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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 四章「厄星」
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「真意という名の刃」

 ――ふと、気付けばエリーは知らぬ場所に立っていた。

 

 それはどこまでも続く暗闇。紛れ込んだエリーの姿は鮮明に存在する。

 目を丸くしエリーは「どうしてこんな所に?」と首を傾け困惑。

 つい先ほどまでエリーはネアと共にヴァイスレットで自身を捜す兵から隠れていたはずだった。それなのにネアの姿はない。それどころかヴァイスレットの街並みすらも消えていた。

 

「……此処、どこなのかな? ネアさんは?」


 辺りを見渡すも一寸先は闇色一色。徐々にエリーは一人しかいないこの場が怖くなり身を強ばらせてなにかないかと視界を彷徨わせた。

 幸いか。微かに、耳にはなにかしらの声が聞こえてくる。


「……誰? 誰が話しているの?」


 必死に恐怖から逃れようとエリーはその声の主を捜す。

 何度もぐるりぐるりと視界を巡らせ、忽然と目の前には人の輪郭をかたどった様な影が現れ動転。どれだけ捜してもいなかった存在がいきなり目の前にへと映り込むと思わず驚いて腰を抜かしてしまった。

 

「…………だ、誰……ですか?」

 

 困惑としてそれを見上げる。

 影はぼんやりとして目であろう淡い光がずっとこちらを見下ろしている。

 声もそれから聞こえてくるような気がした。首を傾け、恐る恐るエリーはその声の内容を聞き取ろうとした。

 最初はポツポツと微かな声で呟く程度。しかし、その声に意識を集中させると……途端に言葉はハッキリと聞こえるように。

 ……聞こえた時には手遅れだった。


『――……る。…………いる。――【厄災の姫】が、この国にいるっ」


「――ッ!?」


 それは自身のことを示したもの。

 ドクリと心臓が跳ね上がり息が一瞬つまって止まるようだった。

 更に。声は前だけでなく周囲からも響く。

 

『何故? あの時死んだんじゃないの?』

『魔王が来たのもそのせい?』

『兵士はなにをしているッ』

『怖い……、怖い……ッ』

『どうして生きているの……ッ』


「……っ、ちが……っ。私……っ」


『平和になったと思ったのに』

『早く見つけてっ。早く……、早く、早く!!』


 気がつけば揺らぐ影はエリーを囲みどこを向いても視界に映り込む。耳を塞いでも直接頭に響く声は一人の少女を責め続け止まらない。

 生きることを拒んだ声。存在を否定し、なにもしていないのに怖がられている。

 平和を脅かし、生きている意味すら問い詰めていく。

 そして、誰もが迫り手を伸ばして捕まえようとした。

 怖くなり、エリーはそこから躍起になって逃げ出した。

 影たちは一斉に少女の背を捉え指さしして口を開く。


『早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く。早く――』


「こないでっ。――こないでぇええ!!」


 幾多もの声が追いかけてくる。

 エリーは耳を塞ぐ。無意味とわかっていても「聞きたくない」という気持ちがそうせざる終えなくなる。

 

「――やめてぇええっ!」


 頭が割れるように痛い。どこまでも追いかけてくる声。走るそばではゆらりゆらりと影たちがよぎり、視界すら塞いで必死に逃げる。

 

『早く! 早く! 誰かあの姫を――』


 それ以上なにも言わないでほしい。

 拒絶と叫ぶエリーの声はしだいに幾つもの言葉に埋もれ掻き消す。

 

『誰か、あの姫を――――()()()!!』


   ◆


「「お帰りなさいませ、魔女様」」


 自身の席に戻ってきた魔女を双子の少女――ナナとルルが声と辞儀を揃える。

 一寸のずれもない少女二人。仕草も鏡あわせに揃えキョトンとした顔をした。


「「魔女様魔女様。どちらに行かれてましたの?」」


 可愛らしく小首を傾けて問いかける。

 そっと二人の頭を撫で、魔女はクスッと微笑。


「ちょっと愛しい子に会いにね」


「それは素敵な御方?」

「それは楽しめる御方?」


「そうね。素敵で楽しめる可愛い子よ。会えばきっと貴方たちとも遊んでくれるような、ね」


「まあ。素敵!」

「まあ。楽しみ!」


 手を合わせ双子ははしゃぐ。無垢な子供である二人とも、それはもう期待と楽しみに瞳を輝かせたものだ。

 くるりくるり。双子は互いのサイドテールを揺らし踊る。


「ふふ。可愛い子たちね。それともう一つ用事を済ませてきたの。二人も楽しめるお祭りの準備をね」


 席にへと腰を下ろし、魔女は語り出す。


「お祭りの主役は一人。可哀想なお姫様に魔女は魔法をかけてあげる。引き立て役はお姫様を嫌う人間と欲しがる魔王」


「どのような魔法ですの?」

「どのような奇跡ですの?」


 更に、本の物語を語るように魔女は続ける。


「嫌われ者の可哀想なお姫様にかけたのは『真実を知る』魔法。とても強く、心の奥底で抱く汚い真実を知る」


「真実は残酷」

「真実は無慈悲」


「そう。真実とは刃。そして人の心とは綺麗に切れるモノではなく錆び付いて切れ味の悪い、抉るような刃」


「汚いのは嫌い」

「汚いのは醜い」


「清純ぶって平和を願う者たちの真実ほど醜いものはないわぁ。その真意はとても醜く澱んで、殺意に溢れている。それが私があの子にかけた魔法。世界はこんなに貴方を拒絶しているの。だから貴方も拒絶なさい、――愛おしい子」


