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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 三章「王都攻防戦」
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「天秤の行方」

 ヴァイスレット王都外壁。四方の門では盾を携えた兵が鎧蜘蛛の進行を抑えていた。

 盾を務めるのは屈強とガタイの大きな兵たち。力強く地を踏みしめ蜘蛛の突進を耐え凌ぐ。糸を扱い壁を登ろうとすれば上で待機していた兵が迎撃を開始する。

 本来上空の魔物を落とすための投槍器。その半分を上空のドラゴンフライへ。そして残りを鎧蜘蛛目がけ発射された。

 一点を集中して射貫く大きな槍は貫通性があり蜘蛛の鎧を貫き落とす。

 剣よりも槍を多用するヴァイスレット。その威力は硬い装甲の魔物を相手に効果的でもあった。

 しかし、人力と魔物。序盤から障壁を失ったため時間が長引けば先に体力を失うのは人間側である。

 

「……あらあら。盾も頑張るわね」


 高台に戻った魔女はそんな攻防戦を眺め、ふとあくびをする。

 一息入れ優雅に紅茶を片手に、魔女は観戦しながらそれを口にした。


「虫がいっぱいですわ」

「虫が押してますわ」


「そうよねぇ。アレだけの数、時間の問題だわ」


「とてもつまりませんわ」

「とても呆気ないですわ」


 魔女も寄り添う少女たちも白けて一緒になってため息を吐く。

 

「……まぁ、でも。こんなのはちょっとした前座だわ。そろそろ始まる頃ね」


 他の楽しみを待ちわびるように、魔女はくすっと笑って王都を眺める。

 その王都の上空は、徐々に雲行きを怪しくさせていた。


   ◆


 エリーを抱え逃げ続けるネアはついに脚を止めてしまう。

 大通りにて四方八方を兵に囲まれ身動きが取れなくなっていた。

 

「なんでぇ……、どうして……っ」


 ネアの足元にはフードを深く被り膝を付くエリーが未だに怯えて恐怖に呟く。

 にじり寄る兵の動きを一つずつ警戒。人間相手に気乗りはしないが身構えるネア。ここまで来ればもはや誤魔化しなど効果を成さない。


「……この子に触れようとするならそれなりに覚悟しておきなさいっ」


 最初に忠告はする。だが、聞き入れるということは兵士には不可能だ。


「ふざけるなっ。それが【厄災の姫】なのだろ!?」

「自分がなにをしているのか、わかっているのか!?」

「国の一大事なのだぞ!」


「…………言いたいことはわかるわよ。……でも、この子にも生きる権利は――」


「――そんなことで大勢を犠牲にするのか!!?」


 ネアの言葉は正論という刃で断ち切られる。

 魔王の狙いがエリーにある。ならその根本を断つのが最適解としか言いようがない。

 一人を犠牲に大勢と国を救う。その決心と国への忠誠はとても誇らしく、人の為にあるべきものだろう。

 ……しかし、どの兵士からも感じられるのはそんな救おうとする勇敢と勇ましいものではない。

 この兵士たちにあるのは恐怖だ。それをネアの見極める目は逃しはしない。

 ――怖がっている。たった一人の少女に。

 多勢に無勢と兵士たちが一斉になって槍を構えて地を蹴る。ネアは瞬時に素早く全ての兵士の動きを目で追う。一度に襲いかかるとしても接近の間合いを誤差なく動くことなどできない。

 まず、一番近くにいた兵士にへと突っ込み顎を蹴り上げた。次にその右、そして後方。左、左。次――。

 的確に順番を決め頭部を狙い蹴り飛ばす。しかし、いくらネアでも限度はあった。攻撃の速度が追いつかず、一人がエリーにへと槍を向ける。

 

「すまない……っ。だが――」


 子供を前に兵士は許しを求め高く槍を振り上げる。

 その声が聞こえでもしたのか、怯えて震えた少女の目がふと上を向く。

 煌めく星の瞳。それを目の当たりにした兵士の男は声をひきつらせ硬直。その間に追いついたネアが一気に蹴り飛ばす。

 十数人の兵全てが彼女を中心に飛び散っていた。


「……っ、女の子にそんなもの向けてんじゃないわよ!」


 人間とはいえ国の兵士。全員が気を失っているかどうかを確認する。

 全員が動ける状態でないとわかれば大通りから魔物の侵入できない細道にへ運ぶ。襲ってはきたがこのような戦場に放置などできず、雑に放り投げておく。


「相手が私で良かったわね……。クロトなら絶対放置してたんだから」


 一掃したネアは顔を上げていたエリーに微笑み手を伸ばす。

 

