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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第七部 一章 「紫電の記憶」
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「異常者」

 啖呵を切った魔銃使いは銃口をネアに向けた。

 その間際の刹那。ネアはクロトにのみ意識を集中させ、その眼で相手を見透かし、思考を巡らせた。

 

 ――ああ~、やっぱこうなるか……。何処のどいつよ? 恨まれる覚えは……まあ、多々ある。でも覚えのある部類に属してないのよねぇ、コイツ。


 ネアの考える部類。それはこれまで関わってきた悪名のある輩の事だ。

 本業は情報屋だが、そのたぐいまれない力量を買われ、悪党や魔物退治なども生業としている。そのため、悪党には恨みを持たれていてもおかしくはない。

 ……が。ネアはそれらからクロトを除外する。

 

 ――初めて見る相手だし、コイツは最初私を有力な情報屋かどうかを確認してきた。容姿も知らなかったみたいだし、私じゃなくてもそれなりの情報屋で良さそうな様子に見える。つまり、私が今回コイツと遭遇したのはただの偶然。


 だが、なら尚更腑に落ちないものがある。


 ――ちょっと待って……。その割には異常なまでの敵意じゃない? 初対面でしょ? 私も野郎だからって態度悪かったかもだけど、そんな此処で会ったが百年目みたいな勢いよあれ。よほどの短気。それと……。


 クロトを徐々に知り始めるネア。

 そして、ついに銃口が火を噴く。

 一直線に飛ぶ銃弾。単発の連射で合計二発が放たれた。

 狙いは、――脚だ。

 

 ――いい勘してるわコイツ。私の速度を奪う気ね。……だけどっ。


 身構えていたネアは瞬時に斜めに銃弾を避ける。

 続けて稲妻を描くように高速で前進。銃と素手。その絶対的な有効範囲を一気に詰める。


「……!?」


「アンタのそれ、実弾じゃないって事は魔武器でしょ? そういう武器って、ほとんどが所有者の体力を削ってるものなのよね。無駄に撃とうとせず、最少の弾数で確実に終わらせようとする。脚を狙ったのは良い判断よ? ……でもね、――アンタ、人を撃つことに躊躇なさすぎッ!!」


 クロトの異常なまでの攻撃性。

 最も際立っていたのは、その相手に銃を向ける事の躊躇いのなさだ。

 その行動は、常に生者に銃を向けている事になる。

 見た目が子供であるにも関わらず、それをネアは異常者と捉える。

 叱る様に、ネアは鋭い蹴りで反撃。クロトも瞬時に反応し、その蹴りは二度と喰らうかと、小柄な身を逸らし回避。最中にでも照準をネアにへと向け直した。

 

 ――うわ、こんな間近でも容赦ないこと。でも狙いは脚じゃないわね。……とりあえず動きを封じたいって感じかしら? だったらまずは。


 次の狙いは、腕だ。

 腕を撃ち抜かれれば怯み動きは確かに落ちる。

 そして、引き金を引くのに時間をかけなかった。

 銃弾が放たれる寸前。ネアはクロトの魔銃を真横から殴打。銃弾は空振りし虚空を走る。

 

 ――さてぇ? この距離でも私はアンタの攻撃を防げれる。無駄弾使いたくなかったら、諦めるのが賢明なんだけど……。


 それが一番楽な未来だっただろう。

 だが、クロトはそうはいかない。

 すぐにネアの腕を払いのけ、再び銃口を向ける。

 

 ――やっぱ、そうはいかないわよね!


 ネアの目にはわかっていた。 

 この魔銃使いは、すぐに諦めるような考えを持っていない。己の思い通りにならなければ苛立つ、残虐を兼ね備えた子供の思考だ。

 引き金を引くと同時にネアは魔銃を殴打し攻撃を逸らす。

 一度や二度で終わるものではなかった。クロトは当てるまで諦めるつもりがない。

 何度も何度も、銃口はネアを捉え、その度にネアも対応。

 どちらもゼロ距離で譲らない抗戦を続けた。


「ホントに子供ね! 往生際が悪い!!」


 それなりに無駄弾を撃たせた気でいたのだが、予想よりもクロトのペースが落ちない。どれだけその魔銃にクロトが慣れているのかがよくわかる。

 だが、何処かで区切りを付けねばならない。

 ネアは次に魔銃を掴み取り、流れる勢いでクロトを背負い投げて地にへと叩きつけた。


「ぐっ!!」


 仰向けに苦悶の表情を浮かべるクロト。

 ようやく魔銃使いはネアを睨みつけながら動きを止めた。

 

