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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 二章「盾に忍び寄る魔の手」
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「蟲のさざめき」

「――魔女殿。それは誠の予言か?」


 魔王の一体、鋼殻蟲のセントゥールが静かに挙手をし問い呟く。目を丸くさせ眉唾物だとでも思っているのか、彼の視線は疑いを訴えていた。

 魔女はそんな王ににっこりと微笑み、


「ええ。本当ですわ。皆様にとって、これが好機ではと思い、お伝えに来たしだいで御座います。以前のお知らせは間が悪くディアボロス様を焦らせてしまいあんなことになるとは思っていませんでしたが」


 疑う余地はないとその予言を信じさせる。

 魔女のこの行いは一部の魔王にとっては朗報となろう。だが、それ以外はしかめた表情で十一番席を見る。未だ戻らず、確かな確証はなくとも消されたであろう王の席。クレイディアント崩壊の直後、この間ではその災厄の力を目の当たりにされている。よってその驚異の存在には触れぬようにということが可決されていた。

 それを知ってか知らずか。再び訪れた魔女はそんな情報を持ち込んできたのだ。

 

「【厄星(やくぼし)】の力は、確かに見た……。アレはもう理を超越したものだ」

「あ~、それならボクも聞いたよ。……なんだっけ? 確かマナと魔素、精霊路からありとあらゆる大気に流れる源が凝縮して引き起こされたビックバン的なもの……だっけ? ……無理無理。普通に考えても数万年に起こるか起きないかの現象。【霊王のオリジン】でもそんなことはできない。それはオリジンの理に反することだからね」

「それで国の要を中心に周囲までも巻き込んだ。イブリースならそれくらいの破壊力は起こせそうだが……」


 ――カチン……。


 突如、しんとした刹那に時計が鳴り、銀の髪が揺れる。当時のことを語る中で、二番席魔王のクロノスがパッと瞼を開き動き出す。止まっていた時間から解放された彼女は瞬時に話の内容を理解し眉をひそめる。


「……なんだ。まだその魔女は帰ってなかったのか」


「戻ってきたか銀の君……。もう事態の把握はすんでいるのだろう? どうしたものか」


 髑髏の頭部を青い炎に覆わせた黒布に身を包む三番席魔王のハーデスは対面する席で肩をすくめる。老いた口調で困ったようにしていると、クロノスはため息を吐いて腰に飾る時計を一つ取り出す。その懐中時計のスイッチをカチッと押すと、クロノスの玉座の背後で人影が動く。

 顔を出したのは銀の髪をしたクロノスと瓜二つの女性。むくれた面で彼女は呟く。


『どうもこうも、アレは危険だ。そう決めただろう?』


 ――カチ……


『当時の映像でも見るか?』


 ――カチ……


『非自然。非化学。現実であの現象はどんなことをしても不可能だ。原子の集合かつ凝縮した天より下る裁きの鉄槌とも呼べる現象。それを起こした【厄災の姫】。奴が宿している【厄星】は我ら魔王すら凌駕するだろう』


 クロノスの後ろにはまったく本人そっくりの姿が三人にまで増える。最後に時計を三回ほど連続で押すと、それらは一瞬にして消えた。

 呼び出していたのは過去のクロノス。前回の【厄星】の件に立ち会った当時の自分である。彼女は一分一秒、その時間の分存在しこの場に顕現させることも容易い。

 

「……と、いうことだ。私の考えは変わらん。アレには手を出さないのが吉だ。十一番のディアボロスのようにお前もなりたいのか? ハーデス」


「冗談を。ワシは冥府の管理もあるからなぁ。それに、人間界の大気はワシやお主では合わんし、ワシは力になんぞ興味は無いからのぉ。ドラゴニカとロードはどうだ? ワシとクロノスは変わらずだが……」


 順番に、ハーデスは四番と五番である二体にへと問いかける。

 ドラゴニカはそっぽを向き断言する。


「他者から得る力など欲しくはない。我が力は我が誇りである。……そんな娘、もしどうにかするというのなら喰わずに殺すべきだ。その判断こそイブリースの許しが出れば周囲もろとも一掃してくれる」


