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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 二章「盾に忍び寄る魔の手」
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「盾の国」

 ヴァイスレットに向かって移動し始めてから三日が経過した。最後の夜は王都が見えるほどに位置した小さな街。王都を目の前にクロトたちは一番近くにあった街で宿をとり最後の夜を過ごす。


「いよいよ明日はヴァイスレットねぇ。しっかり休んで万全の体制で行きましょ」


「……ばんぜん?」


 イロハは首を傾けると、すかさずクロトが答える。


「要はなんの支障もないようにしとけってことだよ。お前は空も飛べるからロクに疲れてねーだろうが。……俺もそこまで疲れてねーけど」


「お姉さん一応明日のことを考えて言ってやってるんだからね? 野郎にそこまで期待してないけど少しはありがたみを持ちなさいよ。じゃあエリーちゃん。明日のためにお姉さんと一緒にお風呂に入ってゆっくりしましょ。歩きっぱなしで疲れたものね、お姉さんも疲れちゃったぁ」


 甘えた声でネアはエリーに寄り添うとそうやってすぐ私情を含めて誘う。

 一つ。ネアの言葉に疑問を感じたクロトは顔をしかめた。

 

「お前、確か一日ほどでこの距離を移動してなかったか? それで疲れたって発言は少しばかり無理がなくないか?」


「え~。いいじゃないのべつに~。そりゃあその気になればあの距離を一気に移動できるけど……。これでも速さには自身あるもの」


「……速さよりも化け――」


 「化け物」とでも言おうとしたのだろうが、言い切る前にクロトの頭上から速攻の拳が落とされた。

 最近のネアは本当に実力行使と言う名の暴力に躊躇いがない。それこそ失言だけで秒を通り越して拳が襲いかかるほどなのだから。

 これでクロトがネアたちと行動するようになってから何度頭を殴り付けられたことか。そんな光景を見るだけでイロハは物陰に身を隠しカタカタと震える頭部をひょっこりと出している。

 次は我が身とでも思っているのだろう。

 

「まったく、超失礼ッ。……さっ、エリーちゃん、行きましょ♪」


 そしてこの扱いの差である。

 ネアはさっさとエリーの背を押し始めた。


「ネ、ネアさん……っ、クロトさんが……」


「いいのいいのぉ。どうせすぐ治るんだし」


 頭の痛みがひいてきた頃にはエリーたちの姿はもうない。

 ロクにこれまでのストレスを発散できてないクロトはギリッと歯を食いしばらせる。

 撃ちたい撃ちたい。などと欲求が湧くも、代わりに怒声をあげてこの場をやり過ごすことに。


「あんのクソ女、マジでいつかぶっ殺すぞこの野郎!! どんだけ頭殴れば気が済むんだよ、ふざけんじゃねーっぞッ!!」


「……先輩、ひょっとしてお姉さんやっちゃうの? ボク怖いからやだよ?」


「お前の力なんざいらねーよ! クソッ」


 問題のヴァイスレット前夜ともあり話すこともいろいろとあったが、ネアとエリー、クロトとイロハは別室で宿をとっている。

 それも両室シングル。女性組は余裕でベッド一つで事足りる。しかしこちらは男二人にベッドが一つとはどういう冗談か。

 不安もあったがイロハはこういった寝具で眠ることに慣れていないということですぐ床にへと寝そべる。遠慮なくクロトは一人で寝具を使うこととした。

 これ以上あの二人がこちらに来ることはそうないだろう。そうとわかれば明日のためにも早めの休息は必要だ。

 上着を脱ぐと、クロトは床で丸くなっているイロハにへと向く。


「……そういえばお前。こんな事してていいのかよ?」


「ん?」


「お前、俺が魔女を捜すのに協力してんだぞ? 俺の目的くらい、どうせあの魔女から聞かされてるんだろうが」


 イロハは魔女がこちらによこした、いわば監視役だ。

 恩人と言い張るイロハにとってクロトが魔女を殺そうとすることを良しと考えるだろうか?