「……はぁ。少しは懲りたかしら?」


 これで区切りをつけ一息入れようとした。

 しかし、これで終わる魔銃使いではない。


「くっそぉ!!」


 悔し紛れに吠える。

 その時、ネアが持つ魔銃が、突然熱を帯び始めたと同時だった。

 

「――ニーズヘッグ!!!」


 クロトが名を呼んで叫ぶ。

 魔銃は炎を纏い、二人の周囲を燃やし始めた。

 ネアの視界には熱気と、その奥で嫌悪を爆発させたクロトの眼光が映る。

 強情で聞き分けのない、乱暴な子供だ。


「あっつ!? ……いい加減にぃ……ッ!」


 炎を浴びながらネアは拳を握りしめる。

 炎上する中、一瞬の稲光がネアの拳に宿り、容赦なくその拳は怒号と主にクロトの体にへと落とされた。


「――しなさい、っつってんでしょうがぁあああぁあああ!!!!」


 身動きの取れないクロトの胴体に、拳は直撃し、全身を凄まじい雷撃が襲う。

 天からの雷に打たれた如く。クロトの身は衝撃により心臓と同時に強く跳ねる。意識が飛ぶと同時に炎は風と共に散る。

 まるで炎の中に飛び込んだ後、急に水をかけられた気分になる。

 ネアの前身は今でも熱く、焼けた肌をジリジリと煽ぐ風が異常に冷たくあるようにすら感じた。それでも、その程度で済んだことには安堵し胸を撫で下ろす。

 息を荒げたネアは、ふとクロトの顔を覗き込んだ。

 拳はクロトの体の中心にへと見事に当てている。大人気なく、容赦なく、それは正に心臓の真上。

 急にネアの血の気が引いていき、顔は蒼白とさせた。

 クロトはピクリとも動かないのだ。指先どころか、痙攣すら微動だにしない。

 よくよく見れば、呼吸も止まっている様。


「……う、嘘っ。やりすぎた……っ」


 ネアも命を奪うつもりはなかった。だが、咄嗟の事に力の制御ができず、最悪の事態へ。

 おどおどと戸惑い、どうすべきかと頭を回転させていれば、続けて事態は一変する。


「……――がっ、はぁっ!!」


 突如息を吹き返したクロトが胸倉を握りしめ、苦しそうに悶えだした。

 驚いたネアは大きく目を見開き、思わず叫び声をあげてしまう。

 

「キャーッ!? ア、アンタいったい何なのよ!? 死んだかと思ったじゃないのよ、驚かさないでよ馬鹿ぁ!!」


「げはっ! やった奴が……、言うなっ」


 減らず口も変わらない。

 まともに返答すらできるとは思ってもおらず、気味の悪さにネアは後退ってしまう。

 だが、此処まで異常な者を目にし、ネアは気を落ち着かせて考え込む。


 ――なんなのコイツ……。今のは確実に死んでてもおかしくないはず。……生きてた事には感謝だけど、どうもほっとけないなんかがあるのよねぇ。私の()()感じでは。なんか情報も欲しいみたいだし、ちょっと調べてみますか。


「……? ぐぅっ、クソ! テメェ!! 俺になししやがった!?」


「な、なによ急に!?」


「とぼけんじゃ、ねぇ! 体が、いうこときかねぇ……っ。体がろくに動かねーんだよ!!」


 苛立ちながら乱暴に言葉を発する。そして体は動かないときた。


「……あ、ああ。べつにそれに関しては命に別状ないわよ。少ししびれてもらってるだけ。そのうち治るわよ。……とりあえず」


 動けないクロト。その首根っこをネアは掴み、引っ張りだす。


「アンタの望み通り、話には付き合ってあげる。お姉さん優しいから、ありがたく思いなさい」


「ハァ!? つーか放せ!!」


 引きずられる事に嫌悪感を感じ、クロトは動く口のみでしか反抗できない。

 

