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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第七部 一章 「紫電の記憶」
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「嫌いな者同士の付き合い方:前編」

 一度。ネアは部屋を出る。

 深く、深呼吸をして話の内容を頭の中で整理した。

 これは、とても口には出せないものだ。


 ――訳あり……。話の序盤ではそう思っていたけど、予想外の問題抱えてる奴と遭遇したってところか。妙だとは思っていた。今まで観てきた人物の中で、該当しないような人間。……それが、あんな子供なんてね。


 見た目はただの子供だった。

 何処にでもいそうな、味気ない少年。

 だが、第一印象にネアが抱いたのは、初めて見る読み切れない人間というものだ。 

 

 ――長い間、自分の目には自信もってこの仕事を続けてきたけど。ここまで見極めにくい人間は初めてね。いったい、どんな生い立ちでいるのやら。


 ネアは、自身の【見極める目】を頼りに、この情報屋を続けてきた。

 相手がどういった人物で、どのような経緯で情報を求めているのか。それらを考慮して情報を与えたりする。

 だが、今回の人物はどうだ?

 まず依頼人としては過去最年少と言っても過言ではない。

 見た目通りの子供なら話はまだ通じただろう。しかし、そうはならなかった。


 ――魔武器っていうのは、そこらで簡単に入手できるものじゃない。使う奴がいても国に貢献している兵士か、組織的なもの。一般人が手にするには闇取引きくらいか。……それはない。


 見た目によらず、クロトは魔武器である魔銃を所持している。

 その魔銃を何処で入手したのか。窃盗か、闇取引きか。だが、その可能性を除外する。


 ――アイツの銃の扱いは、二、三年程度でつくものじゃない。もっと昔から使っているとしか考えられない。そして殺した人間の数もそれなりにいる。……となると、達の悪い他の奴が渡したって方が可能性強いわ。……とりあえず、魔銃なんて代物を持っている事にはこれで納得がいくし、あんな人に危害を加える事に躊躇しないところもにも繋がる。…………誰よあんな教育した奴? 育て方が露骨に殺戮兵器よ、あんなもんっ。


 次にネアはクロトの話を振り返り、彼が求める情報を考える。


 ――アイツが欲しい情報。……それは世間として最悪なものね。問題は、どうしてアイツが()()()を捜しているか。……これには幾つかの可能性があるけど、それによってはこっちも情報を渡せない。まだアイツの事を私は見極めきれてない。なら、少し時間が必要ね。


 うん、と。ネアは静かに頷く。

 そして一時の休憩タイムは終了だ。

 再び問題児のいる部屋にへと戻る。


 ……が。その問題児が姿を消していた。


 扉を開けて、真っ先にネアは部屋の真ん中に固定していたクロトを確認したが、そこには縄のほどけた抜け殻の椅子のみ。

 ほんの数秒。ネアは瞬時に状況の把握。

 扉はネアが塞いでいた。窓も一つしかなく、抜け出したような痕跡はない。不覚にも防音魔道具を起動させたままだった事は落ち度ではある。物音はさっぱり外には聞こえていなかったのだから。

 それよりも、抜け出さない様に固定していたはずが、見事に抜けられている。

 縄に目を向ければ、一部焦げた跡が……。

 ネアは納得した様子で部屋の中に進み、扉が閉まると同時に凶器が露骨となった。

 椅子に縛られていた魔銃使いは扉の陰からずっとネアに銃口を向けていたのだ。

 

「……言っとくけど、何度もそんなの向けられても私は脅しに屈しはしないんだから。扉越しに撃たなかったって事は、そっちも早く解決したいって意図で受け止めてあげる」


「考えがまとまったならとっとと情報を出せ。……ないならお前に用はない」


「あくまで私が知っているだろうという可能性で殺さないのね。それなりに頭は働いてるようで」


「急ぎだって言ってんだろうが」


「ところで、縄をよく抜けれたわね。魔武器は手の届かない位置に置いていたはずだけど?」


「関係ない。情報を出せ」


「出せ出せ言うけど、アンタ金はあるわけ? こっちはそこらの情報屋と違って、お高いわよ?」


「安心しろ。金に不自由はしてない」


 適当に会話をしつつ、ネアはクロトという人物を知ろうとする。

 しかし、やはり異常な生き方でもしているのか、把握が難しい。


 ――金に不自由はないって、何処からの資金源持ってるんだか。生意気なぁ……。そして問題の魔銃。抜け出せたのはその魔武器のおかげかしらね~。魔武器にも種類がある。特別な素材で生成される物が大半だけど、それを作る技術者も多くはない。ついでに、この魔銃は撃つだけじゃなく炎も扱える。……確か、あの時ニーズヘッグって言ってたかしら? 大昔にサキアヌの離れ島にある火山を縄張りにしていた極悪な炎蛇だって把握してるんですけど? そんなもんが宿ってるっていうわけ? 悪魔を材料として宿した魔武器なんて、そんなとち狂った代物を生み出せる奴なんて極少数じゃない。……コイツ。面倒な奴と関わってるわね。


