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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第二部 一章「暗躍の魔女」
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「魔女の予言」

 話は数日前にへと遡る。

 ネアは自身の仕事の関係で西の国サキアヌから南の国ヴァイスレットにへと移動していた。

 南の大国。長年鉄壁の守りを誇ってきた、通称――盾の国。

 その要である王都でネアは大通りを行き交う人々を眺めつつ、下街の大きく長い階段の中断辺りに座り込んで片耳に通信機器を当てていた。相手はクロトであり、なるべく人気を避けた場所で会話を行っている。 当時、相手がクロトであるとわかった時のネアは人混みで狼狽とし焦りながら周囲を見渡し、逃げるように此処まできた。なんせあんな別れ方をし、それ以降は夜もロクに眠れず不安で仕方がなかった日々。付け加えてエリーのこともあり、公衆の面前で彼女の話をするわけにもいかない。

 そこら辺を配慮しつつ、ネアは心拍数を高めながら通信にへと応答をした。

 ほんの少しクロトの声を聞いたが、いつもの生意気そうな第一声でなかったため「本当にやらかした」のかと早とちりまでしてしまう。しかし、それも少し当たっていたらしく、ネアは自分の選択の甘さを悔いることにも……。

 

 ――本当にアイツって最悪! もう、こんな遠距離で私を殺すようなことやめてよ! 心臓止まるじゃない!!


 心ではもっとクロトのことを悪く叫び散らし、なんとか外に漏らさないようにと堪える。

 だが、話を聞いていけばいくほど、クロトの意外な一面を聞くことができ、思わず動揺が薄れ笑いすら漏れてしまう。

 まさか、あのクロトが……。


 ――なによクロトったら。意外にやればできる奴なのよねぇ。まさかエリーちゃんの、だものね~。悲報だと思ってたけど、……アイツってホント、()()じゃない……。


「……一方的なんだから」


 仕方ない。そんな苦笑いで通信を切る。ネアはクロトの要求を呑むこととした。

 断る理由もなく、エリーに会えるというなら行くべきだと、余計な使命感が働いてしまう。

 

「ここのお嬢様方も素敵だけど、やっぱりエリーちゃんに会いたいものねぇ。迷惑もかけちゃったし、お見舞いしてあげないと」


 弾むようにネアは階段を一段一段、タンタンとリズミカルに下り地にへと着く。

 一人であろうと何処であろうと、ネアの百合思考はいつでも健在である。女性は大好き。男は大嫌い。それが一流情報屋であるネアだ。

 

「そうと決まれば早速準備して行きますかぁ。待っててねぇエリーちゃん。ついでにクロト」


 高まるテンションに心と身も踊らせネアが再び大通りにへと戻ろうとした。

 ――その時だった。

 



「――もし? そこの可憐なお嬢さん」




 突如ネアの聴覚はその呼び止めるような声のみを捉え、他を聞き逃す。

 いや、聞き逃したは少し違っていた。正しくは、聞こえてこないというもの。

 先ほどまであった賑わう人の声や物音が全て消え去り、耳にはその一滴のような声だけを強制的に拾わされた。

 背後から聞こえた声にネアは向き直る。先ほどまで自分が居座っていた場所には小さな人影が映り込む。自分よりも小さい。エリーと同じほどの身長と髪の長さをした、黒い身なりの少女。差し込む日光を妨げる黒い日傘。黒いドレス。喪服を思わせる身なりの少女の髪は白緑とし白い肌同様引き立たせている。前髪は右目を覆い隠すようにあり、反対の目は頭部を覆う黒のレースでよくは見えない。

 とにかく、そこにはネア好みの可憐な少女がいた。

 それは確かなのに、どうしてかネアの心は跳ね上がらず、むしろ先ほどまでの高まりが静まっていく。


「少々、私とお話をしませんか?」


 突如静止した街中。コツコツと階段を下りエナメルパンプスを鳴らす音が正確に聞き取れる。まるで今この場にはその少女と自分しかいないかのようで、妙な警戒心で身を固めてしまう。

 可愛らしく、くるくると日傘を回し少女はゆっくりと迫る。少女が一歩一歩と近づく度にネアの体はゾクリとさせ冷や汗が流れ落ちた。見た目はただの可愛らしいお嬢様。しかし、とてもその少女は好きになれず、嫌な気配を漂わせていた。

 残り数段ほど下りてきた少女から酷いプレッシャーが重くのしかかってくる。気をしっかり保たねば崩れて地にへと這いつくばってしまうかのような高重度の威圧。堪えることに必死になっていれば、いつの間にか少女はネアの目の前まで来て顔を覗き込んでくる。

 その時見えてしまった、レースに隠れた少女の瞳の色にネアは生唾をゴクリと呑み込む。

 少女の瞳は――赤かった……。

 

 ――魔女!?