   ◆


「ネアさんっ! ネアさん!! どこ……っ、どこですかぁ!!」


 すぐ近くにいたはずのネア。呼び声に彼女なら応えてくれると叫ぶ。

 しかし、そんな助けを求めるエリーの声が掻き消されていく。


『あの時に死んでいればよかったのに』

『どうしてこの国に?』

『私たちを殺すの?』

『私たちを殺したいの?』


「ちがぅ……っ、私……、違うっ」


 他人の死など望んだことはない。殺したいなど思ったことない。自分よりも他人には傷ついて欲しくないのだから。

 だが今のエリーはそれらから逃げ続けることしかできない。

 

「……っ、誰かぁ。…………クロト、さんっ」


 いつも、どんな時でも助けてくれるのはクロトだった。名を呼んだ時、一寸だが光が見えた気がした。

 差し伸べられた救いの手。エリーは安堵してその手を取ろうとするも、その手は知人のものではなくあり、更に少女の心を堕としていく。

 エリーの腕を掴み取った影はぬるりと顔を寄せ責める言葉を述べる。


『お願いだから平和の邪魔をしないでっ』


「――ひっ!?」


 腕に纏わり付いた手はとても冷たく全身に広がり四肢の自由を奪う。おぼつかなくなる脚は崩れ地にへと引き寄せられた。

 

「……あぁっ、ああ……っ」


『殺して。殺して。早く。早く』

 

 死を願う声が頭に響く。耳を何度も何度も強く塞ぎ抉ってしまいそうだ。

 この耳がなくなれば声は聞こえなくなるだろうか。それでも聞こえてくればどうすればよいのか。

 しだいに集まる影が、悲痛に苦しんでも止むことのない残酷な言葉を投げ続けてくる。

 

 ――私が、いけないの……?

 ――私がここに行こうって言わなければ、こんなことにはならなかったの?

 ――私がきたから、こんな事に……。


「ごめ……なさい……っ、私……そんな……つもりじゃ…………」


『殺して。殺して。殺して』

『早く。早く。早く』


「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、――ごめんなさい!」


 許されない波の中エリーはひたすら謝り続けた。

 彼らが自身を咎めるのは存在そのものが悪だからと思い知らされる。

 言葉のどれもが心を抉って痛く引き裂いていく。

 ……これは、罰なのだろうか?

 謝り続けて許しを請うも、心の奥底ではそれら言葉を認められず否定というものが渦巻いていた。


 ――どうしてそんな酷いことを言うの?

 ――どうして私が死ななければならないの?

 ――どうして私を殺そうとするの?

 

 ――殺さないで。やめて。もうそんなこと言わないでっ。


「……私が、……死ねばいいの?」


 ――死にたくない……。


「私が…………全部悪いの?」


 ――私はなにもしていない。


 自分が何人もいるかのようだ。矛盾を重ね報いようとする意志を妨げる。

 闇が体を覆って澱んだ沼にへと引きずり込み溺れさせていく。

 どこまで堕ちれば許される? 

 今でもエリーには残酷な言葉が聞こえてくる。


『死んでしまえばよかったのに』

『いや、そんなことよりも……もっと前に』

『そう……。もっともっと前から……』


「……やめて。もう……やめて……」


 もう聞きたくない。現実を教えないで。存在の意味を教えないで。

 この世にいてはならないと、事実を押しつけないで。生きることを諦めさせないで。

 誰でもいい。この手を誰か取って……。いてもいいと、言ってほしい。

 救われたい。……ただ、そう願っているだけだというのに。現実は残酷でしかなかった。




『――産まれてこなければよかったのに』




 その時……エリーの生命そのものが完全に否定された。

 いったい誰の言葉だったのか。全ての人の願いなのか。……それとも、産みの親の言葉だったのだろうか。

 親の顔など知らない。覚えてない。それでも……もし、それすらからも……存在を否定されていたとすれば…………。


 ……絶望が全てを満たして溢れそうだ。

 

 ドロドロとしていて気分の悪い黒い波。

 いつの間にか、エリーは聞こえる言葉の全てを否定し、無意識に溢れた黒いものを吐き出していた。


 ――聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない――



 ――そんなこと言わないで! そんな言葉聞きたくない!!


 ――そんな言葉いらないっ! いらない、いらない!! 


 …………いらない。いらないなら――


 ――もう……っ、――――……消えて。










 ――叶えよう。キミがそうしたいなら…………










 聞きたくなかった。ただ……それだけだったはずだ。

 後先も考えず、何気ない言葉が心の奥底から湧いてこぼれてしまう。

 ――その言葉とともに、周囲は一変してしまう。

 闇は晴れ、酷いことを言う影は声をなくして掻き消えていく。

 一面の暗闇の世界が……姿を変えた。

 そこは乾いた大地と暗い空がどこまでも続く世界。草木はなく、こぼれた涙までもが地に落ちきる前に消えてしまう。

 生きる者を許さない、存在を否定した世界がエリーを中心に広がっていた。

 

「……なに……これ……?」


 暗雲に包まれた空を見上げれば七つの黒い星が見下ろしている。

 不思議と達成感がその星からは伝わってくるようだ。

 ――まるで、望みを叶えたと、言っているかのように……。

 

「……私が、……したの? これ…………、私が……っ」


 そこに存在するのは己のみ。生者はおらず、全てが事を終えた後。

 ――そんなこと、願った覚えはない。


「……ちが、うっ。私……そんなつもりじゃ……っ。……ただ、……ただ、私は――」


 だが。『消えて』と……、そう言ったのは…………?


 


 ――私だ。




「──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────ッッ!!!」


 声にならない悲痛の叫びが、崩壊した世界に虚しく響く。

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