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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 二章「盾に忍び寄る魔の手」
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「姫と魔銃使いと……」

 口数は少なく、なにか言えば暴言が八割を超えそうなクロト。それを文句なく付き添うエリー。

 その日常はたった二人、されど二人が増えたことで一変してしまう。

 まず一つ変わったとすれば、道中の会話である。

 

「でねエリーちゃん。盾の国は大昔に魔王の一角を退けたとされるほどでね。守りが強固な場所なのよ。なんと言っても王都の何重にも設置された硬質度の魔道障壁は例え一つを砕いても次があって、全てを破壊尽くすことはほぼ不可能とされているの。北の魔科学発展国のアイルカーヌや東の精霊魔道に特化したレガルも一目置く、それが盾の国ヴァイスレットなのよ」


「へ、へぇ~、そうなんですか……。えっと、とにかくすごい国なんですね」


 【神隠しの家】を離れ、山の麓にそって南にへと向かう道中。ネアはエリーにべったりで楽しげに会話をしていた。

 内容はこれから向かうヴァイスレットのことだ。

 世間のことを多く知らないエリーは興味があっても全てが頭に入りきらず、ネアから語られることを点々と覚え、なんとなくの返答をする。

 全てを理解していないがネアはそんなエリーを褒めた。


「そうなのよぉ、さすがエリーちゃん。お姉さんの話をちゃんと聞いてくれて嬉しいわ~」


 素早く頭を撫で回す。

 そして二人の会話に加わろうとするのはイロハだ。

 

「お姉さんの言ってることよくわかんなんだけど? 姫ちゃんよくわかるね」


「……私も、全部は」


「エリーちゃんはアンタみたいな野郎とは違うのっ。これだから男は……」


「え~。なんかやな言い方ぁ……。ねぇ、先輩。お姉さんがなんか酷いんだけどぉ?」


 イロハは次にクロトにへと話をふってくる。

 後ろでネアとイロハはエリーを挟みつつ、先頭を進むクロトは距離をとっていた。

 クロトの後頭部にイロハの言葉が投げ込まれる。それ以前からクロトは苛立ちを感じ眉をひそめ、声をかけられればそれが一気に限界にへと達した。


「……っ、うるさいんだよお前ら。さっきから耳障りだ、黙ってろっ」


「ご、ごめんなさい……、クロトさん」


「……え~。なんで怒るの先輩?」


「きゃ~。野蛮よねぇ、エリーちゃん。……最低」



 後方からは文句を言われる。まるでクロトが悪いかのようなものだ。

 なぜ責任がこちらにへと向く……。理不尽なそれに思わず銃を手に取りそうになった。

 手をわなわなとさせ、ぐっと堪えてこの煽られた怒りを乗り切る。短気なことはクロト自身も認めているが易々と挑発に乗るなどそれこそ愚かなこと。この場をクロトはあえて後ろで語られていたヴァイスレットの話題にへと話を切り替えることとする。


「だいたい、ヴァイスレットの魔道障壁っていうのはアレだろ? 王都の構造は円形で第三から第一にへと続く三段の階段状。その一段ごとに四方を魔道障壁を形成するための塔が設置されている。商業地の第三は東西南北。市民地の第二は北東北西南東南西。そして王城と軍用施設のある第一は第三同様東西南北。計十二の塔があって階層ごとに一つずつ障壁を展開。第三から第一になるにつれその壁は強固にへとなっていく。そのためこれを展開する際、住人は第一階層にへと移動すればほぼ安全だ」


 話を進めているとクロトはそのことに頭がいっぱいになっていく。

 しまいには木の枝を手に地面にへと簡易なヴァイスレット王都の構造を描き出した。

 

「もちろんこの障壁を作るには実際大量のマナ結晶や大気のマナを必要とし、最悪はマナの枯渇にへと繋がる。だがヴァイスレットのこれは元々頑丈さよりも効率さを優先して設計されている。大気の元素、更には精霊の通り道である精霊路、それらの流れを計算しそれらに見合った素材を活かし作られ、その後に街を作ったにすぎない。いかに低コストで、それを基準に強固を増し今に至っている。ただ作るだけではなくそれらを駆使したのがあの国だ。素材の使い場から大気の流れを正確に計ることで自然に害を与えずある、正に理想的な盾だな。今では王都以外でも人里にへもと研究を進めているからな。それも国内にある街はそれを予定として決められた場所に存在している。ついでに王都の周辺は拓けた土地で見晴らしがいいな。アレもすぐに敵の襲撃を知るには好都合だ。……あと――」


