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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 一章「辺境の呪い星」
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「冷酷なる魔銃使い」

 ぐりぐりと踏みしめられ現実を痛みとともに思い知らされる。

 痛みに歯を食いしばり、エリーは涙を浮かべたまま必死に堪えた。

 見上げる彼の目には慈悲というものが存在しない。人を傷つけることに躊躇いもない。おそらく殺すことにも。

 先ほどまでの話が本当に真実だとすれば、……なぜ――


「じゃあ……、なんで殺さないんですか……?」


 震えた声で、一番重要な点をついた。


「そんなに危険なら……貴方は私になんの用があって、こんなことをするんですか……っ」


 話が本当なら正体を知っている彼は会ったあの時に殺しているはずだ。

 それなのにわざわざ生かしているのは不自然でしかない。

 クロトがその気なら、この数分前にだって、いつだってそれは可能だった。

 そうしないための理由が彼にはあるのだろう。


「……本来ならお前なんて死のうがどうでもいい。だが、そうすればこっちがいろいろ迷惑なんだよ。お前はただの条件だ。……あの()()を見つけ出すための」


「……魔、女?」


 魔女。子供であるエリーが一番最初に思い浮かべたのは、おとぎ話程度ほどだ。

 どんな時でも魔の者同様悪役として登場する存在。


「俺はある魔女を探している。最後に会ったのは三年ほど前、当時の外見はお前くらいのガキで、黒い姿をしている。……一応聞いておくが、それらしい奴に会ってないだろうな?」


「知りま、せん……っ」


「……くそっ。手がかりゼロか」


 殺さない理由。それは簡単に言えば人捜しだ。

 

 ――人捜し。そのためだけに、この人はこんなことをするの?


 そう理解すれば酷く愕然とするものだった。

 もっと他に穏便なやり方は思いつかなかったのだろうか?

 ここまでする必要が、本当にあったのだろうか?

 

「崩壊寸前の時にお前を連れ出そうとしたが、設備されていた脱出用の転送魔道でこの有様……。しかも位置バラバラで飛ばされて余計な手間を取らされた。これで捜し出したのがお前じゃなかったら会った瞬間頭を撃ち抜いてやりたいところだっ」


 肩を押さえる力が増す。

 苦痛から逃れようと悲鳴を押し殺し必死に足をどかそうとする。

 しかし、非力なせいでそれは無意味でしかない。

 更にクロトはそんな状況すら気にせず淡々と話を進めていく。


「で。要件は以上だ。とりあえず用事済ませたらこんなへんぴな場所を移動する。多くの奴らはお前が死んだと思い込んでる。人間はともかく魔の類は鋭いからな。一カ所に留まるわけにはいかない。……言ってることわかるよな? お前も来るんだよ」


「……っ! ぃやっ、です! そんなの……っ、あぐッ!!」


「利き腕をぶっ壊されるのがお望みか? 拒否権あると思ってる時点でまだ立場理解してないようだな」


挿絵(By みてみん)

 少女の体が軋み悲鳴をあげている。

 これまでに感じたことのない痛みが襲い、エリー自身どうすることもできない。 

 しまいには堪えきれず嗚咽を漏らした。


「どうして……、こんな、酷いこと……するんですか……っ。私は、今の生活だけで、いいのに……。それすら、許されないん、ですか……?」


 多くは望まない。与えられる分だけで構わない。

 ただ今の生活だけで幸せなのに。

 

「お願い、ですから……帰してください。……っ、帰り、たいんです」


「これだからガキは嫌いなんだ」


 そう舌打ちをし呆れの言葉と共に再びクロトの魔銃の銃口が少女を捉えた。


「これが最後だ。従うならそのまま。そうでないなら右腕を壊す。無傷がベストだろうが、モノのしつけにはこれが最適だからな。……どうする? 俺はどっちでもいい」


 どこまで残酷なのか。

 与えられるのは苦痛か束縛か。

 そんな二択の答えなどどちらも選べずエリーは口を閉ざしてしまう。

 無言も反抗と捉えられたのか、キリキリと引き金を引く音が聞こえてくる。

 本当に撃つつもりだ。本当に傷つけることに躊躇いがない。

 断念した。恐怖に身を震わせエリーは目を固く閉ざす。

 


 ――……。



 怯えた心が、ほんの一瞬和らぐような声が、その時聞こえパッと目を見開く。

 廃墟の一室。その風通しのよい割れた窓の外から微かに聞こえた声にクロトも手を止める。


「……エリーちゃん? エリーちゃん、此処にいるの?」


 優しく名を呼ぶ声。いつもそばにいてくれていた安心できる声。 

 

「…………マーサ、さん?」


 出かけてからかなり時間は経っている。そのせいで捜しに彼女はこんな場所にまで来てくれたのだろう。

 すぐ近くに彼女はいる。それだけで救われた気持ちにもなれた。

 安らぎに堪えていた涙が一気に溢れてきてしまう。

 不意に左腕を外にへと伸ばしてしまうほど、エリーは壁の外を求めた。

 その安堵に凍てつくような言葉が突き刺さる。


「――なるほど。そっちの方が効果的か」


 その言葉にエリーの肝は冷え背筋をゾッとさせた。

 押さえていた足をどけ彼は離れていく。

 クロトはエリーにではなく、壁の奥をずっと眺めていた。

 

「なに……言ってるんですか……?」


 解放されると痛む右肩をおさえ、エリーは身を起こすと恐る恐る問いかけた。

 なんの感情も抱いていないようなクロトは、直後口角をつり上げて笑った。


「本当に、お前に関わる奴は哀れだな」


「どういう……っ」


 その言葉の意味を理解するよりも早く、瞬時にクロトの魔銃は天井にへと向けられる。


「――こういうことだっ」


 ――パァン!!


