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厄災の姫と魔銃使い:リメイク  作者: 星華 彩二魔
第六部 四章 「愛情と言う名の鎖」
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「共通点」

 エリーの膝の上で、すやすやを眠るクロト。

 寝付くのは驚きの速さではあったが、その愛らしい寝顔にはエリーの表情がつい緩んでしまう。

 相も変わらず、その寝顔だけは現在と変わらず可愛らしくあるものだ。


「はぁ~……。クロトさん、可愛いです」


 撫でても起きず、まるでいつもはそっぽを向く猫が懐いたような感覚。

 いつまででも過ごせていられる自信があったが、微笑みに陰りがでてしまったのはすぐだった。

 エリーはゆっくり静かに膝からクロトを下ろす。起きずにいてもらえたのは助かり、ホッと胸を撫で下ろしてから、再度周囲に目を配る。

 しばらく幼いクロトに集中しすぎていたが、やはりこの空間には頭を悩まされる。

 活気的に使われている部屋ではない。それなのにクロトは食事まで用意され、この部屋で四六時中過ごしている様子。

 そして極めつけは……。


「……やっぱり、見間違いじゃない」


 エリーはクロトの足に目を向けた。

 片足には足枷があり、鎖が続いていた。何処に繋がっているのか確認すると、軽く部屋中を動き回れるほどの長さで隅で途切れている。どうも隣に部屋でもあるのか、そちらの方にまで壁の穴を通って繋がれているのだろう。引っ張ってもビクともしない。元をなんとかするというのは無理そうだ。

 ならば、と。エリーは再び足枷を外せないかと考える。

 足枷はよく見れば傷が多く付けられている。取り付けられてからそれなりの時間が経って付いたものには見えない。まるで、何かで傷つけられたようにも……。

 脳裏をよぎったのは、最初に聞こえていた何かを叩く金属音だ。

 

「クロトさん、これを外そうとしてたんだ……」


 記憶が最初に戻ると、エリーはこの場に来た目的を思い出す。

 それなりに時間を過ごしてしまったが、此処はクロトの悪夢の中である。そして、クロトを悪夢から解放するのが目的だ。

 

「……このクロトさんは、本物のクロトさんじゃないんでしょうか?」


 今更だが、目の前で眠る少年は悪夢の一部の可能性がある。

 エリーも過去の自分とは別々で存在していた。ならば、この少年ではなく本物のクロトがこの世界の何処かにいるやもしれない。そう考えれば、この場から動かないという選択肢が消えてしまった。

 まずは周囲の探索。部屋には幾つか扉があり、浴槽に繋がるものもあった。鎖の長さがあるため、問題なく利用はできるだろう。

 次に鎖が続く壁の方にあった扉へ。隣の部屋があるのだろうが、生憎鍵がかかっており開ける事ができなかった。

 最後にあるのは、唯一人がこの部屋を出入りできる、母親が開けた扉だ。

 エリーはその扉の前に立つと、思わず上部を見上げる。

 何故すぐに扉を開けようと試みなかったのか。それには無意識に戸惑いが出てしまい、つい眺めてしまう。

 

