表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 五章「命を喰らう結晶」
26/280

「二つの魔銃」

「……しかし、なんだ? この有様は」


 クロトはエリーを助けるあまり周囲の確認を怠った。

 最上階の大室に広がる光景はまるで大砲でも撃ち合ったかのような壊れっぷりである。黒装束の信者の死体が幾多も転がり下は血の床となって真っ赤だ。巨大な生命結晶らしきものも落ちておりヒビ割れている。階段で感じた揺れはこれが原因やもしれない。

 エリーを抱え立ち上がろうとすると、上空から唐突な大声が耳を貫く。


「あぁああああッ!!!」


 思わず開いていた片方の手で耳を塞ぎ上空を見上げれば、「なんだアレは?」と思わんばかりのモノが目に入ってしまう。

 それは翼を背に生やした、自身と同じほど少年だ。

 

「やっちゃったよ! 一人殺しちゃいけない子いたじゃん!」

 

 大掛かりな魔科学物の上に降り立ち、少年は慌てて急ぎ足でこちらにへと駆け寄ってきた。


「うわわ~、大丈夫!? ボク怒られるのなんてやだよぉ!」


 そうやって泣き言を言いつつ近寄った少年に対し、クロトはなんの躊躇もなく魔銃を向けた。それに気付いた少年はピタリと距離を開けたところで止まってしまう。

 

「なんだお前は……? アイツらの仲間か?」


 エリーの身を強く抱き寄せ放さないクロトは少年に警戒と敵意を示す。銃口を向けられて尚恐れる表情を一切しない少年はキョトンと首を傾ける。

 しかし、クロトの持つ魔銃をしっかりと認識した時、少年は掌を合わせて瞳を輝かせた。


「おお! やっと見つけたぁ!」


「……はあ?」


 少年は無垢な笑みで顔をクロトにへと寄せる。

 いきなり近寄られたためクロトは魔銃から一発放ち少年の耳元をかすめた。

 最初は威嚇射撃であり当てる気などはない。少年も耳元で銃声が鳴ったため驚いて顔を引っ込める。


「うわっ、急になにするのさ()()!」


「……せっ?」


 今、コレはなんと言った?

 

「も~、急に撃つとか酷いよぉ……、先輩」


 先輩? 先輩と言ったか?

 

「でもよかった~。先輩見つかって」


 脳内でリピートをさせて確認している間にも、目の前の人物はクロトのことを【先輩】と称してくる。

 更に頭の中でその呼び方について考えた。


 ――先輩。それは年齢や地位などがその者より上の者に対して称されるものである。


 辞書のような解説を脳内で導き出すも、クロトにとって今回初めて会った初対面にそのような称され方をされる覚えが一切ない。

 これは確実に断言できた。

 

「……なんだ、お前。その先輩って言うのは本当に俺のことか?」


「ん? そうだよ先輩」


 どうも人違いではなさそうだ……。


 言動や外見やら、少々気がかりな少年である。

 まずその背にある翼だ。飛んでいたところ飾りではなく本物。そして自身を【先輩】などと称していること。

 ……更に言って、無駄に笑顔で子供っぽい少年の表情から仕草が癇に障る。馴れ馴れしい相手もクロトは嫌いでしかない。


「ボク――イロハっ。マスターに言われて先輩たちを捜してたんだぁ」


 なんのことかわからない。

 話について行けずクロトはまた発砲してやろうかと指がトリガーの前で彷徨う。あまりにも理解していないようなことにイロハなる少年は懐から自身の魔銃を取り出しクロトにへと見せた。


「ほら、コレ! これ見たらわかるかな?」


 苛立ち顔をしかめていたクロト。しかし、見せられた魔銃を直視した時、クロトは肝をつぶして両目を見開く。

 イロハの持つ銃はクロトにとって見覚えのあるものだった。そんなはずはない。そう疑おうとするも間違いなくあると視界に映る事実が告げてくる。


「……なんでお前がそれを。――フレズベルグを持っているんだ!?」


 その魔銃の持ち主をクロトは知っている。

 持っていたのは――


「これ? くれたんだぁ。――マスターが」


 ――くれた? その魔銃を? だってその魔銃は……。


 クロトの脳裏をよぎるのは今最も捜している人物。――魔女だ。

 イロハの持つ魔銃、悪魔【フレズベルグ】を宿したそれは魔女が持っていたものだった。このイロハが言うマスター。それはおそらく――。


 ――……


 一瞬静まった会話の隙をつくように、鈍い声が下方から聞こえてくる。

 すぐにクロトとイロハは下を見下ろす。生命結晶。その中に閉じ込められていた骸が一体這い出ていた。干からびた肉体に視界の見えない固く閉じた瞼でそれはなにかを捜しているようだった。

