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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 四章「厄星」
52/280

「存在の理由」

 銃声と共にクロトは静寂した世界全体に響くような声を放つ。威嚇する眼差しに顔のない影たちは全員がクロトを捉え絶句。

 次に、ゆらりと一つが体を揺らす。


『殺す……。殺すの?』


 また一つ、揺れる。


『貴方も私の敵?』


 この影たちが求めているのは敵か味方かの答えだ。

 敵と見なせば更なる悲劇を口ずさみ、味方と見れば悲劇の同意を求めてくる。

 これが正しいと押しつける様。


「元々敵だの味方だの、俺とそいつの関係にそんなもんはない。それは俺の道具だからな」


 影たちの視線など気にもとめずクロトは前にへと出る。真っ直ぐエリーにへと向かい、影たちはクロトを眺めながらその道を開けた。危害を加えてこないのならただうるさいだけで無害なものだ。


「手間とらせやがって。……とっとと戻るぞっ」


 こんな気分の悪くなるところに長いなどできない。クロトはうずくまるエリーの腕を掴み引こうとした。

 しかし、ほんの少し触れた途端、少女は叫ぶ。


「いやぁあああッ!! やめてぇッ!!!」


 強い拒絶の声に虚を突かれクロトは思わず手を引っ込める。

 戻した自身の手を見た。驚いたせいで掴み損ねた手。エリーの言葉はクロトを拒絶したものだった。今となってはそんな言葉が出るなど予想することができず、不意をつかれた。

 あのエリーが自身を拒絶することなどありえないと思い込むほど、二人の関係はとっくに変わっていた。

 なぜそんなことを言い出したのか。クロトは信じれないと言わんばかりの顔でエリーを見下ろす。

 ほんの少し触れただけでエリーの恐怖心は増し、身をガタガタと震わせている。耳を強く塞ぎ、目だって合わせようとしない。


「……お願いっ。もう、やめて……。私……、そんなつもりじゃないの……」


 誰に対して言っているのか。エリーが泣きながらそう呟き出すと、また周囲で影が揺れ動く。

 

「ごめんなさい……。ごめんなさい……っ」


『ごめんなさい。ごめんなさい』『ただ……、やめてほしかっただけ……』『ごめんなさい』『もうなにも言わないで』『聞きたくないの』『私を殺さないで……』『……許して』『助けて』『もうやめて』『酷いことしないで』『ごめんなさい』『死にたくない』『殺さないで』


 雨粒の様な水滴が天に昇る。

 エリーの涙が。顔のない影たちから流れる涙が。こぼれ落ちる涙は地にへと落ちきる前に天にへと向かい、そして消えていく。

 否定をしつつ、許しを請う。誰かになんか決まっていない。その言葉は自分以外の者全てに向けていた。

 こんな光景をどこかで見たことがある。――()()と初めて会った時だ。







『こんなの……っ、全部、嘘……。母様ぁっ、母様ぁああっ』


 耳障りな声を今でも覚えている。泣いて、もう存在しない者を求め、現実から目を背けるそれはどれもが不愉快でしかなかった。

 現実を否定したところでなにが変わる。なにも変わらない。そんなもので変わるなら誰も苦労などしない。

 ――これだからガキは嫌いなんだ。なにかに縋らないと生きて行けない、自分から変えようとしない。力がなければせめて全てを受け入れて現実を見るべきだ。

 しかし、この存在はただ泣いて全てを嘘として否定することしかできない。


 ――ああ。鬱陶しい……っ。


 殺されたのが親だからなんだというのだ。それでもそれは自分ではない。赤の他人でしかない。それ以外になんだと言える。他と変わらない、自分ではない存在だ。ならどうなろうが構わない。

 

 だから俺は……この()に銃を向けた。







 いつの間にか、覚えのある光景を前にクロトは銃を少女に向けていた。

 自然と。なにも考えずとも、そうしていた。

 銃を向ける理由。それは自身にとって不快とあり邪魔と判断できたからだ。

 今でも、目の前の()は鬱陶しくある。


『殺すの?』『殺すの?』『貴方もやっぱり殺すの?』


 有象無象の声がこの時するりとすり抜けていく。クロトの意識はそんなざわつく声よりも別のことに気を取られていた。

 エリーに拒絶された時から、胸の奥がおかしくある。

 脳裏では以前、あの時に言ったエリーの言葉がよぎっていく。



『私には、クロトさんしかいませんので』

『クロトさんは、私が必要なんですよね?』

『クロトさんが守ってくれるから、私は安心できるんです』

『それが例え私のためでなくても』

『利用していいんですよ』

『クロトさんの役に立ちたい』

『――だから、私はクロトさんと一緒にいますよ』



 あの時の言葉は、本当に本物だったのか?

