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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第七部 一章 「紫電の記憶」
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「初対面」

 結果。クロトは一発も撃つことなく、脅して出せる限りの情報を一般人から吐かせることに成功した。

 クロトに今最も必要なのは情報である。

 周辺の異変から些細な手がかりですら猫の手が借りたいほど。

 他者を頼るという事はこの際甘んじて受け入れるしかない。そうまでしてでも、クロトには有力な情報が必要不可欠だ。

 自分の命がかかっているため、表面には焦りが滲み出ていた。


「くっそ……。あの時ガキを掴めていればこんな事には……っ。何処までも鬱陶しいな、あのクソガキっ。見つけたらタダじゃ済まさねぇ。…………あ~っ、アイツが見つける前に死んだらどうすんだよっ。生きってても許さねぇが、死んでたらもっと許さねぇっ。……早く見つけねぇとな」


 今もかろうじて動く心臓を確認するように胸元に手を当てる。

 突然の死など断固として認められない。

 まず得た情報からクロトは村の中でそこそこ建造物で立ち止まり、睨みつけた。

 看板には酒屋と表記されている。つまりは、酒を提供している場であり、未成年が入るには躊躇いのいるもの。


「……此処か」


 確認を終えると、クロトは迷うことなくまっすぐ扉にへと足を進め、軽い扉にも関わらず蹴り開けて押し入った。

 突然な乱暴に開かれた扉。酒場の中で誰もが扉にへと目を向けた。

 あまりの乱暴っぷりから身に覚えのない取り立て屋か、盗賊か。そういったものが連想された事だろう。

 だが、目に入ったのは何処からどう見ても未成年の少年でしかない。

 見覚えのない少年に誰しもが目を離せずにいれば、鬱陶しい視線にクロトは鋭い目を向けた。

 途端に、誰もが関わってはいけないと思ったのか、目を逸らして見なかった事にした。

 しかし、カウンターにいた店主はそれができない。

 なんせその物騒な少年が真っ先に向かったのは店主の前のカウンター席なのだからだ。

 クロトも人を避けてか、真正面ではなく、一席分離れた位置。

 少し安心し、心を落ち着かせてから白ヒゲを生やした店主の老人は、恐る恐る、苦笑を浮かべて声をかけた。


「い、いらっしゃい……。なにかようかね?」


 どう見ても子供。という余計な失言は口に出さないようにと心掛ける。

 クロトは仏頂面で睨むような目を向ける。


「此処に数日前からいる情報屋に用がある。なんでも、かなり有名な奴だとか?」


「あ、ああ……。あの……」


 どこか疲れた顔で、店主は遠い目をする。

 心当たりがある辺り、此処で間違いはない様だ。間違いなら先ほどの一般人を即射殺しに行く気ですらいた。

 内心、「命拾いしたなあの野郎」とすら呟く。

 しかし、店主の返事は妙に曖昧……。というよりは、その情報屋の事をあまり良く思っていない様にも見えた。

 有力な情報屋でも欠点はあるらしい。もしかしたらこちらもそれ相応の対応はしなければなるまい。

 人を脅す事には慣れている。たいていは銃を向ければ薄情するのだが、中には反発する様に抗う者もいる。前者なら楽だが、後者なら……。

 まずは、当の本人を呼び出す必要がある。考えはそれからだ。

 困った様子で目を扉に泳がせる店主。この様子はまるで……


「……まさかとは思うが、いない……なんて事はないだろうな?」


「そ、そういうわけでは……」


「おいおい(じじい)。長生きしてるなら賢明な判断くらいできるだろうが? 余計な時間は取りたくねーんだよ」


 曖昧な返答に苛立ちが増す。クロトの魔銃ならこの村を焼き尽くす事も容易だ。その事も視野に入れつつ、クロトは魔銃にへとゆっくり利き手を伸ばす。

 

 しかし、触れる寸前。またしても扉が蹴破られ、先ほど同様、クロトも加えて扉にへと目を向ける。

 

 

「――アアッ!! もう!! 何よアレ!? ふざけんじゃないわよ!」



 クロト以上の苛立ちを放ちつつ、ズカズカと酒場に入ってきたのは黒髪の女性だ。

 歳は成人して間もないほど。いてもおかしくはないだろうが、妙に不似合いな様にも見て取れた。

 かといって物資の配達とも思えない。

 女性はクロトと同様カウンターへ。隣ではなく数席離れた位置に腰かけ、クロトとは店主を挟むようなものだ。

 席に着けば女性は鬱憤をぶつける様にテーブルを叩く。


「あーもうッ! なんか飲み物! さっぱりしたの頂戴!!」


 早くと急かされ、店主は急いでグラスにレモン水を注ぐ。

 秒で準備し届ければ、女性は何も言わずに受け取ると、不満あり気にため息を吐いてから一気に飲み干す。

 

