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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 二章「盾に忍び寄る魔の手」
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「そこに魔女はいる」

 周囲でざわついていた蟲の群れと共にセントゥールがいなくなると、魔女はヴァイスレットを眺めながら細かな息を吐き捨て真紅の瞳を細める。


「…………馬鹿な魔王」


 先程までの様子は何処へやら。忽然と呟くのは悪態の一言だ。

 風がそよぐと当時に魔女は靴底を地につけ席を立った。

 

「魔女様お出かけですの?」

「魔女様お出かけですわ」


 表情を不快としていたが、後方より聞こえてくる少女二人の声を聞けば魔女は再び微笑み振り返る。

 椅子にかけてあった黒の日傘を手に取り広げくるくると回転。


「ええ。あの魔王には傍観者と言ったけど、一切なにもしないなんて言ってないものね。少し出かけてくるからお留守番をよろしくね」


「「かしこまりました」」


 双子の少女たちは同時に頭を下げ魔女を粛々と見送る。

 次に二人が頭を上げた時、魔女の姿はその場から消えていた。


   ◆


 クロトとイロハが別行動をする中、ネアとエリーは第三階層城下街に並ぶ屋台をまわっていた。

 大きな街。大勢の波。気を抜けばはぐれてしまいそうな中、エリーは緊張しつつも必死とネアの傍を離れずいる。

 ネアはこの街に何度も来ているらしく、知っているいろんな場所にへと案内してくれた。

 

「エリーちゃん、お腹空いてない? お姉さんが好きなだけ奢ってあげるから♪」


「だ、大丈夫ですよネアさん」


 けして観光に来たわけではないのだが……。

 エリーもそのことをふまえネアの言葉には甘えられず苦笑しながら断りをいれておく。

 それに今はクロトとイロハがいないのだ。自分だけ楽しむというのは気が進まない。

 二人を思い返せばエリーは正面を見上げる。階段状となるヴァイスレット王都。見上げた先には一段街並み、更に一段と中央に大きな城が見える。

 

「……クロトさんたち、今どの辺りでしょうか?」


「ん? そうねぇ。結構行動力あるし、今は第二の見晴らしの良い場所にいるんじゃないかしら? ほら、ちょうどよく風車もあるし」


 指を差して方角を示す。ネアの見る方向には風車の翼がゆったりと回っていた。背伸びをして確認するが、やはり遠くにある。

 

「……遠いですね」


「そうねぇ。ひょっとしてエリーちゃん、アイツが傍にいなくて心配? 大丈夫大丈夫♪ アイツらになにかあっても私たちは即行で逃げちゃえばいいし、なんとかなるでしょ」


「そ、それは後でクロトさんに怒られそうですね」


「平気よぉ。お姉さん、アイツより強いし」


 腕には自信があるとネアは胸を張る。エリーは軽くとんでもないことを言うネアに「あはは」と苦笑。再び風車の方を見上げた。

 ここからではやはり彼の姿は見えない。イロハが空を飛んでいれば目立つだろうが今回は禁止されているため見かけた時点で驚きモノ。そうなると二人の姿を確認することはできない。今はクロトが少しでも目標に近づければと心で祈るのみ。


「そーんなことよりエリーちゃん行きましょう。ああ! あそこの屋台のってとっても美味しいのよ!」


 ネアがエリーを誘いながら先に前にへと進む。呆けていたエリーは反応が遅れてからネアを見失わないように後を追い駆け出した。


「ネ、ネアさんっ。待ってくださ――」


 より人の波が多くなる街道。一直線の道を行き交う人の流れとは全く異なる影が突如前にへと飛び込んで来ると、エリーはその影に軽くぶつかってしまう。

 ぶつかったのは自分と変わらないほどの少女だ。彼女は脇道でもあったのか、行き交う人々の動きに逆らい横断しようとしていたところだった様子。それに衝突してしまったエリーは脚をよろめかせ後ろにへと後ずさり、間を開けてから少女にへと謝罪の言葉を送る。