 この拒絶こそが本心なら、アレは偽りだったこととなる。

 あの()()は……ただの()()となってしまう。


 ――所詮、好意は偽善。なんだよ。


 この答えを肯定したのも、この()だった。



『――そう思っていただいて構いません』

『それで貴方がいいなら。その後は――捨てていただいて構いませんので』



 言葉の真意など理解できない。他人の好意など理解したくなどない。そんなものは邪魔でしかない。

 だが、触れた手の温もりは己自身が感じた確かなものだった。

 

 ――まだだ……。コイツを捨てるのは……今じゃないっ。


「……っ」


 銃口が、ほんの少し上にへと傾く。そして、瞬時に魔銃は投げ捨てられ地にへと叩き付けられた。

 今必要なのは魔銃じゃない。クロトは今度こそエリーをその手で掴み取る。


「いやッ! やぁああッ!!」


 触れられ強く掴まれたことにエリーは再び拒絶の声をあげる。それでもクロトはその手を離さない。

 腕を引き、クロトはエリーをその身で抱いた。

 強く。けして離さないように。

 泣き叫ぶエリーの声が耳に響く。ざわざわとする、頭に響いてくる他の声など霞むほどだ。

 我武者羅に暴れ出し逃げ出したいほどの恐怖が腕の中で伝わってくる。どれだけ抵抗されてもクロトはその身を離さない。肌に爪がかすろうと、そんな痛みなどどうでもいい。

 ただ必要な物を手放さないようにする、それだけを自身に命令する。


「――俺がわかるか……? クソガキ」


 抵抗をし耳を塞いでいなかったエリーにへと声をかける。頭を押さえ、最も近くで声を聞かせた。

 暴れていたエリーはピタリと動きを止める。固く閉ざしていた瞼を開き、涙で濡れた星の瞳を見せる。


「……っ、ぅ、……クロト……さん?」


 ようやく理解したのかエリーは泣き声混じりにクロトの名を呼んだ。

 

「そうだ。俺だ……」


 抵抗をやめたエリーはそのまま力を抜いていく。周囲と天を見上げ、……震えながら乾いた笑い声をかすれさせる。

 絶望し、心の痛みなどを通り越して、エリーは現状を受け入れた。


「……私、やっぱり……生きてちゃ、ダメなんですね……っ。私が……、私が、壊しちゃったん、ですね」


「……」


「本当は、自分がこんな存在だって……まだ自覚してなくて。でも、コレが現実……なんですよね。……やっぱり、私はいない方が、いいんですね……」


 エリーは受け止めた。周囲の声を。世界からいらないという平和を願う者たちの声を。

 いくら否定しても事実は変わらない。それが己の本来あるべき姿なのだと、エリーは自分で認めた。

 なら、エリーはなにを選ぶのか。いない方がよいと決めた少女なら、きっと自分よりも周囲を優先する。


「……クロトさん。私はもう……死んだ方が、いいんですよね。クロトさんも、……そう、思いますよね?」


 エリーは涙をこぼしながら、穏やかにそう言う。

 自身から死を望みこの罪を償おうとしていた。

 そんな言葉は言うとクロトも思っていた。エリーは現状がわかればイラつほどの善人であり周囲の願いを叶えようとする。

 

 ――だから……、なんだよ。


「――言いたいことはそれだけか……」


 エリーは死を望んだ。クロトにもその望みはあった。

 その存在は自身にとって邪魔でしかない。本来ならとっくにこの手で殺しているようなものだ。

 だが、今は――


「俺がいつ、お前を用済みなんて言ったんだよ!」


「……っ!?」


「お前の言いたいことはそれだけかっ? それが本当にお前の望みなのかよ!?」


「…………クロト、さん?」


「言いたいことを全部言え! ……俺が聞いてやる。全部、今此処で吐き出せ!」

挿絵(By みてみん)

