぁ、と~~~ってもそわそわしちゃうんですよぉ」


「……南?」


 南という単語にピクリと反応するヘイオス。更に続きが気になるのかとカルトは苦笑しつつ会話を再開する。


「ええ。具体的にはあちらですね。確か、盾の国ヴァイスレットでしたっけ? その王都かと」


 わかりやすく方角を指さすカルト。思わずヘイオスもその先にへと顔を向けてしまう。なにかを思い詰めるような表情に、ふとカルトは顔を覗き込み目を丸くする。


「どうされましたかヘイオスくん? ひょっとしてあちらになにかありましたか?」


「……い、いや」


 弱く否定するもヘイオスはその場を立ち上がり、再び同じ方を眺めた。

 言われてみればと、視界の奥に映る空はどこか暗くあり不吉なものを感じる。





「……と。いうことがありましてね? こちらにヘイオスくんも来られているようなんですよぉ。正直彼を追うのは難しくて。私ってある意味彼の保護者じゃないですかぁ。まったく困っちゃいますよね♪」


「…………あら、そう。私も予定が狂って白けてるところなのよねぇ」


「退屈で不機嫌なところ申し訳ありませんついでにぃ、私よりも先に先客がいらしてたようでしてね。これ一部なんですけどお知り合いですかぁ?」


 地にへと放られた先客の一部らしきもの。それは鋭い槍のようなもの。現在ヴァイスレットを取り囲んでいる鎧蜘蛛の手足だ。

 後回しとしていたはずの魔女にまでも六番席魔王ことセントゥールは刺客を送り込んだのだろう。容易く返り討ちにあい惨めな姿にへと成り果てている。

 魔女は深くため息をついた。


「本当に愚かな魔王。こんなもので私を仕留めようなんて馬鹿なのかしら」


「さすが魔女様ですねぇ♪ ……で? どうされますかぁ? せっかくですので私を使っていただいてもよろしいですよ」


「……そうね。せっかくの祭りも終わってしまったようだし。――ナナ、ルル」


「「はい。魔女様」」


 呼ばれれば二人はせっせと魔女にへと寄り添い顔を見せる。

 期待として瞳を輝かせる双子。それぞれの頭をひと撫でし、魔女は要件を口にする。


「退屈でしょ? ――遊んでらっしょい」


   ◆


 クロトとエリーが結晶に閉じ込められ時間は幾らか経過する。

 その外では地に落ちたドラゴンフライを踏みしくネアが天を見上げ、その瞳を見開いた。

 体に纏わり付く重くある空気がふと軽くなり、暗雲が覆う天からわずかな光が差し込んだ。星は姿を雲の中に消し晴れた蒼天が代わりに姿を現す。

 思わず一瞬呆気に取られ信じがたいとも思えた。だが、己の目は確かに澄んだ青空を映している。


「……まさか」


 周囲にそびえる【伝達・精霊結晶(テル・エスプリスタ)】。それらは日の光を浴びると輝きを失い、徐々に白色と濁る。脆い石になると亀裂をはしらせ地にへと幾つかが落ちて砕けた。

 本来あるべき【精霊結晶(エスプリスタ)】の姿。確認が終わればネアは大きく呼吸をとって胸を撫で下ろす。


「はぁ……。やっぱ、やればできる奴でムカつくのよねぇ~、アイツ」


 ヴァイスレットから【厄星】は去った。王都でその奇跡かのような光景は直に全ての住人にへと知れ渡る。 

 

「……本当に、止めたというのか? 本当に、殺さずに……」


 ロウグスは自身の目を疑う。未だ閉じた結晶体の中でいったい何が行われたのか。【厄災の姫】を生かしたまま、この災厄を終わらせたという事実。それを先ほどまで討とうとした子供が成し遂げたということに思考が困惑としてしまう。

 ありえない。そう言いたげな顔を浮かべるも、ネアは笑ってしまう。


「残念だけど、本当らしいのよねぇ。アイツってわりと規格外な存在だから」


「……」


 信じるということがなかなかできない。それはそうだろうと、ネアも無理強いはせず。

 あらかた片付いたドラゴンフライを眺め、再び天を見上げる。

 あれほど多く飛び交っていた空の魔物も今では数をなくし散り散りとしている。多くの死体が体のどこかを潰された有様。


「魔鳥のフレズベルグ……か。確か伝承にあるのは四つ脚の大鳥。操る風だけでなく、その脅威は何人たりとも逃さないと言われている四つ脚だとか。本当に厄介なもんを宿した魔武器だこと。でも、これであとは魔王が諦めてくれれば――」


 残る災厄、六番席魔王の存在。ネアが最後に見た時点では確かに魔王は片腕を失い【厄星】に一度退いた。配下の魔物が残っているのならまだ近くにはいると考えられるも、それだけでヴァイスレットの残る盾を砕くことは難しい。それを理解し魔界にへと帰還すれば事は終わったも同然。