「もう大丈夫よエリーちゃん。……さぁ」


 今なら声を聞き入れてくれる。そんな気がしていたのだが……。

 ネアを視界に入れた途端、エリーは目を見開いて身を退く。


「いやぁああっ、ああああぁッ!」


 伸ばしたネアの手を払い叫ぶ。

 ネアを見ながらエリーは再び怯え近づくことすら拒む。急なことにネアは胸を痛め困惑してしまう。


「エリーちゃんっ、私よっ? お姉さんのこと、わかる?」


「ひぃッ! やぁあ……、やああぁ……っ」


 しっかりとネアを見ていたはず。目を合わせてもいる。そにも関わらず慌てて身を起こし逃げようとまでした。

 今エリーを一人で行動させられずネアは腕を掴み引留める。


「待ってエリーちゃんっ。危ないからっ」


「いやああっ、離してぇっ!!」

 

 捕まれているというを理解している。感覚だっておそらく戻ってきているはずだ。だが、いったいなにがいけないのか。

 少女に拒絶されネアも無理に止めきれず不意に手の力を緩めてしまった。

 手から腕が離れその場でエリーは尻もちを付いてしまう。


「ご、ごめんねエリーちゃんっ。お願いだから――」


「いやぁ……っ、私……、ちがうぅ……っ」


「……エリーちゃん? ……なにが、違うの?」


 頭を抱えるエリーはそう呟いて首を横に振る。

 更に続けて彼女は呟いた。怯え、震えた声で……。


「殺さないでぇ……、私を…………殺さないでぇ……っ」


   ◆


「――姫には、此処で死んでもらう。それが最適解だ」


 ロウグスはクロトたちの前でそう宣言した。

 それを易々と認められないのも魔銃使いの二人である。


「ふざけんなよテメェッ」

「そうだよ! マスターに怒られたくないぃっ」


「どのような理由があろうと、あの姫を生かそうとするお前たちは大罪人だ。これ以上手間をとらせるというのなら、姫共々討たせてもらう」


 この場での口論など無意味だ。ロウグスの言葉は論理的にこの状況に合っており最善の策だ。なにも間違っていない。

 しかし、こちらのも理由がある。今もクロトとエリーは呪いで繋がれている身。エリーの死は自身の死を意味している。

 ロウグスは国のためにエリーを殺す。それに対し、クロトは自分のためにエリーを守る。

 釣り合わない意見。数千の命か、個人の命か。しかし、クロトの天秤は片方に傾いたまま微動だにしていない。

 躊躇など一切なかった。選んだのは――エリーだ。

 数千とて、それは他人の命。他人と自分。考えるまでもない、自分のために行動する。それがクロトという魔銃使い。

 

 ――例え完全にこの国を敵にまわしても、自分のためにアイツを生かす。


 気を入れ直すため深呼吸をする。息を整え、一気にロウグス目がけて突っ走る。

 槍が構えられクロトに狙いを定められた。風を纏い、突き抜ける風と共に鋭い突きの一撃がクロトにへと迫る。


「――【纏え。ニーズヘッグ】っ」


 クロトの周囲を炎が走り炎蛇の皮衣がなびいて顕現する。

 主を覆い風を受け流す。更には槍の一撃をも受け止めはねのけた。

 はらりとほどける羽衣。その中にクロトの姿はなくロウグスは視界を彷徨わせた。


「――ロウグス! 下ッ!!」


「――ッ!」


 【風精霊(エアリエル)】の声にようやく向いた目はクロトの姿を捉える。

 羽衣の下からロウグスの懐に滑り込んだクロト。背を地に付け、既に銃口はロウグスに照準を合わせ引き金を引き放つ。

 寸前でロウグスも対抗し盾をずらし被弾を免れる。


「ちっ!」


「悪知恵を……っ。だが、もう逃げ場はないぞ!!」


 槍が胴体を目がけ振り下ろされる。当たる直前にクロトは片脚で槍のシャフトを蹴り上げた。乱暴な悪足掻きに矛先が鼻先と前髪をかすめる。

 再びできて隙にもう一度銃を向け直し、再度引き金を引く。


「――【貫け。ニーズヘッグ】ッ」


 唱え放たれた銃弾。先ほどと変わらず盾にへと直撃した。

 しかし、今度の銃弾はただの銃弾ではない。銃弾は掻き消えず今でも盾の障壁を押し貫こうと勢いを落とさずある。

 押し留まるも銃弾にロウグスの腕は押し返されそうになる。

 

「これは……っ!?」


「――貫けぇえええッ!!」


 銃弾はその意志に応えた。

 王都の魔道障壁と同等のロウグスの盾を貫き彼の顔をかすめ天にへと消える。

 かすめた頬に手を当て後退るロウグスは信じられないと目を見開く。


「……っ、馬鹿な。ヴァイスレットの、盾を……っ」

 