「あ! それとこれも預かっておくわよ」


 落ちていた魔銃をネアはすかさず回収。

 もちろんこれにクロトは異論を唱えた。

 が。それは虚しく聞き流されるだけでしかなく、ネアと共に酒場にへと戻された。







「さてっとぉ。で? この頼れるお姉さんランキング一位の私に、いったいなんの御用かしら?」


 ネアは当初とは違い、気前よくクロトと面を合わせて話を進める。

 案内されたのは酒場の二回にある空き部屋だ。宿ほどではないが、人が寛げるスペースはある。今はネアが滞在するために使用している借り部屋でもあった。

 

「あ。ちなみにお姉さんの名前は――ネア。本業は情報屋なんだけど、今は訳あってこの村に滞在中ってわけ。それで、ク……。カ……。……~っ」


 ネアは呼称に戸惑ってでもいる様子。先ほどは「クズ」と「カス」とでも言おうとしたのだろうか。顔を逸らし、それ以上はダメだと口を塞いだ。

 それからはしばらく言い直しを考える事に時間が流れてしまう。


「~~っ。ああ、もう! アンタ名前は!? こうしてちゃんと話すんだから、せめて名前があった方が都合がいいでしょ? こっちも名乗ったんだから、男ならちゃんと応えなさい」


「……そうだな。とりあえず、この状況から解放したら教えてやる」


 眉を痙攣させ、クロトは不快を露にする。

 それもそのはずだ。なんせ今のクロトは備え付けの椅子に縄で縛りつけられているのだから。

 これもネアのした事だ。余計に暴れられないための配慮なのだが、クロトにとっては不快以外のなにものでもない。

 未だにネアを敵視した目で睨みつけてくる。油断できないのも当然だ。


「ダメ」


「それと、俺の魔銃を返せ」


「それもダメ」


「情報屋っつったよな? 俺はお前からしたら客も同然なはずだが、こんな扱いするのか?」


「お客様は神様ってよく言えるわね? 私だって情報を渡す相手くらい選んで対応するの。今のアンタは情報を渡すかどうか検討中なわけ。アンタみたいな危ない奴なら尚更だわ。アンタの行動しだいでこっちも決めさせてもらうってこと」


「……ちっ。――クロトだ」


 ようやくまともに話を進められそうだ。

 ネアはもう一つの椅子をクロトの前に配置し、向き合って座り込む。

 尋問している様にも見えるが、一番にネアが知りたいのはクロトがどんな情報を欲しているかによる。

 内容しだいではネアも話受けない。今はその選別中でもある。

 納得はするも、クロトは顔を逸らしだんまりだ。

 一瞬、ネアの奥を見たようにも見えた。


「……ああ、なるほど」


 ネアは後ろを振り返る。

 扉の隙間からはこちらを覗いている店主がいた。


「あのねぇ。情報屋と依頼主の話を聞かれると、こっちの営業にも支障がでるの。悪いけど、表に戻ってくれるかしら?」


 店主は隙間から怯えた様子でいる。しかし、何か言いたげなのは見ればわかった。


「この馬鹿が何発か撃った分は、後で私の報酬から引けばいいわ。私も大人気なかったし」


「誰が馬鹿だ、誰がっ」


「人前で発砲する奴を馬鹿以外なんて言えばいいのよ? ……それと、その気になれば今受けている依頼をこっちはキャンセルしてもいいのよ? 正直報酬もさほどだし、それくらいの権利は私にもあるんだから。それで困るのはそっちだって事、忘れないでよね?」