 夜闇の廃墟に一発の銃声がこだまする。

 遅れてエリーは銃声に驚き耳を塞いだ。

 何かに撃ったわけでもなく、ただ銃弾は天井に穴を開けただけだった。

 音が止んだかと思えば笑うような声がする。

 なにがおかしいのか。クロトは喉を鳴らして笑っていた。


「おいガキ。この音がなにを意味するかわかるか?」

 

 ニヤリとした笑みで聞かれるが、そんなことわかるわけがない。

 だが、わからずとも息苦しさを感じるような嫌な感じは徐々に増していく。

 それが一気に増したのは声が聞こえたからだ。



「……嘘っ、エリーちゃん!?」



 先ほどの銃声のせいか、取り乱したマーサの声が聞こえてくる。

 

「大丈夫!? 今行くから!」


 静寂の中で新たに廃墟にへと足を踏み入れた音はよく聞こえたものだ。

 この部屋に来るのもそう時間はかからないだろう。

 次にクロトの銃口は扉にへと向けられた。

 その時、クロトの言ったことをエリーは思い出した。

 ――効果的。関わった奴は哀れ。

 

「理解したか? 相当大事にされているようだが、これがお前の出した結果だろ?」


「……!? やめて! やめてください!!」


 繋がれた鎖を荒々しく鳴らし、エリーはギリギリ手の届いたクロトの脚を掴んだ。

 

「お願いですっ。マーサさんに酷いことしないで! ……なんでも、なんでも言うことを聞きます、だからっ!」


「今更だな。どの道なにも変わらない。恨むんなら馬鹿な自分でも恨んどけ」


「やめてくださいっ。どうしてそんなことする必要があるんですか……! どうしてそんなこと、平然とするんですか!!」




「……どうして? そんなもん、――()()()()()だろ?」




 クロトは当たり前のようにそう言った。


「それがお前を此処に繋ぐモノなら、それを駆除すればなにもなくなる。邪魔は排除する。それが効率的なことだ」


 彼に心というモノはないのか……。

 そもそも、彼は本当に人間なのかと疑わさせられた。

 彼の常人とは思えない思考と、背後に伸びる影がときおり大蛇にへと見えてしまう。そのことから人としての認識からどんどん外れていってしまう。

 彼に物事の通りは通らない。ならばせめてと、エリーは泣き声混じりに言葉を紡ぎ出す。

 その時には既に扉の奥にはマーサが着ていた。


「……マーサさん」


「エリーちゃん、此処なの!? 大丈夫!?」


 なにも知らないマーサの心配する声がする。

 最後くらい心配などかけたくなかった。

 会いたい。でも会いたくない。

 扉を開けた瞬間をクロトは狙っている。

 彼女には扉を開けず、何事もなく帰ってほしい。

 

「マーサさん……、大丈夫、だから……。私は大丈夫だから……、だから、お願い」


 頬を濡らしながらも笑みを作り、安心させようとさせた。

 そして「帰ってほしい」、そう言おうとした。

 


「――ああ、よかった。やっぱりそこにいるのね……。――【厄災の姫】」




「「――ッ!!」」


 クロトとエリー。同時になって二人は息を詰まらせ絶句した。

 クロトの指が急いで引き金を引こうとする。しかし、その間を突かれた。

 古びた木製の扉が軋み壊れると音に紛れ黒い影が一直線に伸びる。それはクロトの体を捕らえ一気に壁にへと貼り付け押さえ込む。


「がぁッ……!」


 一瞬のできごとに思考が追いつかないエリー。唖然として先ほどまで会話していたはずの扉にへと顔を向けた。

 破壊された扉の奥から現れた人影。それは間違いなくマーサだった。

 しかし、何かがおかしい。

 いつも優しく微笑んでいたマーサの表情に感情はなく、目も虚ろとさせている。

 そして、どこかで見たような黒いものが彼女の身に纏わり付いていた。

 貼り付けにされたクロトの全身を高熱が帯びる。焼けるような痛みは今日で二度目だ。


「……っ、昼間の奴か。やっぱり来やがったなクソ野郎。逃げるのが速い奴は餌を使っておびき寄せるのが一番だな。今度こそぶっ殺すっ」


 苦悶しながらもクロトはそんな挑発じみた言葉を吐く。

 微かだがマーサの頭部が揺れ反応を示した。

 正確には、彼女に取り憑いている異形が。

 ドロリとした異形は形を変え、気味の悪い目玉を露わにしクロトを凝視した。


『こ、ぞう……、貴様、よくも……、よくも……っ』


「なんだよクソ野郎? 少しはまともに喋れるようになったじゃないか」


 以前の片言のようなものではなく、その澱みはマシに言葉を発してくる。

 余裕のある様子でいると、より力を増しクロトの体は壁にへと押しつけられた。

 

『邪、魔……、たかが人間の小僧が……、邪魔を……!』


「はぁ? ……どっちの、セリフだよっ? 盗み聞きして後を付いてきやがって……っ、そのうえ横取りするつもりでいやがるくせに。魔族風情が、力欲しさにガキ一人にご執心とは……、単純思考にも、ほどがあるなっ」


 どれだけ痛めつけられようとクロトの悪態は止まらない。

 異様な光景に、一人取り残されたエリー。

 この光景にうまく言葉が出せず、ただ少女はぽつりと呟いた。



「……マーサ、さん?」

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