「ご、ごめんなさいっ。気付かなくてっ」


「…………」


 前屈みに体勢を崩し倒れそうになった少女は謝るエリーの顔を覗き込む。

 エリーは思わず少女の姿に目を奪われた。

 同い年ほどの少女の身なりは異様に綺麗なものだ。身に纏うのは黒のドレス。雪のような白い肌が鮮明に映り込み周囲とは異なるような見栄えである。まるで彼女だけ別の世界の住人かの様。

 こちらを見上げる少女の顔は残念ながらハッキリとは見えない。なぜなら少女の頭部は帽子から伸びるレースで隠れているからだ。

 しかし、その身なりはきっと自分よりも気位の高い身分なのだと思い、再び慌てて頭を下げ謝る。


「本当に、ごめんなさいっ」


 危うくその綺麗な容姿を台無しにしてしまうところだったのだ。許してもらえるかはわからないがエリーは必死で謝る。

 ふと、少女は手をそっとエリーの頬へ寄せ触れた。

 恐る恐るエリーは顔を上げ少女の表情をうかがう。すると、レースから覗く少女の口元は笑みを浮かべていた。

 そして、動き出し言葉を発する。


「綺麗な瞳ね。……まるで――」


 エリーは言葉に目を丸くした。

 不思議と聞こえた言葉の最後が、聞いたものの頭に入らず何処かで詰まったかのよう。

 しかし、少女は確かに続きを言った。

 言葉がなんだったのかと少女の顔を見ながら考える。


 ――まるで…………?








「…………ちゃん? ――エリーちゃんっ?」


「……っ!」


 気付けばネアが戻って来てエリーの顔を心配と覗き込んでいた。

 目を見開いたままエリーは体をちゃんと立たせると左右を見渡しなにかを探す。

 

「どうしたのエリーちゃん? なにかあった?」


「…………いえ」


 エリーは不思議と記憶をあさる。


 ――私、なにしてたんだっけ?


 今、誰かと話していたような気がする。だがエリーはそれを思い出せず頭を悩めて首を傾ける。

 記憶のどこかでぽっかりと穴が開いているという違和感が離れない。

 なにかを……忘れているような……。

 

「大丈夫? ちょっとどこか休める場所にいきましょ。まだ旅の疲れが残ってるのかもね」


「……はい」


 どうしても違和感が残る。だが思い出せないことを深く考える様子はネアに不安を与えてしまう。気が進まないがエリーは笑顔をネアに向け彼女と離れない様に手を取り合い先を進む。


 エリーとネア。二人が先ほどまでいた場所では彼女らを黒い少女が見送り、くすっと微笑する。

 その姿は人混みに紛れ……また消えた。


   ◆


 クロトがエリーたちと離れ別行動をとってから一時間が経過しようとする。

 見晴らしの良い風車に登り第三から第二の街並みを見下ろした。

 本当なら第一にもある風車に行くつもりだったのだが、さすがにそこからは一般の者が易々と無断で立ち入れる領域ではない。警備の兵の数も多くなり忍び込んで厄介なことになるのも面倒だ。


「……どこにいるんだ、あの魔女」


 誘ったのは魔女本人。この場合、クロトの経験からして魔女がいる可能性は高いと考えている。

 意味もなく呼び出すわけもなく、「いる」という過程でとにかく捜した。

 目を凝らし集中していると片耳に付けていたインカムからノイズ音の後に声が響く。


『先輩。マスター見つかんないよ?』


「んなことわざわざ言わなくていい。……お前、今どこにいるんだ?」


『ん? 先輩とはちょうど反対側のふーしゃかな? 先輩とは反対捜してるから』

 

「あーそうかよ。とりあえず連絡は魔女を見つけてからにしろ。ついでに見つけたらとっ捕まえとけっ」


『えー。そんなことしたらマスターに嫌われちゃうよ。ボクそういうのやだー』


「うるさいっ。言われたことしてればいいんだよ、お前は」


『……んー。じゃあ切るね』


 そこはせめて「わかった」と了承の一言があってもよかった。

 イロハとの通信が切れると再びクロトは街並みを見下ろし凝視する。

 魔女を捜す最中、クロトは不意に第三の方を眺めてネアたちを捜してしまう。余計なことにあの二人の行動が気がかりなのか当初の目的から思考が一々ずれる。


「……たく。なにしてんだ、俺は」

 