 釘を刺す言葉に、店主はビクリと肩を跳ね上がらせ、渋々扉を閉めた。

 耳を澄まし、一階にへと戻る事を確認してから、ネアは再びクロトに向き直りある物を取り出す。

 それは、一握りほどの小さな淡い光を宿す球体の魔道具だ。

 隣の机にそれを置き、そっと起動させる。

 すると、部屋を不思議な感覚が覆った。


「安心して。他人に聞かれるの嫌な事もあるだろうし、念には念をってね。これでこの部屋の音は外部に漏れない。結構便利な道具なのよ?」


「……」


「アンタの様子からそう判断しただけよ。他者の目を気にする奴は、大抵言いづらいものだって経験してるから。そんなに人に聞かれたくない話なのかしら?」


 余裕のある笑みには感謝の言葉を求める様にも見える。

 だが、クロトにとってそれは苛立たしいものでしかなく、感謝どころか暴言ならすぐに出せれるという。

 ぷいっとそっぽを向く。ただ反抗的な意思だけではない。クロトは無意識にネアの目気に喰わなくあった。自分を見透かすような目が。

 配慮を信じたわけではないが、クロトも急ぎな事態である事を思いだし、渋々口を開くこととした。


「ちなみに、私は彼氏募集してないから。するくらいなら死んでやる」


「誰でもお前なんかお断りだろうぜ」


 思わずツッコミを入れてしまった。

 ネアのこの言葉も、気を紛らわせるための発言なのだろうが、不思議とつっかえていたものが取れた気分だ。


「……お前、クレイディアントが襲撃されたのは知ってるよな?」


 急な素直に話を進めた。

 ネアは目を丸くさせる。彼女からすれば、予想外の発言だったのか呆気に取られた様にも見える。


「……知ってるけど、あれよね? ()()()くらい前の」



「――二週間ッ!?」


 

 思わずクロトは復唱。

 一瞬耳を疑った。だが、どう考えても聞き間違いはしていない。

 ハッキリとネアは、例の崩壊事件を二週間前の出来事であると言った。


「そ、そうよ、そのくらい。おかげで周りの国のお偉いさんはクレイディアントの住人と領土のことで大騒ぎよ。昨日くらいにはほとんどの領土が南の国のになったらしいし。あそこはクレイディアントと仲がよかったものね。襲撃に加わった東の国なんか大半の兵を失い有力な人材が激減したとか。仕方ないわよあんなもん。なんせ同時刻に魔王の一角まで軍を引き連れてきたんですもの。……その原因がたった一人の、しかも王族の子だなんて。いつかはああなるとは思ってたけど……。王族と王都が消滅した以上国はまとまらないし、周辺の残された住人と領土の問題。クレイディアントは国として滅んだと言ってもいいわね」


 中央に位置するクレイディアント。その四方には四つの大国が存在している。

 北のアイルカーヌ。東のレガル。南のヴァイスレット。そしてここ、西のサキアヌ。

 治める者のいなくなった国は滅亡し、住人と領土は四方によって早急に分けられたらしい。

 当時。すなわち崩壊寸前までクロトはその場にいた。

 転送魔導装置で移動していなければ確実にその崩壊に巻き込まれていたことになる。どういう経緯で魔族と他国の軍団が一緒になって抹消されたのかは不明だが。

 そして、転送された先がこのサキアヌ。しかも数週間の間が開いてしまっている。場所だけでなく時間すらもずれて飛ばされたということだ。

 予想外に言葉を失ってしまう。


「あっ。今のは世間話みたいなもんだから情報料はとらないわよ? 今四国は急な展開に大慌てだけど、一つ安心したことがあったんじゃないのかしらね」


 その言葉に、クロトはピクリと反応する。


「クレイディアントには他国が恐れていた、その原因の子がいたんですもの。王都跡地は当時の形を一切残さず完璧な消滅。なにをどうしたらあんな風に綺麗さっぱり消えちゃうんだか……。おかげで生存者は確認不可能。全滅、と考える方が妥当でしょうね。敵味方問わず」


 話からしてクレイディアント王都の状況は何となく把握でき、現世界の状況が見えてきた。

 だが、これまでの話はクロトの欲している情報ではない。

 本題は此処からだ。


「……もし。もしも、原因の奴が、今でも生きているとしたら……どうする?」


 ふと、クロトは尋ねる様に呟く。

 ネアは首を傾げた。


「どう……って。世間は黙ってないでしょうね。私はなんとも言えないけど。……だって、その子って」



 ――原因となったのは、たった一人の少女じゃないの。



 負い目を感じるネアに、クロトは続ける。


「俺は当時の現場にいた。崩壊寸前のあの国に」


「……ちょっと、なんの話しなわけ?」


「俺は城にあった脱出用の転送魔導装置でここに飛ばされてきた。日をずらしてな。そして、俺以外にもそれを利用した奴がいる」


 クロトの目は嘘を言っているようには見えない。

 そもそも、この魔銃使いは嘘をこの状況で言えるようには見えない。

 話が進むにつれ、ネアは気を引き締めてゴクリを生唾を呑み込む。


「――単刀直入に聞く。クレイディアント崩壊直後から今にいたるまでこの国でなにか変わったことはなかったか? 具体的には、一時間前程と酷似した様な。流星を見たとか」


 

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