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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 三章「王都攻防戦」
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「魔王の取引」

 王都外壁南側の正門を中心に広がるのは大量の魔物の大群だ。どれも人より大きな蟲の形をしている。

 空を飛び交うのは四枚の透明な羽根を持ち長い胴体をしなやかに動かすドラゴンフライ。地上の平原には重々しくある鉄の塊のような体をした鎧蜘蛛。

 その数を正確に数えることはできない。だが片方だけでも軽く百は超えているだろう。

 既に第三、第二の非難は完了し賑わっていたはずの街並みはもぬけの殻。いたとしてもヴァイスレットの兵士が点々とある。

 非難の遅れた住人がいないかと見回り、その他の兵士は四方の門で備えている。

 王都を囲む障壁は三つ。最悪一つ目が破られる恐れもあるが……。

 第三の城下街にいたネアとエリーは物陰に身を潜め、見回っていた兵士の様子をうかがう。


 ――なにこの最悪な事態は……。


 ローブを纏うエリーを強く抱きながらネアは冷や汗を滲ませる。

 住人の大々的な非難と先ほどのサイレン。ネアもクロトと同じ考えにたどりつき致し方なくこの状況をやり過ごそうとした。

 

「嘘でしょ。まさか本当に魔王が来たっていうのっ? いくらなんでもタイミングが悪すぎる……」

 

 魔女の予言。ネアはその情報をまだクロトたちにしか離していない。こんな情報など早々信じてなどもらえるはずもなく公害などすれず笑われ者の対象だ。おかげでこの王都にはその情報が一切なく住人から兵に至るまでの予想外と慌ただしくある行動が目立つ。

 今でも心の準備ができていない兵の表情は不安を混じらせている。 

 

「……どう動くべきか。おそらく四方の正門には兵士がいる。なんとかこの国がやり過ごしてくれるのを待つしかないかしら」


 対策をネアは考える。すると、抱いていたエリーがふと不可解な動きをとった。

 エリーは耳に手を添え、なにかを捜すように周囲をキョロキョロと見渡す。


「……? どうしたのエリーちゃん?」


「…………いえ。今、なにか聞こえた、ような……?」


 同時にネアの耳も音を捉える。片耳に取り付けていた通信機から声が届いてきたのだ。

 もしかしたらエリーはそれに早く反応してしまっただけやもしれない。

 

『おい、ネア! 今どこにいる!?』


 通信相手はクロト、と……


『わーん、先輩どこぉ!?』


 イロハも乱入してきて片耳では足りないような状況だ。

 声はわずかにノイズ混じりでネアは一番話の通りがいいクロトとの会話を望む。


「一人っ、新参の野郎は黙ってて! ……クロト、私は今エリーちゃんと一緒に第三の南側にいるわ。街中を兵士がうろついてるし、迂闊に行動ができないの」


 今街道にいるのは兵士のみ。ここで見つかれば確実に接近され怪しまれてしまう。


『……あれ? なんで他の人たちと移動しなかったの? みんな上に行ってたよ?』


 一応黙れとは言ったのだがイロハは関係なく会話に混ざり出す。

 言葉を慎まず、それも考え無しのことを言われネアに機嫌は途端に悪くなる。


「行けるわけないでしょ! あるのは第一、城の近くにエリーちゃんを連れて行けるわけないじゃないの!!」


『お姉さんっ、耳が変になるよ……』


「じゃあアンタは黙ってて! ……それにしても、本当に来るなんてどういうことよ? なにが目的なんだか」


 言葉を返せずいたクロトもそれには一番の疑問を抱いた。

 例え魔王だろうとロクな理由もなくこんな部隊を率いてわざわざ人間界にくるだろうか?

 急ぎ脚で第三の南側に向かいつつクロトはその理由を探る。

 場所はこのヴァイスレットであり歴史を頭にある知識から導く。魔王と関連があるとすれば昔退けたとされる一体が該当する。王の名は当時語られておらず【魔王】ということだけが判明していた。魔王の情報として記されていたのは盾の国に見合うものだったという。当時の戦は両者の同じ力のぶつかり合い。それはどちらも【盾】を象徴としたものだ。

 魔道による障壁のヴァイスレットに対して相対したのはその盾と同等の鉄壁を誇っている魔王。


『……ネア。お前、魔界の十三魔王の名を全て知っているのか?』


「一応。あっちにもたまに行ってるし……」


『今来ている魔王。その可能性があるのは過去にこの国を攻めた一体だと俺は考える』


「……妥当ね」


『現在魔王の情報としてはそれと、空を蟲が飛んでやがるのが見えた。心当たりあるか?』


 蟲。その一言にネアは表情をひきつらせ、おもむろに「げぇ」と声をこぼしてしまう。

 どうやら思い当たることがあるのだろう。

 目頭に手を当て、ネアは少々遅れてから苦い顔で答える。


「……いる。無駄に硬い蟲を使役しているヤツが一体。それも魔王の中で性格は最悪と言われているのが」


 その名は――。

 ネアが続けて魔王の名を言おうとするが、会話を妨害する高音のハウリングが王都全域に響き渡る。

 今度はなんだと天を見上げ睨む。


『――ご機嫌はいかがかなぁ? 盾の国の脆弱(ぜいじゃく)人類諸君』







 愚弄する言葉を放ったのは敷き詰めるように南側正門前で並ぶ鎧蜘蛛の奥。塔の様にとぐろを巻いた巨大なムカデ、更に頭上では細いペンのような機器を片手に立つ人の形が確認された。魔物の群れの中、悠々と人間がそんな場所にいれるはずむなくそれは魔の者と判別できる。