 余計な考えを振り払い標的を再度捜そうとした。

 その時、前屈みになっていたクロトの身が、トン、と軽く押される。

 警戒のなかったクロトの身はわずかな衝撃に負け、気がつけば風車の屋根から身を放り出された。

 落下しようとしてようやく危機感が襲い対処しようとするが、上着がなにかしらに引っかかり落下が止まった。

 まるで首根っこを捕まれているかのような様。なんとか外そうと首裏に手を回した時だ。



「お久しぶりね、クロト。元気にしてたかしら?」



 と。幼い声に動きをピタリと止める。

 その声は何年経とうと忘れたことがない、頭の奥に刻み込んだ声だ。

 ……いる。――あの魔女がすぐ近くに。

 クロトは後ろを振り返り屋根の上を見上げる。だが残念なことに見えるのは彼女を象徴する黒いドレスの一部のみで姿を完全におがむところまでは至らない。

 だが、すぐ傍にいるということは事実だ。

 一端焦った思考を落ち着かせ呼吸を整える。


「……元気、だと? お前のせいでこっちは酷い有様だクソ魔女」


 顔を合わせることができないためあえてクロトは正面にへと顔を戻し後ろにいる魔女にへと久しく会話をする。

 クロトの見えないところ。後ろでは魔女の日傘の取っ手がクロトの上着を引っかけ吊している。体格差が確かにあるにも関わらず、少女は平然とクロトの身をそのまま支えていた。そしてクロトとの会話を楽しむ。


「相変わらず可愛いわね。私の誘いにわざわざ来てくれるから、もしかしたら寂しくて会いたくて仕方なかったのかと思っていたのに」


「会いたかったに決まってるだろうが……」


「あらっ、嬉しいわぁ。クロトにそう言ってもらえて」


「ああ。――殺したくてお前に会いたかった。そうに決まってるだろうがっ」


 懐から取り出した魔銃の銃口が真後ろにへと向く。

 視界にいれなくてもそこで自身を支えているのなら位置など容易くわかる。このままなら彼女は案山子も同然。引き金を引けば体を撃ち抜くことが可能だ。

 銃口を見下ろし、魔女はくすりと笑う。


「わかってるだろ? 俺が言いたいことは」


「不死殺しの呪いの解除。そして私の命。この二つがお望みなんでしょ?」


「……他になにがある?」


「ふふ。そう、そうよクロト。やっぱり貴方は私の理想の子だわ。だからこそ私は貴方にこの役目を与えたんですもの」


「話を逸らすなっ」


 クロトは躊躇いもなく引き金を引く。しかしそれと同時に魔女は向いていた魔銃をカンと靴先で軽く蹴り上げ狙いを逸らされる。

 やはりそう簡単には殺させてなどくれない。


「んふ♪ ねぇ、クロト。この世界ってとても醜いと思わない? 余計なものがありすぎてとても窮屈。魔族も人間も愚者ばかり……」


 昔から、ときおり魔女はよくそんな問いをしてきたものだ。

 世界を見渡しては嫌悪の眼差しを向け、自身の考えを口にする。

 どう聞かれようがクロトにとってはどうでもよく聞き流して過ごしてきた。

 今となってはこのセリフも久しくある。


「……それは俺もってことか?」


 人間を愚者と罵る言葉にクロトは自分を含める。

 だが、すぐに魔女はそれを否定。


「まさか。クロトは私の可愛い愛おしい子だもの。イロハにも会ったでしょ? あの子も貴方と一緒。素敵だったでしょ。貴方と同じ不死身の魔銃使い。だから貴方の方に送ったの」


「俺を用済みとしてか?」


 当初。イロハはクロトを不要と言っていた。

 それは確かに魔女本人からの発言であると確信している。

 そして。魔女はその質問に否定などしなかった。


「……もしこの役目に不相応なら、ね? でも頑張ってるみたいだしその調子でよろしくね」


「断るっ。とっとと呪いを解け。そしたらあの鳥野郎にこんな役目押しつけてやる」


「相変わらずねぇ。でもクロトが全然変わってなくて、私はとても嬉しいわ。今の貴方はとっても素敵。そうやって呪いを解いてほしければ私を地の果てまで追いかけて殺しにきなさい」