 土壇場で邪魔をするやもしれないが、今この状況を改めてクロトは確認することとした。

 しかし、イロハは目を丸くさせ首を傾ける。


「だって、しちゃダメなんて言われてないよ?」


「……言われたことしかしないのかよ、お前」


「だってわかんないもん」


 今更だろうがイロハはいつもこうだ。誰かになにかを言われないとできない。それがイロハにとっての常識にへとなっている。

 こんな人材を魔女はなんの意図があってこちらに送ったのか。

 ここ数日共にいたが特にといったこともしてこない。目を盗んでエリーだけを奪うということもなかった。もしかしたら他になにかを魔女に言い聞かされている可能性もある。

 ネア同様イロハもそこまで信頼などしていない。なにかあれば……。

 それ以上問いかけることはなく、その日を終えることとなった。


   ◆


 最寄りの街とはいえ距離があるため朝になれば四人は即座に王都へと移動を開始した。

 四方に門のある第三階層城下街の周囲は高い壁に覆われ地上からの侵入は困難。更に例の魔道障壁が展開されれば空からも敵の襲撃を阻む。攻めることよりも守りへ。それがヴァイスレットの盾の国の由来である。

 西側の門では検問でネアが鎧に身を固めた兵士にへと話を進めている。ネアは様々な国を行き来している事もありこういう事に関しては便利だ。おかげで他三名も入ることができたのだが、ネアの汗を滲ませるような姿にはバレないかとヒヤヒヤもしたものだ。

 本来ならエリーはネアと共に最寄り街にて待機させるはずだったのだが、それではあの魔女が出てこない可能性が高いとふんだ。そのためエリーにはローブとフードをかぶせ顔がわかりにくい様に。特に兵士などは避けるように正門をくぐると、すぐに視界に飛び込んできたのは活気のある第三城下街商業エリアだ。西と違い資源が豊富である南の国ではそれらに困ることはない。誰もが平等に餓えもなく暮らせている。それにヴァイスレットは治安の取れた国でもあり争い事も微々たるものでしかない。

 人通りの多いその光景を前に一同には若干の緊張も湧くものだ。

 

「……うっわ。人多過ぎるよ」


「そりゃあこの国の中心だからな。俺も初めて着たが、気分が悪くなるな……」


「だよねぇ。ボクこういう場所に来たことないし」


 イロハはこのような都市に入るのは初めての様子。

 大勢の人という群れを前に苦い顔をしそれらから目をそらした。そしてちゃっかりクロトの後ろにへと隠れてしまう。

 

「一応来る前に言ったんだけど、絶対に羽を出さないでよね? 怪しまれるし、傍から見れば魔族なんだから」


「えぇ~」


 当然のことだがイロハには街中や人前でその黒翼を出さぬようにキツく言いつけてある。

 いくら平和を保っているヴァイスレットでも少しの違和感や妖しいところがあれば周囲にチラつく兵の目が一気に向けられてくることとなる。

 現に動かずとも兵士の姿は十人ほどは人混みに紛れて確認できた。

 

「所々にいやがるな……」


「当たり前でしょ。わりと警備の目が厳しい国なんだし」


「…………」


 周囲に気を配り表情が自然と険しくもなる。 

 そんなクロトの袖をエリーは摘まんで引いた。

 

「どうですかクロトさん? こうしてれば大丈夫ですか?」


 最終確認のつもりか、エリーはフードから顔を覗かせてきた。確かに無いよりはマシだろう。

 クロトは特になにも言い返さず、エリーの頭に手を乗せフードを深くかぶらせる。

 

「……で? どうやってマスターを捜すの先輩?」


「俺とお前で別れて捜す。ネアはコイツを見てろ」


「ふっふ~ん。最高のお役目ね。ちょっと見直したかも」


「え~。お姉さんが姫ちゃんといるの?」


「お前だと不安でしかないんだよ。二重の意味で」


 イロハとエリーだけでこの街中を行動させるのはあまりに危険である。イロハは人間社会の知識も薄い。そしてもし兵士となにかあれば余計だ。それだけでなくもとよりイロハは魔女の味方だ。本当に魔女がいるのならどんな行動をとるかもわからない。

 その分、ネアの方が力量もあればいざという時に役立つ。これ以上ない選択だ。


「じゃあ、そういうわけで。二人とも、渡しておいたのはちゃんと付けてるわよね?」


「……ああ」


 クロトは片耳をネアにへと見せる。イロハとネアも同様、片耳には魔響石と呼ばれる加工された【精霊結晶(エスプリスタ)】が組み込まれた小型インカムが取り付けられていた。

 魔響石は通信に役立っており多用されているためこういった代物は北の国でより進歩している。ここまで小さい物なら距離は限られるがこの王都内ならなんとか連絡を取り合えることができる便利な魔道具だ。