挿絵(By みてみん)

 ネアも魔女という存在を直に見るのは初めてだった。最初に見たのがこんな小さな少女であることを付け加えられ混乱に頭の中を乱される。

 焦り取り乱しそうになるネアを見上げ、少女はクスッと笑い、混乱に少しの緩和が訪れた。


「そんなに怯えなくてもいいのよ? でも逃げ出さない辺り、腰を抜かしたというよりは、どうこの場を切り抜けようか。と、まだ意思を残しているというところかしら?」


 年端もいかぬ外見の魔女はまるで小さい子を可愛がるようにネアを見つめ嘲笑。過大評価されたようだが、生憎ネアはその両方を彷徨っているかのような事態だった。威圧に体を動かせず、それでもどう対処しようかと、必死な最中だ。

 自身に用があり、それを拒否するように逃げるということは死神に背を向けるのと同意。普段は素性を隠すため瞳の色を変えている魔女。その鮮血色すら変えず、堂々とその目を晒しているのだ。

 それだけで相当の実力者であることは確かである。


「クロトも面白い子と知りあったものね。こんな半魔のお嬢さんなんて……。愛しい子がお世話になってるようで、とりあえずはお礼を言うわ」


 突如クロトの名を出した魔女。

 ネアは確信した。この少女こそがクロトを動かしている、クロトが捜している魔女なのだと。

 

「……貴方が、アイツに魔銃を与えた魔女」


「アイツなんてとても馴れ馴れしいのねぇ。あの子は私の自慢の子よ? あまり侮辱したような言葉は慎んでいただけないかしら? 私の愛おしい子は、とっても良い子なのだから」


 にこやかな笑みを浮かべつつ魔女は口元に人差し指を立てて忠告をしておく。

 しかし、とても評価しているが、クロトのどこが『良い子』なのか。人を殺すことに躊躇いのない。言動だって酷く冷酷。褒められた要素を見つける方が難しい。

 その言い分には納得がいきづらいのも事実だが、ネアは複雑と親のような少女の前ではそんな不評を言わないこととする。

 

「ご理解いただけてなによりだわ。せっかくのお遣いを頼む前にお嬢さんの口を封じることにならなくて済むもの」


 なにを理由に接触をしてきたのかと思えば。口ぶりからして、この魔女はこちらになにかを()()()に申し込むつもりだ。断れば姿を見たことで、この場にて殺すつもりなのか……。

 魔女といえば魔族同様に魔法を扱える、人でも魔族でもない全く別の種族と称されている。自分のような半魔でもなく、なにをしでかすかなど軽く予想を超えてくるだろう。

 だが、此処で会えたのもなにかの運やもしれない。ネアは強く意志を持ち、この得体の知れない存在を少しでも知ろうとした。


「私になにか用があるようだけど、私からも幾つか聞かせてもらえるかしら……? どうせ人払いの結界でも張っているのでしょ?」


「ええ。私は有象無象とした生き物が嫌いなの。大事なお話はその人とだけ。今回のお嬢さんは特別。こんな機会、滅多にないことよ?」


「そうね……。それで? 答えていただけるのかしら?」


「どうぞ。私のお答えできる範囲なら、ね」


「まず聞きたいんだけど、クロトの持っている魔銃。アレに入っているのは、本当に大悪魔と言われた炎蛇のニーズヘッグなの?」


 まずは特に重要でもなく軽い所から、遠回しに魔女の力量を探る。

 魔女は気軽に返答をした。


「ええ、そうよ。私が狩った炎蛇さん。それを組み込んだ魔銃、なかなかの出来だったでしょ? 私としてもよく出来た作品だと思うの」


「……ということは、名のある悪魔よりも――」


「――上よ。まずは私の力量を探るつもりかしら? それならそう言ってくれればいいのに。あんな悪魔なんて可愛いものだもの。……そうねぇ。例えるなら十三魔王のぉ……、そうそう、四番席のドラゴニカ様。アレなら良い勝負ができるかもしれないわね。ふふっ」


 愛らしい笑みを小顔に浮かべる少女の言葉は楽しげであるも内容がずば抜けている。四番席、――豪竜のドラゴニカといえば物理も魔力も飛び抜けた竜種の王ではないか。それと良い勝負ができるなど、それほど見ているのではなくその程度にしか少女は見ていないのだ。

 ネアは半魔なことからときおり魔界にも顔を出している。そのため魔王の噂や情報などは幾らも入ってくる。それを彼女はまるで足蹴にするようでもあった。

 初めて出くわした魔女。この少女は異常なまでに最悪の存在だ。

 この話はクロトには早々言えはしない。なんせ彼はこの魔女を殺す気でいるのだから。

 

「他になにかあるかしら? 私も暇じゃないの。今度は遠回しにせず、率直にお願いするわ」


 遠回しな内容も見破られてしまった。ここまでぶっ飛んだ内容を小馬鹿にする少女に、思わず嫌悪すら感じ苦い顔をしてしまう。

 目の前にいるのは、少女の皮を被った化け物とでも言いたくなる。

 失言をおしころし、ネアは次を最後の問いとして聞くこととした。


「……それじゃあ、どうして貴方は【厄災の姫】を必要としているのかしら?」


 不死身の魔銃使いを生み出した超本人。彼女はその存在に要危険人物を守らせている。殺さずにいるのなら、この魔女もその人物をなにかに利用する気だ。そんな魔女の目論見を少しでも暴いて起きたかった。