「今日は少し遅かったですね、お嬢さん。……それから、例の件はどうですか?」


 何かしらの状況確認をとる店主。

 それに対し、最初に帰ってきたのは「は?」という、不満だ。

 直後、店主は失言をした事に気付く。しかし、謝罪の間もなく追い打ちが来る。


「どう……ですって? こんな乙女に何させてくれてんのよ!! 遅かったって何? なんなわけ!? ちょっとゆっくり帰ってくるのもダメなわけ!? へーそうっ。そういう事言っちゃうのね! アンタたちは雇い者面するわけなんだ、ふーーんっ。ええ、良かったわね私が協力してくれてありがたいわよね?」


「お、落ち着いて――」


「ありがたいわよね!? 雇い者面すんじゃないわよ! 偉そうにしていいのそれなりの報酬を約束してからにしなさいよ! これだから男は嫌なのよ!! もっと崇める様にありがたく思いなさいよ!! 感謝されても文句言われる筋合いないのよ!!」


「そんな……つもりは」


「うっさい! ――ちょっと黙ってて!!」


 罵倒を浴びせられ、最後には黙れと店主は身を縮こめる。

 周囲の客は店主に「可哀想に……」と思いながら、関わらない素振りだ。

 店主はそそっとネアから距離を取る。それは無意識にクロトの方にへと寄る行動だった。

 

「……うっせぇ。おいっ、こっちは急ぎだって言ってんだよっ。とっととさっきの奴を連れてこい!」


 ようやくネアから解放されたかと思えば、今度はクロトである。

 逃げ道のない店主は怯えて一歩後退る。

 そして、ゴクリと息を飲んでから耳打ちをした。


「……あちらです」


「……は?」


 店主の言葉が少し小さかった。もしくは聞き間違いでは? と、クロトは復唱を要求してしまう。

 しかし、返ってくるのは同じ答えである。


「あちらのお嬢さんがお探しの情報屋……――ネアです」


 丸くなったクロトの目がぺちっと瞬きをする。

 この先ほどから怒鳴り声を上げている女が有力な情報屋であると、店主は答えた。

 確認のつもりでクロトはその情報屋を見る。

 その時、ネアという情報屋の透き通った紫の瞳と目が合う。

 動きやすい外見。それは彼女の肢体をどのようなものかと強調させるようなものである。

 小声で、客の数名がネアの事を呟く。


「見た目は可愛いんだがなぁ……」

「むしろ美人だよなぁ」

「若ければ手を出したくあったが……」

「やめとけって。命が大事だろ?」


 確かに。このネアは女性の中ではスタイルも良く美人の類だろう。

 男なら一目で見惚れてしまうようなものだが、内面に問題があるのか知っている者にとってはその気が削がれるというもの。

 当然。クロトも女性向けるような異性の気は全くなく、むしろ女性は嫌いな部類に属している。

 そのため彼女に対する印象などただの口うるさい女というだけで終わってしまう。

 そして、そんな事はクロトにとってはどうでもよい。

 

「……お前が有力な情報屋か?」


 まずは本人に確認として声をかける。

 しかし、ネアは返答をしない。ただ、だんまりの横顔でじっとクロトを見るのみ。

 その瞳は徐々に何かを探っている様にも感じた。

 不快なため、相手の返答など待つことができない。


「おい。聞いてんのかよっ?」


「……」


 続けてのだんまり。

 聞こえてはいるはずだ。

 要は知っていて尚返答をせずにいるという事になる。


「次なにも言わなかったら殺すぞ、テメェっ」


 これが最後だ。

 相当舐められた態度に腹も立つ。

 クロトとしては頼る身でもあるため下げる頭はないがそれなりの温情(?)はかけたつもりでいる。

 これ以上だんまりを決められれば有力でも論外と認識して過言ではない。

 そのための忠告という、殺害予告だった。

 常人なら「話が急だな」、と。困惑する場面。

 だがネアはすっと瞼を閉じると……


「――ねぇ、店主。さっきの話なんだけどねぇ」


 まさかの。――まさかの無視。

 ネアは声をかけられて質問をされたというのに、気付いておきながらクロトは眼中になし。しまいには先ほど罵倒していた店主にへと話をふったのだ。

 これにはクロトも刹那、唖然としてしまう。

 怒気が瞬時に自我を呼び戻す。

 準備万端と触れそうだった手が魔銃をとり、宣言通り躊躇なくネアの頭を狙い、発砲した。

 銃声は外まで響き、多くの者が本当に撃ったとその身を氷漬けにさせられた。

 周囲が認める、クロトが確実に撃ったという現実。

 ……が。


「……ッ!?」


 撃ったはずのクロトは目を見開く。

 狙った先。ネアの頭は撃ち抜かれておらず、彼女の奥にあった壁にへと直撃していた。

 ネアは身を後ろに傾けて回避済み。傾いた椅子と身を戻し、


「付近の魔物なんだけど……、凶暴化の原因はこの前運搬されてたマナ結晶みたいなのよね。サキアヌはマナと魔素が他よりも薄い土地だから、凝縮された塊に反応したって感じ。かなり興奮しすぎてて、一筋縄じゃ治まらないわぁ。よくもこんな仕事私に任せたわね」