「外にクロトさんがいるのかな? だったら探しに行かないと……」


 軽く深呼吸をし、後ろを振り返る。

 少年を一度目にしてから扉を開けようと、エリーは思っていた。

 その愛らしい様子に、つい微笑みを返し、前を向き直ろうとする。


 それは、妙な解放感を身が感じたのとほぼ同時だった。


 何処か重苦しい部屋。その重みが緩和されたと感じがする。

 同時に明るさも増した。

 その変化に気を取られつつも、前を向いた途端、エリーはその正体を目にする。



 エリーの意識が、瞬時に飛ぶ。

 彼女は扉を向き直った直後、何かしらの強い衝撃を頭部に受けた。

 それがなんだったのかはわからない。

 ただ、刹那に感じたのは頭部を強く強打したものであり、一瞬のだった痛みの後にはなにも感じる事がなく、意識を無にした。


   ◆


「――ねぇ? 一つ聞いていいわけ?」


 眠るエリーを見守り続けるニーズヘッグとフレズベルグ。

 静かに過ごしていた二体に声をかけたのは檻の中で頬杖を付き、活力のない闇精霊(シェイド)である。

 急に何を聞きたいのか。悪魔たちの目が丸くなって闇精霊(シェイド)を見た。


「……なんだよ? 緊張感の真っただ中でこの野郎は」


 もちろん。事の原因である闇精霊(シェイド)には嫌悪の眼差しが向けられる。

 それは例えどんな些細な要件でもだ。

 その対応には納得がいくため、闇精霊(シェイド)は質問を続ける。


「厄災の子。その子といったいどれだけの関係があるわけ?」


 闇精霊(シェイド)はエリーと、ニーズヘッグを指差す。

 正確には、クロトをだろう。

 

「普通、それなりの繋がりがないと他人の悪夢に入るなんてできないんだけど? 例えば、血の繋がりとかみたいなの。もしくは同じような悪夢を見ている……とか」


 血縁者。そんな繋がりはクロトとエリーにない。

 悪夢の内容も、おそらくは類似などしていない。

 

「姫君とコイツは俺の魔力で繋がってるし、魔女との呪いでも繋がってるからな……。それなんじゃねーの? 以前もそれで繋がった感じだし」


「今を思えば、かなり曖昧に繋げたようなものだな……。まあ、それで魔銃使いをの元へ無事にたどりつけれているのなら、結果オーライなのだがな」


「時間は経つが、起きる気配がないという事は無事に着いたと思うが……。そこはテメェらの方がよく知ってんだろ?」


 闇精霊(シェイド)は悪夢の様子をうかがう事ができる。

 ついでに、今のような質問をするという事は、クロトの悪夢に接触することができたのだろう。

 そのため、闇精霊(シェイド)にはその成功に疑問を抱いている。


「確かに……、厄災の子はその子の悪夢にいる。……でもさ、一心同体のアンタの方が簡単に行けるんじゃないの?」


「行けなかったから、こうして姫君に頼ってんだろうが。見つけれたら俺がとっとと起こしてる」


「……ふーん。ちょっと別の力が働いてるみたいだけど、外付けの繋がりだけでも、早々他人の夢に入れるとは思えないのよねぇ」


「だが、入れているのなら、それはそれで一つの結果であろう?」


 極稀な事象の可能性もある。

 どのようなものであれ、結果が全てを決めているのだ。

 ならその過程を今になって思い悩むことはしない。

 だが、どうしても闇精霊(シェイド)には気がかりであり、考え込む。

 

「接点……か。共通点って言ってもいいわね。これがその二人を繋いでるなら…………」


 しばらく闇精霊(シェイド)はぶつぶつと呟きながら考えに耽る。

 関係なくあるが、他にすることのないニーズヘッグたちはその姿をしばし眺めるだけだ。

 悪夢。見ているのは過去が大半である。

 その悪夢でクロトとエリーに関する共通点。それを考え続けると、闇精霊(シェイド)の口元が、ふと歪む。


「……ああ、そういう事か。関係ないと思ったら、そこが似てるのかぁ」


 また、何を不敵な笑みを浮かべているのか。

 ニーズヘッグはついその嫌悪感のある笑みを問いただしたくなる。


「なんなんだよっ。何がわかったって言うんだよっ」


 少々声を荒げた事に、闇精霊(シェイド)は嘲笑して見下してくる。


「この二人、悪夢で似たような結末迎えててさ、な~んだって、おかしくなっちゃった」


「だからなんだよ! 気になってしょうがねーだろうが!」


「……落ち着かんかニーズヘッグ」


 少しでも気に掛かってしまえば、放っておく事など簡単にはできない。

 その興味を逆なでするように闇精霊(シェイド)は少しどうしようかと、ニーズヘッグを苛立たせる。

 最終的には羽衣でできた檻が熱を帯び始め、炎で脅す。

 すぐに闇精霊(シェイド)は焦りながら答えだした。


「わかったからやめてよ! ……その二人、最後に同じことしたんだな~って」


「同じこと?」


「そう」


 こくり、と。闇精霊(シェイド)は頷き、まっすぐ悪魔たちを見てから、共通点を指摘した。



「その二人、――最後に自分の()()()()をしてるのよねぇ」



 

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