 

「ん? なにアレ?」


 骸が動いている。全ての生気を吸い上げられたはずのそれは確かに動いている。

 彷徨い、黒ずんでいる肉体が転がっている新鮮な死体に擦れる。すると、それはピタリと動きを止める。

 しばらくじっとして、次に鋭く貫くような甲高い奇声を放つ。

 骸は死体にへと食らい付き、貪り取り込んでいく。餓えた獣のように、血をすすり肉を食い荒らす。その姿はまるで死骸が魔物化したグールと似ている。

 

「うわ……、なんか気持ちわるい……」


「どういうことだっ。何故死体が突然……っ」


「ボク、ああいうの苦手だから、先に行くね……」


「はぁ!?」


「じゃあ先輩っ。――また後で!」


 口元に手を当てつつ、イロハは顔を蒼白として飛び去っていく。止めようにもエリーを抱えたままでは捕まえることもできず。

 騒いでしまったことにクロトは再び下にへと向き直る。骸は聴覚でも取り戻したのか死体を貪りつつこちらを見上げていた。喉を荒げ鈍くなにかを言い放ちながら急速に装置を這い上ってくる。間近までくれば骸の大きさは子供なみから人の数倍ほどの大きさにまで変貌していた。

 

「――ッッ!!」


 またなにかを叫び、指の間接がおかしく曲がった手を一直線にエリーにへと伸ばしてくる。


「ちぃっ!」

 

 身を転がしクロトはその重圧ある手からエリーを抱え逃れる。逃げればすぐさま首をおかしな方向で曲げこちらの位置を把握し何度でも襲いかかってくる。

 狙いはどれもエリーばかりだ。


「なんで、コイツばっかり……!」


「――ッ」


 元死体とは思えない俊敏な動きにどんどん追い詰められていく。目は未だに閉じ見えていなくとも優れた聴力となにかに引き寄せられるようにこちらの位置を正確に把握してくる。息をころそうにもこう攻められ続ければ気を逸らすことすら容易にできない。

 せめてどこかで他になにか大きな物音でも響かせれば少しは撹乱できるというのに。


「あのガキっ、こっちに全部押しつけやがって……!」


 焦る頭は苛立ちを増していくも、クロトは必死に物事を考えた。

 今自分がいるのは馬鹿にでかい魔科学の装置。これを爆破でもできれば少しは気を逸らすことができるやもしれない。時間をかけてではなく、一撃ですぐに済むようなもの。そんなものがあれば……。

 止まっていたはずの装置はふとゴウンゴウンと音をたてる。騒動による振動が動力にでも伝わったのか、壊れながらも再び起動を開始し始める。しかし、まだ足りない。

 クロトは音の中心を捜し出し視界に捉える。

 空回りするかのような動力装置に向け銃弾を一発。だが外側が頑丈なのか弾かれる。

 

「だったら……!」


 クロトは骸からの攻撃を避けた後一気に後ろにへと回り込み、しっかりと体勢を固定させて魔銃を装置にへと向ける。

 魔銃の銃口は光を集めため込み、


「――【貫け! ニーズヘッグ】!!」


 クロトが唱えると同時に引き金を引き発射された。反動でクロトの身は後ろにへと転がる。

 一直線に光速で放たれた銃弾。それは通常の銃弾よりも威力を増し一気に対象を貫いた。貫かれた装置は内側から熱を膨張させ大爆発を起こす。壮大な音に骸の動きが乱れ暴れ出す。その隙にクロトは銃口を向け、


「――【爆ぜろっ。ニーズヘッグ】」


 躊躇なく爆炎起こす一撃を脳天にへと直撃させた。

 爆炎に頭を吹き飛ばされた骸は泣くようなうめき声と共に崩れる。

 終わった。そう呟く寸前に、クロトの脚を骸は掴んだ。


「……っ!?」


「――っ、――ッッ」


 喉の奥で吸い上げた他者の血を吐きながら、それはまだなにかを訴えていた。おぼつかない声で、微かだがこんなふうにも聞き取れた。

 