 だが、ネアは対峙した魔王が易々とその選択を選ぶとは考えづらかった。


「アレがそう諦めるような奴じゃない……。それに、すごく嫌な予感がする」


 その直感が呼びでもしたのか、大きな地鳴りと共に大地が揺れる。

 地に足を付けていたネアとロウグスはなんとかその身を倒さぬように保ち周囲を警戒。建物に囲まれたその場からは状況把握も困難と、ちょうどよく上空からイロハが二人の近くにへと戻って来た。


「お姉さんお姉さん!」


「なによ!? あと今のなに!? 状況報告は迅速に!!」


「だから難しいこと言わないでよぉ。……なんかね、あっちからすっごく硬そうなのが出てきたんだけど」


 イロハは曖昧な情報を口にし指を差す。その方角は南正門。この場から一番近い壁の外だと察したネアは自分の目で確かめるべく建物の上にへと素早く移動した。屋根の上までくれば真っ先に南にへと目を凝らそうとするも、その必要はなく驚愕と見開いた視界にへと元凶は飛び込んできた。

 鎧蜘蛛。ドラゴンフライ。それらよりももっと大きな異形の影。その身はまるで竜の如く。しかし、それは形を模した巨大な蟲である。異様な色合いと光る殻という名の鎧。正門に備えられた投槍器が放たれた様子も見えた。しかし、その身はそれらを受け付けず傷一つ与えることすらできない。背にある四枚の翼を広げ巨大な蟲は一気に城下にへと進行。喉を鳴らせば獣か蟲か、はたまた竜か。どれとも言えない奇声の咆哮を放ちヴァイスレット全土を圧倒させる。

 その姿と声を目の当たりにしたネアは全身を襲った圧に気が飛びそうになる。


「……わかってた。本当に相手にしているのがそういう存在だって」


 目の前にいる大きな存在。先ほど見た仮の姿を捨てた七番席魔王【鋼殻蟲(こうかくちゅう)のセントゥール】の真の姿はその名にふさわしいものにへとなっていた。

 歯を食いしばり、悔やむもすぐにその迷いを振り払う。

 

「守るって約束したら、最後までやらないとあの馬鹿になにも言えなくなっちゃうものね。……っ」


 深く、深呼吸をしネアは気を引締め、その巨大な蟲にへと向かった。それを目撃したイロハも焦りながら続く。

 

「お姉さんっ、さすがにあの大きさはボクもさっきまでのが効かないと思うんだけど……っ」


「あーっそ!! アタシもあんなの勝てる気しないってのッ!! ……でも動かないわけにはいかないでしょ?」


 屋根の上を駆けるネアは下を見る。地上ではロウグスも二人の後に続いていた。

 

「さすがに退いた方がいいんじゃないの? まだ精霊の力に頼れる状況じゃないでしょ?」


「愚問だな。此処で逃げるなど騎士の恥だ。陛下に申し訳なくなり、二度と顔など合せられなくなるっ」


 まだ城下街には【精霊結晶(エスプリスタ)】が溢れている。徐々に崩壊を始めてはいるもこの場が未だに精霊界同様のであることに違いはない。

 今のロウグスは大幅に戦力を削がれている。

 しかし、その騎士としての誇りを貫き、退くことを自ら断つ。

 近づけば近づくほど怪物の咆哮はより激しく身にへと響く。されどネアは更に自慢の脚の速度を上げ、紫電を纏い、電光石火の一撃をぶつけた。

 直撃すると同時に紫電が弾ける。巨体のわりには細くも見える六本腕の一つ。見事な蹴りを与えた時、ネアは歯を食いしばりながら目を見開き、表情をひきつらせる。

 ――硬い。その一言が脳裏をよぎる。

 魔王の中で一番席を除き最も硬質な身を持つとされる七番席魔王。その身は正に鉄壁と言わざる得ない。


 ――やばいっ。これ、骨にまで……!?


 傷一つ与えられず、ネアはその脚を力なく下げる。自分が攻撃したというのに、そのダメージは全てネアにへと返ってきた。骨の軋む音が聞こえた気もする。

 魔王――セントゥールはそんな蚊ほども感じない衝撃など気付かず、ただ前にへと進む。

 眼中にないだけでなく、それはなにかを探しているようにも……。


「やっぱりコイツ、全く諦めてない!!」


 察したネアはその魔王の執念深さを目の当たりにする。

 頭部にある幾つもの眼球が周囲を見る。蟲は口を開けば怒りに興奮した様子で唸り、鈍く響く声で言葉を発した。


『何処ニ……イル……ッ。厄災ノォ、小娘ガァアアアァアアア!!!!』


 

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