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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 五章「命を喰らう結晶」
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「生命結晶」

「――おい! アイツをどうする気だ!!」


 吠えて叫ぶ度にクロトは無意識に体を前にへと動かす。

 動けば動くほど杭は余計に手にへと食い込み激痛を与えた。苦悶と堪えつつもクロトはそれを聞き出そうとする。

 まるで食らい付きそうな獣でも見るかのように男は身を退かせながらひきつった笑みで応える。


「どうする……? 決まってますよ。彼女には()()()()にへとなっていただくのですっ」


「……っ、生命、結晶?」


 聞いたことのない名に眉をひそめる。その得体の知れない物に変えると言った。

 それがなんなのか問いただす前に男は少々焦った口調でその結晶について語りだした。


「簡単に説明すればマナ結晶に似た人工エネルギー源ですよっ」


 マナ結晶にはクロトもそれなりの知識がある。

 大気中に溢れる生命の源でもある元素。自然や生命になくてはならない存在。それらが凝縮し集まって結晶化してできた、自然的に作られる多種多様に使用可能なエネルギー源の一つ。魔科学や魔道具などの原動力ともなっている、世間では一般的に使われている代物だ。

 しかし、この結晶にも幾つかの欠点がある。

 結晶として活用できるものになるまでには多くの時間を費やす。成長速度が遅いため使用の均衡を誤れば一気に減少する。 

 その代用のつもりなのか、生命結晶という物を今から生産しようとしている。

 ――エリーを使って。






「……人工、エネルギー源?」


 ロクな知識のないエリーには何が何だかわかってなどいない。

 落ち着いた様子で老人は更に話を続けていく。


「そうですぞ。我々は国家の目の届かぬ此処で宗教を兼ねてこういった研究をしておりまして。自然しだいで生産に難のあるマナ結晶に代り、新たな源を生み出すことに成功したのです。それが――生命結晶」


「……生命、結晶?」


 徐々にに熱が増す。老人のわりに彼は熱く語りだして止まらない。それこそエリーのことなど置き去りにしていくほどだ。

 語り語られても理解が追いつかず、ただその話を無理に聞かされていくのみ。


「貴方様も辛かったでしょう? ただ殺されることを望まれ、死を待つのみに怯えていたことはよ~く知っておりますとも。しかし、今、この時! 貴方様はぁっ、人々の恐怖から希望にへと生まれ変わるのです! この製造装置でぇ!!」


 辛かった? 殺されることを望まれていた? 死を待つのみに、怯えていた……?

 ……それが、過去の自分?

 ときおり泡沫の夢の中で、そんな日々を送っていたような子を見た気がする。ずっと泣いていて、他に誰もいない闇の中で孤独と恐怖に一人怯えていた。

 

 ――それが、本当の私?


 記憶のない今。なにも思い出せない過去。そんな自分など、エリーは一切覚えていない。

 話しに頭の中が混乱していくも老人の熱は収まることなく続く。

 

「私はずっと貴方様の利用法を考えた。世界に終焉をもたらせるなら、その逆も有り得ないかと。力の逆利用は簡単ではなく不可能なものでも、その身には利用価値があると推測した。力を宿している器、それは常人と異なるもののはず。それを私はクレイディアント陛下に申し出た! ……しかし、不確定なこともあり結果は却下された。それからずっと信者と共に研究を重ね研究を重ね研究を重ねぇええっ! ついに完成にへと至った! それこそ、この装置ぃ!」


 長々と語られるも、エリーにはその内容がしっかりと入らない。だが、彼らが自身にとってよからぬことを考えていることはハッキリと理解できてしまった。自分がどんなふうになるのかすら知るよりも前に。

 ガラスケースの周囲に吊された結晶体が視界に入り、エリーはそれを視界を寄せ直視してしまう。

 

「これも、生命結晶……?」


 恐る恐る、それを眺めている最中でも、老人の教祖は独りよがりに続けていく。


「最初に強力していただいたのはとある一家でした。行く当てもなく彷徨う者たちを受け入れ、養い、それと引き換えに研究にへと強力していただいた。実験は成功し生命結晶は実現できた。――そう、その結晶こそがぁ」


 ぐらりと結晶が揺れる。光の反射が角度を変え、その結晶の中身を露わにした。

 エリーはその結晶を見たことを後悔する。結晶の中には()が入っていたのだ。

 生気を全て吸い出され結晶の中のそれは干からびた肉体となって、苦しそうな表情を硬直させ息絶えている。大きさからして、それは自分なんかよりも小さな子供にも見える。悍ましいものを目に焼き付け、エリーはかすれた声を漏らす。

 これが本当に生命結晶なら、考えるまでもない。自分もこうなるということだ。

挿絵(By みてみん)

 止まらぬ体の震えは恐怖を訴えている。

 しかし、それを理解し聞き入れてくれる者などこの場にはいない。


「――さぁっ! 呪われた姫君よ、我々に奇跡を!!」


 その合図と共に、装置が一斉に起動を開始した。






「――ふざけんなッ!」


 この事態にクロトだけが逆らって声を荒げた。


「なにが希望だ! 結局お前らもアイツを殺すんじゃねぇか!!」


 形はどうであれ、それは確かにエリーの死を意味していた。同時にそれはクロトの死にへも直結する。

 今結晶となってエリーが殺されるというのならすぐにこの場から動かねばならない。

 噛みつく言葉を言いつつ体は貼り付けの拘束を解こうとした。


「殺すのではありません。姫は生命結晶となり、人類のためにその身を献げるのですよ。生命結晶はマナ結晶とほぼ同等。来たるべき魔族どもとの戦争のため、その力は兵器として利用される。これぞ人類のための救済っ。教祖様の教えの通り、我々は救世主となるのですよっ。姫のような凄まじい力を秘めた生命結晶……。さぞ強力な物が仕上がりましょうねぇ」