 クロトよりも、クロトと繋がっている魔武器の製造者にネアは嫌悪が向く。

 その存在が今回の依頼と関与しているなら、情報を渡さない方が無難であるだろう。

 だが、判断材料としてはまだ少し不十分だ。


「それでどうなんだ?」


「遠まわしに言わないでくれる? アンタはどうしたいわけ?」


「決まってるだろうが。お前が情報を渡さないなら……」


 その先は、殺意のある目が訴えてくる。

 

 ――やっぱ、殺すか。……うーーん。もう少し時間が欲しいわねぇ。それにコイツ……、使()()()かも。


 引き金に指がかかる。

 同時に、ネアが大きく発言をした。


「わかった! じゃあ、こっちからも提案あるんだけど、いいかしら?」


「……提案?」


 わずかに殺気が薄れる。

 その隙をついて、ネアは押し入る様に話を進めた。


「そうそう。実は私、この村に厄介事を押し付けられててねぇ。ちょっとその手伝いをアンタにしてもらいたいの」


「――断る」


 即、クロトはその提案を断った。

 だが逃がす暇は与えない。


「まあまあ。何も悪い様にはしないわよ。手伝ってくれたら、アンタの事もちゃんと考慮してあげるって言ってんの。悪い話じゃないでしょ? アンタだって急ぎみたいだし」


「わかってんならそんなくだらない事させないで情報をよこせ」


「いーやっ♪」


 直後。銃弾が放たれる。

 しかし、ネアも予想通りと魔銃をパンッと叩き狙いを逸らした。

 ネアは撃たれたにも関わらず、笑みを浮かべて更に続けた。

 

「そう焦んないでよ。か弱い女性を助けると思って。……ね?」


「どの口が言う。あと、俺は女が嫌いだ」


 ピクリ。と、ネアの目元が痙攣した。

 

 ――言ったわねこのガキ! 女嫌いとかマジ底辺! 恥を知れ! なるほど、アンタ思っていた以上に最低野郎か、心底見捨てたくもなるじゃないの、上等だわ! 見極め尽くして暴いた後即こんな関係蹴ってやる! ものにもよるけど!


 と。吐き出したい嫌悪の暴言を笑みの裏側に隠しつつ堪える。

 

 ――情報を求める上で、話を聞いたからには対応によって最悪二つの選択を求められる。一つは、文句を言って悪評を付ける。そしてもう一つは、――口封じだ。私はとんでもない話を聞かされている。それは早々外部に漏らしてはいけないものだ。そこまでするなら、コイツだって頼る相手は最小限に止めておきたいはず。コイツは普段から人を頼る事もしたくないみたいだしね。……いいわよ、アンタとのやり取りの仕方(マニュアル)が見えてきたわっ。


「はっ! 私だってアンタみたいな野郎は嫌いよ」


 断言できるほどだ。

 そもそも、ネアと言う情報屋は女性が好きな百合思考の持ち主であり、男性には嫌悪感を抱いている。

 強く嫌悪を表に出すと、心なしかクロトが安堵とした様にも見える。

 まるで、嫌われる事を良しとしている様にだ。

 心の中でネアは「よしっ」と意気込む。


「でも、アンタだって余計な手間は取りたくないんでしょ? 私は仕事はキッチリする派よ? この件、他の情報屋がまともに情報をくれるとは思えないわね。適当なことで遠回りするよりも、私の方がずーっと安心だと思うけど。それに……アンタ、できれば他人を頼りたくないタイプでしょ」


「……っ」


「べつに期待は求めてないけど、アンタがもっと遠回りをしたいって言うなら、そこはアンタの自由よ? どうする?」


「…………~っ」


 しかめっ面で悩んだ後、クロトは魔銃を下ろした。


「本当に有力な情報を持ってるんだろうな?」


「まあ、聞かれたものについては、私も心当たりはちゃんとあるわ。……最初に忠告しておくけど、情報屋が提供するのはあくまで情報。アンタの求めるものと確実な繋がりがあるわけじゃない。そこは理解してちょうだい?」


「……あくまで情報……か。いいぞ。はずれていれば、その時は」


「逆恨みで殺しに来てもいいわよ? ……殺されるつもりはさらさらないけどね」


 自信のある強気な表情でネアは応答。

 その顔はクロトにとって見下しにも思え不快なものだ。

 特に、その目が気に入らなくもある。

 これまでの会話で、まるで自分の情報を抜き取られたかのような、そんな余裕がネアから感じられた。 

 

「……お前、どれだけ俺の事を()()つもりだ?」


「そうねぇ。……だいたいアンタの事は三割くらいはわかってきたかも」


 勘がいい。ネアはそう思った事だろう。

 まだ多くを隠しているだろうが、ネアの目にクロトは警戒心を抱いていた。

 ネアはずっとクロトを会ったその時から観察し、素性を見透かそうとしてきた。

 そこがネアが異常者と思える部分でもある。

 そして、ネアはクロトとどう接すべきか、その道を既に見つけていた。


 ――アンタは他人が嫌いな人間なのよね。自分が唯一。それ以外は役に立つか立たないかで、生かすも殺すも決める。じゃあ、私もアンタを嫌って対応してあげる。余計な好意はアンタは好まない。お互い平行線で行きましょ。()()()()()()、……ね。

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