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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第一部 一章「辺境の呪い星」
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「星の瞳の少女」

 辺境の町で暮らす少女――エリーは星の瞳を宿していた。

 記憶のない少女を探していたのは冷酷な魔銃使い――クロト。

 少年から語られたのはとある国の崩壊事件。

 その国には呪われた姫がいた。


「それでは、行ってきます」


 少女は扉を開くと、くるりと回って家の中にへと言葉を送った。

 少し動けば揺れる金の長髪をしたまだ十ほどの小さな少女。その歳と容姿に見合う可愛らしい笑顔はつい微笑みをこぼしてしまうほど。

 家の中からは続いて優しげな女性が出てくると、そっと少女にぬいぐるみを渡した。

 女の子が好きそうな猫のぬいぐるみ。


「はい。首のほずれていたところも綺麗に直せたから。……ごめんねエリーちゃん。わざわざ届けてもらうことになって。この後お客さんが来ることになってるから」


「大丈夫です。マーサさんはマーサさんの用事がありますし、私は平気です。ちゃんとオハバさんのお孫さんに届けてきます」


 少女――エリーははきはきと返事をする。できるという意思を示しエリーは自信満々に胸をはった。

 最初は不安と眉を八の字にしていたマーサも彼女の自信にホッとし、細やかながら「偉い」とエリーの頭を撫でる。


「でも転ばないように気を付けてね。エリーちゃんは可愛いから、怪我なんてしたら私心配しちゃうわ」


「こ、転びませんっ」


「ふふ。そうね。エリーちゃんはしっかりしてるから、安心よね。じゃあ、お願いね」


「はい」


 渡されたぬいぐるみを大事そうに抱え、エリーは町中にへと駆けていった。




 エリーの暮らす町は平凡な場所だった。

 西の大国こと『工房の国サキアヌ』。サキアヌは年々荒廃が進む荒れた土地が広がっていく国ではあるが、それは自然のバランスが不安定なのが原因の一つである。

 生命の源たる元素――マナと、自然を左右する自然の化身――精霊。

 彼らの通り道である精霊路(せいれいろ)がサキアヌでは乏しくあり、荒野があれば所々に緑が生い茂る。

 人々はわずかなその住める環境で日々の生活を送っている。

 しかし、それは人に限らない。

 マナと同等の元素――魔素(まそ)

 人の住まう世界【人間界】と対に等しい魔の世界【魔界】がこの世には存在する。

 遥かな昔に生まれた魔の者との大戦により振りまかれた魔の元素。それは薄くとも【人間界】に残り多大な影響を及ぼしていた。

 魔の者の生きる力となり生物を変貌させ魔物を産みだすなど……。

 よってサキアヌには荒野だけでなく、人気のない緑にもそれらは住み着き人々の脅威となる。

 忌まわしくもある元素だが、今となっては必要なものと化しているのも事実。

 魔の者の一部が扱う魔法などの源でもあるそれを人々は駆使し、魔科学にへと発展し文明の一部に。

 容易く火を起こし暗闇を照らす灯りと成すことも可能にし、一般の生活にも活用され日常とする。

 エリーのいる町もまたその文明を多少は扱い限られた生き場所の一つにすぎない。

 少々小さく都市から遠く離れた辺境に位置する。

 住人の中にはいつかその均衡が崩れ、この町も終わるのではと、時おりそんな大人の小言が耳に入ってくる。

 それでも、エリーは今を見ることにしていた。

 楽な暮らしではないが構わない。

 平凡だろうと細やかだろうと、今ある幸せな人生を大切に感じとっていく。






「……あ。おねえちゃーん」


 町で唯一の遊び場でもある広間に着くと、颯爽とエリーを見つけたのか、自分よりも小さなおさげの少女が駆け寄ってきた。

 

「ミーミなおった? 昨日いなくてさびしかったの」


「大丈夫ですよ。マーサさんがちゃんと怪我を治してくれました。……どうぞ」


 そっと、少女に猫のぬいぐるみを手渡す。

 心配そうに少女はほずれていた首を念入りに見つめた。


「……わぁ、ちゃんとなおってるっ。おねえちゃん、ありがとう」


「私は届けにきただけなので。後でマーサさんに伝えておきますね」


「うん! とどけてくれてありがとう、()()()()のおねえちゃん」


 再度少女はお礼を言う。今度は届けた自分にへと。

 エリーは「綺麗な瞳」と言われたとたん、しんとした静けさが頭の中で広がった。

 ぬいぐるみを抱え、少女は再び遊び仲間の子供たちの群れにへと戻っていく。

 一人残ってしまったエリーはその楽しげな子供たちを眺め微笑む。だが、どうしてか。その笑みにはどこか寂しさすら感じてしまえるものがあった。

 ふと、エリーは建物のガラス窓にへとより前髪を掻き分けた。金の髪の下には髪色に似合う蒼い瞳がある。

 しかし、その瞳は普通とは違っていた。

 蒼くあり、それに付け加え煌めいている。

 エリーの両目にある瞳にはキラキラとした星が散りばめられていた。

 まるで明るい夜空でも見ているような、そんな変わった瞳である。

 はらりと手から前髪を滑らせるとエリーは残念そうにため息を吐いてしまう。

挿絵(By みてみん)