「私たちはこの第三階層の城下街にいるから。へましてこっちに迷惑かけないでよね?」


「わかってる。お前もそいつをしっかり見てろよ?」


「あったり前じゃない」


「……あの、気をつけてくださいね」


「…………」


 最後にエリーに見送りの言葉をかけられるもクロトは返答をせず、イロハと共に行動を開始した。


   ◆


 そこは王都から離れた位置。平原をはさみ、名高き盾の国の象徴を眺めるには絶交の高台。

 緑の自然の中には似つかわしくない黒のアンティークの椅子とテーブル。更には大きな日傘が飾られ、その下では紅茶の注がれたカップを手にする少女がいた。

 喪服の如き黒いドレスを身に纏う少女、――魔女だ。

 

「……もうじきね」


 そう魔女は微笑しヴァイスレット王都を眺め呟いた。

 すると、彼女の左右で小さな影が顔を出す。

挿絵(By みてみん)

「お祭りですの?」

「お祭りですわ!」


 魔女の左右には人形の様に可愛らしく着飾った更に小さな少女が二人いた。

 二人の少女の容姿はまるで鏡合わせのように瓜二つ。見分ける手段とすれば髪型くらいだ。巻いたサイドテールが左にあるか、右にあるか。

 楽しそうに仲良くしゃべり出す双子だろう少女たち。それを目に魔女はにこやかに笑みを浮かべる。


「――そう。これはお祭り。醜い世界を壊す者の為のお祭り」


「魔女様楽しみ?」

「魔女様楽しみ!」


 無邪気な二人は魔女に合わせ起こりうるであろう事を共に楽しむ。

 はしゃぐ少女二人。しかし、ふと彼女たちはピタリと動きを止めた。

 魔女の左右にいた二人は後方へ体を向けお行儀良くスカートの両裾を摘まみ上げお辞儀をする。

 


「これはこれは魔女殿。ひょっとして此処から高みの見物のおつもりですか?」



 呼びかけられれば魔女は真後ろにへと赤い瞳を向ける。歩み寄ってくるのは六番席魔王――セントゥール。

 双子は彼にへと道をあ開け、邪魔にならないように少し距離をとって並び立つ。

 魔王と言うことを知っていないのかいるのか、双子は陰で不気味と口元を歪める。

 そこからは魔女と魔王の語りにへとなった。


「ええ。私はこちらで楽しむことにしますので、セントゥール様の邪魔は致しませんわ」


「それはまた退屈なことを選ばれたものだ」


 白けつつもセントゥールはほくそ笑み椅子に手をかけ魔女の少女を見下ろした。

 まだ青少年ほどの体格であるセントゥールは色気のあるような顔で軽い口を動かす。


「魔女殿には感謝しておりますよ。先日の話はとても魅力的でしたからね。まさかあの姫君がまだ生きているとは、驚きしかありませんからねぇ。ディアボロスに感謝だ。……この件が終わったらどうですか? 是非貴方も味わってみたいと思っております。歓迎いたしますよ?」


「ふふ。厄災の次は私ですか? セントゥール様は聞いていた通り強欲な方でいらっしゃいますね。……いえ、暴食かしら?」


「どちらかといえば食に惹かれますね。我々魔の者にとって親のような存在のイブリース殿ですら食してみたいという所存ですよ。これも自然の摂理と思いませんか? 極上の食材を前にそれを食そうとするのは、ねぇ?」


「なるほど。では考えておきますわ」


「ええ、是非」


 そんな語り合いを終えるとセントゥールは次に盾の国にへと顔を向ける。表情は笑っている様子だが、何処か憎たらしいモノでも見るような目にも。

 

「盾の国、か……」


「確かセントゥール様は大昔にあの国を滅ぼし切れなかったそうですわね」


「そんなこともありましたねぇ。この体も何度入れ替えたものか……。ですが、体を入れ替える度にこちらも力を増してますゆえ、今回で終わりやもしれませんね。せいぜい脆弱な人種には頑張っていただきますよ」


 小刻みに地が揺れ動く。同時に大気にも振動がはしるようだ。

 後方よりそれは迫る。

 魔女たちの背後にあった木々の群れの隙間からは血に餓えた様な目が幾多もぎらつき、まだかまだかと盾の国を眺めた。

 それは空も同じである。地上にそれらがいるのなら空にも同じように黒い影が密集しその時を待ち続けている。


「ボクはイブリースたちと違って生易しくはなくてねぇ。宴は盛大にしてやるべきと思っているので」


「私も愚かな人種は嫌いですので。どうぞご自由に」


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