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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第六部 六章 「最終局面」
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「願いの先」

 ――…………


「……っ?」


 銃声が聞こえなくなって、エリーは不思議と、恐る恐る目を開く。

 確かな銃声。だが、その弾は何処へ行ったのか。

 突きつけられていたはずの銃口は、あの一瞬でエリーから離れ、天井を撃ち抜いていた。

 確実に当たるはずの銃弾を、クロトが逸らした事となる。

 しかし、そうしたはずのクロトですらこの現状には驚いた様子でいた。

 

「……は? ……なん、でっ」


 クロトとしてはエリーを本気で撃ち抜くつもりでいたのだろう。

 だが、その狙いは別にへと向けられた。

 まるで、無意識に逸らしたかのように。


「くぅっ!」


 そんなはずがない。そうと言わんばかりに、クロトは再び銃口を向けようとしてきた。

 次はない。そう察したエリーは魔銃を掴んで銃口を逸らそうとする。


「やめてくださいクロトさんっ。話を聞いてくださいっ」


「うるせぇ!! 俺の邪魔ばっかしやがって!」


「~っ、だめ……、です!」


 力任せにエリーは魔銃をクロトから取り上げた。

 魔銃は手から抜け、宙を舞うと床に落下した。

 二人の目は落ちた魔銃を追い、次に考えたのは、どちらが先にその銃を手にするか。

 一瞬の呆然。その間は酷く長くもあった。


 争っていた二人よりも早く、その魔銃を手にした者が、そこにはいた。


 第三者。意外なその存在に視界が向くと、両者共に目を見開く事となる。


「……なっ」


「……なんで? ――()()()さん?」


 魔銃を手にした存在。それはクロトだった。

 エリーは押さえていたクロトと、魔銃を手にしたクロトを何度も見直す。

 どちらも同じで、それを見たクロトですら驚いている。

 呆気に取られていた二人を見るなり、少年(もう一人のクロト)は白けたように、呆れた顔でいた。


『――あーあ。見てらんねー。せっかくこの茶番も終わると思っていたのに。余計な事しないでもらいたいね、部外者』


「……貴方は、いったい」


 少年はエリーに冷たい視線を向け、部外者と呼ぶ。

 これまでのクロトとも違う。幼い少年の身で、まるで長い年月を生きてきたかのようなたたずまい。明らかな別の存在が、新たにこの空間に足された事となる。

 ……いや。もしかしたら、ずっと少年は見えないところでいたのかもしれない。

 最悪、これまでの間にも紛れていた可能性だってあり得る。

 

「つーか、いい加減どけろよ!!」


「ご、ごめんなさい……っ」


 急にクロトが怒鳴る。

 いつまでも覆いかぶさっていたエリーはさすがに申し訳なくあり、いそいそと上から離れた。

 今は意識が少年に向いているため少しは落ち着いていることもあり、わずかな安堵はあった。

 ようやく解放されれば、クロトは身を起こし、増えた他人を鋭く睨む。


「……で? なんなんだお前? なんで俺の姿をしてやがる」


 一番に気になるのはそこだろう。急に同じ姿の人間が目の前に現れればそうなる。

 

『……そうだな。()()、お前の一部とでも言っておこうか。……不愉快だが』


 深く。少年はため息を吐く。

 それはクロトの一部というものにと、この現状に対してとも考えられる。

 呆れられたという素振りに、関わっているクロトはふつふつと怒りが沸き上がっていた。

 今のクロトはとても現実と近いため、短気なところが露骨と表に出てきている。少しの不快な言葉ですぐにクロトがキレるのも仕方がなくあり、エリーは間に割り込んで少しでも紛らわす。


「それで、貴方はいったい誰なんですか? ……できれば、此処から出る方法を教えてほしいんですが?」


「は? アンタさっきから俺を出さねーようにしてたくせに意味わかんねー」


「……すいません。ちょっと違うので」


 ややこしく頭が混乱する話だ。

 クロトは部屋から出る事を望んでいるが、エリーは悪夢から出る方法を知りたがっている。

 

『とりあえず、俺としては部外者のアンタがすげー邪魔なんだよな』


「……私、ですか」


『よく此処までこれたって事には褒めてやりたいけど、逆にまさか此処までこれたかと意外になるよな。……まあ、しかたねーし。使えるもんは使わせてもらうか』


 一人話を進める少年。

 いったい何を考えているのかが把握できない。

 今一番に脅威なのは、魔銃を手にしているこの少年である。

 気を許す事ができない。


『俺が誰かって? そいつの一部で、そいつが切り離したやつ。……これ言えば一目瞭然だろ? さっきそいつが捨てたんだからよ』


 クロトを蔑んだ目で見つつ、少年はそう自身の正体を語った。 

 クロトの一部で、クロトが切り離した存在。そこまで言われれば、心当たりが二人にはあった。

 

 少年の正体。それはクロトが願いにより消去したと考えられる感情の一部。――【愛情】だ。


 ……そうは言っている様子だが、どうも納得がいかない。

 目の前の少年は今のクロトとそこまで変わっていないようにも見える。とても切り離された【愛情】部分とは思えない。

 

『それと、こっから出る方法……だっけか?』


「っ! そ、そうですっ。知っているんですか!?」


『知ってるもなにも……俺がこの悪夢を支配してるからな』


 一寸の希望。直後に放たれた少年の言葉に、エリーは一瞬頭の中が真っ白になった。

 