「言われなくてもお前は俺がぶっ殺すっ」


「ええ。とっても素敵。……でも、私はそろそろお暇するとするわ」


「ハアッ!? 逃げるのかよクソ魔女!!」


「私は忙しいの。いい子にしていたらちゃんと迎えにきてあげる。……約束の日にね」


 あやすように魔女は言葉を送り、直後傘を振るってクロトを解放した。

 再び落下するクロトは風車の壁のわずかな凹みを掴み取り上を見上げる。最後の魔女の姿をしっかり確認したかったが魔女の姿はどこにもない。


「ちっ。ふざけるなよ魔女がっ」


 とにかく魔女がいたことは確認できた。しかし、姿を消したとなればおそらくもうこの場には現れないだろう。

 単なる現状確認のための接触か、嫌がらせか。

 要件が済めばクロトはこの場からどう下りようかと周囲を見渡す。

 すると、


『先輩。せーんぱいっ』


 イロハから急な通信が入り危うく落ちるところだった。

 魔女は逃し邪魔とも思える通信。クロトは苛立ち噛みつくように声をあげて返答した。


「なんだよいったい! 余計な通信だったら後で頭ぶっ飛ばすぞ!!」


『なんで怒ってるの!?』


「うるさい!」


『えぇ……。あ、そうだ。なんかね、遠くに変なのが見えるんだけど……。アレ、なにかな?』


「ああっ?」


 クロトは再度上に戻ろうと風車の翼に飛び込み屋根の上にへと立つ。

 遠くと言ってはいたがどこかと目を凝らしながら周囲を見渡す。自然と目が王都の外にへと向き、クロトは途端に視界を一点に集中させる。

 王都の周辺は平原。その地平線から黒い影が見え、それはしだいに広がって空を埋め尽くしこちらにへと迫ってくる。

 

「……なんだよ、アレ?」


 空だけかと思えば黒いなにかは地上の平原にも広まりだす。

 陸と空を埋め尽くすのはなにかしらの群れとも思われる光景。

 魔物の大群。そう捉えるのが一番最初となる。なら何故今このタイミングでそれらの群れが。それも大きく分けて二種族ある魔物の群れが一斉に一緒になって行動を共にしているのか。

 何者かがそれを誘導、もしくは先導していると考えた時、クロトは最悪の事態を頭の片隅から掘り出した。


「……まさか、本当に来たっていうのかよっ」


 そう思い込んだ直後、王都全域に警戒を促すサイレンが鳴り響いた。

 真下を見下ろせば鳴るよりも早く行動を開始したと思える兵士が王都の外壁に向かい出すのが見える。

 うかうかしていれば更に余計な事態にへとなるだろう。

 クロトはまだ通信の繋がっていたイロハに呼びかける。


「イロハ! ネアと合流するぞ!」


『え!? わ、わかったよ……』

『やくまが 次回予告』


イロハ

「なんかお姉さんってズルいよね」


ネア

「急になによ?」


イロハ

「だってお姉さんって姫ちゃんを独り占めしてる感じがするぅ。ボクには先輩も怒るし」


ネア

「そりゃあアンタみたいな野郎と私とでは雲泥の差だからに決まってるでしょ?」


イロハ

「……う、うんでい?」


ネア

「あぁ……、要は大違いってことよっ」


イロハ

「ボクとお姉さんってそんなに違う?」


ネア

「全然違うでしょ! アンタは男、私は女。この時点で明確な違いだわ」


イロハ

「……あー、確かに。うん、そこは違うね。でもそれだけでどうしてボクはダメなの?」


ネア

「ふっ。男って馬鹿ばっかね(クロト込み)。エリーちゃんみたいな可愛い子とアンタら薄汚れた獣野郎たちと一緒にいることに問題があるの。エリーちゃんのことは同じ女の私が付いてないとね」


イロハ

「うーん。なんかよくわかんないね。それじゃあ姫ちゃんと一緒にいられないじゃん。お姉さんの意地悪ぅ」


ネア

「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第二部 三章「王都攻防戦」。って、え!? 私とエリーちゃんとのデートは!?」


イロハ

「お姉さん、でーとってなに?」


ネア

「うっさい! いいからとっとと行動しなさい!!」

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