 だが――

 

「それは、――貴方には関係のないことだわ、お嬢さん」


 魔女は質問を切り捨てる。それは魔女にとって応えられないものだったのだろう。

 しかしネアは納得がいかずあったが、それ以上の質問の隙を与えぬかのように魔女は続けて話を進めた。

 

「はい、お終い。それじゃあ、私から一つ()()をしてあげる」


「……予言?」


「ええ。口外してもよし。それを抱え込むもいいわ。半魔のお嬢さんは情報屋だそうね。なら、これはよくある情報の提供だわ」


 クスッと笑い、少女はその内容を告発する。



「――もうじき、遠くない頃にこの盾の国に魔王軍が攻めてくるわ」



 ネアは声をひきつらせた。魔族の荒事が人間界にあっても、魔王が直に手を下すなど早々ない。ひと月前にも中央大国を攻めたというのに、また別の軍勢が来るなど世にも信じがたい話だ。 

 こちらの動揺など気にせず魔女は軽やかに口を動かす。


「あと、クロトに伝えておいてもらえるかしら? ――私は今、この国にいるって」


 捜し人自ら居場所を伝えてほしいと、魔女はそう言ってきた。

 

「……っ、でも、どうなのかしら? 貴方は魔女。幾らでも移動が可能のはずだわ」


「確かにそうね。何処へ行こうと私の勝手だし、暇じゃないもの。でも、せめてあの子が此処に来れるまでは待ってあげるつもりよ? せっかくなんですもの。久しぶりにあの子の可愛い顔を見たいわ」


 この少女は見た目によらず中身がそうとう大人びているのは会った直後でわかっていた。だがその茶化し振り回すような言動にはさすがのネアも限界がある。クロトを子というのなら、あんな風に教育した責任などはないのかと問いただしてやりたい。男は嫌いでも、通りくらいはわきまえている。

 ネアはずいっと魔女にへと一歩踏み出しその小さな身を鋭く睨んだ。

  

「…………失言だったら失礼、可愛らしいお嬢様。アイツは確かに褒める要素のないクソガキでムカつくけど、これでも知り合いで私のお得意様なの。貴方を見つけたらぶっ殺してやるんですって。そこまでする必要があるのかと思ってたけど、気が変わったわ。貴方は予想していたよりも遥かに危険だもの」


「あら? では此処で私を倒す、とでも?」


「あんまり私をなめないでよね? これでも貴方の自慢の子をぶっ飛ばしたことがある者なので。……それに私、べつに貴方に死んでほしいわけじゃないの。間違ったようなことをしているなら、それを正す者が必要なだけ。それをアイツがしてくれるなら、私はアイツに任せるわ。その結果で生死どちらに傾こうと、それは貴方がアレをそういう風にしたのが悪いの。……要件は受けておいてあげる。言ったからには此処に戻って来た時くらいまではいなさいよね?」


 勢いに任せ啖呵を切ると、魔女は赤い瞳を細め、一瞬笑みを消す。


「……生意気なことを言うのね、半端な異端者さん」


 ネアに向けられたのは完全な嫌悪だ。同時に酷い重量の圧が大気を震わせる。

 ゴクリと息を呑む。どうなるかとひやひやとし、少女の動きを事細かにその目に焼き付け対応できるように身構えた。

 すると、魔女はふっと目を伏せ、


「――いいわ。受けてくれるのならその態度を見逃してあげる。私も一々小物を相手にするほど暇じゃないの」


「…………っ」


「そう警戒しなくてもなにもしないわ。何度も言ってるでしょ? ――暇じゃないって」


 細かなため息を吐き、魔女は易々とネアに背を向けた。忘れかけていた瞬きを目が離れたことですると、次に開いた瞬間には魔女の姿がネアの前から消え去る。同時に、活気のある街にへと周囲は戻り威圧からも解放された。

 急に重圧から解き放たれ、ネアは足元をよろめかせて腰を折る。

 

「…………アイツと関わるからには、いつか会うかもって思ってたけど。……アレが、魔女」


 クロトが捜す魔女。それがあんな小さな少女であるなど予想外でしかない。

 ネアの目で感じた魔女。それは世界そのものを嘲笑い、そしてその奥には大きななにかを宿しているようだった。

 

「……あんなのに、どう勝つっていうのよ、あの馬鹿」


 自分でも勝てるとは思えない。そしてクロトは自身よりも……。 

 やる前から勝敗がわかっている。それはクロトも一緒にいたのならわかっているはずだというのに、目先の殺意に流されてしまっている。

 

「お姉さんだって、知り合いが死んだら……目覚めが悪くなるんだからね……っ」


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