 まるで何事もなかったように店主との話を続け出す。

 まったくこちらの話など聞く耳を持っていないという事はよく理解できた。

 とうとうクロトは席を立ち、数席空いていた距離を縮め、ネアの隣で再度銃を向ける。


「耳でも腐ってるのか? こっちは急ぎなんだっ。要件にとっとと答えろ!」


 怒鳴る声に、ネアは微かに視線をクロトに寄せる。銃口も見えているだろうが、それを知って尚、ネアはまた店主に向き直り聞こえない素振り。


「お前……、死にたいのか……?」


 殺意のこもった冷たい眼差しで睨みつける。

 銃口とネアの頭部の距離はさほどない。この距離で外すつもりもない。引き金を引けば、当たる事間違いなしだ。

 それでも、ネアは黙り続けた。

 

「~ッッ!」


 我慢の限界だった。

 舌打ちし、クロトは一気に魔銃のトリガーを引く。

 本日二度目の銃声。今度は二人を除き、店主と客はその身を縮こませて伏せる。

 あの距離。これは派手に命中し、血しぶきを飛ばして最悪の光景にへとなっている事だろうと、汗水垂らしながら視界を暗転させた。

 しかし、現実はそうではない。

 クロトの銃口はネアにではなく、天井にへと向けられていた。

 撃った本人ですらまたしても目を丸くする。

 直に不快感のある目が正面を睨みつける。

 撃ち抜かれた天井。利き手に残る痛み。そして、目の前で高く上げられた脚。天を向いていた脚はゆっくりと下ろされ、座ったままのネアは脚を組み直す。

 

 ――この女……っ。撃つ寸前に蹴り当てて狙いを逸らしやがった……!


 引き金が引ききられる間際。銃弾が放たれるよりも速く。ネアはクロトの魔銃を蹴り上げたのだ。

 無視を続けていたネアは、ようやくクロトに顔を向け、そして睨み返す。

 その目は反感として受け止め、更にクロトの怒りを買う。


「テメェッ! 何しやが――」


 三度目だ。銃をネアにへと向け直す。

 だが、瞬時にネアが視界から消えた。

 一瞬にして消えた姿をクロトは視界を彷徨わせ探す。だが、見つけた時、クロトの視界が急な動作をとった。

 同時に、胴体を横から強い衝撃が襲い、クロトの身が扉を通り、店の外にへと飛ばされる。

 寸前に見えたのは、自分を蹴り飛ばした直後のネアの姿だ。

 地べたに身を打ちつけられるも、すかさず体制を立て直すが、不覚にも地に膝を付ける。

 痛む胴体をおさえ、苦悶を堪える顔を上げた。

 酒場からはネアが腕を鳴らしながら出て対する。


「なに? なにですって? なにじゃないわよ、このクズ! いきなり礼儀のない言葉を並べるわ銃向けるわ……。もし相手が可愛らしいお嬢さんだったら、アンタ今頃死んでるわよ? よかったわねこのお姉さんで。しばく程度で済ませてあげるんだから、感謝なさい」


 蹴り飛ばしたあげく、教育のつもりか説教をする。

 それがどれだけクロトにとって不愉快な事か……。


「そっちがすまし顔で黙ってるからだろうが!! 無視してんじゃねーぞ、クソ女!!」


「ク、ソ……っ!? 呆れた……。なんて事言うのこの野郎は」


 冷めた目でクロトに呆れてしまう。

 その目は人と言うより、まるで捨て置きされたごみを見るような目だった。


「子供だからって優しすぎたかしら? なにこのどうしようもない野郎は。いったいどんな教育受けてこんな腐れ外道にへとなるのかしらね。親の顔が見て見たいわっ」


 これは簡単に引き下がる様子もない。そう確信したのか、ネアはすっと身を構えた。

 武器などない。体術に心得があるのか、その身一つで挑むつもりだ。


「私、これでもお姉さんだから。ちょっとキツめのお仕置きしてあげる。……それに、アンタは()()時からただの人間じゃなさそうだしね。謝るなら少しは軽くしてあげるわよ? 弱い者いじめは趣味じゃないし、そんな悪趣味じゃないの、私」


 温情までもかけられる。

 これには心底屈辱的な気分にすらなる。

 クロトにとって、女性相手がここまで上から物を言うなど、知人の一人くらいで十分な気でいっぱいだ。

 脳裏によぎるその女とネアが重なる。

 謝る選択肢などさらさらない。

 相手がその気なら……


「ざっけんなよテメェ! ――死なす!!」


 おそらく、これは最悪の第一印象であり、最悪の初対面だっただろう。

 互いに嫌悪鹿なく、どちらも臨戦態勢で応じ、対立した。

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