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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第九部 六章「願いのその先へ」
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「己がための【願い】」

 これは魔銃使いの……、――クロトのこの場での【願い】でもあった。


 自分が不要と捨てた感情。それをクロトは気付かぬうちに、無意識にまた拾い上げてしまっていた。

 あれほど捨てたかった感情。自分を縛るだけの【感情(愛情)】。

 きっかけを与えてくれたのは他の誰でもない。星の瞳を宿した、道具としか見ていなかった、名前など一度だって呼んだ事のない――たった一人の少女だ。

 非力で。無力で。他の助けがないと生きていけない。

 ずっとそれが甘えだと思っていた。

 それだけに留まらず、誰よりも他人想いで。自分を二の次にしていく。

 損な生き方をする……そんな存在だった。

 損な生き方をする者は嫌いだった。

 童話だろうと、なんだろうと……。自分を大事にできない者が嫌いだった。

 それらすべてが、ずっと嫌いだった。

 だが、その手を自分に伸ばされた時、その温もりに触れて、わかってしまった。


 本当は……そんなふうに愛されたかったのだと。


 束縛ではなく、ただ支え合える形で愛されたかったのだと。

 だから、今でもこうして、初めて名を呼んで求めてしまう。


「さんざん……お前のことを嫌ってきた俺が、今更だってのはわかってる! だからこそ、今度はお前とちゃんと向き合いたい!」


「……っ」


 どうしても、エリーは振り向くことができなかった。

 振り向いてしまえば、伸ばされた手を取ってしまいそうになるのだから。 

 しかし、それは許されない事だろう。

 自分の事を知って、それでも今の世界に留まる事など…………。

 そして、それを堪えて涙ぐむ姿を見せるわけにもいかなかった。

 このまま振り向かなければ、もしかしたら諦めるかもしれない。

 ……だが。クロトが諦める姿など想像もできない。


「……っ。…………それに、俺は。お前のあの言葉の続きを…………まだ聞いてない」


 ――…………


 エリーには、一つクロトに伝えたい言葉があった。

 きっとまたクロトを怒らせてしまう。そんな一言。

 あの流星群で言いそびれてしまったが、言えずに終わったことにどこか安心すらもしてしまった。怒らせる言葉なら、言わなくて正解だったのだから。

 自分の中で終わらせたかった、【好き】という思い。


「今しかないなら、……俺はそれを聞きたい」


「…………でも……」


「絶対に怒らない! どんな恨まれごとでも、それがお前の本心なら俺は受け入れる! お前の言いたい事を、他人がどうだとかじゃなく、お前の思いを聞かせてくれ!」



 ――…………



 真っ白な地に、ぽたり、と水滴が落ちる。

 星の瞳は潤み、溜めていた涙が溢れ出す。

 胸が苦しくなる。溢れてしまいそうな言葉の数々を抑え込もうとすれば、喉が痛む。

 言葉のどれもが、口にすることを躊躇ってきた。

 だが、今本当に許されるのであれば…………。

 その思いの先も…………許されるのか……。


 違う……。そうじゃない。


 許されなくてもいい。

 誰かのための【願い】も大事で。それ以上に、今は…………。






「…………っ。クロトさんは…………ずるい。ずるい……ですよっ」


 嗚咽を漏らしながら、エリーは口を開く。

 

「……――好き…………なんです。ずっと……、ずっと前から…………。好きだから……っ、大好き、だから……。言ったら……またクロトさんを怒らせてしまうから……ずっと…………言えなかった」


 それを強いらせたのはクロトだ。

 言わせないように、ずっと我慢させ続けてきたのもクロトだ。

 たった一言。――「好き」という言葉。

 その言葉はクロトにとって重くも感じた。受け止めたくなかった【好意】。それをいざ受け止めてみれば、重くはあれど抱いていたほど怖くもない。

 

「…………よくわかった。……それで、お前はそれでも、そっちを選ぶのか?」


「……私……は。私は……いても…………いいんですか……?」


「いい」


「……また……誰かを傷つけるかも……しれないのに…………。私も…………魔女…………なのにっ」


「いい。俺はそれでも…………お前に消えてほしくない」


「……クロト……さんっ」


 ようやく、エリーは振り返る。

 とめどなく溢れる涙で顔を濡らし、堪えていたものを吐き出す。

 

「私は、クロトさんと…………一緒に、いたい……です。消えたく……ない。もっと、クロトさんと……――一緒にいたいんですっ」


 少女は願い、望む。

 そこに、他者への気配りなどない。

 ただ一つ、共にありたいという、エリー自身の心からの【願い】だった。

 エリーは神への道に背を向け、足は元の方にへと戻りだす。

 

 その時、呼び止めるように呟かれる。


『……いいのかい? キミの選ぼうとしている道は、再びキミが罪を抱えるというものだ。苦しみと絶望のある世界』


「…………そう、ですね。でも、それでも私は、クロトさんと一緒にいたい。そう【願い】ます」


『……』


「だから……ごめんなさい……」


『…………いいよ、べつに。キミが望むなら、それを肯定するのがボクたちだ。行くといいよ。……あんまりキミを引き留めておくと、彼が世で言う恐ろしいものを向けてくるからね』


 【管理者】は身を引こうとする。視線の先には、銃口が映りこむ。

 しかし、この存在に恐怖というものはないのか、薄ら笑いを浮かべていて気味も悪くあった。


『心配しなくても、ボクはお暇する。彼女の選んだ選択だ。ボクはどちらでもいいからね……』


「……」


 そうは言うも、魔銃使いの警戒ある敵視の視線は変わらない。


『そう怖い顔はしないでくれよ。……しかたない。ボクは()()よ』


「消える前に聞いておくが……、お前は何者なんだよ?」


『あはっ。あの魔女と同じことを聞く。……教えてもいいけど、キミたちはボクの存在を戻った後覚えていないだろうよ? 覚えてもらっていても、面倒だからね』


「……」


『また、此処で待っているよ。…………彼らと共に……――終焉の日を』








 そう言い残して、その未知の存在は白の空間にへと消えてゆく。

 まるで、これが本当の終焉ではなかったような言い分。

 それを負い目とすら感じたのか、エリーはクロトにぶつかるように抱き着く。

 

「……っ。クロトさん。私……本当に戻って……いいんですか?」


「何度も言わせるな。……俺がいいって、言ってるだろうが」


「…………好きで、いいんですか?」


「いい。嫌いでないなら、……俺も……お前のことが――好き……だからな」


 消えないでほしい。

 小さな身を抱き返し、二人の姿は白にへと呑まれその場から消えてゆく。



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