「我もそこまで危険を犯してまで欲するものでもない」


 二体も意見は同じであり同意だ。当然で利口な判断だと上の二体も頷く。当初に決めたイブリースも考えを曲げるなどありはせず、約半数が当時の意見を変えはしなかった。それも上位の者たちがそうなのであれば、残りもそれに自然と従う。

 ――はずだった。



「そのことなのだが……。この話で少し気が変わったというのは、認められるのだろうか?」



 と、一体が口を開く。それは六番席魔王のセントゥールだ。

 理由を問おうとした上位を差し置き、続いてセントゥールは七番席にいるセーレにへと目を向ける。

 

「セーレもその姫君には興味があったはずだぞ? 今でもそうではないのか?」


 急になにを……。と、セーレはふと首を傾ける。

 しかし心当たりがあるのか思い出したように首を戻した。


「……あ~。確かに、そうだねぇ。この世のものとは思えない、星の瞳。ボクは確かに美しいものが大好きだよ。その散り際も……。命という尊いものが散る様は、また美しくあるからねぇ」


「相変わらず姿に似合わず残酷な美の象徴なことだ。それでは、()()()麗しの姫君をお求めかな?」


「あっはは。いや~、ボクは自分が愛らしいからねぇ。……それに、うっかりボクが取っちゃったらキミに食い殺されそうだし~、ここは遠慮しておくよ」


 艶めかしい褐色の素足をぶらつかせ、セーレはほくそ笑む。会話の中でセーレもセントゥールの瞳の奥にある殺気には気付いていた。回答を誤れば、殺すことも厭わないという眼差しに。

 位は下であるが、セーレもまた魔王の一角。絶対に負けるというものもないが、今回はそれを見事軽く流してこの場を治める。

 セーレがこの件から手を引くとなれば、残る魔王はアリトドとヴェルオーティスだけとなる。

 

「……セントゥール。急になにをっ」


「どうしたアリトド? ひょっとしてキミも興味があるのかい? 悪いがそれを頼まれても譲る気はないのだが」


「そ、そうではない……っ。我はただ――」



「――だったらおとなしくするんだな。付き合いの長いお前なら、わかるだろ?」


 

「……っ」


 突如声を低くさせたセントゥール。寄り添う大ムカデも赤眼をギラつかせ、それは敵意を示している様。

 アリトドは息を呑み冷や汗を浮かべながら黙り込んだ。そして最後に残っていたヴェルオーティスをいないかのように、魔女は彼らに決断を問いかける。


「ご相談はお決まりになられましたか? 魔王様方……」


「ええ、魔女殿。貴方とはとても仲良くできそうで嬉しい限りですよ。是非ともその話にこの七番席魔王、セントゥールはのせさせていただこうかと」


「いえ。お役に立ててなによりですわ、セントゥール様」


 ドレスの裾を摘まみ上げ魔女は頭を垂れる。

 すっと身を戻すと魔女は少女らしくにこやかな笑みを浮かべた。


「それでは私はこれにて。また詳細をお伝えしますわセントゥール様」






 それを最後に魔女は闇に溶けるようにその場から姿を消してしまう。

 しばらくその間は静寂とした。重々しい空気に耐えきれず、その間からセーレとヴェルオーティスは退場。後に口を開けば多くがセントゥールにへと不快な眼差しを向けた。

 玉座に背を預けハーデスは深々と重い息を吐く。


「困るなセントゥール。頼むから冥府に大量の魂を流し込むなよ? 例の一件での魂の始末もロクについとらんのだからな。人魔入り交じった魂たちは整理するのが難しい」


「心配することが小さいなハーデスは。これだから餓えてる蟲は嫌いなのだ」


「やかましいぞ下位ども。……とにかく、クソ蟲。お前に一つ言っておいてやる」


 愚痴のような文句を言い出すハーデスとドラゴニカ。その二体を黙らせたクロノスが静かに目を伏せ忠告を言い渡す。

 