「――テメェッ!!」


 クロトは怒りに身を任せ前にへと出る。両手を打ち付ける杭が更に食い込んで血しぶきを散らせた。憎悪が理性を飛ばしていく。煮えたぎるような内で燃える炎が痛みすらも燃やし尽くし、前へ前にへと進み続ける。

 肉と骨が悲鳴をあげようとも頭には届かず。力の限り腕を前にへと伸ばした。

 壁にへと固定されていた杭が堪えきれず抜け落ち、風穴を開けたクロトの手は瞬時に炎を纏って癒える。腕を振り払い動きの確認。貫かれた右腕も、自分で撃ち抜いた左腕も、全てが完治し自由を取り戻していた。

 檻という壁の奥で先ほどまで語っていた男は怖じ気づいて逃げるように身を退く。

 しかし、まだクロトは腕の拘束を解いたのみにすぎない。そうだと高をくくり不適に口元を歪めてた。


「む、無駄ですよぉ? 脚は繋がれたまま……。魔銃だって、ここに……!」


 今のクロトはその身だけでなにも持っていない。それは牢屋に入れた時点で確認済みである。

 腕の完治を確認し無言でそれを聞き流すクロトは静かに冷たい眼差しを向けた。

 数人の黒装束たちは揃えて声をひきつらせる。慈悲の欠片のないその眼差しと、クロトから伸びた影が、ふと大蛇の形にへと見えてしまったのだ。影越しに蛇は睨んでいるようにも。まるでその身に蛇を宿しているかのような。

 そんなことなど気にせず、クロトは大きく息を吸い――


「――来い! ニーズヘッグ!!」


 魔銃の名を呼び叫ぶ。

 奥の弱々しい者の手にある魔銃が突如その呼び声に動き出す。手から弾けるように跳ね飛び、鉄格子の間を勢いよく回転しながらすり抜けクロトの手はそれを掴み取る。なにが起きたなど考える隙すら与えず向き直って見てみればクロトは銃口を前にへと向け引き金を引く。


「――【爆ぜろ! ニーズヘッグ】!」


 躊躇いのない一発。放たれた銃弾は鉄格子に直撃し爆炎を起こす。間近にいた数人すら巻き込み燃え盛る牢獄。たった一人爆炎から逃げのびたのはあの魔銃を持たされていた者だ。ローブのフードが爆風に取り払われ顔を晒す。

 性格に見合った情けなさのある眼鏡をかけた青年は腰を抜かしてへたり込んでいる。


「ひ、ひぃ……!」


 炎々とする牢屋。牢屋の奥から銃声となにかを壊す音が聞こえその度に青年の肩は跳ね上がりビクビクと怯える。

 しだいに炎が生きているかのように蠢き道を作る。脚の枷を壊し出てきたクロトに炎は道を開いていくのだ。

 今のクロトを縛るものは何処にもない。杭も枷も解除され完全に自由の身。

 しばらく辺りを見渡し生き残った青年を見つけると脚を進めた。


「おい。アイツのいる場所を教えろっ」

 

 逃げることすらこなせない青年の額に銃口を向け、続けて命令をする。それでも青年は怯えきってまともに言葉をその口から発せない。更にクロトは彼の胸倉を掴み取り 銃口を頭にへと押しつけた。炎を放った後の銃口はまだ熱くありそれだけで青年にとっては拷問に等しい。

 今にも情けなく泣き出してしまいそうだ。だがそんなことを気にとめるようなクロトではない。 


「聞こえなかったのかぁ? 教えて案内すれば殺さないつもりなんだが、それよりも此処で今死ぬのが望みか? どっちがいいんだよ? あっ?」


 これが最後の忠告なのか。青年はそれ以上はないと悟り慌ただしく早口調で口を開く。


「あわわわっ、教えます! 教えますから殺さないでくださいぃ!!」


   ◆


「おーい。どーこでーすかーーっ」


 ビュオーっと吹き荒れる風が身を煽る。

 群れる木々の中で一番大きな大木のてっぺん。一人の少年はそう大きく声を出した。

 落ちれば即死の可能性が高いようなそんな場所。いったいどうやって上ったかすら気になるほど。少年はなにくわぬ顔で幼さのある瞳を丸くさせた。

 ぐるっと回って辺りを見渡し、少年はなにかを捜しているようにも見える。

 

「うーん。……お?」


 辺りを眺め、少年はパチッと瞬きする。

 森と山脈に挟まれたところから見える、突き出す塔のような建造物が目に入った。このような高場からでないと見つけるのは困難な場所に目が引かれていく。

 少年は片脚立ちで風に揺られながらそこばかりを凝視し無邪気な笑みをつくる。


「おお! ひょっとしてアレかな~? 反応も近いみたいだし、うんっ、そうだよね!」


 そう歓喜するも一際強い風が全身を煽る。落ちそうになった体のバランスを取り、一直線に少年はその場所を指さす。

 

「おっとっと……。それじゃあ、行ってみよーっと」


 そう言い、少年は高い木の上から一気に飛び降りる。

 

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