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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 一章「辺境の呪い星」
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「終焉をもたらす呪われた姫」

「昼間の音、なんだったんだ?」

「銃声のようだったが、誰が町中で発砲を……」

「そういえば、知らない子供が町に入ったのを俺は見たぞっ。なんていうか、近寄りがたいような」

「余所者か? だが子供なら……」


 夕刻頃、町中ではそんなざわめきがそこら中でされている。

 銃声はこの小さな町中によく響いていた。大人たちは幼子たちを早めに家にへと連れ戻し警戒心をチラつかせながら周囲を見回る。

 見回りの一人一人に、女性は声をせがむようにかける。


「すいませんっ。あの、エリーちゃんを見ませんでしたか!?」


「マ、マーサ? いや。例の銃声が鳴る前にチラリと見たぐらいで、それ以降は……」


「ひょっとして、戻ってないのか?」


「……はい。預かっていたモノを渡してもらいに出かけたんですけど、それから戻ってこなくて。それに、銃声ってなんなんですか!? 私の家、町の外側で状況がわかりづらくて。だから……」


「落ち着けマーサ。……きっと見つかるよ」


「……っ、心配なんです。だってあの子はなんにも覚えてなくて。見回りなら私も一緒にっ」


「ダメだダメだっ。もし魔物が侵入でもしているなら危険だ。見つけたら送り届けるから」


「…………わかり、ました」


 取り乱しそうになったマーサは正気を取り戻し、渋々自分の家にへと帰りだす。

 しかし、それに気を緩めたのか見回りの男二人は小言を漏らす。


「どうなんだろうなぁ? 余所者が来た途端に同じのが姿を消したっていうの」

「ひょっとして身よりとか? そんな感じには見えなかったがなぁ」

「もしくは追われていたとか? 物騒なことは他所からくるからなぁ……」


 聞こえてしまったそれに握り拳を作り必死にマーサは言いたいことを堪えた。

 そう。この街の住人は完全にエリーを受け入れていない。

 子供はよくても、大人たちは余所者を嫌っている。

 外れた辺境の地だからこそ、外部との交流に乏しいことからそういう思考が芽生えてしまっている。

 見つからなければ、彼らは見捨てる気だ。

 サッとマーサは帰り道から外れ駆け出す。


「待っててねエリーちゃん。絶対に見つけてあげるから……っ」


   ◆


 冷たい空気が素肌をかすめる。

 寒さに身を縮込ませ、エリーはふっと目を覚ます。

 ぼやけた視界で最初に映ったのは石畳の床だ。呼吸をするとホコリっぽい空気が入り込んでくる。

 むせびながら身を起こして暗い中灯りを探して周囲を見渡す。

 古びた部屋だろうか。物が散乱し角には蜘蛛の巣が張り巡らされている。もう使われていないような場所だ。

 

「……? ここ、どこ?」


 唯一見つけた灯りを眺め、エリーは首を傾ける。

 それは割れた窓から覗く星々と白い月。見事な満月を見上げて情報をまとめていった。

 暗く、月が出ていることから今は夜と認識させられる。

 それだけで、エリーは驚いてしまう。


「えぇ!? どうして夜に?」


 記憶を探る。覚えているのはまだ太陽が昇る昼頃だったはず。

 頼み事をされ、それを終わらせた後……。

 それに、目覚める前に嫌な夢を見た気がする。

 泡沫で全ては覚えていないが、赤い色と、冷たい視線が脳裏をよぎり混乱する。

 夢だけでなく、それは現実でも感じた気がした。

  

「――うぜぇ。やっと目を覚ましやがったかクソガキ」


「……ッ!?」


 ガサツな言葉使いにハッとして振り返る。 

 使い古された木製の椅子に腰掛ける少年がこちらを睨んでいる。

 冷酷さえ思わせる視線にエリーは冷や汗を浮かべながら全てを思い出した。

 意識を失う前。確かこの少年に……。

 距離はある。銃も見たところ持っておらず、エリーは脚に力を入れ、一気に逃げだそうとした。

 が――


「きゃっ!」


 片足がなにかに引っ張られその場に倒れる。

 なにに捕まれたかと思い見てみれば、片方の足首には枷が取り付けられており鎖で繋がれていた。

 

「……なっ、なんなんですか、これ!?」


「やっぱりすぐ逃げようとするか。まったく学ばねぇなお前」


 呆れ口調に少年は呟く。

 エリーは鎖を引っ張るがまったく外れる気配がない。

 もはや頭の整理が付かず少年に向かって言いたいことを言ってやった。


「本当になんなんですかっ! こんなわからないところに連れてきて、いったいなにがしたいんですか!」


「……は? なに生意気なこと言い出してんだコイツ。前までこんなんだったか?」


「貴方のことなんて私は知りません!」


 キッパリと断言をする。しばらく少年は黙り込んだ後、鋭い目付きで睨み付ける。


「……つーことは、本気で忘れてやがるのかよ。どんだけ都合のいい頭してんだか、このめでたい奴は? こっちがどんだけイラつく思いで捜してたと思ってやがる?」


「そんなの知りません! とにかく私を帰し――」


 ――パァン!!