『そうだなぁ……。出れるかどうか、今検証してみようか? ……クロトが本当に思い出したかどうか』


 不敵な笑みを浮かべた少年。

 頭が追いつかないにも関わらず、少年はクロトに歩み寄ると魔銃を手渡し、しっかりと握らせた。

 すると、少年は数歩下がって、にこやかな笑みを浮かべる。




『――さあ、検証開始だクロト。此処から出たければ、そこの奴を()()



 





 少年は何を言い出すのか。

 魔銃を手渡されたクロトに、少年をエリーを指差し、そう言い放ったのだ。

 

「……っ!? な、なにをっ」


 反論したくもなる。言いたい事を抱えていれば、少年は続けて話始める。


『正直、アンタ邪魔なんだよね』


「邪魔……って。私は、クロトさんを此処から出したくて……」


『こんなとこまで干渉してきてさ。現実でもアンタの存在って本当に邪魔でしかない。……だからこの期にクロトを直そうって思ったんだ』


「……直す?」


『そう。クロトは自分の【願い】を忘れてる。なんで願ったのか、なんのために願ったのか。でも今ならわかるだろ? 願ったばかりのクロトなら、どうすることが最善なのか」


 エリーはクロトを見直す。

 黒い銃口がエリーにへと向けられていた。


「本当に、コイツを殺したら出れるのか?」


「クロトさん……っ」


『出れるさ。ちゃんと自分の【願い】の結果を全うできるなら、俺がお前を解放してやる』


 少年はクロトの【願い】を強く主張する。己を切り離す結果となった【願い】に何を求めているのか。

 少年は言い聞かせる。その【願い】の先を。


『もう誰にも頼らない。誰の指図も受けない。信じれるのは自分だけ。自分だけが唯一。邪魔は排除すればいい。躊躇い必要はない。それがお前の願った先の結果じゃないか。……今お前の邪魔をしている奴は、単純に殺すべき相手だろ?』


「……そうだ。俺は二度と間違えない。二度と他人を信用しない。誰であろうと、俺の邪魔をする奴は――」


 ――敵でしかない。

 今のクロトにはエリーが出口を遮る障害物にしか見えていない。

 クロトならどうするか。エリーならわかる事だった。

 クロトなら、その魔銃で障害物を壊すだろう。人でも、物でも。

 特にこの時のクロトには温情の欠片を消し去ったばかりだ。普段のようには手を抜くことをしないだろう。

 完全にエリーという存在は、この場ではただの障害物でしかない。


「…………確かに、私はクロトさんにとって、邪魔かもしれません。そう思われても仕方ないって、ずっと思ってました」


 此処だけではなく、現実でもそうだっただろう。

 クロトにとって、エリーは本来不必要なそんざいなのだから。

 あまんじて、エリーはその立場を受け入れ、クロトに微笑みを返す。


「……っ」


「私が本当はクロトさんといるべきじゃないのも、クロトさんの迷惑になるのも、わかっています。でも、私はクロトさんの傍が、一番安心するんですよ? クロトさんがいるから、今の私がある。クロトさんがいてくれるから、私は生きていられる。貴方が私を必要としている間だけは、貴方の傍にいさせてほしい。私は、それだけなんです」


「……必、要? 俺は、アンタなんかは――」


『――必要ない!』


 途端に、少年が声を荒げる。

 

『なんですぐに撃たないんだよ!? お前なら撃てるだろ!? 俺をいらないと言って、思い返す度に俺を殺してっ。実の母親すら殺したお前が、今更他人を撃つことを躊躇うなよ!! お前が望んだのは、他人を嫌う生き方だろうが! 邪魔を殺してでしか幸せを勝ち取れない、それがお前だろうが!!』


 クロトの【願い】。その先にあったのは、己のみの孤独で、他者を平然と切り捨てる生き方。それが、切り離された感情が皮肉にも肯定するクロトが望んだ生き方の全て。

 少年はクロトを直そうとしていた。それは、現実のクロトがその生き方に反していると認知したからだ。

 現状。クロトは不本意ながら不必要なエリーを連れている。それが少年にとっては許せないのだろう。

 生きるも死ぬも。クロトはその生き方を貫くべきだった。それこそが、少年がクロトに求めるものだ。

 この場でエリーを殺す事ができれば、現実にもそれなりの影響がでる可能性だってあり得る。

 そのため、少年は何度も悪夢を繰り返し、クロトに己の決めた生き方を思い出させていた。

 だが、即座に撃つことのできずにいるクロトに、少年は苛立ちを感じる。

 クロトの手は、今でも無意識に撃つことを躊躇っているようにも見えたからだ。

 

『……まだ、足りてないのかよ! さっさと殺して、楽になれよ!!』


 ――……


 途端に、空間が熱を失いだす。

 それは静寂だ。

 熱を増していた少年の頬を、エリーが叩いた。

 目を見開いた少年に、じわじわと痛みが襲う。赤くなった頬に手を当て、何がいけなかったのかと、疑問を浮かべて少女を見る。

 わずかに潤んだ星の瞳に、思わず目が離せなくなる。


「人を殺して、それで幸せになれるなんて……そんなの、間違ってますっ」


『……っ』


「そんな幸せなんて違うって、貴方ならわかる事じゃないんですか!? 無理に、そんな生き方を押し付ける必要なんて、ないんですっ」


『……うるさい。じゃあ、何のために俺を捨てたんだよ!? それを無駄にするのかよ!? 母さんを殺す必要が本当にあったのかよ!? 此処までして、今更求めようとするなよ! 邪魔を排除して、――お前らしい最後にしろよ!!』


 再び銃口が向く感覚が襲う。

 向き直った先で、クロトの魔銃はエリーにへと向けられ、引き金かかる指に力が入れられる。

 数秒後。放たれた銃弾は確実に血肉を抉り、新たな鮮血を流す。

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