 強く問いただす。

 エリーはいつもそうだ。自身の言いたいことなどをおしころし口に出して言わないことがほとんどだ。

 それはいつもクロトを気にかけており余計なことを言わないようにとしている。

 うるさいのは嫌いだ。だがそれよりも、こちらの意に反して死を望み、その理由を他人に押しつける。正しいと思い込んで逃げようとするエリーが今は許せなかった。

 

「私、は……」


「今だけでも言えよ! さんざん喚いてた奴が、今更死にたいなんてふざけたことぬかしてんじゃねぇぞ!! この前俺に言ってた馬鹿だのなんだのっ、あの時みたいに本心ぶつけてみろよ!」


 溜めこんでいるものがあるなら今此処で全てを吐き出させる。エリーの本心を。エリーの願いを。

 これ以上望めるものがないと諦めていたエリーの胸を打ち、瞳からより涙が溢れ出てくる。涙と共に、感情が込み上げ、少女は言葉を幾つも紡ぐ。



「……声が、するんです。私なんて、いない方がいいって……」

「産まれてこなければ……よかったって……」

「私が存在するだけで、誰かに迷惑かけちゃう……。そんなの、嫌なんです」

「だったら……死のう……って……そう、思ったんです」

「そうすれば、みんなが幸せになれる……。私一人で済むなら、それでいいじゃないですか」

「でも……。でもぉ……っ」



 エリーのおしころしていた感情が、その時弾ける。



「っでも! ――死ぬのは怖い! 怖いんです!!」



「……生きたい。……生きていたい!」

「誰かの役に立てなくても…………生きていたいんです……っ」

「死にたくないっ。私は、――生きたいです……ッ!!」



 全てを吐き出したエリー。善意や思いやりを全て捨て、生きたいという他者よりも自身を優先させた生への執着への感情が止めどなく涙と共に溢れ出る。

 泣いて……。泣いて……。腕の中でエリーは「生きたい」と泣きじゃくる。

 耳元でうるさい。だが、その「生きたい」という本心の願いの言葉が聞きたかった。

 頭をくしゃっと撫でる。褒め方なんてものを知らないクロトはただそれだけで応えてやった。

 落ち着きのない体を抱きしめ背中を慣れない手で撫でてやると少しずつだが声も静かになっていく。震えだって止まっていく。

 こんなことでいいのか? たったこんなことだけでいいのか?

 

 ――俺は今でもお前が嫌いだ。すぐ泣くし鬱陶しい。……だが、これでお前が生きることを諦めないなら、今回は見逃しといてやる。


 今でも死へ導く声が聞こえるならと、そっと耳を塞いでやる。そして、今度は自分の言葉を伝える。

 

「……ただの人間に異常な奴のことなんて理解されないんだよ」


 常人は異常を別の目で見る。普通には決して見ることができない。それだけはエリーに理解させないといけない。

 今後のためにも、エリーにはそれをわからせ、そんな時はどうすればいいのか。それを刻み込む。


「そんな奴らの声は聞くな。聞くだけ無駄だ。俺の声だけを聞いていろ……」


 最も近くで、クロトは強く言い聞かせる。



「――俺にはお前が必要だ! だから、戻ってこいッ!!」







 ――……ッ


 どこかでピシリと亀裂の入る音が聞こえた。


『……どうして?』『どうして?』


 影たちが天を見上げ、一人……また一人と泥のように崩れて、天にへと昇っていく。

 星が――【厄星(やくぼし)】が唸る。

 

「――……ロト、さん……」


 ――ピシッ。


「クロト……さん……っ」


 ――ピシリッ!

 天が。空が。絶望の広がる世界に亀裂が走る。



「――クロトさんっ。クロトさん……っ、――クロトさん!!」


 求めるように、泣いて、叫んで。エリーはクロトの名を呼ぶ。その度に、終わった世界がガラス細工のように崩れ始める。

 黒くあった空は割れ差し込む光。疑問とした言葉が天から投げ込まれる。


『どうして』『どうして』『どうして』『どうして』『どうして』

『――どうしてッ!?』

『――――どうしてその()()()を望むのッ!!?』

 