「……私の目、なんでみんなと違うんだろう?」


 エリーにとって、その瞳はコンプレックスである。

 普通と違うのがどこか周りとは全く違う人間であると錯覚をさせてしまい、自身と周囲の距離感が遠く感じてくる。

 そう感じてしまうことで寂しさがどうしても出てしまうのが、彼女の悩みだ。

 最初は人前に出る度に気にされていた。周囲と違えば孤立してしまいどうしても遠ざけられてしまう。

 今となってはそんなことはなくなり、皆が自分を以前よりは受け入れてくれたと思える。

 だが、他人が気にしなくても、エリー本人はまだ気にしてしまう。

 自分のことなのだから。

 気落ちしてしまったせいか、エリーはつい寄り道をしてしまう。沈んでしまった表情を家に帰ってまで見せたくはなかった。

 

「こんなままで帰ったら、マーサさんが心配しちゃう。……そんなの、ダメ。笑って、笑顔でいないと」


 泣くほどのことではないが、目元に手をあてエリーは涙が出ていないか確認をする。

 頬をあげ、笑顔の練習も。

 

「マーサさん、出掛ける前も不安そうにしてた。これ以上、迷惑かけたくない。笑顔で帰って、安心してもらわないと。……笑顔。笑顔」


 言葉でも言い聞かせ必死に笑顔を作ろうとする。

 人目を避け建物と建物の間にある細道の路地に入り込み、ぶつぶつと呟き続ける。

 そうしてそろそろ落ち着き始めてくると……


「んなぁ~」


「……!? ね、猫さん!」


 と。パッとした笑顔にへと早変わり。

 通りかかってきた野良猫に寄り颯爽と頭を撫でまわす。

 先程まで思い悩んでいたはずが猫一匹との遭遇で一気に晴れていく。

 親指と人差し指を使い、猫の耳を堪能。触り心地のよい獣の耳がダイレクトに伝わってくる。

 思わずエリーの表情はほっこりとさせた。


「はあぁ……。むにむにです」


「なぁ~」


 猫も一切嫌がらず、ただただ触られるがままである。

 お腹回りなど他にも触り心地のよい場所はあるというのに、エリーは猫の耳から手を離そうとしない。ずっとそこばかりを堪能していた。

 長々とそうしているなか。そろそろ猫自身が飽きてきた頃だろうか。

 細道の間を突風が通り抜けエリーの身を仰ぐ。

 唐突なことに目を塞ぎ、手で飛んできた塵から守ろうとしてしまう。

 手が離れるとわかれば猫はその場からバッと去っていってしまった。

 再び目を開いてみれば戯れていたはずの猫は目の前におらず、名残惜しそう表情を沈めてしまう。

 ――帰ろう。

 寄り道をしてしまいただでさえ余計な時間を経過させてしまった。あまり遅くなりすぎるのも心配させるもとのため、帰り道に再度笑顔を取り戻すこととする。

 長くしゃがみこんでいたせいか立ち上がろうとすると足が痛む。ゆっくりと身を起こそうとすると、先程の名残か風がふわりと煽り手助けしてくれた。

 その時だ。



「――おい。そこのガキ」



 悪態の如くある言葉。背後から聞こえたそれにエリーは思わず後ろにへと振り向く。

 後ろにいたのは見慣れない幾つか歳上の少年だ。

 平凡そうな茶色の髪と瞳。腰回りほどの赤のジャケットを纏い、知的よりは活発さを思わせる動きやすそうな身なりである。

 しかし、少年の目はまるでこちらを嫌悪したかのような冷たいものだった。

 対するエリーは初対面な彼を見て目を丸くしてしまう。

 この場にはその少年とエリーしかいない。となれば少年が声をかけたのは自分であるのだと思うのは必然的だ。

 そして、返事をするのもまた必然である。


「……あの、なんでしょうか?」


 先程の言動は気にせず流し、少年に体を向け言葉を返した。

 再度少年の顔を見上げた時、急に彼は顔を近付けてきた。

 まじまじとエリーの顔を拝見し顔をしかめて。まるで怒っているような。

 間近で見られると困惑してしまい、つい顔をそらしてしまう。

 長々と見られることはエリーとしては困るところもあった。気にしている瞳を見られることが嫌なのだから。

 きっと、はっきりと見られた。またなにか言われてしまうのだろうかと不安が込み上げてきてしまう。


「……」


「……あの」


 更に困惑すると、少年はようやくその冷たい眼差しを伏せ、ため息を吐きながら顔を離してくれた。

 そしてやっと彼は言葉を発した。


「予想よりも反応が薄すぎ。……だがこれで一つ()()達成か」


 返事かと思えばそれは独り言のようなものだ。

 一人でぶつぶつと呟き、こちらの言葉は完全に無視である。

 言葉の内容も理解できるものではなく、頭の中は混乱するばかり。

 彼を見ていると不安で仕方がない。


「よ、用がないなら、……私、帰らないと……」


 急に怖くなり、細やかながら苦笑いをしエリーは後退る。

 そんな逃げるような素振りに、少年の鋭い眼光がエリーを捉え、突然右腕を掴み取った。

 華奢な細腕に痛みが走る。振りほどこうにもびくともせず、そうすることで余計に力を入れられた。

 痛みを訴えようと彼を見上げた時、エリーは言葉を失ってしまう。

 目の前には黒い穴があった。

 どこから取り出したのか、少年は空いていた右手に銃を持ち突きつけていたのだ。

 ()()()()、初めて見るそれは危険な物だと察し、見開いた目が瞬きすら忘れてしまう。


「二度も俺から逃げれると思うなよ? ――【()()()()】」

 

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