 行かないで。

 暗いよ。

 一緒にいて。

 寒い。

 温めて。


 それをこの骸はエリーに向かって言っているようだった。だが、渡すことはできずクロトは力を失った手を振りほどく。

 

「……コイツは、やれない。そして、謝るつもりもない。俺はそういう【感情】がないからな……。だから、もう寝てろ」


 その言葉は聞き入れてもらえたのか、定かではない。だがそれ以上魔物と化した骸が動くことはなかった。

 爆発は大室の全てを消す勢いで炎を広げていく。クロトはエリーを取り戻したためこの場にいる必要などなく、崩壊した壁から一気に外にへと出て行った。

 




 上空で脱出したクロトの姿がイロハの視界にチラリと入る。ずっと空の上で彼らが出るのを待っていたイロハだが、どこか落ち着かない様子で魔銃を握りしめていた。

 手を震わせ魔銃がカタカタと音をたてる。杭でいくら貫かれても平然としていたイロハが、急に浅い呼吸を繰り返す。


「……っ、……はぁっ。嫌い……、嫌い、嫌いだ……っ。……似てる。こんな場所、ボクは……、――大っ嫌いだッ!!」


 唐突に豹変したイロハはそう呟き、施設にへと嫌悪し叫ぶ。いったいなにを頭に思い浮かべ何に嫌悪したのか。イロハは天に銃口を向ける。


「こんな場所っ、壊してよぉッ!!」


 魔銃に頼り願い、イロハはぶつぶつと長くなにかを唱え、


「――【巻き起こせぇ! フレズベルグゥ】ッ!!!」


 再びイロハの上空には円法陣が展開し巨大と大きく広がっていく。

 




 ある程度施設から距離をとったクロトは脚を止めて振り返る。塔の形をしたそこは木々に隠れてっぺんのほんの少ししか見えない。

 

「あのガキ、いったい何処に……」


 先に外に出たはずのイロハを捜すが見当たらない。辺りにへと視界を巡らせると、急に風が吹き体を煽る。 

 それは不自然と風力を増し引き込まれていまいそうなもの。近くの樹にへと掴まり風の集まる方にへと目を向けた。

 よく見ると抜け出した施設を包むように幾つもの竜巻が発生しているではないか。周辺の木々などを巻き込むように渦巻くそれらは施設を取り囲み、互いに衝突し合って一つの竜巻に変わる。暴風吹き荒れる中で施設はバラバラになり、吹き止んだ頃には形を失っていた。


「……アイツが、やったのか?」


 明らかに規模が違いすぎるイロハの魔銃の力。

 天を翔る巨鳥。風を操るとされた悪魔――【極彩巨鳥(ごくさいきょちょう)のフレズベルグ】の力なのだと思い知らされた。

 

『やくまが 次回予告』


クロト

「クソガキが起きないから予告どころじゃないっ」


イロハ

「え? なになに先輩! 予告ってなに? ボク知らないんだけど?」


クロト

「知らないなら出てくるな。とりあえず、今回はキャンセルか」


イロハ

「あ! そういうかもって、ボクねマスターからこんなの預かってきてるんだぁ」


クロト

「くっそ、用意周到か! ……で? なんだそれは?」


イロハ

「手紙!」


クロト

「じゃあ読めよ……」


イロハ

「でもボク、文字読めないんだよね」


クロト

「なんで手紙渡されたんだよ!? ちょっと貸せ! ……え~、なになに? いざこざになったらコレで尺を稼げ? あの魔女なめてんのか!?」


イロハ

「ねぇねぇっ、マスターなんて?」


クロト

「(仕方ない。やらせてみるか……) おい、ピザって十回言ってみろ」


イロハ

「なにそれ?」


クロト

「お前のマスター野郎からの内容だっ、とっととやれ!」


イロハ

「じゃあやるー! えーっとぉ、ピザピザピザピザピザピザピザピザピザ、ピザッ!」


クロト

「よし、じゃあコレはなんだ?」


イロハ

「え? 肘に決まってんじゃん先輩……」


クロト

「……すっげー腹立つなぁ」


イロハ

「次回、【厄災の姫と魔銃使い】第一部 六章「黒翼の後輩」。……で、先輩。それになんか意味あるの?」


クロト

「俺に聞くな! 燃やして焼き鳥にするぞっ!」


イロハ

「なんで怒ってるの!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