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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 六章「黒翼の後輩」
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「赤白の衣」

「治るのに時間がかかったらごめんね先輩。でもさ、仕方ないよね?」


 それがイロハがクロトに送る最後の言葉となろう。

 告げた直後、地にへと降り注ぐ無数の閃光。雨の様に、されど光は幻想的な舞いをし飛来する。

 逃げ場のない弾幕の嵐を前にクロトは脚をしっかりと地に固定し、魔銃を握り、唱えた。

 そんな声すら掻き消すかのような弾幕の猛攻。タダ見下ろし眺めるだけのイロハの視界は地を撃ち続けるそれらにより土煙で地上を隠していく。






 しばらくすると長く降り注いだ光は止み天に描かれし法陣はうっすらと消えていく。

 辺り一面は完全に巻き起こる粉塵のせいで状況が確認などできない。

 

「……やりすぎたかな?」


 地上からの反撃とされる銃弾も一切こなかった。あれだけの数を相手にするのだ。そんな暇などなく、回避に専念したとしても全てを避けきれることは不可能。

 上空よりイロハは高度を下げ地上にへと目を凝らしクロトの姿を探した。

 この時、完全に警戒心を解いていたイロハには自身の勝ちが決まっていると確信をしていた。

 

 ――そう錯覚し、油断した。


 土煙に紛れ、地上から出現した一閃がイロハの翼を貫く。

 

「――え? わわッ!!」


 その時、イロハのはめていた腕輪が外れる。気がついた時には撃ち抜かれた翼は飛ぶということを一時的に止めイロハを地にへと落とす。

 落下による痛みなどはイロハにはなくすぐに身を起こして状況を確認。まだ地上には自分が起こしてしまった煙が残っており、目を塞いで咳き込み状況をよく把握できない。

 

「えふっ! ど、どうなってるのぉ!?」


 直後イロハの顔面を前方から勢いよく風がぶわりと煽ぎ、それは周囲の粉塵を払いのけていった。

 風が和らぎ、目をゆっくりと開いていく。しかし、すぐにカッと見開いて狼狽としてしまう。

 前方に現れたのは赤白く淡く光る羽衣だった。

 風になびくだけでなく、まるで生きているかのように揺らぎ布地には鱗のようなものがギラついている。

 先ほどまでそんなものは存在などしていなかった。あったとしてもあの攻撃の中でその存在を保っていられるはずもない。

 それどころか、その衣の中心には今でも腕輪をはめたままのクロトが無傷で立っている。

挿絵(By みてみん)

 

「……え? なんでっ? なんで先輩、それ……っ、付いたままなの!?」


 腕輪は外れたらしばらくは取り付けることができないようになっている。不正防止のため付け直したということは無理だ。ルールでもそれはあった。

 つまり、クロトはあの弾幕の嵐を無傷で乗り切ったこととなる。

 それでもイロハは認められず更に狼狽する。

 クロトに纏う羽衣は役目を終えしだいにその姿を炎と化して消していく。


「なんで! おかしいよ、こんなの!!」


「俺はなにもおかしなことはしていない。……今のはニーズヘッグの力【纏え】だ。防御に優れた、()()()()()。それを使うことができる」


 クロトもこの技はあまり使ったことがなく性能に少しばかりの不安はあった。だがその力はこの土壇場で見事にクロトを守り抜いた。

 かつてニーズヘッグがその身に宿していたとされる変幻自在にして高度な防御性能を誇るとされた炎蛇の皮衣。しなやかにして鉄壁。炎の体勢すら備えたニーズヘッグの一部。

 イロハはその力により敗北という結果を迎えた。


「……盾? そんなので、フレズベルグのを防いだの? ボクは、それに負けたの……?」


 へたり込み、呆然な瞳には涙を浮かべるイロハは結果という名の事実を突きつけられる。

 だが、敗北の原因はそれだけではない。


「勝負の途中で慢心して油断した。それが敗因だろうが」


「……っ」


「もしお前が最後まで警戒を解かなければ、あの一撃は当たってなかったかもしれない。……わかっただろ? これがお前と俺の差だ。相手を仕留めるまでが戦いってやつなんだよっ」