 相手からの言葉なら、十中八九その群れを仕切る主だ。つまり――

 マイクらしき機器を通して更に男は声を出す。


『我は魔王。偉大なる極魔神より生を受け魔界を支配する十三魔王が一席、――六番席魔王【鋼殻蟲(こうかくちゅう)のセントゥール】。以後、お見知りおきを』


 やはり。そうネアは予想が当たってしまったことに「最悪」と呟く。声など聞くのは初めてだが最初の言い分からして相当人間を見下している様子。おそらく過去に来たのもこの魔王だろう。

 しかし、魔王がここまで盛大に名乗りでればヴァイスレットでは衝撃的なことである。実際この声を聞いている王都の住人は避難所でざわつくこととなった。

 すぐに攻めずここまでお膳立てまでもして人の恐怖を煽るところは噂通りの性格の悪さも出ている。

 丁寧な口調でも性悪に楽しんでいるように思えて仕方ない。

 

『本日、諸君らの希望の盾は砕けよう。ボクとしてはとても残念に思うが、いつか盾は砕ける。それが今なだけだ。……しかし、ボクも慈悲深いので諸君らにチャンスを与えようと思う』


 慈悲と言うが誰がそれを鵜呑みとして受け入れよう。

 その通りであり心にもないことをセントゥールは軽々と口にしていく。


『ボクは今とても欲しいモノがあるのだよ。諸君らのコレまで築いてきた盾の名を奪うのも魅力的だ。なんせボクは昔諸君らのその盾に阻まれ落とし切ることができなかった。忘れたことなど一度もなく良き宿敵(ライバル)とまで思える。だからこそ()()をしたいと考えている』


「……取引?」

『とりひきぃ、ってなに?』

『お前が俺からクソガキ取ろうとしたようなもんだ』


 ――しかし、なにを取引するつもりだ? ……アイツが求めるモノ。


 言葉から推測するにそれは実在するモノ。この場所にあり、存在しているモノ。それも魔王などが求めるモノだ。ならそれなりに大したモノなのだろう。盾への復讐という考えはあったが、それ以上のモノを望んでいる。

 

 ――そんなもん、こんな所にあるのか……?


 場合によっては完全に無関係なため合流すればどうにかしてこんな場所から逃げるに限る。

 しかし、クロトは急ぎ脚を止めてしまい両目を丸くする。

 頭の片隅でなにかが引っかかったのだ。

 

 ――此処にあって、此処に存在している……アイツが欲しがるようなモノ?


 不意に唾をゴクリと呑み込んでクロトの頬を一筋の汗がつたう。

 

 ――ある。此処には魔王が欲しがるような()が……っ。






 動揺する頭の中で、ふわりと金の髪がよぎった気がした。

 意識がその()()を追う。しかし、引留める前にそれはこちらを向いている。

 金の髪をなびかせ、その少女は微笑んで待っていた。

 その表情は、今でも嫌いだ……。

 

 いつもそうだ。お前はいつも、望んでないのにそうやって俺の前にそうやって立っている。

 

 共にいると約束し、それを果たそうと寄ってくる少女に一寸の戸惑いも感じてしまう。

 思わず後退ると少女は不思議と首を傾けて見上げてきた。

 こちらになにかあれば、少女は心配そうにする。遠ざかろうとしてしまったことに今少女はそう眉を曲げてしまう。

 当初と比べ少女はとても表情が豊かになったものだ。

 最初は恐れていたのに今ではいろんな表情を見せてくる。

 嬉しい時には笑い、困った時には苦笑して……。泣くこともある。稀に怒ることだってある。不安だったり、心配そうにしたり。

 どこにでもいる、感情が豊かな幼い少女。

 だが、それはただの()()だ。その一線が自分とこのモノの境界線。

 動揺した時はそれを自分に言い聞かせ、今度は自分から歩み寄り手を伸ばす。

 

 しかし、その手は届かなかった。


 ようやく笑顔を取り戻したかと思えた少女はふと闇に呑まれて消えてしまう。

 自分の目の前で姿を消され焦る視界はそれを捜す。

 次に見つけた時には思わず息を呑むような姿にへと変わり果てていた。

 地に崩れ、輝ける星の瞳は虚ろとしておりなにも捉えていない。肌は青く冷たさを視界で理解させてくる。

 人形の様かの少女。体の中心は抉られた痕を刻まれ、一番大事な心臓を失っていた。

 徐々に四肢は血に染まり体の形を崩す。まるでなにかしらに貪られたかのように……。

 呼吸が、息が今にも詰まり止まってしまいそうだ。

 その死体はこれまで見てきた死体のなによりも自分の心を乱していくものでしかない。

 


 

 

 ハッとしてクロトは刹那の幻想から解き放たれた。

 実際はほんの数秒にも満たないものに現実との感覚が合わず混乱する。

 最悪のビジョンが見えたことに思わず胸をおさえた。


 ――まさか……、まさかっ。


『とても簡単な取引さ。諸君らもその気になってしまうだろう。ボクが欲しいのはこの世にたった一つ。そこにいる、この世界に終焉をもたらすと称された麗しの乙女――』


 ――――まさか!!



『――【厄災の姫】。その姫君を渡してほしい』

 

 

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