 言葉を遮るように、エリーの頭部横を光が高速で通り過ぎた。

 ふっと熱が引いていく。なにが通り過ぎたのかと後ろを確認することはしなかった。

 なんせ、目の前で少年は椅子に腰掛けたまま銃を向けていたから。

 それも……まともにこちらなどに目も向けずに。


「……黙ってろクソガキ。俺に生意気なことを言う奴は殺したくなる」


「……っ」


「逆らうのは俺にとっては障害で邪魔なんだよ。今後のために覚えておけ。俺は他人が嫌いだ。特に女とガキはもっとな。五体満足でいたければ俺に従ってろ」


 銃による物理的なものと言葉による感覚的な脅し。だが、それだけではなかった。

 月明かりに伸びる彼の影がまるで巨大な蛇の形にも見て取れる。殺気のこもった圧のある視線と合わせて、蛇に睨まれた蛙のように身を固めてしまう。

 エリーは生唾をゴクリと呑み言葉を慎んだ。

 

「……じゃあ、せめて理由くらい教えてください。なにもわからないままこんなことされても……」


 泣きそうな声で尋ねる。

 少年は軽くため息をついて銃を下ろした。


「ガチで忘れられてるなら、自覚のため教えておくか。……そういや、まだ名前言ってなかったな」


 下げた銃をクルクルと回し、またしてもこちらに向けると彼は不適な笑みを浮かべる。


「俺は――クロト。魔銃(まがん)使いだ」


「……? 魔銃……?」


「ああ、そうだ。ついでに此処はさっきの町の近くにあった廃墟。そんで、俺がお前を拉致した理由なんだが……、その前に()()()()()としてちょっとした話をするか」


 意地の悪い顔でクロトという少年はいきなり語り出してきた。

 銃をこちらに向けているのは余計な行動をしないための戒めと、「話をしっかり聞け」、の意味やもしれない。

 聞き逃しはできず、エリーは気をひきしめて聞くこととした。


「……ど、どうぞ」


「話っていうのはひと月ほど前に起きたとある事件の話だ」


「事件……? それって、今関係ありますか?」


「人の話の最中に余計なことを言うな。撃つぞ?」


「……」


 渋々、エリーは口を閉じる。

 静かになるとクロトは話を再開させる。


「その事件は大規模なものだった。五つある大国の内一つを滅ぼしたとされる事件。潰れたのは四方の大国に囲まれた中央大国――クレイディアント。最も豊かで平和だったその国はとある()()のせいで滅んだ。……なぁ? なんでそんな国が滅んだと思う?」


 急に問われるとエリーは首を傾け顔をしかめた。

 少女は世間の情報などにうとく、あまりそういったことは聞かないのでそんな事件があったことすら知らない。

 

「……わかりません。……荷物って、なんですか?」


「――不要な存在」


「不要って……」


「クレイディアントはそれを馬鹿なことに抱え続けてしまった。最終的には他国と魔族の軍勢に攻め滅ぼされる原因を作った存在。――それは世界の天敵。いつか世界に終焉をもたらすと称された厄災の根源。人種の脅威にして魔の者の最高の贄。呪われた星を宿した皇族の生き残り。――通称、【厄災の姫】」


 最後に放たれた名に、エリーの背筋はゾッとした。

 その名を少し前に聞いたからだ。

 それを誰が言って、誰に向かって言ったのか……。

 思い出すだけで彼から目をそむけ、エリーは「信じられない」と口にしたかった。

 しかし、真実らしきクロトの言葉が追打ちをかける。


「お前だよクソガキ。クレイディアント第一皇女、――エリシア・クレイディアント。他国を敵に回し、魔族どもが欲しがる呪われて生まれてきた。それがお前の本性だ」


 ――エリシア・クレイディアント。それが本当の名前。

 大国の一つを滅ぼす元凶となった存在。

 そんなことを告げられても、幼いエリーにしては信じがたい話である。

 だが、それが間違いであるという確信がないのも事実である。

 エリーはひと月ほど前の記憶がないのだから。

 

「ちなみに、そのガキの一番の特徴はこの世のものとは思えない()()()だそうだ。完全に一致してるだろ? つーか俺はお前に当時会ってるからな。見間違うはずもない」


 本人が一番気にしていた、星の瞳。それが【厄災の姫】の証。

 そう言われてしまえば疑う余地を失ってしまう。

 それでも信じたくなかった。


「……がぅ……、違う! 私、そんなんじゃ……っ」


「事実だ。さすがに記憶なくても根っこは変わってないか……。そうやって否定したってなにも変わらないぞ? 前もそうだった」


「私、なにもできません……。そんなこと、できるはず……」


「あぁ、それもう聞き飽きた」


 いつの間にか、クロトの声はすぐ近くで聞こえた。

 そう気付いたと同時に、エリーの背が床にへとぶつけられる。

 痛みに涙を浮かべ、双眸を見開くと自身の真上からクロトが見下ろしていた。

 問答無用で右肩を靴底で踏みしめ痛みを与えていく。


「いい加減認めろよ。お前がそういう最悪な存在だってことを」

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