 更に敗因を晒されイロハは悔しながら唇を噛みしめる。有利な状況でありながら敗北したことが、この上ない屈辱感を与えこれ以上イロハが反抗すらできないほど追い詰めた。

 勝ちの確定したクロトは腕輪を外し一息入れる。


「……さて。俺が勝ったわけだが?」


 あとはこの魔女の送ってきた者の処分だ。

 殺せない以上クロトはなにかできるわけではない。痛みを感じもしないので特にといった拷問もできない。だがイロハにはまだ魔女の手がかりになる情報を持っている可能性もある。

 とりあえずは拘束して知っていることを洗いざらい吐かせるのが妥当なのだが……。

 再度イロハにへと向き直ったクロトは自身の目を疑うこととなる。

 身を起こしたイロハはうつむきながら魔銃の銃口を自分自身の頭にへと当てていた。

 そして、うっすらと笑みを浮かべる。


「あ~あ……、負けちゃった……。なんか、ちょっと変な気分かも……」


「おい! なにするつもりだ!?」


「なにって、なんだろう……。よくわかんないけど、なんかちょっとね……、ボク、少し死んでるよ」


 負けたことに責任でも感じたのか、自身でも行動の意図がわかってすらおらず混乱している。

 同じ体質でこの行動の先にあるのはなにか、クロトは推測でしかなかったが言葉からして「やはり」と確信する。

 ゆっくりと引かれる引き金の手は少しばかり震えていた。

 苦笑いしつつ、


「目が覚めたら、また先輩を捜すことにするよ。帰って怒られるの、やだし……。――じゃあ……」


 言い切ればイロハは自身の頭をゼロ距離で撃ち抜いた。

 頭部からは血を噴出させ地べたにへとその身は倒れる。意識もなく、息もしていない。本当にイロハはこの時死んでいた。

 傷が治るまで、イロハはこのまま目を覚ますことはないだろう。

 だが、痛みを感じないとはいえ自ら頭を撃ち抜いたイロハを良くは思えず、不快だと顔をしかめる。

 

「……なんなんだよ。勝手なこと、しやがって……」



   ◆


 ――あれから、どれだけ経ったのかな?


 深い、深い暗闇の中、イロハは夢の中で寂しく呟いた。

 自ら頭を撃ち抜くことまでしたと、今更になって自分の行動にすら疑問を抱く。頭を自身の魔銃で撃ったなら治るのには丸一日ほどはかかることだろう。意識が戻りつつあるということは、それくらいは経過したこととなる。

 横になるイロハはうずくまり、孤独の中一滴の涙をこぼした。


 ――今頃、先輩は姫ちゃんと一緒に遠くまで行ってるんだろうなぁ。ああ、また捜すのか……。


 特にイロハはクロトのことを嫌っていたわけではない。むしろ会ってみたいと当時は思っていたのだ。

 

『……くろと? 誰それ?』


『イロハと同じ不死身の魔銃使いよ』


『……ボクと、同じ』


『そうよ。……この場合、クロトはイロハの先輩になるのかしらね』


『先輩? それって、え~っと、とくべつなこと?』


『そうね。イロハは後輩。クロトは先輩ね。結構やんちゃな子だけど私はイロハと同じくらいクロトのことも好きよ。だからイロハにはクロトを探してほしいの。私のお願い、聞いてくれる?』


『うん!』


 同じ不死身。同じ魔銃使い。共通点に心が惹かれたが、現実はこの有様。

 もし、次に会ったらどうしようか……。

 

 ――また、勝負でもして……。負けちゃうかな? どうしよう……。


 自分は強い。そう思っていた。だが、結果はこの通りだ。

 魔女の頼み事すら全うできず、恩人には合わせる顔もない。

 