「アレに関わるとロクなことはないぞ? 失態は全て己のものだからな?」


「はは。クロノス卿の忠告か……。ありがたく受け取っておくよ」


  聞き受けたセントゥールは自身の席から下り、イブリースに向け会釈。

 

「それでは王の中の王イブリース殿。これにて失礼するよ。――次に会う時は、()()な立場になりたいものだ」


 イブリースはなにも言わない。

 彼が口を開くことなど本当に稀なことでありセントゥールも無言という彼の返答をもらうと微笑し、最後には下克上にも似た言葉を残して去り出す。

 アリトドも急いで席を下り、イブリースに軽く頭を下げてから彼の後を追う。修復を終えたゴーレムは王二体を見送ると開いた扉を閉める。不快の元凶がいなくなるも、その溜まった感情は早々消えず。周囲からため息は尽きなかった。


「……よいのかクロノス。他になにか言うことはなかったのか? お主の言葉は説得力抜群だからなぁ」


 そう問いかけるハーデスにクロノスは首を振って銀の髪を揺らす。

 淡々と時計を弄りつつ、間を開けてから彼女は呟きだした。


「どうとでもなれだ。アレがどう野心を抱こうと私とイブリースになんの脅威もない。そんなことはわかっている。それに余計なことは言わないのが私の()だ」


   ◆


「…………~」


「……? アリトド。いつまでそんな膨れっ面をしているんだ? それも可愛さ表現の一つと思っていいのか?」


「ちっ、違うに決まっておろうが! ……少し、もやもやしているだけだ」


 アリトドが怒鳴れば周囲の木々がざわめき、それに驚いた魔鳥たちが一気に飛び去っていく。

 魔界に存在する八番席魔王の領域である延々と続く樹海。高く入り組んだ木々が並び正に迷路。暗くある魔界ではその場所は余計に闇を帯び、木々に実る光る実や草花が灯りの代りを務めていた。

 アリトドとセントゥールは少々拓けら空間で歪な形をした巨大な植物に腰掛け会話をする。

 つい怒鳴ってしまったが返ってくるのは軽い微笑だ。

 

「はは。アリトドはいつもそうだな。ひょっとしてドラゴニカやあの魔女と戯れていたことに焼いているのか? あんなのはただの気まぐれじゃないか。それに、魔女の話も魅力的だったからな。いい情報を得たよ」


 未だむくれているアリトドの桜色の髪をセントゥールの長袖が撫でる。普段ならこの程度で機嫌はとれるのだがと、セントゥールは首を傾ける。

 今日は不機嫌だけではない様子の彼女は妙に不安そうでもあった。

 

「……セントゥール。本当に行くつもりなのか?」


「なにか問題でもあるか? ディアボロスの逃したモノが今でも生きている。そして場所は盾の国ときたものだ。あそことは少しばかり因縁があってな。ベストタイミングと言うべきだ。ついでに潰しておくのも悪くない」


「だが、なんだかあの魔女の良いように誘われていると思うのが気に喰わん。……魔女は我らにとっても敵だ」


「ふ……。確かにそうだなぁ」


 袖越しにセントゥールの手の上で赤い果実が転がる。それは天にへと放られ、一瞬にして宙から消えた。その下ではゴクリと喉を鳴らすセントゥールが天を向き、唇から垂れそうになった赤い液体を舌なめずりで取る。

 

「魔女も所詮ボクらにとっては食材のようなものだ。利用しようとしているならそれすらこちらが利用し得する。それだけさ」


「……うむ。わかった。それにセントゥールがそうしたいのなら私はこれ以上なにも言わぬ。それにしても、これで盾の国も終わりやもしれんな。哀れよ哀れ……」


 哀れみつつ、アリトドはくすくすと笑い肩を竦めた。

 一緒になってセントゥールも嘲笑する。


「まあ、人間なりに頑張ってもらおうか。どこまで足掻けるか、お手並み拝見としゃれ込もう。久しぶりの人間界……、楽しみだ」

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