 魔道障壁の解説から、クロトは更に塔一つの構造にまでも話を進めようとした。

 そこからのことは確かに書物にも記されていることもあるが、あまりに正確に語り出してくる。まるで製作当時に本人もいたかのようなものだ。

 いつの間にか喋っているのはクロトのみで他の三人は目を丸くしながらクロトの説明を描かれた絵を見つつ言葉を失っていた。

 集中する三人の視線。ようやく気がついたクロトは手と口をピタリと止め三人にへと目を配る。


「……な、なんだよ」


「いや、意外って言うか……。アンタってひょっとして、馬鹿じゃない!?」


 なにか予想を裏切られたような顔で、ネアは驚く。


「おー。なんか先輩のちょっとだけわかりやすいかも。……でもなんかわかんないかも?」


 軽く馬鹿にされた気がし、クロトは持っていた小枝をへし折り放り投げた。


「なんなんだよお前ら! 俺のどこが馬鹿に見えてたって!?」


「だってアンタって世間のルールなんか「知らん」で我が道を行こうとするような奴だから……。ここまで書物を片手にしたかのような説明されると、逆に引くわ……。お願いだから博学的なこと唐突に言わないでくれる?」


「俺が知識あっちゃ悪いのかよ!?」


「どう考えても学問とか興味なさそうな奴なんだもの! 学業施設なんて行ったことないでしょ?」


「あるかそんなもん!」


「……まさか似合わず本とか呼んだりしてるわけ?」


「ヴァイスレットの魔道障壁に関することは一回読んだくらいで、後は構造からの想定とかそんなもんだよ!」


 意外。更に意外だとネアはそれ以上なにも言わずに青ざめた顔をしてクロトから距離を取っていく。

 クロトの説明になんの間違いもない。ネアからしてみれば冷酷かつ人殺しを余裕でしているようで道理を外れた輩がまさかの博学系知識を持っていると思うと、似合わなさすぎて意外性に圧倒されてしまっていた。

 それとは別でイロハは描いたモノに視線が夢中だ。


「こうやって見るとなんとなくわかりやすいよね。うん、さすが先輩」


「……ガキか」


 イロハには文字だけの書物などよりも絵本の方が妥当やもしれない。

 

「そうですね。私もわかりやすかったです」


 絵本を勧める相手がまた一人増えた。

 イロハと違いエリーは年齢相応だろうが、クロトとしてはそう賞されるも嬉しいという感情は出てこない。むしろ呆れていた。


「これくらい王都の研究員なら即座に答えられることだろうが」


「ハードルたかぁ……。逆に研究員が答えられなかったらクビだわそれ……」


「クロトさんって物知りなんですね」


「……常識だろ」


「そんなの常識なわけないでしょ!? ……アンタって本当にそういうとこわかんないわよねぇ。なに? お捜しの魔女さんにでも叩き込まれたわけ?」


「…………」


 ふと、クロトは呆然として小さく口を開く。

 

「……自分で……覚えた。…………()、で……? なんで……覚えようって、思ったんだっけ……か?」


 クロトは自身にへと呟くように問いかける。周囲もそれには「ん?」と首を傾けてしまう。

 それはクロト本人のことで、彼が一番よく知っているはずなのだが昔のことで忘れてでもいるのだろうか。

 なにより、今クロトは【家】でと言ったことが頭に残ることだった。彼にも自身がすごすはずだった家があったはずなのだろう。それがどういう経緯で今にへとなってしまっていつのか。

 クロトのそういうところは一番の謎かもしれない。

 

「……クロトさん? 大丈夫ですか?」


「…………うるさい。この話はもう終わりだ。とっとと先に進むぞ。……あと、あまり騒がしくしているとだなぁ――」

 

 ――ガサリ……。


 クロトが口を閉じるのとその物音はほぼ同時だった。

 