 ――マスターが来たら、なんて言おう。……怒られるの、やだよぉ。


 恩人の優しさを裏切りたくない。それがイロハの頭で考えれた唯一のことだ。

 きっと悲しむだろう。怒るだろう。……もしかしたら、捨てられるかもしれない。


 ――やだぁ……。一人は、やだよ……。誰か、そばにいてよ……。


 痛みは消えても孤独は感じる。

 人肌恋しさにイロハはすすり泣き、再び意識が眠りにへと引きずり込まれていく。

 

 ――……。

 

 その後は不思議と気持ちが穏やかになれた気がする。

 誰かがそっと頭を撫でたような感覚が、あったような気がする。

 自分が寂しい時、その存在はどこかからか感じていたような……。


 どこか……すぐ近くで……。鎖の音と共に…………。





 そっと、イロハの頭部を風が撫でる。

 瞼が微動し目を開いて意識を覚醒させていく。頭を撃ち抜いた後遺症だろうか。頭の中がくらくらとして完全には治っていないのか気分も悪い。

 ぼやけた視界は左から右にへ。自分のいる場所は、最後に見た場所と異なっていた。


「――あれ? なんで、外じゃないの……?」


 自分が死んだのは勝負をしたあの更地。だが、今イロハがいるのはどこか見覚えのある部屋の中。妙に散らかったようなその一室の壁にへと背を預け、イロハは座り込んでいた。

 おぼつかない頭ではまともな思考すら働かず、呆然とそんな見覚えのある部屋をただ眺める。すると、鈍い頭は扉の開くような音を感知し、考えるよりも体を動かした。

 顔を音の方にへと向けると……。


「……? あっ、大丈夫ですか?」


 そんな少女の声が聞こえてきた。

 まだはっきりと定まらないイロハの視界では白の薄着でいる少女が寄り、少し湿ったタオルを頬に当てて拭う。


「ちょっと、すみませんね。汚れているので……」


「……? 姫、ちゃん……?」


 徐々に安定してきた目に映り込むのは長い金髪の少女――エリーだ。

 目をぱっちりと開き、イロハは開いた口が塞がらず唖然としてしまう。

 

「えっと……、エリーです。よかったぁ、クロトさんが連れてこられた時はビックリしましたよ。頭を撃ったとかなんとか……」

 

「先輩、が……?」


 その話は信じがたくイロハは眉を歪める。あのクロトがわざわざ自分を連れ帰る意味があるのだろうか……。

 だが、どうも事実らしい。

 なんせ直後その本人が姿を現すのだから。


「やっと治ったか鳥野郎。よくも余計な手間を取らせてくれたな」


「え……、えぇ!? 先輩!? なんで? ……ボク、あのまま置いてけぼりにされたんじゃ」


「してほしかったのかよ。なんの理由もなく連れ帰るかっ。お前にはまだ聞きたいことがあるんだよ」


 キョトンとイロハは首を傾ける。それはまるで話を理解していないかのようだ。

 相も変わらず低脳であると再認識。


「だからっ、お前はあの魔女のさしがねだろうが!」


「……さしがね?」

 