 天から聞こえる嘆き責める声。これまでとは違い、その物言いはエリーとは別物に聞こえる。

 それらに向け、クロトは魔銃から銃弾を放ち黙らせた。


「うるせぇんだよ。俺の許可なくコイツに干渉しようとするな。()()()がなんなのかは知らねぇが、余計なことするなら俺はお前らの敵だっ」


『……』


「お前らに望むことはないっ。とっとと消えろ!」


 望まぬ形で叶えようとしたなにかしらの意志。それらをクロトは拒絶し切り捨てる。ざわざわと、ざわつき呻くように啜り泣く幾多の声。それが徐々に消え失せていこうとした時、ほんの一滴のように透き通った声が脳に囁く。





 ――それでも彼女の()()()()()はいつか成就されるよ……。





 その言葉がなにを暗示しているか。囁いた声は、どこか笑っているような気もした。

 だが、なんであれ今のエリーはただひたすらクロトだけを求めた。クロトはそんなエリーを認めた。生きてよいと。存在していいと。周囲から否定され続けたエリーが一番欲しかったものを与えた。

 永遠じゃなくてもいい。ほんのわずかでもいい。ただその存在を認め肯定する言葉だけが唯一の望みだった。

 泣き叫んでいるのは悲しみ恐怖しているからではない。そんな望む言葉を言われたことで増した幸福とした歓喜の感情に堪えきれずにあったから。

 エリーから絶望というものが消えていく。一筋の希望が広がり、少女の心を癒していく。


   ◆


 攻防の真っ只中。ヴァイスレット王都周辺では何処にいてもその攻め、抗う音が聴覚を刺激する。

 それを耳障りと受け入れる者が、口元を汚す。


「――ッ! ――ッッ!!」


 餓えた獣……否、蟲が後方でせき止められた蟲の群れの中で共喰いの宴をあげていた。品のある身なり。それを蟲の穢れた血で盛大に汚し、その喰らい付きは賎しげとしている。

 硬い鎧を身に纏う鎧蜘蛛に牙を立て砕きながら手足を引き千切る。眼球を抉り丸呑み。

 十匹ほどをたいらげ宴は終了。猛獣かのような蟲は静まる。

 六番席魔王――【鋼殻蟲のセントゥール】。口元を拭い、残骸をかじりながら王都をギョロリと睨み付けた。


「盾の国……、このボクを前に、鬱陶しい……ッ。それに、あの小娘……っ、あの小娘ッ、あの小娘ぇッ!!」


 治った左腕。未だに恐怖を刻まれた腕の血肉を噛み潰す。震えが奥歯まで伝わる。

 なんと屈辱的な……っ。

 

「ボクの腕になにをした……っ。小娘が……、たかが喰われるだけの存在がこの鋼殻蟲たる我が身を奪うなど、――許されるはずがない!!」


 怒号を吐き出し、蟲の王はその人の姿()を破り捨てた……。

『やくまが 次回予告』


魔女

「皆さんこんにちは。実況を務めることとなりました、……そうねぇ。ええ、是非私のことは恐怖と敵意を込めて【魔女】と呼んでいただいて結構だわ」


ヘイオス

「魔女様の付き添いを務めるヘイオスです。光栄です。魔女様とご一緒できるのは」


魔女

「私もヘイオスとなら問題ないわ。今回は害虫こと魔王のセントゥール様が盾の国に挑んでいるそうでもう終盤戦です。無様に腕持ってかれ憤怒する魔王様ですがどう終盤戦を盛り上げてくれるのかしらね。ねえ、ヘイオス」


ヘイオス

「やはり魔王とのこともありましてなにかしら奥の手は隠しているものかと思われます。終盤戦でボスが変身することはよくあることらしいので」


魔女

「まあ、古典的♪ 私もあの害虫と鬱陶しい盾の国にも飽きてきたところだし、潔く終わらせてやりたいわね」


ヘイオス

「……た、盾の国……ですか……」


魔女

「あら? ヘイオス、ひょっとしてなにかあるかしら?」


ヘイオス

「い、いえ……。魔女様はこの戦いの結末をどうみますか?」


魔女

「それは次回にわかることだわ」


ヘイオス

「次回【厄災の姫と魔銃使い】第二部 五章「炎蛇の魔銃」。ところで私なんかが予告などしてよかったのでしょうか?」


魔女

「そうかしら? 次回出番あったのヘイオス?」


ヘイオス

「……一応、重要なことで」

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