「――やっぱこうなるよなぁ……」


 




 人里離れた森の中。山の麓から離れ騒いでいれば自然と血に餓えた狼の魔物が寄ってもくる。

 山を登ることを危険としていた理由もある程度離れれば無意味なのだろうか。もしくは、山頂の圧が届かないこの付近に魔物が集中していた可能性もある。

 そう感じたのはネアとクロトだ。

 なんせ……


「ちょ……。なんか無駄に多かった気がするのだけども?」


「奇遇だな。ネア、お前何体倒した?」


「…………二十体ほど」


「俺は二十五体くらい」


 本当は正確な数など覚えてなどいない。

 だがクロトはとりあえずネアよりも多い数字を言っておく。

 そして、二人は互いに答えを一致させる。



「…………多いわね」

「…………多いな」



 二人で計五十近くは魔物を撃破していることとなる。

 やはりこの周辺が例のことで寄せ集められた魔物たちの縄張りだったのだろう。それを魔銃使いと紫電の人魔が一掃してしまった。

 要は全てあの山頂にいる原因の者のせいということとなり、チラリとその方角を見ては鋭く睨み付けた。

 そんな汗を滲ませる二人を木陰で見ているのはエリーと、彼女の目を塞いでいるイロハだった。

 

「せんぱーい。終わった?」


「終わったに決まってるだろうが、なめんなよっ」


 エリーはともかくイロハまでもが戦線から外れていた。

 それには深い理由も有り、あえて()()()()()()

 一番の問題はイロハの魔銃だ。

 一回の引き金で数発放つことのできる魔銃【フレズベルグ】。それは相手に当たれば良いのだが、イロハ本人命中率は普通より少し上ほどでしかなく『数撃ち当たる』のものであること。そんなものを木々の密集したこんな場所でされれば同行者であるこちらにまで被害が出ることとなる。

 ネアはいいだろう。クロトも当たってもやり返すというもの。ただエリーは全く違っている。よってイロハはエリーの見守りという役回りにへとなった。

 もちろん。ネアがこの役割分担を今でも認められずにいる。終わったとわかればネアの鋭い蹴りがイロハの顔面にへとぶつけら、吹っ飛ばす。


「なにこの役立たず、ホント男って最低! 戦えないならそんな物騒な銃持たないでよ!!」


「だって先輩がぁ……。なんでお姉さん怒ってるの? あと急に蹴らないでよね?」


「もー最悪!! クロトぉ! こんな馬鹿と一緒なんて私堪えられないわよぉ!!」


「……じゃあ帰れよ」


「こんな(けだもの)の場所にエリーちゃんだけ置いとけれるわけないでしょうが!! 可憐な花に虫よ! アンタも馬鹿なの!?」


 そんなこんなで……。

挿絵(By みてみん)


「だから誰が馬鹿だ!? そこの鳥頭と一緒にすんなよ!」

「あ! 先輩またボクのこと悪く言ったでしょ!?」

「どっちも野郎だから一緒に決まってるでしょうが!!」


 クロト、ネア、イロハは事あるごとにそう口争いを始め、抗戦し……。最後にはネアが実力行使で事を治め勝利の鐘が鳴り響く。

 頭をぶん殴られたクロトはうずくまり、ネアの圧に怯え切ったイロハは涙目で木陰に隠れる。

 エリーはそんな三人の仲の悪さを痛感し、止めに入る隙すら与えられず……。

 ただただそんな意味のない争いを見てはおどおどとするのみ。事が静まれば最初にエリーが動くのはクロトのそばだ。ネアに頭を殴られた後、彼は頭を抱えながら痛々しい様子でいる。

 

「……ク、クロトさん。大丈夫ですか?」


「~~ッ。うるさい……」


「でも、頭……」


「うるさいっつってんだろーが!! お前も俺の頭が馬鹿だとでもいいたいのか!? アアッ!?」


「エリーちゃんに当たってんじゃないわよッ!」


 速効でネアの拳が再度クロトの頭を殴り付ける。それも、全く同じ場所にだ。

 本当に二人の道中というものはたった二人、されど二人が追加されることで一変してしまった。

 思わず、エリーからも小さなため息が漏れてしまう。

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