 障壁は核を壊さない限り完全に消滅などはしない。貫かれた障壁は直に修復され元に戻るもその事実がロウグスの戦意を削いだ。

 銃口はロウグスを再び捉え狙いを定めている。


「次は殺すっ。今のならお前の盾を砕くこともできるぞっ」


「……~っ、そんなことで退けると思うなよっ。私にはこの国を守る義務がある! たかがお前らのような輩にその意志が崩せると思うな! それとも、この国の命を背負う覚悟でもあるのか!?」


「んなもん、あるわけねぇだろうが! 他人の命と自分の命……、選ぶのはいつだって自分なんだよ! アイツが死んで一番困るのは俺なんだからなっ」


 身勝手な言葉だがクロトの意志もまた当然の答えである。

 

「くぅ……、それでも、姫に生きてもらっては困るのだ。この国を……クレイディアントの様な、あんな末路をたどらせるわけには――」


「……どういう意味だ? あの国は魔王と他国の襲撃で……」


 壊滅した。そうクロトは記憶している。

 しかし、それは実際にクレイディアント跡地を見たわけではない。情報のみのもので今はどのようになっているかなどは知りもしないし気にもとめていなかった。

 ロウグスはその光景でも見たとでもいうのか、恐怖を顔に滲ませていた。


「確かに……。だが、最後には全てが消し去った……。魔王も、他国の軍も……、王都も形を残さず…………消滅した。それが、あの国の末路だ。…………確かな証拠はなく憶測でしかないが、最終的にあの国を滅ぼしたのは――」


 その続きにクロトも肝を冷やす。言葉にせずともその先が読めてしまい動揺すらした。

 

 ――まさか……アイツが……?


『――ロウグス様っ、こちら南正門の守備です! 応答をお願いします!』


「……っ!? どうした? 何事だっ」


 またもや通信が入りロウグスは即座に耳を傾ける。守備隊からの声は交戦中の雑音とノイズを混じらせ、それでも焦りを隠せずあるのは容易に理解でき息を呑む。


『現在地上の魔物の軍勢の多くを足止めしていますが、……アレがっ、――魔王の姿が消えましたッ!!』

 

 開戦前、それ以降も鎧蜘蛛の奥で高みの見物をしていたはずの魔王が今はないという伝達。

 思わずロウグスは耳に当てていた片手を落とし、それから聞こえる通信をまともに受け止めることができずにいる。


「……六番席が、動き出したっ」


   ◆


 抗戦する戦場の音がそこら中で轟く中、この場に似つかわしくない鼻歌が奏でられる。

 歩く度に両腕の長袖は機嫌良く揺れ動く。

 がらりとした街並みを見渡しつつ、男は手に持っていた物を舌なめずりした口元にへと運び口を開くのだが、ピタリと止めて口を閉じる。


「……いかんなぁ。最初に口にする物は決めているのだった。ふんっ」


 持っていた物を後ろにへと放り捨てる。

 それは人間の生首だ。血にまみれ両目を抉られた後のそれは頬に微かな涙の跡を残している。よほど酷い殺され方でもしたのか。

 放られた首は空を漂っていたドラゴンフライの一匹が喰らい噛み砕く。細かな血しぶきを降らせ滴る赤を見上げては男――セントゥールは歓喜してくるりと踊る。

 

「やめてくれぇっ、助け――」


 ――ぐしゃっ……。

 後方では助けを求めた声が肉を潰す音で断ちきられる。

 セントゥールの後ろでは付いて進む大ムカデが牙に兵士の一人を咥え胴体を食い潰していた。

 朽ちようともその身を更に潰しただの肉塊にへとなり腹へ誘う。

 幾多も響くは恐怖に染まりきった断末魔。セントゥールは手を振るい指揮棒を振るうかの様。


「やはり人間界はいいなぁ……。脆弱な生き物を蹂躙するこの快感、心地よくてしかたない」


 前方ではこれ以上の進行を阻もうとする兵の数々。しかし、その脚はなんと頼りないことか。武器を構えるも身を支えるそれはガクガクではないか。

 妖艶と笑みを浮かべ指揮をする手は瞬時に下げた。

 指示に従い大ムカデは地を砕き潜る。地鳴りを響かせ次に姿を現せば大地と共に立ちはだかる数をなぎ払い獲物を捕食。打ち上げられれば上空で飛び交う魔物が食らい付く。鮮血と臓物を撒き散らせ街道を染め上げた。


「はははっ。謳えっ、絶望しろっ。その身でこの六番席を愉しませることを光栄に思うがいい。盛大に宴を彩り尽くすがいいっ」


 血に染まる道はさながらレッドカーペット。蟲の王は優雅にそれを踏みしめ残酷と冷笑を響かせた。

 

 

 

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