 更に首が傾いていく。

 これは言葉の意味がわかっていない……。


「~っ、とにかく、魔女のぉ、し、知り合い? なら、監視しとくのもあるってことだ! わかったか!?」


 ぽかーんとしていたイロハ。そして、ハッとして「あ~」と理解したように手を叩く。

 ここまで簡単に言わなければいけないのかと、いらぬ疲れがでてきてしまった。

 クロトが伝えきるとエリーはイロハの顔に残った血を拭き取る。


「さっきはすみません、驚いてしまって。私は、イロハさんが悪い人には見えませんので、よろしくおねがいします」


「……本当に、いいの? 先輩、ボクのこと、嫌いでしょ?」


 好きか嫌いかの二択なら嫌いの一点張りは明白。


「当たり前だ。クソガキが増えれば当然だろうが。あくまで魔女の手掛かりだから仕方なくだっ、これも自分のためだから勘違いすんなよ!」


「……」


「お前もだぞ、クソガキっ」


「は、はい……」


 それはそうだ、とエリーは苦笑しつつ返事をする。クロトにとってどの他人も嫌いの対象なのだから。

 呆気に取られてしまったイロハ。開いた口が塞がらず、しばらくしてから笑みをこぼし……



「――ありがとう! 先輩!」



 と、一気にクロトにへと飛びかかった。

 完全に密着されるよりも早くクロトはイロハの顔を押さえつけ止め、瞬時に手は腕にへと切り替え流れるように背負い投げ床にへと叩きつける。

 激しくぶつけられるもイロハはほんの少し息を詰まらせたくらいだ。


「ぷへっ」


「なに勝手にひっつこうとしてんだこの鳥野郎はッ!?」


 その行為は明らかに抱きつくもの。避けなければ……。

 そんなあってたまるかの想像にクロトは顔色を悪くする。


「えへへぇ。だって先輩たちと一緒にいていいんでしょ? ボクも姫ちゃんと一緒にいれてマスターのお願いもできるんだもん。嬉しいな~って」


「だから仕方なくだっ。余計なこと言ってんじゃねーぞ、もっかい頭撃ち抜くか?」


「そ、それは困るよっ。姫ちゃーん、先輩がいじめるぅ!」


「えぇ!? わ、私ですか!?」


 魔銃を取り出したクロトを見るとイロハはエリーの後ろにへと隠れる。体格はイロハの方が大きいため全く隠れきれていないが。

 

「そいつに近づくな鳥野郎! また余計に悪化したらどうする気だ!」


「だって先輩のそういうとこ怖いもん。痛くなくても怒られるのボクやだぁっ」


「……ク、クロトさん、落ち着いてください」


 エリーがなだめるもクロトが簡単に怒りを治められるわけでもなく、何発かその後発砲し室内の壁や床に穴を作る。

 更に近くは危険と思ったのかイロハはエリーを両腕で抱え逃げ回り出した。


「先輩っ、姫ちゃんに当たるのボク困るぅ。だからやめてよぉ!」


「うるさい鳥野郎っ」


「イロハだもん!」


 騒々しく、荒々しく。

 どうしようもなく状況に流されていくエリーだが、心の中で安堵したのは確かだった。

 気づかれない間に、エリーはふと笑みを浮かべてしまう。

 

[232913980/1606233568.jpg]

『やくまが 次回予告』


クロト

「さて、余計な付属品が増えてしまったな」


エリー

「イロハさんってなんだか可愛らしい方ですよね。最初はびっくりしちゃいましたが」


クロト

「どの辺が可愛いって? ただのガキだろうが」


エリー

「でもクロトさんとそう歳は変わらないかと? なんて言うんでしょうか、親しみやすいような方ですよ?」


クロト

「俺にそんなもんは必要ない」


エリー

「はい。知ってます。それに魔女さんの手掛かりになることがあってよかったですねクロトさん。これで前進しました、はい、順調です! ついでに次回から第二部ですよ、頑張りましょう」


クロト

「戻ってきた途端無駄にテンション高いよな、お前」


エリー

「普段通りでちょうどよいかと。……あ。ちょうどといえばですがどうして魔界の魔王さんの数は13なんでしょうか?」


クロト

「唐突だなぁ。確か十三魔王だったか」


エリー

「そうです! どうして12ではないんでしょうね? なんだか中途半端な気がして落ち着きません」


クロト

「俺が知るかよ。なんだったら魔界の魔王にでも聞いてくるか? そんな奴らに会いに行こうと考える奴なんて早々いないと思うが」


エリー

「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第二部 一章「暗躍の魔女」。あれですかね? ひょっとして魔界の時計は13まで数字があるんでしょうか?」


クロト

「だから行ったこともねーし知らねーよ」


エリー

「ん~、謎です……」

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